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川嶋あい『シンクロ』インタビュー
いよいよデビュー15周年!“天使の歌声”を持つシンガーソングライター・川嶋あいにインタビューを敢行。現在のJ-POPシーンからヒット曲の在り方、卒業ソング~人生から旅立つ人の歌にまで成り得た「旅立ちの日に…」、そして待望の新曲「シンクロ」や福原愛への応援ソング「Beautiful!!」、15周年について等々語ってもらいました。
みんなが一緒に楽しめるものとしてJ-POPはあったと思うんです
--前回のインタビュー(http://bit.ly/1NsOZ2k)では、複雑化していく日本の音楽シーンに対して「私はJ-POPを書くし、皆さんにもJ-POPを書いてほしいと思います!」と物申して頂きましたが、あれから約1年半。現在のシーンに対してはどんな印象を抱かれていますか?
川嶋あい:そんなに印象は変わってないですね。どんどんどんどん音楽を聴かない時代になってきて、CDを買う時代からCDを借りる時代になって、そこからもうCDは手に取らずに音をダウンロードする時代になって、アクセサリーのようにとりあえず身にはつけているんだけど、一生懸命聴く訳ではなくなった。かつてはCDを手に取って聴くのがあたりまえだったから、歌詞カードを見たり、クレジットを見て「アレンジャーが誰なのか?」とか自然と気にしたりしながら、その曲とじっくり向き合う時間があったと思うんですけど、今は皆無だと思うんですよ。自分の耳を育てる時間も場所も持たなくなっている気がします。--また、この約1年半で、YouTuberの時代へ本格的に突入した印象を受けます。子供もあたりまえのように楽しんでいますよね。
川嶋あい:また新しい時代が来たなと思いましたね。子供の夢にYouTuberという職種が挙げられるようになって、私の中では偏見かもしれないんですけど、ふわふわしたイメージもあるんですが(笑)……まぁでも結局その人の生き方というか、プロセスがいちばん大事じゃないですか。そこに影響を受ける人がいるのであれば、そのYouTuberの方はYouTuberの方なりの歩み方をしてきたんだと思いますし、いろんな努力をして、汗をかきながら活動してきて、それをたくさんの人と共有して感動を与えることが出来るんだとしたら、私たちと環境ややり方は違ってもあんまり変わらないのかなと思うので。そう考えると、私はプロセスが知りたいですね。ひとつひとつの動画に対して。--ピコ太郎さんぐらい有名になればプロセスは分かりますけどね。
川嶋あい:そうですね。古坂大魔王(※ピコ太郎のプロデューサーと称している)さんは元々音楽がすごく大好きな方でしたし、芸人さんなのに音楽に対してちゃんといろんな研究をして学んでいるイメージが昔からあったんです。いろんな方とコラボもされていて。その結果として辿り着いたものが「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」で、それが評価されたのは自分のことのように嬉しく思います。何故嬉しく思うかと言うと、古坂さんは岐阜でラジオ番組をやられていて、私がキャンペーンで東海に行く度にお会いしていたんです。ノリの波長とかがすごく合っていつも楽しくて、しかも温かい方で。なので、ずっと諦めずに活動してきて、自分が思い描く面白いものと大好きな音楽を融合させて、ひとつ本当に大きな形になって、今の状況にまで辿り着いたのかなと思うと、本当に嬉しかったです。--「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」は子供でも楽しめる歌詞と音によって成立している曲じゃないですか。ある意味、余計なものが一切ないJ-POPとも言えるのかなと思うんですが、J-POP道を突き進む身からするとどんな印象を受けますか?
