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DATS(杉本亘)×向井太一 対談インタビュー ~新世代を担う二組が語る出会い、ルーツ、最近のフェイバリット
ジャンルを超えた音楽性で次世代のシーンを担う存在として注目を集めるDATSと向井太一。方やバンド、方やシンガーソングライターと、活動の形態こそ異なるものの、最新のエレクトロニック・サウンドを取り入れつつ、モダンなポップスと展開するというスタイルで共振する二組が、8月に東阪ビルボードライブで共演する。今回はそんな公演を前に、DATSのフロントマンである杉本亘、向井太一の両名による同世代対談を実施。yahyelでの共作歴もある、彼らの出会いやルーツ、最近のフェイバリットまで幅広く話を聞いた。
クラブ・ミュージックの接点
--向井さんは実際にDATSと知り合う前から「仲の良さそうなバンドだな」と思っていたそうですね。
杉本:実際にDATSと向井くんが一緒になったのは、この間のリキッドルーム(5月13日)が最初だよね?
向井:そうそう。
杉本:あの時、楽屋で裸になったりしてたもんね。
向井:DATSがね(笑)。
杉本:「あわよくば、太一くんも一緒に…」感を出そうとしたんだけど…
向井:ひと二人分くらい距離を置いて観てましたね(笑)。
--なるほど(笑)。
杉本:たまたまそこで重なって、(渋谷)WWWでの自主企画と2回連続で共演になりましたけど、前々から太一くんには一緒にイベントに出て欲しいなと思っていて、オファーをしていたんです。
--向井さんにオファーしたのは、なぜだったんですか?
杉本:(『24』EPで)yahyelで一緒に制作をしたのが最初でしたね。その時、すごい良い感じだったんです。音楽の趣味も合うし、ヘルシー志向の生活みたいな部分でも共通点があって。
--その制作の時期はいつ頃だったんですか?
向井:去年の夏頃だよね。でも、EPを作るって決めて、yahyelとやりたいって言ってから、出来上がるまで、めちゃくちゃ早かったよね?
杉本:そうだね。
--そこまでスピーディーに出来たっていうことは、お互いの意志疎通がスムーズだったっていうことですよね。
杉本:そうですね。話を頂いてから、太一くんのSoundCloudとかも聴いて「こういう音楽性だったら、俺らとやっても合うかも知れないな」と思いました。決め手だったのが、SoundCloudで太一くんがフルームのリミックスをリポストしてて。「あ、なるほど、こういう感じのやりたいんだ!これだったら俺らも合うな」って確信して、すぐに「やりたいです!」って答えました。
向井:確かディスクロージャーの「You And Me」のリミックスだったと思いますね。
杉本:ディスクロージャーもフルームも同時代性をすごく感じるし、そりゃシンパシーを感じますよね。
▲Disclosure - You & Me (Flume Remix)
--向井さんは、高校生くらいまではルーツ志向のソウルやR&Bをよく聴いていて、クラブ・ミュージックを聴くようになったのは、ここ数年とのことですが、どういうところからクラブ・ミュージックに入って行ったんですか?
向井:聴き始めたのは、僕がライブハウスとか、東京のクラブに行き始めたくらいで、そこに“溢れてた”っていうのが一番大きかったですね。yahyelも最初に聴いた時は衝撃でした。ガイ君のブルージーなヴォーカルと、サウンドの良い意味での違和感みたいなのも僕の中では衝撃的で。ちょうど自分で作詞作曲をやり始めたくらいの時で、自分がそれまでやってきた、ルーツ・ミュージックと言われる生音だけを使った音楽というより、もっと面白い、ミクスチャー的な要素が強い音楽をやりたいなと、自分を見つめ直していた時期だったので、それがちょうどリンクしたんです。
あと、クラブ・ミュージックのアーティストのPVとかアートワークの面も、すごく面白く感じました。僕自身、音楽性だけじゃなくて、アートワークだったりPVだったり、そういう視覚的な部分も、既存にあるものじゃなくて、引っ掛かりのあるものが作りたかった。そういう自分のアーティスト像とリンクする部分が多かったのも、ハマるきっかけになったのかなと思います。
--DATSは、当初はもっとストレートなバンド・サウンドを志向している部分も大きかったと思うのですが、その頃からクラブ・ミュージックも聴いていたんですか?
