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フジファブリック 『STAR』インタビュー
フジファブリック 再始動!
フロントマン 志村正彦の急逝から1年9か月。フジファブリックが山内総一郎、金澤ダイスケ、加藤慎一の3人体制で再始動すべく、ニューアルバム『STAR』を完成させた。このたびBillboard JAPANでは、約6年ぶりに取材する機会を頂き、昨年夏の【フジフジ富士Q】から現在、そして躍動する音粒子が歓びに踊る最新作についてまで、じっくりと訊いてきました。
彼がいなくなったとは思えない
--昨年夏の【フジフジ富士Q】から約1年が経ち、DVDも発売されました。振り返るというのも難しいとは思いますが、この1年は皆さんにとってどのような期間になりましたか?
山内総一郎(vo,g):バンドをやるにあたって、目の前にはたくさんの問題はあったんですけど、まずは音楽を作ってから考えようと。今回のアルバムのリハーサル作業に入り始めたのは【フジフジ富士Q】以降だったんですけど、その頃は作曲した人が歌うっていう感じだったんです。けっこう早いタイミングからスタジオにも入ってましたね。
金澤ダイスケ(key):僕と総くんは他アーティストのサポートでツアーを回ったりしてたんですけど、その間にも月イチくらいでメンバーとは会っていたし、曲を書いたりとか色々やることは多かったので、休んでいるというより準備していた印象ですね。最初のうちはそこまで決まってなかったし、時間が必要なのは分かっていたから。
加藤慎一(b):一個一個やっていく過程があって次にいけるというか、確信に変わっていくというか。ちょっとした話し合いだったり1回のスタジオだったりが、ひとつひとつ重要な感じでしたね。メンバーで飯を食べに行ったりっていうのもこれまではあんまり無かったので ―――まあ、しょうもない話ばっかりしてるんですけど(笑)、その中に一個か二個くらい重要な話が混ざってたりするんですよ。
--山内さんはギターに加えてボーカルも兼任することになりましたが、ボーカルについては色んな選択肢が存在していたと思います。
山内総一郎:さっき話した“作曲者が歌う”っていう形が悪かった訳ではないんですよ。ただ、アルバムに向けて大きな一本の芯を作るためには、歌う人がひとり必要だとも感じていたんです。元々は志村くんの下に集まったバンドなので。
といってもそれは、誰かが彼に代わらなければいけないという訳ではなくて、……彼がいなくなったとは思えないんです。だからフジファブリックっていう名前を今も使っているし。音楽ができてくる過程で、自分にしか歌えない曲というのもできてきて、その上でアルバムに向けて現実的に進めていくための決断だったという感じですね。
--俺の曲は俺に歌わせろ! みたいな気持ちは?(笑)
加藤慎一:特にないです(笑)。むしろ歌って欲しいくらいで、(山内が)歌うって言うので、「どうぞどうぞ」と。
山内総一郎:さっき飯を食いに行くって話がありましたけど、本当にくだらない話をしている中で「……俺、歌おうかなー」「ん?」「俺歌うよ」「OKOK」って、10秒くらいで決まりました(笑)。でもそれは適当に決めた訳じゃなくて、その一瞬に超集中してマジメになってる。で、すぐに戻るんです。
--ただ、リスナーは楽しみな部分や不安な感情など、色んな想いを持ってこの作品に向かうことになりますよね。
山内総一郎:リスナーの方々がどのように感じるかは自由だと思うんですけど、たぶん何をやっても色んなことを思って、色んなことを言われるので、そこまで変化を恐れてやっている訳ではないんですよ。やりたい表現、言いたいメッセージがあってやっているので、賛否両論、色んな捉え方をしてくれるといいなって思います。今まで出してきた作品に関しても、必ず賛否がありましたし、あって当然だと思います。
--結果、完成したニューアルバム『STAR』ですが、3人が本当に楽しんで作ったことが音に表れていますよね。
山内総一郎:モノを作るって本当に楽しいことなので、そのために必要な努力や面倒くさいこともたくさんありますけど、それを軽く乗り越えていけるくらいの目標がある。そういう意識を詰め込めたのかなって気はしています。
加藤慎一:「後ろ向きなモノが無いように」というか、落ち込む要素は無い方がいいと思ってましたね。特に3人で話し合ってって訳ではなかったんですけど、そこは共通していたと思います。……どうですか?
金澤ダイスケ:うん! 完璧に共通してたね!