川嶋あい:たしかにシンプルだし、全然難しくない英語を使っているから覚えやすいし、子供が本当に楽しそうにいろいろやっていたじゃないですか。子供のツボに入ったということはすごくポイントだと思います。ハマるところが大人のツボじゃないんですよね。子供の心をがっつり捉えられた曲。例えば「だんご3兄弟」もそうですけど、子供にストレートに受け入れてもらえるものが世界中でヒットしていくのかなって思います。--そこってJ-POPが再び隆盛する為のキーかもしれませんよね。僕らだって子供の頃にJ-POPが好きになって、例えば教室で話題にしたり帰り道で歌ったりしていた訳で、でも近年のJ-POPはそこを度外視し過ぎていたのかもしれない。
川嶋あい:そうですね。みんなが一緒に楽しめるものとしてJ-POPはあったと思うんですけど、今はもはやJ-POPとは呼べない多種類のジャンルに分裂してしまっているから、それを子供から大人まで一緒に楽しむのは難しいですよね。- 新しい体験として「旅立ちの日に…」を病院で歌ったんです
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Interviewer:平賀哲雄
新しい体験として「旅立ちの日に…」を病院で歌ったんです
--そんな時代の中でも川嶋あいは王道のJ-POPを歌い続けてきました。そのひとつの結果として、今もなお「旅立ちの日に…」は卒業ソングランキングで1位や2位を獲得し続けるベストセラーとなっています。この状況にはどんなことを感じていますか?
川嶋あい:全く予想していなかったことで、年々この曲に対してお声がかかる機会が増えているので「どうしてここまで広がっていくんだろう?」と逆に不思議に思うぐらいです。でもこの楽曲を聴いてクラスのみんなで歌うことを決めたとか、そういう話を聞くと「本当に歌と向き合いながら聴いてくれて、世代は違ってもどこかに共鳴してくれたんだな」って嬉しく思います。--そもそもこの曲をリリースしたときは、このような未来はイメージしていなかった訳ですよね。「日本中の卒業式で歌ってもらおう」という狙いがあったりした訳ではない。
川嶋あい:そうですね。単純に「こういう曲が書きたい、歌いたい」と思って作ったものです。アレコレ考えて作り上げていくものよりも、そういう何も考えずに作った曲のほうが意外と皆さんに受け入れてもらえるのかもしれないですね。言葉とかメロディーが複雑にならないので、たくさんの方がいろいろな想いを重ねることができる。でもいろいろ考え込んで作ると何回も書き直すことになるんですよ。そうすると最終的に「やりきった!」と思えるものは出来るんですけど、それより漠然と思いのままに10分で完成させたもののほうが分かりやすい曲にはなるので、受け入れてもらいやすいのかもしれないです。--そんな「旅立ちの日に…」を今年3月、70年の歴史に幕を閉じる栃木県の逆川中学校で歌われました。卒業式サプライズライブという形でしたが、どんなことを感じたりしましたか?
川嶋あい:泣きながら男の子が全力で歌っている姿を見たりして、この歌詞を自分のものにして歌ってくれているような印象を受けました。感動しましたね。私のほうがメッセージを受け取っている感覚になりましたし、逆に「これ、自分の曲なのかな?」と思うぐらい、ひとりひとりの卒業生のメッセージとして私には響きました。その表情とか空気感みたいなもので自分に感動を与えてくれたんです。そういう意味でもいろんな人との出逢いを生んでくれている曲だと思います。いろんなところに旅立っては私と誰かを繋いでくれているので、これから先もどんな人たちとの出逢いのきっかけになってくれるのか楽しみ。--何十年先も延々と歌い継がれていく曲になるかもしれないですよね。
