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中島美嘉 『ALL HANDS TOGETHER』インタビュー
これは今回のインタビュー終了後に中島美嘉が教えてくれたことなのだが、あのカトリーナによって絶望的な被災に遭ったニューオーリンズの住宅地は今もなお、とても人が住める状況にはなっていないそうだ。言うならば、依然、壊滅状態。それでもそこに住んでいた人々は実に前向きに力強く生きているそうだ。ニューオーリンズに向けてのチャリティソングとなった今回の中島美嘉のニューシングル『ALL HANDS TOGETHER』があんなにも明るくなったのは、そんな人々の姿を目にしたのが大きく関係しているらしい。今回のインタビューでは、その楽曲の制作秘話、そして彼女が「世界中に音楽を!」と叫びながらこのプロジェクトを遂行しようと思った背景に着目した。
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--前回のインタビューで「(被災地に向けて)音楽を通じて協力したいとは思いますか?)」という質問に対して「まだ明かせないんですが(笑)考えてます。」と言っていたのは、正に今回のチャリティーソングのことだったんですね?
中島美嘉:そうですね。
--チャリティーソングという発想は『CRY NO MORE』の制作タイミングでメンフィスに行ったことで生まれたもの?それとも前から漠然とはこういった形で協力したいと思ってはいたんですか?
中島美嘉:「ニューオーリンズに向けて」っていうのはメンフィスに行ったのがキッカケですね。その前からずっと気にはなっていて、相談をみんなにしていたんだけど、タイミングとか「どういうのが一番良い形か」っていうのを話し合っていたら遅くなっちゃったりして。でも今回はタイミングも良かったし、遅くなってもまだニューオーリンズの街は復旧されていないんで、今からでも協力できることを知って、動き出した感じですね。
--ちなみにニューオーリンズのハリケーンによる被災は当時何で知りました?テレビとか?
中島美嘉:テレビですね。
--あのニュースを知ったときはどんな心境になりました?
中島美嘉:あまりにすごい出来事で、最初はちょっと理解できなかったですね。それがどういうことなのかを、映像だけではリアルに感じることが出来なくて。でもどれだけの人が亡くなってしまったのかが数字として出てきたときに「これはヤバイな」と思った。どんどん人数が増えていったじゃないですか。それで真剣に考えるようになって。
--正直なところ、ああいった天災や戦争でたくさんの人が亡くなったニュースを見ても、やっぱりどこか他人事だったり、リアリティを感じられない人がほとんどだと思うんですよ。当事者じゃない故に、平凡な生活を送るが故にそういったリアリティを感じ得られないとは思うんですが、それでも中島さんが今回の行動を取った背景には一体どんな心の動きがあったのか、教えてもらいたいんですが。
中島美嘉:私が歌っているのは「自分が楽しむため」だったりもするんですけど、自分のために歌うことに少し余裕が出てきて、やっとデビュー5年目にして、自分に多少は影響力があるということを自覚してきたんですよ(笑)。ていうことは、悪いことをするよりは良いことをした方が良いと普通に思って。自分が何かすることで、私のファンの方たちがそれを応援してくれたり、一緒にやりたいと思ってくれたら、少しでもその輪は広がっていく。自分にはそういうことが出来るんだなって気付いて。それで今回の動きをすることに決めました。
--で、個人的に僕が「すごく良いなぁ」と思ったのが、この『ALL HANDS TOGETHER』、めちゃくちゃ明るいんですよね。積もり積もった負のエネルギーを見事に取っ払ってくれるような音楽で。今回この曲をチャリティーソングに選んだのは、そういった理由?
中島美嘉:そうですね。確かに画面とかを通してカトリーナの被災地を見ていると、みんなが泣いていたり、大変だったりするんだけど、ちゃんとドキュメンタリーを見たりとか、―――私も被災地に行きましたけど―――、人を見ると、みんな前向きなんですよね。すごく大変なんだけど、「いつかまたニューオーリンズに戻ってくるぞ」と思って頑張ってるんですよ。もちろんそのためにどうするべきか悩んでいたりすると思うけど、「どうやったらニューオーリンズに戻れるんだろう」って言っているから「これは前向きな方が良いな」と思って。で、この曲に対してもすごく前向きなイメージをずっと持っていたので「この曲だな」って。
Interviewer:平賀哲雄
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--今回のシングルをチャリティーソングにするっていうアイデアは中島美嘉チーム一同、大賛成って感じだったんですか?
