Special
ACIDMAN 『green chord』 インタビュー
「なんて残酷なんだろう、みんな一生懸命生きて、何かしよう、世界を変えよう、美しくしようとか思いながらも結局終わってしまう。悲しい」「だけど、そこでやることに意味はあるだろう」
これは、今回のインタビュー中にACIDMANの大木が口にした言葉である。この言葉がその心に刺さったのであれば、彼らの音楽、そして今作『green chord』は、とても美しくあなたを包み込むだろう。そして、世界は変わるはずだ。 ACIDMANの今回のスペシャルインタビューは、今彼らが訴える音楽・メッセージの背景にあるモノを深く広く語ってもらったモノである。
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--前回のインタビューでも伝えさせて頂いたんですが、僕は『ある証明』のリリースから【LIVE TOUR“and world”】の最終公演までの一年間の流れって、ある意味、ACIDMANの歴史の中で最も意味深い期間だった印象があるんですよ。
大木伸夫:そうですね。今までで一番、自分たちの中でも良いツアーだったし、すごく充実してました。だからこそ「次へ早く向かいたい」という気持ちが強かった。
--そういう意味では、前作『and world』から今作『green chord』までの流れは、数珠繋ぎ?
大木伸夫:今回はそうですね。前作『and world』を作り終えてから伸び伸びした気持ちでいられたんですよ。その中で【LIVE TOUR“and world”】を行ったわけなんですけど、もうそのときには『green chord』に向けての曲は作っていたんですよ。ツアーをやってて楽しいんだけど「早く新曲作りたい」「早くレコーディングしたい」っていう気持ちがありつつで。それだけツアーが充実してた、楽しかったんですよね。
--僕は『and world』で、大木さんが再三言ってることでもありますけど、やがては終わっていく人生、世界の中でどれだけ「生きている」ということを実感しながら、その一瞬一瞬を歩いていけるか?っていうことを考えさせられたんですよ。そうして生まれたベクトルは実に前向きなモノだったんですけど、今回はその一歩先の部分での具体的提案をしているように感じられたんですが、実際のところはどうなんでしょう?
大木伸夫:伝えたいところは一緒なんですけどね。その「一瞬一瞬をどう生きるか?」っていう。ただ今回ちょっと強めたのは、物質世界じゃなくて精神世界の部分。もちろん物に依存してなきゃ人間生きられないから仕方がないんだけど、その物が溢れすぎてしまうと、やっぱり目に見えない世界をものすごく疎(おろそ)かにしてしまうんですよね。それは自分もなんだけど。単純に人に感謝する気持ちとか、単純に人と繋がっている感覚とか、それを楽しんでいる気持ちとかは、かなり物によって汚染されちゃってる。だからその目に見えない世界をどんどん充実させていかないと、まぁかなりヤバイだろうなってところで。そういうメッセージを今回すごく込めましたね。
--そういう「人はこうしていくべき」っていうメッセージが自分よがりじゃないかどうか?っていうのを確認する作業はどうしてるんですか?
