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SuG『AGAKU』武瑠単独インタビュー
「SuGに捧げたこれまでの人生がそのまんま詰まってる」
希望か延命か。バンドが続くのか終わるのか命運握る9/2日本武道館への本音や、病的な挑戦欲求の果てに辿り着いた、その音楽人生の全てを詰め込んで「生きるとは?」の回答をこれでもか!と言わんばかりに叩きつけた新作『AGAKU』について等……その日がやってくる前に必ずご覧下さい。
予想以上に厳しい戦い。1年前に組み立てた設計図の中でちゃんと進んだプロジェクトがあまりない。
--10周年を迎え、9/2日本武道館ワンマンに向けて奔走中の日々だと思うのですが、今年は武瑠くんにとっても30歳の節目ということで、それまで公にしてなかった年齢を誕生日に公表しました。あれはどういった理由で?
武瑠:特に深い意味はなかったんですけど、20代の美学を詰め込んだスタイルブック『VISION -Life Style Book-』を出すタイミングだったのと、あとは武道館とSuG10周年というアニバーサリーイヤーのタイミングだったので。ただ、個人的には早く言いたかったというか、例えば「高校生のときに何を聴いていたか?」みたいな話をするときに大体分かる訳じゃないですか。でも年齢は公表してない。その中途半端さにモヤモヤしてたんで、30歳という「ちゃんと大人」と言える年齢になったタイミングで言おうと思って。最近知った人は「ウソでしょ?」みたいな感じで驚いてて、何千リツイートとかになってましたけど(笑)。--このインタビューが公開される頃には、日本武道館ワンマンまでもう2ヶ月を切っている訳ですけど、今の心境は?
武瑠:10周年記念ベストアルバム『MIXTAPE』のツアーがやっと終わったんですけど、そのツアーを廻りつつ、今回のEP『AGAKU』のレコーディングとPV制作をやりつつ、自分のスタイルブックの撮影もやってて、それでヨーロッパに8日間ぐらい行って帰ってきて……「やっと終わった!」って感じです(笑)。--日本武道館が決まった時点で人生最大に忙しくなるのは確定していたと思うんですが、その間にスタイルブックを出したいと思ったのは何故だったんでしょう?
武瑠:SuGが復活してからずっと出したかったんですけど、出せる機会が全然なくて。男の子がスタイルブックを出すって本当に難しいらしくて、女の子みたいにそういうカルチャーがないからそもそも売れないらしいんです。そういう部分でも「やっぱり立ち位置が孤立してるな」と思ったんですけど、まぁそういう理由で結果的にここまで引っ張ってしまった。でも自分の20代の美学を総括する上で良いタイミングだったし、武道館の前に個人でも出来るような宣伝というか、新しく知ってもらう手段のひとつとしても機能させたかったし、無理してでもここで出そうと思ったんです。--その撮影に向かう直前だと思うんですけど、パスポートを紛失してましたよね?
武瑠:そう。パスポートが全然見つからなくて。ずっと寝ないで仕事してたら能率があまりに低くなってて、そんな中で出国直前に頼まれる仕事もめっちゃあって「もうどんなに急いで(キーボードを)打っても間に合わない!」みたいな状況だったんですよ。結局、家を出発する2時間ぐらい前に準備し出したんですけど、パスポートが置いてあると思っていた場所になくて……もうあまりに疲れ過ぎてるから諦めちゃって「もう寝よう」と。--出国を一旦諦めたんですね(笑)。
武瑠:やっぱり極限まで疲れ果てると、お金とかどうでもよくなるんですよ。で、起きてからちゃんとパスポートを見つけて、チケットもすべて取り直して向かいました。めっちゃ高かったですよ。本当に大打撃(笑)! いつも寝ないでそのまま海外に行くスタイルだったんですけど、あんまりに仕事を詰め過ぎると動けなくなるんだなって。詰め過ぎたというか、事前に聞いてなかった仕事とかも入ってきて詰まっちゃったんですけど。--以前のインタビュー(http://bit.ly/2hhmBFz)で「武道館がその先の“希望”になるのか、ただの“延命”で終わるのか。SuGがそこで続くのか、終わるのか」という話をしてくれましたが、その感覚は今も変わりなく?