中島美嘉:はい。
--ちなみに『ALL HANDS TOGETHER』は詞がソウル・オブ・サウスと中島さんの共作になっていますが、中島さん的にはこの詞を、歌声を通してどんな想いを届けようと思ったんですか?
中島美嘉:私はやっぱりニューオーリンズであの災害を受けているわけじゃないから「どこまで分かっているか?」って聞かれたら自分でも分からないんですよ。だけど自分が見て感じたことを日本のみんなに感じてもらえるようにすることが一番だと思って。ただあんまり押し付けがましいのも嫌だったし、単純に「元気になってもらえたらな」っていう気持ちを届けようって。なので「分かりやすいのが一番良い」とも思ったし、難しい言葉ではなくて、子供とかが口ずさめるようなものにしたくて。その子供が口ずさんでて、「ニューオーリンズ」って言葉が出てきたりとかしたら、それだけでも随分変わると思うんですよね。
--個人的には「音楽を愛すもの、ここに立ち上がれ」というフレーズとラストの「世界中に音楽を!」というストレートなフレーズが大好きなんですけど、これらのフレーズは中島さんの中でこの曲の大きなコンセプト、テーマのひとつだったりするんじゃないですか?
中島美嘉:そうですね。私は「ニューオーリンズ復興のお手伝いをしたい」っていうこともひとつあるんですけど、ニューオーリンズに音楽を返したいというか、戻したいんですよね。日本では音楽好きとそうでない人がハッキリ分かれてますけど、ニューオーリンズはほとんどの人があたりまえのように音楽をやっていたりするんですよ。それなのに楽器もない、お金もない、何もないという状態で音楽が出来ないから、まずは音楽を戻したい。音楽を戻すことで、心も豊かになるし、そうするとみんなに余裕が出てきて、きっと良いことがあるんじゃないかなと思うんですよね。
--そう中島さんが思う背景には、「世界中に音楽を!」と大声で歌える背景には、絶対的な音楽・愛みたいなものがやっぱりあると思うんですけど、自分ではどう思われますか?
中島美嘉:そうですね。私、音楽が大好きで音楽を始めた人ではないんですけど、だからこそ音楽に助けられたことがすごく自分の中では大きくて。そういった音楽の魅力みたいなものを最近になってよく分かって。
--とある中島さんのインタビュー記事によれば、こんなにおおごとになるとは思わずに、デビューするキッカケになるとも知らずに受けたオーディションに合格して、そこから音楽や歌うことに真剣に取り組むようになっていったみたいですけど、そこから中島さんが音楽の素晴らしさを感じた最初の印象的な出来事って何だったりしたんですか?
中島美嘉:ファンレターですね。ファンの声だったんですけど、不思議でしたね。自分をそんなに評価したことがなくて、何かが出来る人だと思ってなかったらから、ファンレターをもらったときにそれを初めて実感しましたね。そのファンレターの中で忘れられないのは「死のうと思ってたんですけど、やめました」といった内容のもので。それが一番でしたね。「あ、歌わなきゃ」と思った、そのときに。
--そういう“音楽で救われる”という意識は、デビュー前の中島さんにとっては分からないものだったんですか?
中島美嘉:確かに音楽はすごく聴いていたし、歌うことも好きだったんですけど、音楽に自分を救ってもらった経験がなかったから、そのファンレターは印象的でしたね。
--そういった経験が中島美嘉という人にいろんなことを与えていったと思うんですけど、デビュー当時と今では音楽に対する愛情みたいなものも比べものにならないぐらい大きくなっていると思いますか?
中島美嘉:そうですね。大きくなってると思います。
--そんな今の中島さんが「世界中に音楽を!」と歌う『ALL HANDS TOGETHER』、聴かせてもらって感じたのが、―――実際は難しかったかもしれないですけど―――、すごく自然に、どっちかって言ったら楽しそうに歌えているなっていうのを感じたんですけど、実際のところはどうですか?
中島美嘉:とにかく聴いている側が楽しさを感じられるように歌いましたね。
Interviewer:平賀哲雄
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--あと今回驚いたのが、紙資料にも書いてありますが「日米夢のスーパーセッション実現!」。アラン・トゥーサン、シリル・ネヴィル、メンフィス・ホーンズ、土屋公平、シアターブルックの沼澤さん、この錚々たるメンバーとは、みんな実際にお会いしてレコーディング出来たんですか?