大木伸夫:もちろんそこの不安が生まれるときはあるんだけど、「人はこうしていくべき」っていうビジョンが生まれるときって、どんな本を読んでいてもその考えにリンクしてくるんですよ。それが結果、確認作業になってるかもしれないですね。宗教の本を読んでても、科学書読んでても、哲学書読んでても、普通のエンタテインメントの本を読んでても、言ってることが全部同じなときがあって、「やっぱりこれだ!間違いないな」って確信するんですよね。集団的無意識って、ユングが提唱した用語があるんですけど、シンクロニシティーによっていろんなモノが見えないところで繋がってるんだよっていう。それを自分も実感したし、「それは信じるべきかな」と思って。
--そうして大木さんの中で生まれるメッセージを音楽に乗せて伝えていく上で重要になるのが佐藤さんと一悟さんの存在だと思うんですが、作品とライブを追う毎にACIDMANの音楽の爆発力っていうのは、とんでもないモノになってるじゃないですか。それは、大木さんの目指したいところ、メッセージしたいモノっていうのを二人が感覚としてしっかり捉えてるからだと思うんですよね。理想を叶えるために必要な真剣さや半端のなさ、それを3人が3人で音にぶつけるから成立するというか。
大木伸夫:正にその通りです。目指しているところはそこですし、実際にそういう風になれてきてるかなって思います。ただ去年の夏フェスでそのタフな感じっていうのは、ちょっと折れ掛けたんですけどね。忙しすぎて、集中力が散漫になっちゃったときがあって入り込めなかった部分があって。そこは次の課題だなと思って。ちょっと小慣れてきていたので、そうはならないようにしたいですね。
--ACIDMANにとっては、結構難しい課題ですよね?通常のバンドだと、経験を積めば積むほど技術も上がって良いステージが魅せられるようになっていくわけですけど、ACIDMANの場合は、技術が上がって懸命さが聴き手に感じさせられなくなったら成立しないわけじゃないですか。
大木伸夫:そうですね。巧くなることは大事なんだけど、ただ巧くなっているだけに終わったらそれはもう何もやっていないことと一緒になっちゃうから。「ちゃんと伝える」っていうことは、巧く弾くことの更に何倍も大変な努力をして成立するので、それを僕らはいつも大事にしてますね。ひとつライブが終わってみんなから「今日は良かったよ」って言われても、3人の中で行き切れてなかったときは、良いライブとは言えなくて。で、そういうときの次のライブは必ず良いんですよね。それはもう「細かいことは気にしないで、やりきろう!」「リズムもキメとかも無意識で合わせる!」ぐらいの感覚でやるから。とにかく行けるところまで行こうっていう。
浦山一悟:3人しかいないんで、ちょっとでもそこの部分で気が緩むとすぐバレるんですよね(笑)。
大木伸夫:コイツ、嘘を付くんです。「緩んでないよ」って(笑)。
(一同爆笑)
浦山一悟:人間としては最低の部類に入ります(笑)。(気を取り直して)でも良いライブができたとしても次のライブでそれを追おうとするとダメですね。そうすると何も考えずブチ切れる感覚っていうか、「こんなグルーヴ初めてだよ!」みたいな感覚にはならないし。だから常に今日その日のステージを一点突破!で行くべきなんだな。
--佐藤さんは、最近のライブ、どんどんどんどん動きが激しくなっていってる傾向がありますが(笑)その辺どうですか?
佐藤雅俊:(笑)。俺も同じ意識ですね。毎回毎回成長したいなとも思ってるし。最近はやってないんですけど、初期の頃とかは毎ライブ毎ライブ、「今日はこうしよう」って新しいこと試してみたり。やっぱり毎回毎回ドキドキしたいんで。
--そうした3人の歯車がガチガチガチッてハマったときに物凄いライブが生まれたりすると?
大木伸夫:そうですね。気持ち良いですね。
--で、それができないと成立しない歌をうたってますよね?
大木伸夫:確かに。(それができないと)楽しくないですからね。終わった後にスッキリ感がない。疲れてるだけになっちゃうんで、そこは気を付けてます。
Interviewer:平賀哲雄
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--そういう意味では、【LIVE TOUR“and world”】が納得の行くモノになっていなかったら『green chord』は誕生してなかったんじゃないですか?
大木伸夫:うん。きっと前のツアーが充実していなかったらもっとギスギスした曲、激しい曲が多かったかもしれないですね。でも今回はいろんな面ですごく満たされていたから、その気持ちが今回表現されてると思います。
--そしてそのモードで、最初に僕らの手元に届けた楽曲が『スロウレイン』だったわけですが、ACIDMANはあの曲で「あらゆるモノを「YES」という気持ちで肯定していかなきゃいけない」と提示したわけじゃないですか?それっていうのは、あらゆるモノが共有し合える世界を作っていくための絶対条件なんじゃないか?という考えから生まれたモノですよね?
