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INORAN 『Teardrop』インタビュー
このインタビューは東北地方太平洋沖地震 発生後となる3月14日、都内某所で行われたものだ。日本中がまだどんなアクション起こすべきか迷っている中、INORANは今どう在るべきかを見据えた上で、平常心で“音楽”について語ってくれた。
音を奏でてね、元気をあげられればいい
--東北地方太平洋沖地震の影響を受け、どんなことを感じたり思ったりしながら過ごしていましたか?
INORAN:まずは被災した方々のことが心配だったし、これ以上被害が大きくならないようにと祈っています。あと、自分は「何が出来るんだろう?」ってずっと考えていましたね。
--すでに何組かのアーティストがアクションを起こしていますが、音楽で何かをしたい気持ちは大きいですか?
INORAN:そうですね。自分はミュージシャンとして出来ることをやりたいなと思うし、音を奏でてね、元気をあげられればいいなと思っています。こんなにとてつもなく大きな地震を受けて、ミュージシャンでなくても誰もが何かしたいと思っているだろうし、誰もが自分の役目として出来ることをやるしかない。それは確かだし、悶々としていても仕方ない。ただ、気持ちだけで動いてしまうと迷惑を掛けることもあるだろうから、そういう意味では冷静に考えながら動いていきたいですね。
(※このインタビュー後となる3月22日 LUNA SEAは被災者に向け、10年ぶりの新曲を配信すると発表。その収益金全てを寄付すると伝えた)--では、今回hotexpress初登場ということで、まずはINORANという表現者がどんな想いや価値観のもとに音楽を創造してきたのか、聞かせてください。そもそも音楽に目覚めたきっかけって何だったんでしょう?
INORAN:13才ぐらいのときに洋楽を聴いて衝撃を受けて、そのうち自分でも音楽をやりたいなと思ってバンドを組みました。
--13才ぐらいのときに衝撃を受けた音楽というのは?
INORAN:あの頃はヴァン・ヘイレンの『1984』とか出てきて、いわゆる80'sロックが一番熱かった時期で。そういうのを片っ端から貸しレコード屋さんでレンタルしたり、買ったりしていましたね。で、ギターを買って弾くようになって、中3ぐらいには日本のインディーズとかを聴いてて、住んでるのは神奈川だったんですけど、渋谷La.mamaとか都内のライブハウスにも行ったりして。
--自らが音楽を発信していきたい、聴かせたいと思うようになったのは?
INORAN:「発信していきたい」なんてつい最近ですけど(笑)19才ぐらいにLUNA SEAが今のメンバーになって、当時はバンドブームの中で「どれだけ他と違うことをやるか」とか考えてはいましたね。で、インディーズアルバムを1枚出して、ツアーをやって、メジャーデビューして。その頃から「より多くの人に聴いてもらいたい」と思うようになりました。それまでは音楽と共に生きられれば、別にギターじゃなくてもよかったぐらい。今思うとね、それぐらい軽い考えだったし。でも音楽を好きな気持ちに関しては、誰にも全然負ける気がしなかった。
--自分は町田の高校に通っていまして「LUNA SEAは元々町田で活動していたんだぜ」ってよく自慢したりしていたんですが。
INORAN:(笑)。
--LUNA SEA結成前後というのは町田近辺に暮らしながら、音楽をやっていたんですか?
INORAN:そうですね。
--どのような経緯であの5人が揃っていったんでしょう?
INORAN:Jと俺は中学も高校も一緒で、バンドも一緒にやってて。田舎なんで「アイツ、うめぇ」とかすぐ情報が回ってくる中で、ライバルなのか友達なのか分かんないですけど、SUGIZOと真矢と一緒にイベントをやるようになり。で、RYUICHIは町田プレイハウスで活動してるときに出逢って、たまたまいろんな事情が重なって一緒にやることになりました。
Interviewer:平賀哲雄
LUNA SEAってすごく素晴らしいバンドなんだ
--そこまでのストーリーの中で、INORANさんにとって音楽というのは自己表現の場だったんでしょうか? それともバンドの面白さを味わう為に存在していたんでしょうか?