中島美嘉:イマニ・クワィアとは一緒に歌ったんですけど、他のミュージシャンとはスケジュールの問題とかいろいろあって一緒には出来なくて、お会いできてない方もいたりして。
--それぞれどんな人だったのか、話したこと、感じたことを聞かせてほしいんですけど、まず70年代ソウル/ロック界で大活躍していた伝説のプロデューサー、アラン・トゥーサン(ザ・バンドの「ライフ・イズ・カーニヴァル」からラベルの「レディ・マーマレイド」まで)とは実際に触れ合ってみていかがでした?
中島美嘉:すんごい良い人ですよ!一番ビックリしたのが、―――向こうでは普通なんでしょうけど―――、私は小娘じゃないですか、向こうからすると。でもちゃんと女性として、レディファーストを実行してくれるんですよ。で、アーティストとしてもちゃんと見てくれていて、私の良いところを探してくれるんですよ。なのですごく良い雰囲気でお話ができました。私のことをもちろん知ってるわけもないし、すごく優しくて、私のことをすごく誉めてくれて嬉しかったです。
--どういう経緯で今回アラン・トゥーサンに参加してもらうことが決まったんですか?
中島美嘉:私のプロデューサーが「ニューオーリンズといえば、アランだろう」ってことで、お願いをしたみたいなんですけど、私はまだそのときアランのことを知らなくて、ニューオーリンズのことを調べ始めてから知ったんですよ。いろいろ調べていたらどこを見てもアランのことが書いてあるんですよ。それでプロデューサーが言っていたことがよく理解できて。で、そのアランが今回「やる」って言ってくれたおかげで、メンフィス・ホーンズとかシリル・ネヴィルとか、みんな集まってくれたんですよね。
--実際に今回アランたちと音楽を作ってみてどんなことを感じたりしました?
中島美嘉:全員に対して「良い意味で欲がない」って感じました。それって「良いことだな」と想って。変な欲が全くないんですよね。自分が目立つとか、お金のことを言ったりとか、そういう欲が全く感じられなくて、「曲が良いし、企画が良いからやります」って言ってくれる人たちばっかりでしたね。そういうことも良い勉強になったっていうか、私も元々そういう欲々しいのが好きじゃないから、「あ、同じ気持ちの人たちが集まってくれたんだな」って思いましたね。
--続いて、ニューオーリンズが生んだファンク・ロックの最高峰、ネヴィル・ブラザーズのパーカッショニスト、シリル・ネヴィルの演奏を聴いてどんな印象を持ちました?
中島美嘉:楽しそう!やっぱりそれを一番感じましたね。音からそれが伝わるってすごいですよね。
--おそらく世界で最も有名なホーンセクションプレイヤー、メンフィス・ホーンズはどんな方々でした?
中島美嘉:彼らもお会いできなかったんですけど、メンフィス・ホーンズはこの『ALL HANDS TOGETHER』の仕事を最後に引退されるんですよ。それに運命的なモノを感じたというか、引退されてしまうのは悲しいけれど、最後の仕事に選んでいただいて「すごく光栄だな」と思って。結構無理してやってくださった面もあって、いろいろ大変な時期だったみたいなんですけど、それでも今回の企画に惚れてやってくださったんですよ。普通だったら簡単に断れるじゃないですか。日本でやってる知りもしないアーティストの仕事なんて。それでもやってくれたので、そういう気持ちがすごく嬉しいです。
--そして国内アーティストからは、超有名ギタリストの土屋公平さん。土屋さんとも仕事をするのは今回初めてだったんですか?
中島美嘉:そうですね。テレビ番組とかではお会いしてましたけど、私の作品に参加してもらうのは初めてでしたね。土屋さんも楽しそうにやってくれて、良かったです。
--続いてシアターブルックの沼澤さん、彼も自身のバンド以外にいろんなところで活躍しているドラマーですが、彼とも今回お初で?
中島美嘉:はい。沼澤さんは結構クールで、最初は「どう話していいんだろう?」と思ってたんですけど、実際に蓋を開けたらそんなこともなく、気さくな人で、みんなを一番盛り上げてくれていましたね。
Interviewer:平賀哲雄
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--それだけのメンバーにこの『ALL HANDS TOGETHER』に参加してもらって、今回はレコーディングの工程の中で新鮮な驚きがいっぱいあったんじゃないですか?
中島美嘉:そうですね。私のレコーディング自体はいつも通りだったんですけど、みんなのオケを聴いての感動はいっぱいありましたね。
--この曲を聴いた後に、これまでの中島美嘉の曲を、アルバムの曲も含めて思い返したときに、こんなにも楽しそうに中島美嘉が歌ってる曲って聴いたことなかったなって思って(笑)。そんなことはないですか(笑)?
