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トレヴァー・ホーン『ザ・リフレクション』インタビュー~世界的プロデューサーが語る初のアニメ・サントラ制作
80年代から現在に至るまでポップス/ロックの歴史に輝かしい功績を残す英国を代表するプロデューサー=トレヴァー・ホーンが【サマーソニック 2017】出演、そしてビルボードライブ東京での単独公演のため2017年8月に来日を果たした。バグルス、イエスにはじまり、アート・オブ・ノイズやフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド、90年代以降はシールやt.A.T.u.までを幅広く手掛けてきたトレヴァーは、今年7月にNHK総合テレビでスタートしたアメリカン・コミックの巨匠 スタン・リー原作、『蟲師』『惡の華』等で知られる長濱博史が共同原作/監督/キャラクター原案のアニメ『ザ・リフレクション』の音楽を務め、トレヴァー本人がボーカルをとった劇中歌「Sky Show」を収録したサウンドトラック『THE REFLECTION WAVE ONE - Original Sound Track』を8月16日にリリースした。まだまだ飛躍の止まらないスーパー・プロデューサーに来日時にインタビューし、来日公演や『ザ・リフレクション』について色々と語ってもらった。
ひとりひとりがバンドの主役である
−−サマーソニック、そして2日間に渡るBillboard Live TOKYOでのトレヴァー・ホーン・バンドのコンサートはどれも大好評でした。
トレヴァー・ホーン:この日本公演が私たちの夏のツアーの最終公演だったんです。これで夏が終わったなという感傷がちょっとありますね。でも、日本のオーディエンスはすばらしかったし、私たちも演奏していて楽しかった。
――バンドはみんなうまいし、また家族的な一体感もありました。
トレヴァー:だいたいどのメンバーも昔からよく知っていて、ライヴを一緒にやることもあれば、スタジオでレコーディングをすることもあるんです。
−−あなたは70年代から最新のテクノロジーを駆使して音楽を作ってきましたが、ライヴではあんなにも肉体的な演奏になっていて、驚いたファンもいたようです。
トレヴァー:今回、新たにサンプラー担当のキャメロン・G・プールをバンドに加えたのですが、彼のプレイはバンドにいい影響を与えてくれたと思います。以前は曲によって必要な音をサンプラーからその場で出すのではなく、あらかじめ用意した音をハード・ディスクから出していました。そうするとどうしても演奏が用意された音に合せざるを得なくなり、若干、バンドとしての躍動感が損なわれていた。今回はキャメロンのサンプラーの演奏がバンドと一体となってのものだったので、演奏全体がとてもよくなったと思います。
2017.08.24 Trevor Horn @ Billboarrd Lie TOKYO by Masanori Naruse
−−ユニフォームであるTシャツもよかったですね。あなたのTシャツには「トレヴァー・ホーン・バンド」と書いてあるけど、メンバーそれぞれは「ロル・クレーム・バンド」といったように各人の名前のバンドTシャツになっていて(笑)。
トレヴァー:私はもともとバンドがユニフォームを着るという習慣は好きではありません。私自身、20代の頃はいろいろなバンドに参加していて、その度に着るものをバンドに合せて変えなければいけないことが好きではなかった。ただ、最近はその考えも変化してきて、今回のように10人ぐらいのバンドで演奏するときはみな似たような服装でステージに登ったほうが一体感は出る。今回、トレヴァー・ホーン・バンドを組んでTシャツを作ろうと思ったとき、アイデアが閃いたんです。私とロル以外のメンバーはみな若い。そんな彼らに自信を持って堂々とプレイしてほしい。君たちひとりひとりがバンドの主役であるという思いを伝えるためにああいうTシャツにしたのです。君たちは若い。しかしこれから成長を続け、いつかはいまそのTシャツに書かれているような自分のためのバンドを結成してほしいというメッセージも込めています。
−−それはすごくプロデューサー的な心遣いだと思います。
トレヴァー:そのとおりですね(笑)。
−−演奏曲についても教えてください。あなたが作曲やプロデュースでかかわったたくさんの名曲の中で、今回の曲を選んだ理由は?