大木伸夫:そうですね。すべては繋がっているというか、自分がこの世に存在しているのは、周りのいろんなモノに生かされているから。今ここで目に見えないけれど降り注いでいるモノに生かされているし、目に見えるモノにも生かされているし、そういうモノに感謝はしなきゃいけないし、認めなきゃいけないし、自分たちはその上に立っているんだと自覚しなければいけない。ただ大手を振って歩いているだけではダメ。だけどもそれを自覚した上で笑っていたいなという気持ちはすごく強いですね。
--その気持ちの背景にあるモノは?
大木伸夫:日頃、目にする暗いニュースでもあるし、戦争もあるし、あと身近なところで、人間同士、話せば分かるのに分かろうとしない関係とかもある。こういう仕事をしていて思うことでもあるんだけど、みんながみんなシンプルに行けば絶対にいいのに、シンプルにその目的を果たそうとすればいいのに、そこに向かっていろんなことを考えていろんな手を使ったりするのが、俺、すごくもどかしくて、すごく嫌なんです。直接的にちゃんと話してくれれば、相手の気持ちも自分の気持ちも伝え合えるのに、そこで影を作ってしまうと、どんどんどんどん違う方向に向かって悪くなっていってしまう。そういう関係からひとつひとつ悪くなっていくと思うんですよね。戦争なんて宗教観の違いから生まれたりするけど、その宗教観っていうのは、蓋を開けてみれば、みんな寂しくて不安だから神様を持つわけですよ。で、「俺の神様とおまえの神様は違うぞ」ということで戦争が起きるわけだけど、「そうじゃなくてみんな一緒じゃん、最初は」っていうことに気付かないとダメだと思うんですよね。すべては繋がってて、自分たちは生かされている。それに気付かないといけない。だけど大半の人はそれに気付かないで流されてしまう。ひとつのニュースにしてもいろんなモノが渦巻いてるじゃないですか?その裏側に。いろんな魔の手があって。それを見抜く力っていうのはものすごく大事だし、そういう力を自分も欲しいし、表現したいし。みんながそうすれば、世界は絶対美しくなると思うんですよ。 で、日本人で言ったら、生活レベルを今よりかなり下げないと、世界は平和にならないと思うんです。その覚悟は俺自身もできてるし、そうしなきゃいけないない、恵まれすぎているなと思うし。そこには穏やかな生活がきっとあるだろうし、「そうならなきゃいけないだろう」っていう気持ちはありますね。
--穏やかじゃない感じっていうのは、すごく日常に溢れていて、テレビから流れてくるニュースで知るモノもそうですけど、僕最近○クシィというモノを始めてですね、会ったこともない人の日記を読むことがすごく増えたんですよ。で、その中には、やっぱり「人間関係が上手くいかない」っていうのが多くて、そこから「もう無理」「辞めたい」「死にたい」みたいなすっげぇネガティブに邁進していってしまう人もいて。でもそんな日記を読みながら「もうこの人はその上司だったり同僚を“肯定”することなんてできないんだろうなぁ」と、感じたりするんですよ。これを穏やかな方向に向かわせるのは、すごく難しいことだなって。
大木伸夫:それは闇ですね。ネガティブなもんって、ひとつネガティブなこと考えると、ふたつめが必ずすぐ襲ってくるんですよ。ネガティブの速度は速いから。ポジティブの速度は遅くて、ゆっくり作り上げられていくんだけど。でもね、ネガティブには自分で勝つしかないんですよね。それに気付かなきゃいけないし。で、ちゃんと受け入れてないからこそ、ネガティブになっちゃうんですよ。俺もすぐネガティブに考えるところはあるんだけど、最近はなるべく考えない。“Negative”の“N”が見えたらすぐに“Positive”の“P”を持ってくるというか(笑)。もう変えちゃう。自分の思考の中で変えていくようにいつも努力していますね。そうすると、やっぱりどんどん楽しくなってきてるし、最近。