杉本:むしろ活動する前から、クラブ・ミュージックは大好きでしたね。昔から実はクラブ・サウンドとロックのミックスを意図して作っていたつもりではあったんです。その比率がちょっと変わっただけ、というくらいにしか自分では思ってないですね。
--なるほど。実際に一緒にやってみて、お互いの作業については、どんな印象を持ってますか?
向井:実はこの間、また一緒に制作して、違う曲をやったんですけど、その時に初めて見たyahyelの制作スタイルが、すごい面白くて。これって、言っちゃって良いの?
杉本:ぜんぜん良いよ(笑)。
向井:すごいびっくりしたんですけど、メンバー3人が、それぞれ全然違うトラックを制作して、その中から「どれが良い?」って選ばせて貰って、決まったやつにどんどん肉付けしていくっていうスタイルなんですよね。どういう曲を作ってるかは、共有はしてるんですけど、それぞれ全然関係なく作業を進めていて。
杉本:「こういう感じの方向性に行きたい」っていうレファレンスは3人で共有しつつ、3人それぞれに、太一君に合いそうな曲を作っていくんです。
お互いのルーツについて
--杉本さんは向井さんへの印象はどうですか?
杉本:メロディがさすが!
向井:(笑)。
杉本:楽曲提供する時、「歌メロも含めてお願いします」って言われることも多いんです。でも、太一くんの場合は、こっちも良いと思ったトラックを丸投げして、向こうからも良いものが返って来るだろう、っていう信頼の元で成り立っている。それが流石だなって。
向井:ありがとうございます(笑)。
杉本:あと、フローの引き出しが多い。あれはすごい! Aメロ、Bメロ、ブリッジと、それぞれ(リズムの)踏み方が全然違う。歌詞もそうですけど、聴かせ方に、独特のものがあって飽きさせない。
向井:そういう意味では、結構日本的なのかも知れないですね。Aメロ、Bメロ、サビ、 Aメロ、Bメロ、サビ、で、ブリッジがあってサビ、みたいに(曲を)区切りたくなる。音楽って「Aメロなのか、サビなのか、分からない」みたいな、フワッとした部分があっても成り立つものなんですけど、日本人は「ちゃんとサビがあって、Aメロ、Bメロがあって」みたいなのが多くて、僕の曲もそういう感じのものが多いんです。
杉本:そういうアプローチが出来るのが面白いですね。あと、太一くんのメロディのクセも、個人的に一番好きなポイントですね。たぶん、ルーツの、ブルース寄りの感じだよね?
向井:そうだね。ヴォーカルはどっちかと言うとアナログなメロディというか、ずっとベースにあったものが、反映されてる気がします。
杉本:ギターの手癖みたいなもので、その人のキャラが出ますよね。たまんないっすね。
向井:…そっか。
一同:(笑)
--向井さんは先ほど、ご自身のことを“日本的”と仰ってましたけど、そうした部分のルーツは何なのでしょうか?
向井:小さい時は、母親がすごくブラック・ミュージックが好きで、ボビー・ブラウンとか、この間ビルボードライブに来ていたマキシ・プリーストとかを聴いてたんですけど、中学生くらいで歌謡曲にめちゃくちゃハマったんです。日本語の歌とか、歌詞の世界観とかの表現方法にすごいハマって、そこからは日本の音楽とかポップスって言われるような人たちも聴くようになりました。
--歌謡曲というと、いわゆる70年代とか80年代の歌謡曲?
向井:60年代とかですね。坂本九さんとか、弘田三枝子さんとか。あの時期って、洋楽をそのまま日本語で取り入れた、みたいなものも多かったのでサウンドもすんなり入ってきたんです。ヴォーカルもパワー系で、レコーディング機材も、まだ発展してないから、声量もみんなあって、ちゃんと声を張らないと拾わない。そういう部分も、当時自分の好みにハマった感じがありました。
▲弘田三枝子 - 悲しきハート
--杉本さんは、リスナーとしてはどのような変遷を辿ってきたんですか?