川嶋あい:どうなっていくんですかね? このあいだ、新しい体験として「旅立ちの日に…」を病院で歌ったんですよ。ウチのレコード会社の社長のお父様が入院していらっしゃったときなんですが、そこは余命数ヶ月の重病な方たちが入られている病棟だったんです。社長からそこでライブをやってほしいと言われて行ったんですけど、重病の患者さんが10人ぐらいいらっしゃって、病院にアップライトのピアノがあったので、それで弾き語りをやったんです。社長のお父様もそうだったんですけど、ベッドごとそこに来て下さっている方もいて、呼吸がしづらいから機器みたいなものを着けて来てくれた方もいて、そういう今まで味わったことのない空間で1曲だけ「旅立ちの日に…」を歌ったんですけど、歌い終わった後にその聴いて下さった方が「歌詞がスゥーっと入ってきた。命がもうそんなに長くなくて、これから旅立っていく自分と重ね合わせることが出来た」みたいに仰ってくれたんです。そんな風に「旅立ちの日に…」を捉えたことがなかったので、そういう感覚になって下さったというのが……音楽が持つミラクルな力だなと思って、そういう曲を書きたくなったんですよね。命と本当に深いところで向き合って曲を作ってみたくなった。--凄い体験をしましたね。「旅立ちの日に…」が人生から旅立っていく方の歌にもなったということですもんね。
川嶋あい:そうですね。皆さん、いろんな歴史を背負って、たくさんの時間を過ごして、きっといろんなことがあった人生だったんだろうなとか、ひとりひとりのことを想像しちゃいましたし、例えば「いつの日にか またどこかで 会える気がするからね 輝く日々を忘れないで」というサビの歌詞があるんですけど、その入院されている患者さんと家族の方々が「これまでの日々は輝いていて、それを忘れちゃダメだよね」というような会話をしてくれたみたいで、そういう話を聞くと「この曲は本当に自由にどこまでも羽ばたいていくかもしれないな」と思ったりもして。音楽って誰かだけのものでもなくて、聴く誰かのもので、作り手のものでもないんですよね。そういう偶然とか奇跡が生める楽曲を私は作りたい。そのときは偶然や奇跡が起きなくても、後々何か重なったり、誰かとの出逢いを生んでくれたり、何かの現象になったりとか、そういう不思議なエネルギーやパワーを持っている楽曲ってあるはずなんですよね。それに出逢いたいと思いますし、作り出したいなと思いますね。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
幸せになってもらうことが私の一番の幸せなんですよね
--そんな川嶋あいのニューシングル『シンクロ』。こちらは自身ではどんな作品に仕上がったなと感じていますか?
川嶋あい:付き合いたてのカップルではなく、ある程度年月を経て一緒に歩いてきたカップルの中で生じる悩み。そういうものがテーマになってます。相手に対して悶々と考えたり悩んだりしてしまったり、でもそこからどう乗り越えていくか、恋を愛に変えていけるかどうかが結婚できるかどうかにも関わってくる。そういう、なかなか今までに書いたことのない目線のラブソングが出来たと思っています。常に今までとは違う目線のものを書いていきたいと思っていて、「今までに書いたことのないラブソングって何だろう?」と思ったときに、なんとなく「この気持ちのもっと先まで行って、相手を愛せるかどうか」という、そういうテーマで書いてみたいなと思ったんですよね。--前アルバム『Be Your Side』では「今回はボーカル録りが一番苦労したんです、これまでにないぐらい拘ったので。出だしの音をどう出すか、語尾をどこまで伸ばすか切るか、どこを地声にしてどこを裏声にするか、そういったものを物凄く細かく丁寧にやっていったんですよね。」と仰っていましたが、今作のボーカルワークに対してはどんな印象を?
川嶋あい:そんなにキーが高いわけでもないんですけど、弾んでいく曲なんですよね。悩んでいる状態から徐々に力強くなっていって、Dメロではさらに壮大になって、最後もダイナミックに力強くなっていく。作ったメロディーがそういう感じだったので、歌もそういうイメージで表現していきました。--また、今作には、卓球選手・福原愛への応援ソング「Beautiful!!」が音源化&収録されています。そもそもの経緯としてどうして彼女への応援ソングを作ろうと思ったんでしょうか?