--ただ現実には、ポジティブに生きようとしている人間をネガティブな要素で引っ張るモノはたくさんあって。それで心が弱い人は、ちょっと引っ張られただけですぐ萎えてしまう。で、もう一回立ち直るんだけど、また萎えて。そのうち「もう無駄じゃん」という結論を出してしまう。
大木伸夫:うんうん。それに対して言うならば、前も話したかもしれないけれど“神は己にあり”っていう考えを俺は持っているんですよ。神様っていうのは、それぞれがそれぞれに持っていなきゃダメなんですよ。ひとつの神様をみんなで崇めるのは絶対にダメで、それぞれがそれぞれの“YES”を持っていないとダメなんです。その上で相手を受け入れていく。自分の“YES”に対して相手が“NO”でも受け入れる。握手をする。どういうことかと言うと、それを繰り返していく中で、その自分の神様を研ぎ澄ませればいいんですよね。他人に対してムカついたときに殴ったり、殺したりしてしまうのは、それは自分の神様に負けたっていうことなんですよ。その相手じゃなく、自分に負けた、自分の神様が研ぎ澄まされていなかったってこと。危害を与えることによって生まれるその人の悲しみとか、その周りの悲しみに気付かず、怒りだけで行動してしまう。それは創造力の欠如だと思うし、その思考の停止だと思うし。だけど人間には、それを欠如させない、停止させない力を絶対持っているわけだから、それぞれ自信持ってね、“神は己にあり”っていう言葉を胸に刻んで欲しい。
--一悟さんは、どう思いますか?
浦山一悟:僕も思いますよ。よく言います。神は・・・?あれ?誰だっけ?
大木伸夫:おまえ、何十回も言ってるよな(笑)!?
(一同爆笑)
浦山一悟:(気を取り直して)“神は己にあり”もそうだし、【LIVE TOUR“and world”】で言っていた“自分の見方を変えれば世界は変わる”とか、“口にしなくても敵意は伝わる。でも好意も伝わる”とか、毎回「なるほどな」って思います。
--あの、一悟さん、【LIVE TOUR“and world”】の最中に『DEATH NOTE』を買ったとか読んだとか言ってたじゃないですか?
[※この後、『DEATH NOTE』の内容に触れます。ネタバレ注意。]浦山一悟:はいはい。あの~、文字数が多すぎて、途中で疲れちゃったんですよ(笑)。まぁいつか単行本でまとめで読もうと思ってるんですけど。
--(笑)。え~っと、何が伝えたかったって言うと、あれの主人公は自分の正義を通すために悪人を次々と殺していくんですよ。顔が分かっていて名前を書けば殺せるノートで。ただ次第にその異変に世界が気付いて、自分のことを見つけ出して捕まえようとする奴が出てくる。で、そういう奴も殺していってしまう。理由は、自分が捕まったら悪人を殺せなくなって、世界が悪くなってしまうから。そういう意味では、あの主人公は『green chord』の真逆のベクトルに向かった人なんですよね。“神は己にあり”は一緒なんですけど、その上で他人を肯定するということをしない。否定するべき相手は否定するべき。ただその結果、彼は死んでしまうわけで。
浦山一悟:死んじゃうんだ?
--あ、言っちゃった(笑)。
(一同爆笑)
Interviewer:平賀哲雄
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--なんで、『DEATH NOTE』はアンチテーゼですよね。肯定しようとしない世界や人間への。そういう意味では、表現方法は違えど、ACIDMANの『and world』や『green chord』とメッセージのベクトルは同じだと思うんですよ。で、今、音楽でも映画でも漫画でも、カルチャーって全体的にそこを目指してる気がするんですけど、その辺は感じられますか?