武瑠:変わらないですね。やっぱり予想以上に厳しい戦い。1年前に組み立てた設計図の中で、ちゃんと進んだプロジェクトがあんまりなかったりして。「これぐらいは出来るだろうな」と思ったことが出来てない。39本ライブをすることは発表したんですけど、正直足りないんですよ。39本出来ない。「10本、対バンしよう」と思ったんですけど、それも頓挫しちゃった。で、今出来る限りやろうというところで、ギリギリのところでもう1回再構築している。--仮にSuGが武道館で終わってしまうとして。例えば、今普通に行っているこのインタビューがSuGラストインタビューになることも有り得る訳ですよね?
武瑠:武道館直前にインタビューしてくれないんですか?--それはしましょう! ただ、こういうことのひとつひとつが「実は最後だった」ことになる可能性も秘めている訳ですよね。誰も「もうSuGには会えない」と思ってインタビューしに来てないとは思うんですが、SuGが武道館で終わってしまったとしたら、その先のプロジェクトはない訳じゃないですか。
武瑠:そうですね。実際にその先のことはまだ何も決めてない。まぁ日本武道館を発表している時点で終わってしまうかもしれない覚悟もしている訳で、でもその覚悟に誰がどれだけ動いてくれるのかな? 自分たち自身もどれだけ動けるのかな? そういう部分での設計図はあったんですけど……まぁいろいろありましたね。マネージャーがいない時間が長かったりとか、武道館を発表した日にデスクが辞めたりとか、「神様はドラマをどれだけ作ろうとしているのか?」と思うぐらい、信じられないぐらいの出来事がたくさんあった。そういう波乱みたいなものはなるべく言っていきたいんですけどね。本当にすべてを正せば自分たちの責任だと思うんですけど、普通は武道館に挑むバンドとしては有り得ない状況に何度も何度もなったり、外からの窓口がなくて連絡が途絶えたり、急に来なくなったスタッフがいたり、それで無くなってしまった仕事とかイベントとかたくさんあったり、そういうことがこの1年でてんこ盛りであって、若い頃だったら速攻で挫けていたと思うんですけど……簡単に言えば、武道館を目指すバンドが十分に活動できる状況じゃない。その中で“自分たちが今まで歩んできた歴史に恥じないようにどう戦うか”ということを何度も何度も話し合って、自分たちで出来ることを考えたりとか、それこそ足掻いていく中で「AGAKU」のような曲が上がってきたり……--この曲が生まれたのは、そうした状況下においてはひとつの希望ですよね。
武瑠:結構ビビってたんですよ。ベストアルバムが出た。その後の10周年EPに相応しい曲を出せるかどうか、物凄く重圧だったんですよ。でも「こんなに良い曲が出来たんだ」と全員が思える曲が生まれたというのは、すごく希望になりました。しかも音像がマジでSuGって感じだし、ジャンルの意味不明さというか、自分たちの辿ってきた歴史がすごく詰まってるから、メンバー全員一致で「今までで一番良い曲なんじゃないか」って。--自分もそう思いました。
武瑠:そうですよね! スタッフとかも「これが一番良いんじゃない?」と言ってて、だからすごく手応えがあるし、自分たちの最大限をこのタイミングで出せてるんじゃないかなと思っています。--常にSuGって綱渡り状態で「命懸けでやらなきゃいけない」タイミングというのが他のバンドに比べて多すぎるし、いつも「ここでやり切らなきゃ終わる」みたいな状態で活動してきているし、そして日本武道館を直前に控えている今ですらこの波乱万丈ぶり。でもそんなバンドだからこそ「AGAKU」みたいな曲が生まれたと思うんですよね。今のSuGにとってこの上なくピッタリなタイトルだし、サウンドだし、メッセージだし、逆にこの機会がなかったら生まれなかった曲かもしれない。
武瑠:それは思いました。この曲を作ったyuji(g)も言ってましたね。「こういう状況だから書きやすかった気がする」って。本人的にも凄い手応えが最初からあったみたいです。yujiが作る曲は切ない属性と踊れるポップな属性にわりと分かれている傾向にあったんですけど、今回はそれが同居していて、踊れるし、オシャレだけど、切なさとかもある。それがすごく「10周年のSuG的だな」と思って。これ以上にSuGらしい曲はないかもしれない。- 曲もそうだし、歴史もそうだし……「なんて不器用で愚直なバンドなんだろう」と思いました