山内総一郎:そんなに!? 完璧に共通って凄い言葉やな(笑)。
--そうした影響もあったのか、M-01『Intro』からM-02『STAR』を初めて聴いた時、これまで以上にプレイヤーの顔が見える、パーソナリティを感じさせる音になっていたことに驚きました。
山内総一郎:それは嬉しいですね。この曲ができたのは今年2月くらいなんですけど、フジファブリックというバンドが再出発……といったらアレですけど、音源を作る上でどういう音が鳴っていればいいのか。シンプルな話、駆け抜けるような、突き抜けるようなヴィジョンで音楽をやりたい。そんな風に聴いてもらえたらっていう気持ちもありましたね。
Interviewer:杉岡祐樹
特に加藤さんは最近ベースが凄く巧くなってます
--また、本作では金澤さんと加藤さんが作詞作曲を手掛けた楽曲が、数多く収録されている点も大きな特徴です。
山内総一郎:まあ、みんなで作りたいと思っていましたし、それが最初のテーマでしたね。
--M-03『スワン』は作曲が金澤さん、作詞は加藤さんと金澤さんの連名になっています。
金澤ダイスケ:僕たちは詞を書くのが初めてだったので、見せ合ったり考えあったりしながらというか、……まあみんなで作りたかったんですよね。特に僕は、歌詞を書くのに時間がかかるので、みんなに手伝ってもらいました。
--それにしても加藤さんの歌詞は世界観が独特ですよね。M-09『アンダルシア』の予測不能な展開も、耳に残ります。
加藤慎一:別に狙っている訳じゃなくて、普通にマジメに作っていった結果がアレなんですよね(笑)。
金澤ダイスケ:「どう? 面白いでしょ?」って狙ってる感じじゃなくて、加藤さんの素の一面が見えて面白い詞だと思います。
山内総一郎:しかも、『アンダルシア』は作曲がダイちゃん(=金澤)じゃないですか。本当にふたりが作った楽曲って感じがしますね、ふたりのまんまやんけ! って(笑)。あと、普段の加藤さんは他人のプレイに対してあれこれ言う人ではないんですけど、この曲に関しては“実在の物語および 人物には一切関係しておりません”って一節の“一切”を強めに歌ってくれって、めずらしくリクエストされました。
加藤慎一:あの部分がないと本当におかしな奴だと思われそうなんで、力を込めて「いっっっさい!」と歌って欲しかったんです(笑)。
--また、順に聴いていくとM-04『ECHO』までがフジファブリックとしての意思表明、そして5曲目からはさらなる進化を感じさせる楽曲が揃っていたように思います。
山内総一郎:なるほど~。当たっているような気もしますね。意思表示っていうとアレですけど、自分たちの状況やメッセージが、強めに出ている3曲かもしれませんね、『ECHO』までは。言われて気付いたことではあるんですけど。
まあ、全曲意思表示というかメッセージがあるんですけど、『STAR』『スワン』『ECHO』の3曲はこのアルバムを作る上で欠かすことができないというか、強い意志で作った楽曲が前半にきているところはあるかもしれません。
--一方、『理想型』以降の楽曲は、音楽の強さや楽しさがより溢れているように感じて、ずっとニコニコ笑いながら楽しめる流れになっていると思いました。M-06『Splash!!』のベースとか、かなり気持ち良い音が鳴ってますし。
山内総一郎:そうなんですよ! これ、レコーディングの時にビックリしましたもん、「めっちゃ良いやん、加藤さん!」って(笑)。
--ギターが山内さん一本になったことによって、同じ弦楽器としてプレイが変わった部分はありますか?
加藤慎一:やっぱり曲やアンサンブルに寄っていくことをしないといけないって意識はありますね。今までと同じことをするだけではなく、よりバンドのプラスになるようなことを意識します、はい。それに(サポートドラムの)刄田綴色さんが面白いドラマーさんなので、こっちも楽しくできるし、面白い曲になりましたね。
金澤ダイスケ:特に加藤さんは最近ベースが凄く巧くなってますし(笑)。
山内総一郎:なかなか面と向かって言う話でもないけど、びっくりするくらい巧くなってるよね。
加藤慎一:……それは前がヒドかったってことかな?