大木伸夫:それは感じますね。「人間が生きていく上での正しさとは?」みたいなことを描いているモノは大好きなんですけど、最近はテレビにしても、そういう番組が増えてるなって思います。もちろんそこには環境問題を直視しなきゃいけないギリギリな状況があったりするからだとは思うんですけど、よりみんなの考え方がグローバルに、そして宇宙観になってきている。それは感じます。宇宙に興味を持てば、いろんなモノを超越して考えられるようになると思うんですよ。まぁでもそうなっている背景には、すごい闇が蠢いているからだと思うんですけど。
--ただ、その状況をどれだけ目をそらさず受け止められるかっていうのは、大切な部分ですよね。その闇の当事者も、その周りの人間も。
大木伸夫:そうですね。ネガティブをちゃんと受け入れていないと、正しさが分からなくなってくる。さっきの『DEATH NOTE』じゃないけど、それは危ないですよね。『罪と罰』ですよね、ドストエフスキーの。ラスコリニコフという少年が自分は天才だと思い込んで、「天才は人を殺してもいい」って考え出す。だけど結局、罪悪感というモノに苛まされて、自分一人でどんどんどんどん落ちていく。だからネガティブ、悪いことをちゃんと理解して、その上で自分なりの判断をしていかなきゃいけない。
--今日はすごく深い話を聞かせてもらってるんですけど、こうした要素を音楽として表現してみせた『green chord』の具体的な内容についても触れさせてください。まずシングルとしてもリリースされた『プリズムの夜』。ACIDMANの得意なマクロとミクロが共存した意味深いバラード曲だと感じているんですが、この中で何度も出てくる「名前を無くしたままに 飛び立つ鳥の正しさ」というフレーズには、どんな意味を込めているのか、聞かせてもらってもいいですか?
大木伸夫:僕らは生きてるけど、なんで生きているのか分からない。だけど「生きていることは、正しいこと」っていうのは絶対あると思うんです。で、“鳥”が飛んでることっていうのは、正しいと思う。で、“鳥”っていうのは人間が決めた名称であって当然自分が“鳥”という認識はないわけですよ。そしてなぜ飛んでいるのか、その理由も知らない。名前もないし、理由もないし、でも飛び立っていく。その正しさっていうのは、ものすごく美しいなと思って。人間もそうだと思うんですよね。自分の名前なんて誰も知らない、もちろん生きてる理由なんて知らない、でも勇ましく生きている人間。それは格好いいだろうと。自分も憧れるし、そういった人に。そういう意味で「名前を無くしたままに 飛び立つ鳥の正しさ」というフレーズを使っています。
--また、この曲って宇宙規模の壮大さを感じさせながらも、「帰り道」なんていうフレーズも出てくるので、状況は日常の一日のふとした瞬間だったりするのかなとも感じたんですが。
大木伸夫:そうですね。一瞬ちょっと想いが馳せて、ワァ~っと飛んで、相対性理論で、たった20秒ぐらいなのかもしれないけど、宇宙を旅して帰ってくる。そういう内容ですよね。だからね、『火の鳥』もイメージしてるんですよね。何億年と宇宙を転々と飛んでいくその姿はものすごく正しい。そういうのは大好きな世界なんで。
--個人的には、この『プリズムの夜』の後にインストの『AM2:00』が聞こえてくるところに地続き感があって、すごく好きなんですけれども。
大木伸夫:これはね、かなり後付なんですよね。このインストって本当は昼のイメージで。昼のカフェで流れてくるような、ただ気持ち良い曲として存在していたんですよ。で、アルバムの曲順を決めるときに偶然そこのポジションが一番落ち着いて。そこから後付で、『プリズムの夜』の後の曲を『AM2:00』にすれば、その後にある朝のイメージの曲『Dawn Chorus』も活きてくる。「あ、これだ!」と思って。
--ちょっと曲順前後しますけど『Returning』、僕はこの曲がある意味、今回ACIDMANがメッセージしたいことのすべてを詰め込んだナンバーだなと感じていたんですが。
大木伸夫:正にその通りです。英語詞だから詩的表現をする必要なく素直に書けるんですけど、正にこれがテーマですね。一度人間は戻る必要があるっていう。人間って昔は、みんなが笑って、特に優劣もなく、みんなが満たされていたらしいんです。だけど今みたいに贅沢じゃない。見た目の華やかさもない。だけど、みんなが満たされていた文明があった。自分たちも一回そこに目を向けなきゃいけないんだろうなって。俺、すごく貪欲な生き物なんですけど、だからこそヒリヒリ痛さを感じるんですよ、そういうことを知ると。それで、元々洋服好きだし、旨いもん好きだし、物欲が強いんだけど、最近どんどんそれを削っていくように努力しています。三大欲求以外は。
--続いて『Ride the wave』。「我々にかつてあったバランスを思い出すこと」と歌い叫ばれるこのナンバー、大木さんがこの曲で言うバランスとはどんなモノ?