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
曲もそうだし、歴史もそうだし……「なんて不器用で愚直なバンドなんだろう」と思いました
--「sweeToxic」もそれまでお世話になった事務所から離れたり、活動休止直前というところでそれこそ「“希望”か“延命”か」という状況下で生まれた曲だったじゃないですか。で、今、その当時より究極的に「“希望”か“延命”か」という状況下で「sweeToxic」を大進化させたような楽曲が生まれたということは、やっぱりこの音楽性こそがSuGらしさなんだろうなと思いました。
武瑠:たしかに! 逆境が最高値まで行くとこういう曲が生まれるのかもしれない。まぁ「普段から出せよ!」っていう感じなんですけど(笑)、でも逆境にこそ生まれる名曲みたいな感覚はありますね。--それも含めてSuGらしい。
武瑠:言ってしまえば、去年の5月にEX THEATER(http://bit.ly/2fcnTBD)で武道館を発表してなかったら、あそこで終わっていたんで。もうバンドが活動できる土台がなかったんで。自分たちが「誰かと対バンしたい」と言っても出来ないし、連絡を取ってくれる人もいないし。だからEX THEATER以降、自分たちでホームページの管理とかも始めて、音楽を続けていく為に音楽じゃない仕事がどんどんどんどん増え続ける1年だったし、でもそれでも覚悟して目標を持ったということ。それは人によっては「バカ」としか思わないかもしれない。だけど「AGAKU」でも書いている通り「愚か者でも不恰好でも自分たちらしい爪痕を残したい」と思ったし、人から見たら間違いだったとしてもそれを「真実にする為に足掻くだけ」だと思ったし。だから曲もそうだし、歴史もそうだし……「なんて不器用で愚直なバンドなんだろう」と思いました(笑)。外から見えるポップさやファッションのイメージに反して、その裏側では自分たちの手でSuGというものを必死に支えてる。何があろうと挫けずに良い曲を書いて、良いPVを撮って……っていうマインドがあるのは、腐らずにやっていけているのは、10年の歴史と、今まで支えてくれたファンや関係者の想いがかなり乗っかっているからだと思う。だからそういう逆境への強さとみんなの気持ちが乗っかってやっと「AGAKU」が出来たのかなって。--武瑠くんに初めてインタビューしたとき(http://bit.ly/1lzuLcI)に「汚くても無理やりやっちゃう感じ。例えば、銀杏BOYZさんとか、そういう感覚も自分の中では好きな一部であって」と仰っていて、ヴィジュアル系として始まったバンドから銀杏BOYZの名前が出てきたのは後にも先にも武瑠くんしかいないんですけど、今の話を聞いていたらSuGも彼らに近い人生を実は歩んできたんだなって。
武瑠:ハハハ! 小規模バージョン(笑)。--いやいや、小規模とは思いませんけど。
武瑠:SuGの活休ライブ(http://bit.ly/1ewvmDW)とかに先輩がよく観に来てくれていたんですけど、そのときに「SuGってジャンルがポップだし、よく分かってなかったけど、パンクだわ! 生き方自体がめちゃくちゃだし、凄いね」って言われたことを思い出しました。たしかにそうなんですよね。見え方をポップにしているだけで、すげぇ損する回り道ばっかり歩んでると思いますもん(笑)。「ここでなんで武道館に挑戦してんだ?」っていう話だし、俺がスタッフだったら絶対に止めてたと思うし。--今回の件だけ取っても、状況が整って「さあ、武道館」ではないですからね。好きな曲もありますし、生涯忘れないようなライブも個人的にはたくさんありますけど、SuGの何に一番魅せられたかと言ったら、その生き方だったり在り方なんですよね。で、そのSuGの生き方だったり在り方を歌っているのが「AGAKU」であるという。
武瑠:まさにそうですよね。だから「自分じゃなくSuGなんだな」と思いました。多分、自分ひとりだったらこういう感覚になれてないし……「無理やり前向き」って自分の為に作った言葉なんですけど、結果的にSuGの言葉になっていた。ひとりだったらそこまで前向きになれなかっただろうなと思うし。--あと、今回の「AGAKU」はすべてのフレーズがキラーフレーズじゃないですか。これ、本来だったら1曲1行あれば十分ですよ(笑)。
武瑠:たしかに、だいぶ贅沢(笑)。でも本当に「余すことなく使おう」と思いました。ラップとかもめちゃくちゃ贅沢に韻踏みまくってて「全角度、格好良い」みたいな。--で、全角度、本音じゃないですか。