トレヴァー:なによりもみんなが知っている曲を選びました。大ヒット曲と言ってもいいでしょう。演奏曲のほとんどはチャートで1位に輝いた曲です。偉大なアーティストであっても、ほとんどの場合は1位になった曲というのは片手で数えられるぐらいでしょう。今回の私たちの演奏曲は8割方がヒット・チャート1位の曲。そうした大ヒット曲の中から、いまの気分に合った曲を選びました。
−−たとえば、いまの気分に合わない曲というのはどういう曲でしょう。
トレヴァー:う~ん、たとえばABCの「ルック・オブ・ラヴ」などは気分じゃないかな。ちょっとディスコっぽすぎる感じがしてしまう。アート・オブ・ノイズも生演奏には向いていないので取り上げませんでした。
−−ティアーズ・フォー・フィアーズやポリスのカヴァー曲など、あなたが直接かかわっていない曲も予定されていました。
トレヴァー:バンドのメンバーがレコーディングに参加した曲や、私の友人の曲を取り上げることがあるんです。ティアーズ・フォー・フィアーズは前者ですし、ポリスの場合はスチュワート・コープランドと仲がよくて、ロスアンジェルスのフェスに出演したときには彼をゲストに「孤独のメッセージ」を演奏しました。それになにより、私はカヴァーするという行為が好きなのです。ZTTレコードでも、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドにブルース・スプリングスティーンの「明日なき暴走」をカヴァーさせたり、プロパガンダにヴェルヴェット・アンダーグラウンドの宿命の女」をやってもらったように。
▲Tears For Fears - Everybody Wants To Rule The World
−−あの頃のZTTのアーティストはみなカヴァー曲選びのセンスがよかったですよね。
トレヴァー:若いバンドにとっては、カヴァーをするというのはとても勉強になるし、プロデューサーとして積極的に勧めていたんです。
−−なるほど。日本公演ではそうしたカヴァー曲も評判がよかったんですけど、バグルスの曲を演奏したときの歓声も大きかったことを気付かれたと思います。超有名曲の「ラジオ・スターの悲劇」はともかく「プラスティック・エイジ」でも大歓声でした。
トレヴァー:バグルスの曲がこれほど歓迎されるとは予想外でした。このトレヴァー・ホーン・バンドではバグルスのファースト・アルバム『ラジオ・スターの悲劇』からは何曲か演奏しているのですが、次回はセカンド・アルバムの『モダン・レコーディングの冒険』からの曲も演奏するかもしれません。また、バグルスのメンバーのジェフリー・ダウンズとは、ずっとバグルスでツアーをしようかという話もしています。多分、近いうちに実現するでしょう。
▲The Buggles - Video Killed The Radio Star
関連リンク
曲作りやプロデュースのときでも、
脳裏に浮かぶ映像がよくその曲のヒントになっています。
▲『ザ・リフレクション・
ウェイブ・ワン・オリジナル・
サウンドトラック』
−−それは楽しみです。楽しみと言えばライヴで演奏された「スカイ・ショウ」「サンサンサンライズ」が収録されたアニメーション番組『ザ・リフレクション』のサウンドトラック・アルバムですが、あなたが映画やテレビのサウンドトラックを手がけることはあまりないですよね。
トレヴァー:ハリウッド映画の『トイズ』などいくつかやってはいるのですが、サウンドトラックの仕事というのは映像の演出や編集に合せて音楽の細かい手直しが要求されるので、実はあまり好きではないのです(笑)。
−−映画音楽の作曲家から話を聞くと、直しの多さに関してはみなさん、同じことをおっしゃいますね。
トレヴァー:そうでしょうね。あるアクション映画ではこういうことがありました。坂道を巨大な鉄の塊が転げ落ちてくるシーンの音楽がほしい、と。作って渡したら、カット割りが変わったので、テンポをこう変えてほしい、また変わったのでリズムを変えて欲しい、さらには音色をもっと重厚なものにと、次々と手直しの要求がきました。1週間かけてそれらにすべて応えた音楽を作ったところ、完成した映画のそのシーンでは、鉄の塊がころげ落ちる轟音の効果音で私の音楽はほとんど聴こえませんでした(笑)。
−−(笑)
トレヴァー:しかし、今回の『ザ・リフレクション』の場合は話を聞いたときにすぐに引き受けることを決めました。なぜなら、スタッフの熱意がすごかった。1980年代っぽい、あなたらしい音楽が欲しいと言われたのも決め手になりました。自由に私らしい音楽を作ってほしいと言われたんです。
−−実際、テーマ曲を始めとして、それこそバグルズなどを彷彿とさせる1980年代のトレヴァー・ホーンらしいサウンドになっていますよね。
トレヴァー:でしょう。それになにより、私は日本のアニメーションが好きなのです。日本のアニメーションの音楽を作る機会を逃すわけがありません。
−−どういった作品がお好きなのですか?
トレヴァー:スタジオジブリの作品がとくに好きです。その中でも『となりのトトロ』がすばらしい。私の孫の男の子も『となりのトトロ』が大好きで、彼と一緒に20回以上は観ていますね。もともとは、シール(トレヴァー・ホーンのプロデュースでデビューした英国のソウル・シンガー)が日本のアニメーションが大好きで、彼からその魅力を教えてもらったのです。
−−シールには1990年代の来日時にインタビューをしたことがあるのですが、そのときはアニメが好きだなんて教えてくれませんでした(笑)。
トレヴァー:意外でしょう(笑)。
−−では、お孫さんのためにジブリ・ショップでおみやげを買わないと!
トレヴァー:もちろん、離日の日は空港に行く前にジブリのお店に行って山ほどおみやげを買うつもりです(笑)。
−−(笑)音楽が使用されている『ザ・リフレクション』の本編をご覧になっての感想はいかがですか?
トレヴァー:まだ最初の数話しか観られていないのですが、音楽がストーリーや作品のムードにうまく溶け込んでいてうれしかった。また、想像していたよりも大人向けのタッチの作品になっていておもしろく観ました。アメリカのアニメーションのようなせわしない感じがなく、ゆったりとした作りでよかったです。
▲TVアニメ『THE REFLECTION』本PV
−−ご自分がキャラクターとして作品の中に登場するというのは最初からご存知だったんですか?