INORAN:いや、すべてです。生活もそうだし、生きることすべてがバンドをやることに集約されていた。
--LUNA SEAでメジャーデビューした90年代は、どんな想いや意識で音楽と向き合っていたんでしょう?
INORAN:やっぱり「誰にも負けたくない」と思っていたし、自分たちが作る音をすごく信じていたし、それ故にクソが付くほど真面目に音楽と向き合っていた。それは今でも変わらない。基本は変わらないですよ。
--では、アルバム『Teardrop』についてお話を聞かせてください。まず完成した今の心境は?
INORAN:REBOOTというものをやって生まれた想い、それを込められたと思う。完結するのはライブだと思うので、今は早くツアーをやりたい気持ちが強いです。
--LUNA SEAの“REBOOT”という言葉を掲げての復活ツアーは、それだけ強烈に感じさせるものがあったということなんでしょうか?
INORAN:「LUNA SEAってすごく素晴らしいバンドなんだな」ということを感じたんです。何故20年にも活動期間が満たないバンドがね、東京ドーム3DAYSが出来るほどにたくさんのお客さんに集まってもらえるのか? 考えたときに、やっぱり僕らも本気でやっていたし、本気で音楽を信じていたし、彼ら、彼女らファンもLUNA SEAというものを本気で好きでいてくれた。そういう繋がりってすごく強いと思ったし「信じることは音楽に必要なんだ」ということをすごく教えてくれたんですよ。学び直したというか。だから『Teardrop』はこうなったっていう。
--学び直した。というのは、その感覚が薄くなっていた時期もあったということですか?
INORAN:薄くなっていた時期は無いですけど、それぐらい強烈な経験だったということです。レベルが違う感じというか。
--今日の話を聞いていると、INORANのソロワークスというのは、LUNA SEAとは切り離された場所での活動という訳では無かった。ということが分かりますね。
INORAN:そうですね。特に今回はLUNA SEAとしてアルバム『LUNA SEA』のセルフカバーも出したんですけど、あれと本当に同時期に作っていたものですし。同じギターを弾いて同じ音を奏でているので、それは切っても切り離せないですよね。逆にそうしたかったのかもしれないし。僕の中では『Teardrop』と『LUNA SEA』は双子ですよね。どっちが上とか下とか、お兄さんとか弟とかじゃなくて。
--そもそもLUNA SEA再始動にはどんな気概や想いを持って臨んだんですか?
INORAN:結成して20周年というタイミングがあったということですよね。それだけかな。タイミングがどこであれ、そういう状況になれば僕はやりたいと思っていましたし。とても前向きな気持ちで臨みました。
--そんなLUNA SEAの“REBOOT”を経て完成させたニューアルバム『Teardrop』、自身で仕上がりを聴いたときはどんな印象や感想を?
INORAN:嬉しかったですね、単純に。レコーディングも楽しかったし、自分もみんなも気持ち的に良い状態で作れたし。
--個人的には、INORAN史上最もロックバンド然としたソロアルバムなのでは? と感じているんですが、こうしたアルバムを創ろうと思ったのは?
INORAN:偏ったとしても強いものを創りたかった。どんな音楽でも良かったんだけど、ただただ強さが肌で感じられるアルバムにしたかったというか、しなきゃいけないなと思った。安全な旅だと見たいものも見落としてしまうから、敢えてセーフティーにしない。何にせよ、自分の感情を溢れるほど零したい。音楽で零したかった。それぐらいもらったし、その返しですよね。
--故に『Teardrop』は、INORANの印象としてある“自由さ”を今まで以上に強く感じさせます。
INORAN:なるほど。でも僕がこの位置に立たせてもらっている意味を考えると、感覚だけでしか走ってないけど、その感覚っていうのは絶対誰かからもらっているものだから。一見、自由にいろんなジャンルの音楽を創っているように見えるけど、それはみんながやらせてくれていること。だからこそ、まぁ仕事は仕事だし、音楽は趣味ではないし……、趣味でもあるんですけど(笑)出来るだけ枠を外して、感覚に対して素直に創っていきたい。
Interviewer:平賀哲雄
ニルヴァーナのイントロみたいな音も入ってる
--でも枠を外す作業って大変ですよね?