武瑠:だから「自分がどういう人間なんだろう」と探りながら作った曲とPVでもあるんですよね。自分自身、すごく熱い部分とすごく冷めた部分があるし、超アーティスティックな部分とマネージメント的な部分もあるし、それらが点在してる。どっちが本当の自分なのかもうよく分からない。それもよく歌詞に出てるのかなって思います。PVもそう。赤と青のライトを使っているのはそういう意味。で、自分のメインの色は紫なのもそういう深層心理が出てるんだと思う。間(あいだ)の人間というか。超体育会系にも行けないし、全部照明で隠すようなカルチャー押しにもなれないし、その間にいる。--それも「AGAKU」からは感じますし、最後の3ブロックって言い方でいいんですかね? どれか1ブロックだけでもSuG史上最もエモーショナルなリリックになると思うんですけど、それが3連発という「これでもか!」感、もっと言えば「出し切った」感がありますよね。
SuG「teenAge dream」(MUSIC VIDEO)
--こういう言葉を使うとネガティブに受け止められてしまうかもしれないんですけど、素直に言うと「遺作なのかな」とすら思いました。
武瑠:こんな曲、意図して出来ないですけどね(笑)。--でもそれぐらいの覚悟を感じましたし、SuGにとっての「生きるとは」じゃないですか。
武瑠:そうですね。SuGに捧げたこれまでの人生がそのまんま詰まってる。何も持ってなかったけど衝動だけで進んで、ゴールが全く見えないまま突き進んできて、いつも綱渡りで、目標をクリアすることが出来なくて、毎回「届かない、届かない」って思いながらやってきて……そういう10年の総括になっていると思います。--今話してくれた通り、SuGっていろんな選択肢がある中で自分たちを追い込み続けたバンドだと思うんですけど、そこまで追い込み続けた理由って何だったんですか?
武瑠:いや、分かんないです(笑)。自分でも「なんでこんなしんどい道ばっかり選んできたのかな?」って思いますもん。--パスポートがどこにあるのか分からなくなるぐらいね(笑)。
武瑠:ただ、よく「全部、自分でやりたいんでしょ?」と言われるんですけど、そんなことはないんですよ。ただ形にする為に自分でやるしかなかった。例えば、インディーズのときに初めての人に撮影してもらうとき「この光の角度では思った通りにならないだろうな。気持ち悪いな」と思って仕上がった写真を見たら案の定だったり、デザインにしても「この色で」という言い方ではイメージ通りのものが上がってこなかったり、映像の編集も「あ、ここのタイミングがズレてる。じゃあ、一緒にやらなきゃダメなんだ」と思ったり、そういうことの繰り返しだったんで。だから自分でやりたい訳じゃないんですよ。ビタッとイメージ通りのものを作ってくれる人に会えたら任せたいけど、出会えなかったから自分でやるしかなかった。でもその結果として良い人たちと巡り合って、自分だけじゃ出来ないようなクオリティの映像が作れたりとか、服も前よりもスタッフの意見を聞くようになって「そっちが良いな」と思ったら受け入れるようになったりとか、写真も素晴らしいカメラマンさんと出逢えたので、自分が思い描いた以上の写真を撮ってもらえるようになったりとか、だから今は作品のクオリティは上がり続けてると思うし、自分で探り続けてきたがゆえにそういう人たちと出逢えたんだろうなと思ってます。--時間はかかったけど、ようやく価値観や世界観が共有できる人たちに出逢えたと。
武瑠:そうですね。でもその代わりに裏方的な仕事とか、メンバーとスタッフをどうやって生きていけるようにするかとか、そういうことを会社として考えていかなくちゃいけない立場にだんだんなっていったんで。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
付いて来てくれているファンは凄いなと思いますよ(笑)。有難いです。
Pastel Horror Yum Yum Show - SuG(PV FULL)
--以前、それが「良いのか悪いのか分からない」と話してましたよね。