トレヴァー:監督とお昼を一緒にしたときにそのアイデアは聞かされていました。レコード・プロデューサーの役で私が登場すると。『ザ・リフレクション』の主人公であるアイガイは元プロのミュージシャンという設定なのですが、私としてはスーパーヒーローとして世界中で注目を集めているアイガイのレコードこそプロデュースしたい。大ヒットさせる自信はあります(笑)。
−−お孫さんの感想はいかがでしょう?
トレヴァー:日本から戻ったらさっそく観てもらおうと思っています。私の3人の孫たちは今年、私が出演したフェスで会場の大きなモニターに私が映るたびに「おじいちゃんだ!」と大騒ぎしていたそうで、今度は祖父がアニメーションに登場しているのを観てどういう反応を示すか非常に楽しみです。
−−『ザ・リフレクション』のライナー・ノートで評論家のイアン・ピールが、あなたが手がける音楽はどれも映像を喚起させる視覚的な作品が多いと記しています。それはご自身でも認識していることでしょうか?
トレヴァー:もちろん! レコーディング・スタジオにいても、私は窓の外を見たりせずにいつもモニター・スピーカーを見つめています。スピーカーから出てくる音楽に映像を感じているのです。曲作りやプロデュースのときでも、脳裏に浮かぶ映像がよくその曲のヒントになっています。
−−なるほど。ぼくはアニメーションを観る前にサウンドトラック・アルバムを聴いたのですが、どの曲もいろいろな映像が浮かんできて、実際に作品を観たときに、そうか、この曲をこう使うんだという楽しみもありました。
トレヴァー:各曲はストーリーボードや脚本は参考にせずに、監督からもらったキーワードから作っていきました。たとえば「闘いの始まり」という言葉をもらって、激しい戦闘が始まっていく映像を思い浮かべながら作った曲が、その名の通りの「バトル・ビギン」という曲になっているように。どの曲もとても視覚的で、アニメーションにもよく合っていると思います。また、「マイ・デイリー・ライフ」のようにバグルスの新曲のような気持ちで書いた作品もあります。
−−まさに監督から要望された「1980年代のトレヴァー・ホーン」というイメージぴったりの曲ですね。
トレヴァー:作っていて楽しくてたまりませんでした。要望があったよりも多くの曲を作ってしまって、監督は選択に困ったようです(笑)。
−−最後に今後の予定を教えてください。
トレヴァー:実は1980年代のヒット曲のオーケストレーション・アルバムを作ろうと思っています。60人以上の大編成のオーケストラのためにいろんな曲をリアレンジします。
−−それは楽しみですね。
トレヴァー:いちばん大変なのはオーケストラをバックに歌うシンガーたちを集めることですね。大変なレコーディングになると思うので、候補のシンガーたちのマネージメントを説得するのが大変になるでしょう。シンガー本人とだけ話をすればいいならスムーズなのですが、そうはいかない。以前、ある仕事でロッド・スチュワートに気軽に声をかけて彼に快諾してもらったのですが、後から彼のマネージャーが大激怒して「俺の頭越しに話をするなんて許さない」と怒鳴り込まれたこともありますし(笑)。その他にも、先ほど話したバグルスのツアーもあるかもしれないし、同じく元バグルスのブルース・ウーリィーが作るミュージカルの音楽もやるかもしれない。
−−それはどういうミュージカルなんでしょう?
トレヴァー:テーマが「ロボット」のミュージカルで、ブルースによると日本のロボット・アニメの映像もふんだんに取り入れる予定だそうです。
−−盛りだくさんですね!
トレヴァー:トレヴァー・ホーン・バンドもまたやるでしょう。そのときは今回よりも演奏曲を増やして、また日本でコンサートをやりたいと思っています。日本のみなさん、またお会いしましょう!
関連リンク
ザ・リフレクション・ウェイブ・ワン・オリジナル・サウンドトラック
2017/08/16 RELEASE
UMA-9095/6 ¥ 3,850(税込)
Disc01
- 01.Sky Show
- 02.Battle Begins
- 03.Reflection
- 04.Hear Them Come
- 05.In Chaos and Confusion
- 06.From On High
- 07.My Daily Life
- 08.Reflected
- 09.Peace in Blue
- 10.In a World of Unreason
- 11.I Am Alone with Sadness
- 12.Loneliness and Solitude (Dialogue Ver.)
- 13.Main Theme
- 14.Hear Them Come (Again)
- 15.Left in a Bleak and Desolate Land
- 16.The Transition
- 17.From Battle to Flight
- 18.The Future of Happiness
- 19.Greater Expectations
- 20.Reflection (Reprise)
- 21.SunSunSunrise (TV Edit)
- 22.Sky Show (“Bel Air” Reflected & Extended Mix) (ボーナストラック)
- 23.Future Boyfriends (ボーナストラック)
- 24.Sky Show (Unplugged) (ボーナストラック)
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