杉本:音楽を始めるきっかけになったのはニルヴァーナですね。中学3年生の時にギター買って、練習曲でグリーン・デイとか、アジカンとか練習してたんですけど、従兄弟が「かっこいいギターを弾きたいんだったら、まずはかっこいいロックを聴け」って言われて、「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」のMVを見せられたんですよ。そこからどっぷり洋楽にハマりましたね。ばあちゃんにお金を貰って、フェンダーのジャガーを買いました。
ニルヴァーナから入って、一通り90年代グランジ/オルタナティブみたいなものを通って、当然レディオヘッドとかも聴いたんです。レディオヘッドに惚れたんですよね。リスナーとともに音楽性が成長していくところもかっこいいなと思って。レディオヘッドの影響でエレクトロニック・ミュージックにも興味を持って、エイフェックス・ツインとか、スクエアプッシャーとかから入って、ポスト・ダブステップとかブリアルとかにハマって。あとサブトラクトとか。そこら辺の音楽を聴いて初めて「自分でエレクトロニック・ミュージックを作ってみよう」って思いましたね。大まかに言うと、そんな感じです。
▲Nirvana - Smells Like Teen Spirit
--今の話の流れを聞くと、向井さんとは、ほとんどリンクしてないんだろうなという気がします。
向井:そうですね。もちろん、いま名前の出たミュージシャンの作品も聴いてはいるんですけど、自分で掘って…みたいなのは、ほとんどないですね。
杉本:面白いですよね。同じ時代で、同じ“音楽”を聴いていても、それぞれルーツが全く違う。でも、だからこそ、一緒にやったら面白いものが出来るっていう。
--その人たちが一緒に音楽を作っているっていう状況も、2017年的ですよね。
杉本:そうですよね。だから新譜を聞くことは大事だなと思います。
向井:いや、ほんとそう!僕は、自分のことをJ-POPだと思うんですけど、ジャンルって日々変わるし、進化して新しいものも生まれるから、そこで自分を決めつけて、新しいことが出来ないのは馬鹿らしいですよね。だから、レディオヘッドが考えていたことも本当に共感できる。新譜を聴くのが本当に大事っていうのも、すごく共感しますね。
杉本:新譜って、ルーツの違うミュージシャンが、世代とか関係なく繋がるプラットフォームだと思うんです。
向井:もちろん、昔のものも、かっこいいのはカッコいいんですけどね。あと、インターネットが普及して、音楽を聴く範囲が広がったっていうことからも影響を受けたのかなと思いますね。
--普段、新譜をチェックするときはストリーミングが多いんですか?
向井:僕は全部ですね。YouTubeも使うし、CDショップも行くし。僕はビデオから入ることも多くて、ビジュアルから聴こえ方が変わることがあるのが面白いなと。特にYouTubeは暇なときにずっと観ていて、関連動画からどんどん飛んでいくみたいな感じですね。
杉本:YouTube楽しいよね。(新譜チェックは)僕も太一くんと近いと思う。CD屋さんの試聴機とかも使うし。
最近お気に入りの新譜、ビルボードライブについて
--では、せっかく新譜の話になったので「今、これにハマってる」っていう作品があったら教えてください。
向井:僕はSZA『Ctrl』ですね。もともとSZAのことは好きだったんですけど、前のアルバムと比べて、ある意味もっとポップスになったというか。メロディも分かりやすくなって、でも、ちゃんと彼女のフローは残っている。そのバランスがちょうど良いんです。正直、去年のリアーナのアルバム(『ANTI』)に彼女が参加したときに、全然、話題になってなかったから、(今回は)来そうだなって思います(笑)。あと、この間、来日したGoldLinkもよく聴いてましたね。最近はライトな音楽が好きで、GoldLinkのジャスミン・サリヴァンとケイトラナーダが参加したやつも、ギラギラしてなくて踊れる感じで良かったですね。
杉本:ケイトラナーダ、すごいいろんなところに顔出すよね。