中島美嘉:そうかもしれない。あんまり今まで明るさを気にして歌ったことがほとんどなくって(笑)、自分では明るい気持ちで歌ったとしても声の質のせいなのか、そう思われないんですよね。でも今回は聴いている人が明るいと感じられるように歌ったので、確かにそうかもしれないですね。
--その明るい歌声を今作では、イマニ・クワィアなるゴスペル隊と共に響かせているわけですが、彼らとはレコーディングしてみていかがでした?
中島美嘉:みんな真面目でしたね。レコーディングする前はちょっと不安だったんですよ。20人もいるので「まとまるかなぁ?」とか「結構時間掛かるのかなぁ?」とか、色々考えてたんですけど、みんなしっかり練習してきてくださって。もう本番ではほとんど完璧。すぐに録れるぐらい完璧で。私も一緒に歌ったんですけど、私の声は掻き消されてしまうぐらいで(笑)。良いボイトレにもなりました。
--やっぱり感動しましたか?彼らと一緒に歌ってみて。
中島美嘉:感動しましたね~。
--あと、今回のシングルを語る上で欠かせないのが、2曲目の『WHAT A WONDERFUL WORLD』。洋楽を普段聴かない人、あまり音楽に興味がない人でも知っている名曲中の名曲ですが、今回この曲をカバーすることになった経緯を中島さんの口から聞かせてもらえますか?
中島美嘉:私の案ではなく、プロデューサーの案で歌うことになったんですけど、それまで私はこの曲を全部はちゃんと聴いたことがなかったんですよ。どこかで流れてるのを聴いたことがあっても集中して聴いたことがなくて、歌詞の内容も知らなかったんですけど、すごく優しい歌だっていうことは感じていたんですよ。それで今回初めて歌ってみて「やっぱり一番は“優しさ”なのかな」って感じましたね。
--この曲に関しては、Dr.kyOnさんがプロデューサーだったそうですが、kyOnさんとは一緒にやってみてどうでした?
中島美嘉:本当に緊張しないようにしてくれる人でしたね。私がすごく緊張しやすいことを知っていたのかどうかは分からないんですけど、とにかくいろいろ話してくれたり、教えてくれたりして。いろんな人にすごく憧れられている人だと思うんですけど、それを感じさせないんですよね。まともに話をしてくれた。私の意見とかを、あのぐらいすごい人になると「何言ってんだ?この小娘」と思ってもおかしくないと思うんですけど、ちゃんと受け取ってくれる。なので「ちゃんと一緒に仕事をしてくれた」っていう印象ですね。
--本当に今作では素敵なアーティスト、ミュージシャンの方々と巡り会えたという印象を中島さん自身持っていると思うんですけど、これだけの豪華メンバー全員と同じステージに立ってライブを行うことはないんでしょうか?
中島美嘉:それが出来たらすごいですよね~!でも多分ないですね。まずメンフィス・ホーンズがもう引退してしまっているんでね。
--では、実際にニューオーリンズで『ALL HANDS TOGETHER』を歌いたい気持ちは強かったりしますか?それとももしかしてその予定はすでにあったりするんですか?
中島美嘉:アランにもそれは聞かれたんですよ、「ニューオーリンズで歌う予定はないの?」って。でもなかったので「ないですよ」って言ったら「やればいいのに」って言ってくれてましたね。
--この曲がニューオーリンズでリリースされる予定は?
中島美嘉:どうでしょうね。その望みは勝手に自分たちの中であるんだけど、今の段階では予定されてないですね。ただ無理のない程度にですけど、なるべく今後もニューオーリンズとは関わっていきたいと思ってます。
--では、最後に毎回「困るね~」と言わせてしまっているんですが(笑)読者の皆さんにメッセージをお願いします。
中島美嘉:出た出た(笑)。でも『ALL HANDS TOGETHER』を通して、みんなでニューオーリンズを応援できたらと思っているので、ぜひ聴いてみてもらいたいですね。
Interviewer:平賀哲雄
ALL HANDS TOGETHER C/W WHAT A WONDERFUL WORLD
2006/06/07 RELEASE
AICL-1745 ¥ 1,282(税込)
Disc01
- 01.ALL HANDS TOGETHER
- 02.WHAT A WONDERFUL WORLD
- 03.ALL HANDS TOGETHER(COLDFEET Remix)
- 04.ALL HANDS TOGETHER(Instrumental)
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