大木伸夫:これもさっき言ったマヤ文明の話ですね。『Ride the wave』では、更に具体的にその話をしてるんですけど、自然と調和して生きるという意味でのバランスです。今はそのバランスがものすごく崩れているから、それを取り戻そうっていう。で、『Ride the wave』というタイトルは、すごくマニアックな話なんですけど、「波に乗れ」って言ってもその「波」は海の「波」じゃないんですよ。2012年に次元上昇するという、そのマヤ歴から計算された、一種の予言みたいな話があって。今の文明っていうのは、第四アトランティス文明って言われてて、過去に3回滅びてるんですね、アトランティス文明は。で、2012年にもう一回滅びるって言われてるんですよ。ただその「滅びる」っていうのは、目に映って文明が滅びるのか、精神的な世界の何かがひとつ欠落するのか、それこそ天変地異が起きるのか、分からないんだけど、その前にスイワの波と言われる波に乗らないと、人間は終わるであろうって言われてて。まぁその話を完全に信じてるわけじゃないんだけど、かなりリアルだなと思って。それはね、いろんな本に書いてあるんですよね。すごく昔に『神々の指紋』って流行った本があるんですけど、それにもそのことが書いてあって。で、今はもっと熱くそのことに対してみんな研究し出してる。まぁこれを俺が完全に信じてて、これのメッセンジャーだったら、ものすごく詳しく説明するんだけど、ちょっとまだ俯瞰しているから、この曲ではヒントっぽくこれに関する言葉を当てはめてるんですよ。それで「自然と調和して生きていこう」と、自分に対してでもあるんですけど、メッセージしている。
--そうしたメッセージを届けるために、さっきの話ともリンクするんですけど、音の洪水ぶりというか熱量ぶりの半端のなさは必要不可欠なモノになってると思うんですが、そうなると、演奏はかなりタイトなモノになっていきますよね?
浦山一悟:そうですね。特にこの曲はタイトでしたね。最初から最後まで四つ打ち感が続いていて、その上で萎んだり膨らんだりキメがあったりするんで。まぁでもすごくライブでやるのが楽しみな曲です。サビでみんなにブワァ~!ってなってほしいなって。
--その波を作るために必要になってくるのが、『REAL DISTANCE』や『So Far』といった物憂げな要素を持っている曲になってくると思うんですけど、それぞれどんなイメージから生まれた曲だったりするんでしょう?
大木伸夫:『REAL DISTANCE』は、最初に一悟が持ってきたギターのフレーズがあって、それがめちゃくちゃ良くて。イントロのフレーズなんですけど。で、そのときはサビがなかったんですけど、サビのメロディも一悟が持ってきたんですよ。そしたら一悟が作ってきた曲って結構イメージが浮かびやすいから、歌詩もスムーズに出てきて。これで歌ってるのは、距離ですね。目に見えるモノと目に見えないモノたちの距離。現実とスピリチュアルな世界に対して「昔はもっと近かったのに、今はすごく遠い。それでも元々あったそういう世界に僕らは向かっていけるであろう」っていう希望を込めた祈りの歌というか。それはもう曲に導かれて、やさしく添えられるように生まれたモノなんですけど。
『So Far』は、すごくシンプルに作りました。「こういう曲にしよう!」とか決めずにアコギをゆっくり奏でていたら出来た曲で。で、このままの世界観で仕上げたいと思って。なぜならそのときに映像がもう浮かんでて、『So Far』っていう言葉も浮かんでたんですよ。これもまた同じですけど、「とても遠い」と歌ってる。すごく『REAL DISTANCE』と似た感覚ですね。ただ『So Far』は、どことも言えない世界の片隅の歌っていうイメージで。そこにみんなで優しい光を灯していく。でもどこか寂しい。そういう曲ですね。
Interviewer:平賀哲雄
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--そして『懸命の銘』。これの“What a ruthless story”というのは、生まれし者は必ず消えてゆくという絶対的決定事項のこと?
