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ワイクリフ・ジョン『カーニバルⅢ』発売記念特集 ~デスチャをブレイクさせたフージーズのリーダーが無名アーティストを起用した最新作までの軌跡
ローリン・ヒル、プラーズと結成した90年代を代表するヒップホップ・グループ、フージーズで一斉を風靡し、敏腕プロデューサーとしてデスティニー・チャイルド、シャキーラ、サンタナなど数多くのアーティストのブレイクや大ヒット・チューンに携わってきたワイクリフ・ジョンがソロ・デビュー20周年となる節目の年に、約8年ぶりファン待望の復帰作『カーニバルⅢ~ザ・フォール・アンド・ライズ・オブ・ア・レフュジー~』をリリースした。これまでに手掛けた作品の総売り上げが1億枚に及ぶ大ヒット・プロデューサー兼アーティストが、長いブランクを経てリリースした作品について彼のキャリアと共にここで振り返っていきたい。
ポップ魔術師=ワイクリフ・ジョン
ハイチ生まれの移民として9歳の時にニューヨークに移住した、ワイクリフ・ジョン。活動初期から貧しい移民として育った背景に根差したスタンスを確立し、アウトサイダーとの共感や文化的多様性を深め、現在はソロとして活躍するカリスマ的存在のディーヴァ、ローリン・ヒル、自身のいとこでもあるプラーズと共にヒップホップ・グループ=フージーズ(THE FUGEES)を結成し、アルバム『BLUNTED ON REALITY』(1993年)でデビュー。フージーズのセカンド・アルバム『THE SCORE』(1996年)は、それまでのヒップ・ホップの歴史を変える作品として全世界で高く評価され、グラミー賞も受賞し大ブレイク。ワイクリフはグループのリーダーとして90年代音楽シーンに大きな爪痕を残した。中でも収録曲の「Killing Me Softly With His Song」や「Fu-Gee-La」は大ヒットを収め、世界中にその名が知れ渡ることになる。
▲Fugees - Killing Me Softly With His Song (Official Video)
2枚のアルバムをリリースし、フージーズは解散。その後はそれぞれがソロとしての道を歩むこととなった。1997年にワイクリフはアルバム『ザ・カーニバル』でソロ・デビュー、同時にプロデューサー活動も開始し、その才能を開花させていく。世界的歌姫ビヨンセが所属していたガールズ・グループ=ディスティニー・チャイルドの可能性に一早く目を止めたワイクリフは、全米チャートで3位獲得となったデスチャのデビューシングル『No, No, No, Part2』を手掛け、彼女たちの大ブレイクの仕掛け人となったのだ。
また、プロデューサーとしては、今夏大ヒットしたDJキャレドの「ワイルド・ソーツ feat. リアーナ & ブライソン・ティラー」にもサンプリングとして使用されたサンタナの世界的ヒット・ソング「マリア・マリア」(全米チャートで10週以上の首位を獲得)や、誰もが一度は耳にしたことがあるであろうシャキーラの「ヒップス・ドント・ライ」など数多くのヒット・チューンを手掛ける正真正銘のヒットメイカーの地位を着々と築いていった。また、カニエ・ウェストやチャンス・ザ・ラッパーなどの作品に参加し注目を集める若手ラッパー、ヤング・サグ、現在のEDMシーンを牽引するアヴィーチーなど話題のアーティストからもコラボレーションを熱望されているという音楽界を代表する存在なのだ。
▲Shakira - Hips Don't Lie ft. Wyclef Jean
そんなワイクリフのソロ活動はアルバム『ザ・カーニバル』(1997年)から始まった。自身のカリビアン・ルーツを掘り下げたデビュー作は、全面フージーズをフィーチャーしハイチのアーティストをプロデュースした作品で、本作からは、「ゴーン・ティル・ノベンバー」が米ソング・チャートでTOP10入りを果たし、アルバムとしては累計200万枚を超えるヒットを記録した。ソロ・デビューから10年目の2007年には続編『カーニバルⅡ~ある移民の回顧録』をリリース。10年の間には、先にも挙げたようなプロデュース活動を積極的に続けていたこともあり、本作ではシャキーラ、メアリー・J・ブライジ、T.I.など豪華アーティストをコラボレーションした作品となった。