向井:ずるいよね(笑)。
▲Goldlink - Meditation ft. Jazmine Sullivan, KAYTRANADA
杉本:俺はFKJをよく聴いてますね。それこそライトだよね。全てがライト。僕の場合、逆にライト過ぎても引っかからないんですけど、FKJの場合は…“超絶ライト”みたいな。それがなんかパンチラインになってるんですよね。
--どちらかと言うと、リスナーとしては異例な感じなんですね。
杉本:異例です。言ってしまえば、ああいうトラックを作るアーティストって、一杯いるじゃないですか? そういう中でFKJっていう名前で、アーティストとして好きって思える。そういうのは本当に珍しいですね。マルチだからかな? 遊び心がちゃんとあるし、生楽器と電子音がちゃんと使われていて、それも良いですよね。
▲FKJ - Skyline
--いま、皆さんのような若い世代のアーティストの方々を見て思うのが、すごいフットワーク軽いということで。それって、今までの日本のシーンにあまり無いものだったように思えるんです。例えば、アメリカのシーンみたいに、もっと頻繁にコラボの機会とかがあったら、状況が面白くなる場面は多いだろうなと。皆さんの世代のアーティスト達は、そこがすごくナチュラルで良いなと思います。
向井:確かに。事務所がくっつけるとかじゃなくて、ちゃんと現場で会って、そこで繋がるっていうのがリアルですよね。
杉本:マネージャーとかを介さないで、自分から会いに行って「あの人とやりたい」みたいな、そういうオープンマインドな人たちは確かに多い気がしますね。それは音楽の現場だけじゃなくて、アートとかグラフィックとか、映像もそう。服の現場も「こいつとなら一緒にやれば面白いものが出来る」って思ったら、もうお金とかじゃなくて、手を動かそうよっていう人たちは多い気がしますね。
--最後に、ビルボードライブでのライブに向けて話を聞かせてください。
杉本:僕はこの間。ロバート・グラスパー・エクスペリメントで初めて行きました。最高でしたね。
--会場の印象はどうでしたか?
杉本:あんなに天井が高いと思ってなかったですね。
--若いリスナーには会場に馴染みのない人も多いみたいで、実際に、そういう敷居はないのですが、ドレスコードなどを気にする人も時折いるようです。いずれにせよ、かなりユニークな会場の一つだと思いますが、そうした場所でやるライブということで、いま考えてることがあったら教えて下さい。
杉本:それこそ、僕自身も先入観があって、「DATS、本当に出るの?」っていうのは、実は結構ありましたね(笑)。アレンジとか変えたほうが良いのかな?とか。
向井:組み合わせも結構異色だしね。僕はBJ・ザ・シカゴ・キッドを観に行った時に、僕自身もすごく楽しかったんですけど、他のお客さんも立ち上がって、自分のテーブルは関係なくサイドで踊ってたりしていて、それですごくビルボードの印象が変わりました。ちゃんと純粋に音楽を楽しめるっていう意味では、ライブハウスと変わらないし、食事をしながら観れるっていうのも良いところだし。僕らと同年代の人も、入ったら全然、楽しめると思います。あと、KREVAさんが出たりとか、アーティストのピックアップも面白いですよね。
--ヒップホップは結構多いですね。デ・ラ・ソウルとかファーサイドとか。
杉本:そこまで言われたら、いつも通りで良いのかなと思えてきました(笑)。
向井:逆に、いつも通りやるDATSをみんなも見たいんじゃないかな。DATSは音源はクールな感じですけど、ライブは熱量がすごくて。同世代で一番ライブ感の強いバンドだなと思います。
杉本:ありがとうございます! 僕らも頑張ります。太一くんもいるので心強いですね(笑)。
向井:(笑)。僕はビルボードは目標の一つで、いつか出てみたいなという思いもあったので、すごく楽しみです。
▲DATS - Mobile
▲向井太一 - SLOW DOWN
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