大木伸夫:今の現実社会の悲しい物語という感じですね。「なんて悲しみに包まれた物語なんだろう?」って思うんですよ。みんなすごく生きたがって生きたがって、一生懸命爪あとを残そうとしている。で、『懸命の銘』ってすごくデッカイ石に何かを刻んでいる人のイメージなんですけど、だけどそれって終わっていくモノで、石に刻もうが何しようが物事は全部終わっていってしまう。その絶望たるや悲しいモノじゃないですか。なんて残酷なんだろう、みんな一生懸命生きて、何かしよう、世界を変えよう、美しくしようとか思いながらも結局終わってしまう。悲しい。だけど、そこでやることに意味はあるだろう。「この悲しみは自分たちで意味付けしなきゃいけないんだ」っていう歌ですね。で、その瞬間瞬間を生きる人間は格好いいだろう!すごいだろう!という意味合いを込めています。すべてはやがて終わってしまうけど、意味はある。そう思わなかったら人間は何の希望も持てなくなってしまう。
--で、今作『green chord』、とても壮大なナンバーが最後にふたつ並びます。まず『calm』。この曲はどんなイメージから生まれた曲なんでしょうか?
大木伸夫:これはね、テレビを観てて、そこにはすごく雄大な自然が流れていて、そこから生まれた気持ちに近い歌が書けそうだと思って作ったら、すぐにサビまで書き上げることができたんですよ。で、「シンプルで良いのが出来たなぁ」と思って。イメージとしては、大地なんですよ。それで“I was born here”って言葉もわりと早く出てきて。“I was born here”ってあたりまえの言葉だけど、すごく強いなと思って。誰もがこの大地・世界に生まれたわけで、その大地・世界は美しくあるべきだろうっていう。あと、凄まじい激動の中で生命って生まれてるんだけど、そこにはもう凛とした正しさが漂っているんですよね。そういうイメージで生まれた歌です。
--そしてラスト『toward』。もはやプログレの領域というか、ロックシーンの長い歴史の中でも確実に新境地を切り開いたナンバーだと思うんですが、自身ではどんな印象や感想を?
大木伸夫:まず涙が出てくるぐらい悲しいギターフレーズが出てきて、「これは絶対曲にしたい」って思ったんだけど、そのフレーズのイメージのままで作るとネガティブな曲になっちゃうから、前から作りたいと思っていためちゃくちゃ長い曲にしようと思ったんですよ。それこそ20分ぐらいの、聴いている人を完全に無視しためちゃくちゃな曲を(笑)。で、最後は絶対に圧倒的にポジティブにしようと思って。すごくシンプルで、それこそビートルズのようなメロディにして、いかにもなストリングスが流れてくるような。そこに行き着くために前半部分をかなりネガティブにしようと思ったんですよ。物が無くなって、願いも叶えられないで、祈りも届かない。“イルカの涙が海に溢れて”というフレーズをすごく気に入ってるんですけど、イルカが泣いて、どんどん海の水位が高くなる、それは環境破壊のことを 言ってるんだけど、そうして「悲しい、悲しい、悲しい」って悲しみが繰り返されていく。なんだけど、それを完全に振り払って、世界が一枚の絵だとしたらその額縁をバンッ!って外してみたら、すごく肯定的なメッセージが流れていた。そういうイメージの曲ですよね。だから『toward』、“We are living toward the true days”本物の日々、満たされている日々へ向かっていこうっていう。理想郷へ。それを求めるのは、求めすぎじゃないだろうって。表現者たる者、良い意味で過剰に「そこに本物の日々がある!」と言い切らなきゃいけないし、俺は絶対あるって信じてるし。
--そんな今回のアルバム、ライブで表現するとなると、かなり難しい作品でもあるんじゃないですか?