最新のインタビューで、彼はこのカーニバル・シリーズのテーマについて、「第1弾はまさにカーニバルの様子を絵に描いているような感じだった。バスキアみたいに。第2弾は物語仕立てて、波瀾に満ちたひとりの移民の人生を辿っていた。で、今回は「転んでも構わない」と人々に伝えているんだよ。挫折すること自体はたいしたことじゃない。立ち直った時にどう行動するかが重要なんだよ。孔子が説いたようにね。」と語っている。
約8年ぶりの復帰作『カーニバルⅢ:ザ・フォール・アンド・ライズ・オブ・ア・レフュジー』
▲『カーニバルⅢ
ザ・フォール・アンド・ライズ
・オブ・ア・レフュジー』
その“転んでも構わない”がテーマの第3弾『カーニバルⅢ:ザ・フォール・アンド・ライズ・オブ・ア・レフュジー』が、ソロ・デビュー20年の節目の年にキャリア集大成として約8年ぶりにリリースされた。今作は、クラシックからラテン、ヒップホップ、ロックと様々なジャンルを横断し、夏にぴったりな強力ポップ・シングルほか、巧みなアレンジ力が炸裂する名曲ばかりが勢揃いとなっており、収録曲全12曲をワイクリフ自身が制作&プロデュースを担当。一曲目「スラムスfeat.ジャジー・アムラ、H1ダフック&マークス・ソルヴィラ」の90年代ヒップホップ・サウンドから始まり、レゲエ調の「ターン・ミー・グッド」や今の政情を反映させたというメッセージ性の強い「ボロウド・タイム」、80年代ディスコを彷彿させる「ホワット・ハップンド・トゥ・ラヴ feat.ランチ・マネー・ウィルス&ザ・ノックス」、そしてゴスペル・サウンドの祈りが込められた「サンク・ゴッド・フォー・ザ・カルチャー feat.マークス・ソルヴィラ, J'ミカ & レオン・レイシー」という流れでアクの強い柔軟性と絶妙なポップ・センスが表れた作品となっている。
▲Wyclef Jean - Borrowed Time (Official Music Video)
また、今作の注目ポイントは第二弾の『カーニバルⅡ』とは打って変わって著名アーティストではなく、若手アーティストを中心にコラボレーションしているということだろう。デスチャの火付け役としての実績からも分かるように、原石を輝かせる才能を持つワイクリフは、今作にまだ知名度の低い若手ミュージシャンの起用した。その原石の発掘基準ついてワイクリフは、「俺が求めているのは、まだ磨かれていない、ナマの才能だね。マジに歌えないとシンガーじゃない。俺は、一種のヴァイブレーションを与えてくれるシンガーを探しているのさ。“このアーティストとコラボしたら売れそうだな”みたいな基準で選んだりはしない。そうじゃなくて、“息の長いキャリアを築けそうだな”と感じられるアーティストと一緒にやりたい。技術的にものすごく優れたシンガーである必要はない。人々のソウルに触れることができる声が欲しい。何かを感じさせてくれる人を。聴き手の心にヴァイブレーションを起こせる人は、そう何人もいるわけじゃないからね。」と語っている。
▲What Happened to Love (Official Music Video)
今作に参加した若手アーティストの今後の活躍も気になるところだが、ワイクリフにとって復帰作でキャリアの集大成となった『カーニバルⅢ』。今作を通して彼は、自分が感じたような“ヴァイブレーション”をリスナーにも感じてほしいとインタビューでは語っている。「みんなにいいヴァイブレーションを感じて欲しいね。『ザ・スコア』とフージーズのファンだった人、『ザ・カーニバル』が好きだった人、サンタナの「マリア・マリア」やシャキーラの「ヒップス・ドント・ライ」やホイットニーの「マイ・ラヴ・イズ・ユア・ラヴ」が好きだった人に、このアルバムは、ワイクリフが帰ってきたと伝えてるんだ。これは短いEPなんかじゃないし、フルアルバムに最初から最後まで耳を傾けて、その価値を受け止められる本当のファンのために作ったのさ。だからこの音楽の旅をじっくり楽しんでもらえたらうれしいね。」
またインタビューでは、今作のワールド・ツアーの実現を念頭に置いているとも語っており、彼の更に磨きのかかった才能を日本で見られる日が来ることを期待したい。
リリース情報
『カーニバルⅢ~ザ・フォール・アンド・ライズ・オブ・ア・レフュジー~』
- 2017/09/27 RELEASE
- <国内盤CD>
- SICP-5608 / 2,592円(tax in.)
- 国内盤ボーナストラック収録
- 解説・歌詞・対訳付き
- 詳細・購入はこちらから>>
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