山内総一郎:そういう訳じゃなくて、このタイミングでグンと伸びるっていうのが凄い(笑)。ミュージシャンとして芯が太くなって、音が太くなってっていうのはあると思うんだけど、テクニック的にドンッと上がることって、なかなか無いからさ。……弾いてたんだなって(笑)。
金澤ダイスケ:弾いてたんだろうね~。
加藤慎一:何か、何かあったんでしょう。自分でも分からない何かが(笑)。
山内総一郎:だから先ほど“プレイヤーの顔が見える”って言ってくれたことが本当に嬉しくて、あんまり人数を増やさないで、本当に信頼できるスタッフやドラマーの(刄田)トシちゃんと、普通に作っていく。やれることしかできないですから、そうやって創り上げた作品をそう評価して頂けるのは嬉しいです。
--また、『Splash!!』は非常にフジファブリックらしいボーカルメロディですよね。
山内総一郎:ナインス(コード)が入る感じとかは正にですね。そういう側面は自然にやれば出てくるからこそ、バンドとしての作り方も色々チャレンジできますよね。
Interviewer:杉岡祐樹
『ECHO』は歌うことを決めたひとつの要因
--M-08『君は炎天下』ではアイリッシュ・トラッドのテイストが強く反映されていますが、そうしたアプローチもチャレンジですよね。
山内総一郎:この曲は志村くんが生前の頃からあったんですけど、「楽しい曲を作りたいなー」と思って作った曲ですね。僕は弦楽器が大好きで、もの凄い本数持ってるんですけど、元々マンドリンで作ったんじゃないかな? その展開から色々鳴らしたい音を考えていって……。アイリッシュ・トラッドってそこまで詳しくないんですけど、ああいう楽しい雰囲気の音楽って好きですし、そこで使われる楽器も大好きだし。
--この曲の歌詞は3人の共作になっていますが、皆さんそれぞれに自分が手掛けた歌詞で気に入っているフレーズなどありますか?
山内総一郎:俺は……“炎天下”ですね(笑)。元々曲を作っていた時から言っていた言葉なんですけど、そこから加藤さんがテーマを変えたりした感じです。加藤さんの作った歌詞で好きなのが“そして優雅に僕は踊りたい!”という言葉で、これは俺からは出てこなかったですね。ダイちゃんのは……(長い沈黙)
金澤ダイスケ:出てこないじゃん! 俺は“ギラギラの太陽”。雰囲気に合ってるしさ。ただ、自分のを改めて言うっていうのも何だよね(笑)。
--あと、M-10『Drop』も印象的だったんですけど、このセンチメンタルな曲が終盤に収録できたのは、『ECHO』が完成したからこそなんじゃないかって思うんです。
山内総一郎:それもありますね。『Drop』は歌詞もけっこう悩んだんですけど、鼻歌でメロディを作っていた時から、既に何となくの歌詞があったんですよ。そういうところを大事にした曲ですね。
--そして最後はやはり、『ECHO』について。この曲は先日、【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2011】でも披露しましたが、観客を前に演奏してみて、ご自身の中で変化した部分などはありますか?
山内総一郎:『ECHO』は、自分が歌うって決めたひとつの要因にもなっているんです。曲自体は去年からあったんですけど、以前ライブで演奏した時に、お客さんがみんな真剣に聴いてくれたんです。こっちも真剣にメッセージを発しているんで、それを聴いてもらえるっていう単純なことが嬉しくもあったし、もっと届けないといけない。「この曲は自分にしか歌えないな」って気持ちが大きくなりましたね。これからツアーがあって、また大きく変化していくと思うんですけど、それは凄く楽しみですね。
--ツアーに来場する観客もまた、色んな想いを胸にやってくると思います。
金澤ダイスケ:どういう風にやっていくのか、セットリストとかもまだ決まってないんですけど、うん、楽しみですね。
山内総一郎:やっぱりアルバム『STAR』のツアーになるので、収録曲が中心のライブになっていくと思うんですけど、自分たちも思いっきり楽しもうと思ってますし、観に来て頂けたら色んなことが起こるぞ、と。
--M-11『パレード』で誰かが出てくるかも?(笑) この楽曲にはスカパラホーンズの皆さんが参加されていますが、本当に皆さんが楽しんでいる様子や、色んな人たちがいるからこそ今のフジファブリックがあるということを、改めて感じさせてくれます。アルバム『STAR』はファンにとっても大きな1枚になりそうですね。
山内総一郎:作り出すことはゼロから俺らが生み出していかないとできないことなんですけど、本当に支えがないとできないことなんですよね。スカパラの先輩方が参加してくれたこともそうだし、スタッフやレコーディングエンジニアもそうだし。本当に感謝してます。
加藤慎一:凄く良いアルバムができたと思うんですよ。最後まで聴き終わった後、もう一度聴き直したくなるような作品になっていると思いますので、是非一度、お耳に入れて頂ければと。
山内総一郎:作品を聴いて色々思われる方もいると思いますが、僕たちは止まってはいられなくて、衝動もたくさん詰まっているアルバムです。自分たちのメッセージが凝縮された1枚になったと思いますので、まずは聴いて頂いて……と、全部言っちゃうとアレだね。ではダイちゃん、締めて下さい!
金澤ダイスケ:え、うん(笑)。えーっと、今回は加藤さんが良い歌詞を書いてくれたり、総くんが良い歌をうたってくれたりですね、非常に良いアルバムになっていると思いますので、……あ! 是非ツアーにも来て下さい!
山内総一郎:正解!(笑)
Interviewer:杉岡祐樹
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