大木伸夫:はい。難しい。これはね、技術じゃないところが大きいんですよね。みんなでいかにイメージ通りの空気感を作れるか?っていうところになってくるんで。
佐藤雅俊:確かに難しいなと思いますね。でも毎回そうなんですけど、理屈じゃなくて、今この胸にあるエネルギーを出せたらすごく良いモノになるんだろうなと思うんですよ。今回のアルバムの曲に関してもそれはすごく思うし。楽しみですね。
--その楽しみな【ACIDMAN LIVE TOUR "green chord"】、どんな内容のツアーにしていきたい?
大木伸夫:特にコンセプトとかはないんですけど、やっぱり『green chord』の世界をライブでも生み出したいですね。今までは、とにかくみんなを圧倒したい気持ちでいたんだけど、今回はそれぞれがそれぞれを助け合ってるライブというか、俺らもみんなもちゃんと頑張らないと楽しめないライブというか、みんなで創り上げるモノにして。あとは、メッセージとして本当に美しい世界を創るために美しい瞬間をひとつでも多く一秒でも多く感じられる、「あ~俺ら、繋がってんなぁ」っていうのを実感できるライブになればいいなと思います。
--そしてこのツアーの最後に待ち受けているのが初の日本武道館公演ですよ。イベントではすでに立ったステージではあると思うんですが、ワンマンではまだワケが違います。どんな気分?
大木伸夫:結構前から「やりたい!やりたい!」って言ってたんで、今回踏み切ってくれた事務所にまず感謝ですね。「武道館でやりたい」という気持ちは純粋なモノだったので。憧れだったわけじゃなくて、イベントで二回ぐらい武道館のステージに立ったときにすごく良い空気感を感じて、「良い場所だなぁ」って思ってたんですよ。それは例えづらい感覚なんですけど、「スピリチュアルな世界だな」「ここの場所には何かがある」って感じて「ワンマンでやりたい」と思ったんですよ。だから今回はまずそれの確認作業ですよね。だからどうなるのか、不安がかなりあります。楽しみではあるんですけど。
浦山一悟:今回はアルバム自体も広がりのある曲が多いんですよ。で、武道館は今までライブをしてきた場所とは違って縦にもすごく長いし、奥にも長いし、スペースがすごく大きいんで、その広がりがちゃんと二階席の最後列の人まで伝わればいいなって。武道館というハコを目一杯使うというか、包むというか、そういう風なアクトができたら・・・。
大木伸夫:アクトって言っちゃった(笑)。
浦山一悟:ギグが出来ればいいなって。
--(笑)。僕は武道館で、本気の“We are living toward the true days”の大合唱が巻き起こるのを夢見て、楽しみにしていますので。
大木伸夫:それは実現したい。すごく実現したい。かなり難しいとは思うんだけど。みんなが「どうしよう、どうしよう?歌う?歌うか?」って成りかねない歌ですから(笑)。そこをいかに自然と、思わず歌っちゃったっていう状態にさせられるか、そこはすごく大事かなって思いますね。
Interviewer:平賀哲雄
green chord
2007/02/07 RELEASE
TOCT-26184 ¥ 2,934(税込)
Disc01
- 01.green chord (introduction)
- 02.Returning
- 03.Ride the wave
- 04.スロウレイン
- 05.REAL DISTANCE
- 06.So Far
- 07.プリズムの夜
- 08.AM2:00 (inst.)
- 09.Dawn Chorus (inst.)
- 10.千年歩行
- 11.懸命の銘
- 12.calm
- 13.toward
- 14.(エンハンスド)「scene of “green chord”」のダイジェスト映像収録
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