川嶋あい:勝手に「作りたいな」と思ったんです。去年、リオ五輪の前に対談をさせてもらって、久々に再会したんですけれども、私でもキュンと来たりドキッとするような、相変わらず本当に魅力的な女性で。そういう愛ちゃんを想いながら曲を作りたいと思ったんですよね。それで愛ちゃんがリオに向かう前に作ったんですけど、戦う女性は美しいし格好良いというイメージ。それを持ちつつ、愛ちゃんは戦闘モードとプライベートモードがきっちり分かれていて、張り詰めた緊張感と集中力でもって一瞬に全身全霊をかけて生きてる。そういう愛ちゃんもいる一方で、対談とかLINEとかメールでのやり取りの中で「楽しませよう」としてたり、物凄く気遣いができる女性の姿も感じたりするんですけど、どちらもすごく美しくて素敵だなと思っていて。そういう想いをそのまま表現した感じですね。それで「愛ちゃんと言えば、この言葉だろう」と思って「Beautiful!!」と名付けました。--そんな新シングルも携え、8月20日 Bunkamuraオーチャードホールにて【Ai Kawashima 15th Anniversary Concert ~Timber Magic~】なる15周年記念コンサートを開催することも決まっていますが、この15周年ではどんな川嶋あいを世に発信していきたいと思っていますか?
2017/6/14発売「シンクロ」初回盤収録「Ai Kawashima Concert 2016~Travel Diary~」PR
--「止まりたくない」という意識は自分の中に強くある?
川嶋あい:そうですね。今回リリース自体は1年半ぶりになりましたけど、変わらずに曲は書き続けているんですよね。止まるということはあんまりなく。それぐらい、自分が生きていることを実感できるのは創作なんですよ。その世界が……もちろん恐怖でもあるんですけどね。「書けなくなったらどうしよう?」とか「これ、私に書けるかな?」みたいな不安はいつもあるんですけど、それでも何か見出そうと全力で向かっていって形になったときの達成感と喜び、それをファンの方やいろんな方に聴いてもらったときの曲が羽ばたいていく感覚、その一連の流れがやっぱり好きなんですよね。「生きてる」と実感することができる。休んでいたらそれを実感できないので、どうしても曲は書きたくなっちゃうんです。だから衝動的に今も書き続けている。--川嶋さん、曲を書くことを止められたら具合悪くなりそうですもんね。
川嶋あい:具合悪くなりますね(笑)。何にも出来なくなっちゃいそう。--15周年を迎える川嶋あいの目標、今抱いている夢があったら教えて下さい。
川嶋あい:自分を近くで支えてくれているスタッフやファンの皆さんに、自分の何かを通して笑顔になってもらったり、幸せになってもらうことが私の一番の幸せなんですよね。一番嬉しくなる。曲を書くことももちろん喜びにはなるんですけど、そのときは外の世界を完全に遮断しているので、自分の中だけで生み出される「生きてる」という実感に対する喜びなんですよ。そこから外の世界へ一歩踏み出したときに、自分を必ず支えてくれる人たちがそこにいてくれる。そういう人たちをどうやって楽しませて笑顔にさせるかっていう。音楽活動によって、自分が書いた曲によって笑顔になってくれるかもしれないですし、自分の言動ひとつで変わってくるかもしれないですし、どんな形であれ近くに居る人たちを幸せにできる、少しでも元気になってもらえたりとか、笑顔になってもらえたりとか、そういうポジティブな力を生み出せる生き方というか、毎日の過ごし方ができるようにしたい。それが今の目標ですね。--15年間歌い続けてきたからこそ、そうなりたいと思えたところもある?
川嶋あい:そうですね。いろんな人と関わってきたからこそ思えたこと。ひとりで孤独に路上ライブをやっていたあの頃のままだったら、そういう感覚にはなれないと思うんですよね。ひとりぼっちなんで。自分がいろんな人に支えられてきたからこそ「返したい」という想いもありますし、自分の言動ひとつで笑顔が垣間見えると私は物凄く嬉しいんですよね。自分の喜びはそこにある。15年目にして明確に感じています。なので、制作はもちろん大事なんですけど、日々の生き方としてそこは心掛けていきたいなと思います。Interviewer:平賀哲雄
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