武瑠:相変わらず分かんないです。確実に自由度は失われているんで。復活後は自分よりメンバーや会社のことを考えるようになっていったんですけど、昔は「自分が頭で描いたものを形にしたい」だけで、他のことはどうでもよかったんです。メンバーにもあんまり興味なかったし(笑)、でもだからこその強さもあったし、新しい発想を常に思い描いている人じゃないと出来ないものが出来ていた。アルバム『Lollipop Kingdom』なんてそれの極致だと思うんですけど、音楽性が追いついてなくてもアイデアとか発想力で勝っていた。だから今聴き直すと「すげぇ良いアルバムだな」と思います。歌と演奏がやろうとしていることを体現できてないんですけど、それぐらい高度なことをやろうとしていたし、体現できないくせによくコレを思い付いたなとも思うし。でもそこから人間としてとか、バンドとしてとか、会社としてとか、そういう絆みたいなものが出来てきて、だから強くなったライブ力もあるし、だから失われた自由な発想もあるし、でもいろんなバランスが詰まってミックスされてぐちゃぐちゃになって生まれたのが今回の「AGAKU」だと思うんです。クリエイティブも感情も人間らしさも冷静さも全部入ってる。--たしかに、感情や人間らしさは復活後のほうが増してますよね。
武瑠:そうなってるし、逆にクリエイティブで意味がないことはSuGではやらない傾向になってる。「それはブランドでやろう」とか個人の活動で生かすようにしてます。どっかのタイミングで思ったんですよね。自分だけが理解していることをやってもバンドってつまんないんだなって。やっぱり5人全員がちゃんと理解して表現しないと、そこにエネルギーが生まれない。俺ひとりが「格好良い」とか「面白い」とか思ってる世界観を作っても、それは“武瑠 with SuG”でしかない。ずっとそれを活休前に言われ続けていたんで、そういう部分を見直したりして、バンドで出来ることを考えようと思ってまず生まれたのが「teenAge dream」。だからいろんなものを経て今の形になっているんですけど、その一方でファッションとか原宿カルチャーみたいな1人で出て行っていた仕事。そことは断絶してしまって、一切出れなくなった。それで良くも悪くも「バンドに向かっていくしかない」という状況になって。その代わり、自分を出さずにブランドをやっていって「クリエイションだけで勝負する」みたいなことが出来るようになったので、昔より綺麗に二刀流になってる感じはします。--その結果、状況はプラスには転じてるんですか?
武瑠:正当に評価してくれる人が増えてきました。俺のこととか知らなくてもブランドの世界観を純粋に好きになって「超格好良い」みたいな。垣根を外してちゃんと作ったものを届けていくと、特に海外からは反響があったりしますね。そういうアートディレクションに対する自信みたいなものはブランドがくれたような気がします。自分の露出が減っていくのに対してブランドが伸びて行ったりしたんで、色眼鏡なしで見てもらえると、こういう風にちゃんと届いていくし、正当に評価してもらえるんだなって。ただ、そこでぶつかった壁があって。--なんでしょう?
武瑠:ファッションは評価してくれたひとりが多く力を貸してくれたりもする。例えば、ブランドを気に入ってくれたひとりが10着買ってくれたりとか。でも音楽の場合はどんなにそれが価値あるものでも、予算を10倍かけようが買う人からしたら同じ値段だし、ライブも1人が分身して10人来れる訳じゃないんで、そういう部分で音楽というのは、ひとりに深く刺すというよりもみんなに刺さなきゃいけない。だとしたら「自分はどっちが得意なんだろう?」と考えたり、本当にいろんなことを考えながらアートワークも作ってきました。「このアートディレクションはここには刺さるだろうけど、刺さなきゃいけないところには刺さらないかもしれない」とか。そこらへんはすごく難しくて。自分のディレクション能力が高くなればなるほど選択肢が増えていって、音楽もそうなんですけど、選択肢が増えると「じゃあ、どれにするべきなのか?」と考える時間が増えていく。昔は選択肢がなかったから「今出来ることを全部やる!」って感じだったんですけど、そういう意味では昔より優柔不断になったなって(笑)。--そういう変遷を辿ってきた武瑠くん、そしてSuGが日本武道館でどんなライブを見せるのかは非常に興味深いです。