INORAN:そうですね。でもそこについては、あんまり考えすぎないことが良いのかなって。先に結果を描いて創っていこうとすると、そこに枠が出来ちゃいますからね。結果は後からついてくると思った方がいい。だけど、やることに対して信じるということはすごく重要。それは感覚でもいいし。
--その方法だと想定外の楽曲がどんどん生まれそうですね。
INORAN:そんなんばっかりです(笑)。その方が面白い。
--これは勝手な憶測ですけど、海外のロックンロールというものに初めて触れたときの衝撃。『Teardrop』はそれを素直にINORANとしても表現しようとしたんじゃないのかなと。
INORAN:うん、オマージュみたいなものもいっぱい入ってる。「良いじゃん、好きなんだから」みたいな感覚で創ってるので。そこに変な拘りはないですね。格好良いもんは格好良い。好きなもんは好き。
--こよなくグランジを愛していた人じゃないと作らない、作れないアルバムですよね?
INORAN:ニルヴァーナのイントロみたいな音も入ってるしね。あれはオマージュです。格好良いじゃん!っていう。
--INORANさんがグランジに魅了されたきっかけってニルヴァーナですか?
INORAN:ニルヴァーナは衝撃受けましたね。強烈だったし。まぁでもニルヴァーナだけじゃなく、グランジ全体に魅了されましたよ。壊しちゃいましたからね。良い意味でも悪い意味でも音楽を壊しちゃったから。その力はパンクに匹敵するだろうし。まぁ「グランジが悪い」っていう人もいますけどね。こういう音楽が生まれたことには何か意味があったんだろうし、僕は好きでしたね。
--また、今作を全英語詞のアルバムにしようと思ったのは?
INORAN:英語の方がメロディに合ったんですよ。あと、僕は日本語だと抽象的な歌詞になるんですけど、英語だとハッキリ言えるんです。そういう2つの観点からですね。
--スリーピースで制作する、というのもニルヴァーナに対するオマージュだったんですか?
INORAN:うーん……、結果的にですね。ニルヴァーナだけをオマージュしている訳ではないし、必然的にスリーピースになっていった。で、音楽好き同士の中で「これ、格好良いね」っていうテイクを選んでいって、仮にリズムがズレるような部分があっても「格好良いからいいじゃん」みたいな。その分、今の世の中に出てる音楽と比べると物凄くヘヴィ。グルーヴィで揺れてると思うよ。
--あと、これは個人的な想いなんですが、既存のINORANやLUNA SEAフリークだけじゃなく、いわゆるグランジ世代や10代、20代のキッズにも『Teardrop』は聴かれるべき作品だと思っていて。自身としてはいかがですか?
INORAN:そうですね。誰が聴いても「音楽って楽しい」と思ってくれれば良いなって。バンドをやるにせよ、アルバムを聴くにせよ、ライブへ行くにせよ、音楽は楽しむべきものだと常々思っているので。
--自分はOLIVIAと作った『Sailing free』が好きで。ああいう他の才能とぶつかったときのINORANさんもすごく面白い。なので、楽曲を共作するのもひとつですし、今まで以上にロックフェスとかガンガン乗り込んで掻き回してほしいなって。そこの欲求とかってありますか?
INORAN:いろんな人と共作もしてみたいし、いろんなフェスにも出ていきたいし、そこは拘っていないので。想いとしてはどこにでも出て行きたい。
--ちなみに今後も『Teardrop』のような高純度の作品が生まれていくんですかね?
INORAN:どうでしょうね~。これから先もらったものによって変わっていくと思うので。悪く言えばいい加減なんですけど(笑)ずーっとそうやってきたので。
--抽象的な質問なんですけど、INORANさんの中に理想のミュージシャン像ってあったりするんですか?
INORAN:無いですね。時期によって「ボノ(U2)格好良いな」と思うし「スティング、格好良いな」「クイーン、格好良いな」と思うけど、理想のミュージシャン像ってなると誰もない。自分でありたいなとは思うけど。そう思い続けられるようにいろんな経験を積んで、いろんな景色を見て、それを音楽にフィードバックしていきたい。
Interviewer:平賀哲雄
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