武瑠:その変遷を出したいと思ってます。どの見せ方が良いのかはまだ分からないんですけど、この10年で「バンドはやっぱり生き物だな」と思ったし、物凄く変わっていったし、でも根底にあるものは変わらなくて、こういうミックスされた音楽がやりたくて、この時代の狭間だからこそ生まれたバンドだなとも思うから、その感じは出したい。ヴィジュアル系とヴィジュアル系じゃない感の分岐点がギリギリでどっちか分からなかったり……多分、俺、あと2歳若かったらヴィジュアル系を選んでなかったと思うんですよね。時代的に。そんなギリギリ感も含めて「面白い生まれ方をしてるな」って。メンバーもヴィジュアル系をメインで聴いてきたリズム隊もいれば、あんまり通ってない俺とかyujiがいたり、それもSuGの音楽性の混ざり方に繋がってるなと思うし……--本来混ざらないものを混ざるとか、有り得ないことを起こすとか、誰もやってない表現を目指すとか、そういったものに愚直に挑み続けているバンドですよね。武道館も「誰々のような武道館」は決して目指してないと思うし、誰も観たことのない武道館がやりたくてしょうがない訳じゃないですか。
武瑠:だから「どうしたいですか?」と聞かれるとどう答えていいか分からなくて。「どうしたい」というよりは「味わったことがないことを味わいたい」と思ってるから。そういう気持ちが強くなったから、復活以降はいろんな人の話を聞くようになったのかもしれない。活休前は誰の言うことも聞かない感じだったんですよ。自分の頭の中が絶対正義だったんで。それで良かったと思うし、聞くべきじゃなかった。それぐらい徹底したヴィジョンが見えていたんで。でも今は「SuGとしてどうあるべきか」という感覚が前よりも強くなった。だから武道館も演出でいっぱいになるところもあれば、ストレートにバンドだけで魅せる場面も作りたいし、その変遷のバランスをそのまんま出したいと思ってます。--だから期待値が高いんですよね。その分、SuG側は大変だと思うんですけど(笑)。
武瑠:そうなんですよ! まだ「やらなきゃいけない」というフレーズから抜け出せてないですからね。もしかしたら「やりたい」からもまだ変わってないかもしれない。--以前、武道館をやるときが来たら「あらゆるジャンルのファンが集まって、人種のるつぼみたいな空間にしたい」みたいな話をよくしていたと思うんですが、それは今も変わらず?
武瑠:もちろん! そうしたいがゆえの対バン10本だったりしたんです。でも全然上手くいかなかったんで、そもそも39本じゃなくなっちゃったし……それでも言っていくしかないんですけど! みんな「そんなことあるんだ?」ってなったと思いますよ(笑)。それで外とバトルできる機会も減っちゃったんで「悔しいな」と思いつつ、だからって全部諦めるんじゃなくて、今からでも少しでも出来る対バンがあったらやりたいと思っているんで、そういうところからどれだけの人が来てくれるか。それ次第で人種のるつぼにすることが出来るかどうかは決まってくるのかなって。--なるほど。
武瑠:やっぱりSNSだけで気になっている人がSuGは相当多いんで、でも「ヴィジュアル系って怖い」と思われてライブまで来てくれなかったりする。そういう人たちにどうやったら見てもらえるんだろうか、というのはすごく考えますね。永遠のテーマだとは思うんですけど、だから挑戦し続けている。ヴィジュアル系ファンだけ相手するんだったら全然違うやり方だったと思うし、でもSuGはまるで違う道を進んできた。常に今いるファンを失っちゃうかもしれない挑戦をし続けているんで……そう考えると、付いて来てくれているファンは凄いなと思いますよ(笑)。有難いです。本当によくここまで俺らの挑戦に付き合ってきてくれてる。--ゆえにそのファンのみんなも「これがしたかったのか!」となる日本武道館にしたいですよね。いまだかつてない「ここまで追ってきてよかった」感を味わってもらう。
武瑠:分かってます! それが出来るかすげぇ怖いけど(笑)! でも超分かります! 普通じゃ有り得ないぐらい手伝ってくれている人がいるから、普通じゃ有り得ないぐらい返さなきゃと思うし、だからこそ「武道館やんなきゃ!」と思ったんですよ。だから「どう見せたらいいのかな?」っていうのはギリギリまで考えると思いますけど……「ここまで追ってきてよかった!」と思ってもらえるライブにはしたいですね。Interviewer:平賀哲雄
Photo:Jumpei Yamada
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Interviewer:平賀哲雄|Photo:Jumpei Yamada
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