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Diggy-MO' 『BEWITCHED』インタビュー
Diggy-MO'が3月8日、前作以来、約2年ぶりとなるニューアルバム『BEWITCHED』をリリースした。ルーツからSOUL'd OUT期、そして現在にいたるキャリアのすべてを解体し、抽出し、再構築して完成させたこの最高傑作について。時に『フリースタイルダンジョン』の話なども絡ませながら、隅々まで答えてもらった。
今回は全体的に都会的な、アーバンな要素が結果的に強くなった
▲YouTube「Diggy-MO' - BEWITCHED Megamix」
--今回もすごい作品を作りましたね。
Diggy-MO':ありがとうございます。けっこう面白い感じになったかなって。自分の新規を更新できた感もあるし、だいぶ遊び倒せて楽しかったですね。--前作『the First Night』はSOUL'd OUT解散以降では初のアルバムでしたから、今作はよりフラットに、純粋に音楽を聴き始められた気がします。
Diggy-MO':『Diggyism』(以下、I)『Diggyism II』(以下、II)を2回やってる感じ?(笑)--作る上では、そういった意識はない?
Diggy-MO':うん、結果としてな気もするんだよなあ。潜在的にはあるのかもしれないけど、淡々と作っているだけとも言えるし。--そして、とにかく曲がすごすぎます。
Diggy-MO':楽しかったですか?--めちゃめちゃ楽しいです!なにせM-01「KISSIN-TRO」の子どもの声からはじまって、いきなりM-02「先生、」ですから。このタイトルの時点で、まァもう……
Diggy-MO':「まァもう……」って言われちゃうタイトルですよね(笑)。--イントロのソウルフルなストリングスもそうですが、80’sディスコ調のアプローチを大々的にフィーチャーするのは久しぶりですよね。
Diggy-MO':ブラックミュージックというかファンクというか、 今回は全体的に都会的な、アーバンな要素が結果的に強くなったのかなって。小気味良いダンサブルなアプローチをやりたかったモードなんでしょうね。--この曲に限らず今作は、SOUL'd OUTでのデビュー当時からソロでの前作までをすべて解体して、美味しい部分を抽出して新しい芸術品を完成させたように感じました。
Diggy-MO':確かに確かに。言われてみるとそんな気がしますね。前作のときはよく、マニアックとかアーティな方向でご紹介いただくことが多かったんですけど、こうして『BEWITCHED』を聴くと“ああ、そういうことか”ってわかるところもありますね。それは『Diggyism II』の時もあったんですよ。『I』のとき、尊敬している媒体の方から、笑いながらですけど“『I』より『II』の方が全然良い! 『I』は全然わからない!”って言われたことがあって(笑)。その感覚に近いのかなって。--『I』と『the First Night』の共通点は、シリアスな側面が強い気がします。「爆走夢歌」のイメージかもしれないですけど。
Diggy-MO':『I』は1回休止を踏んでからのソロだったから、聴く側が意識したのかもしれないね。でも『the First Night』でシリアスなのは、いっても「Blue World」くらいじゃないかな。子どものころに天体望遠鏡を作ったことがあるんですよ
--話を「先生、」に戻しますが、この楽曲は良質なJ-POPだと感じました。それもサザン・オールスターズやクレイジーケンバンドが得意な、ちょっとエロい要素が入ったロマンチックな名曲というか。Diggy-MO'さんもSOUL'd OUT時代からそういう側面が出ていましたよね。
Diggy-MO':僕もわりかし得意な方です、エロは得意(笑)。--今作はそういう曲多いですが、なにかあったんですか?(笑)
Diggy-MO':それヤバいな、「エロいアルバムが出来ちゃいました」って(笑)。特に意識したわけではなくて、歌詞は基本的に、爆発的に書く感じなんですよ、曲と詞を同時に。--しかも曲後半、メリーゴーランドのくだりからすごいことになっていきます。
Diggy-MO':夜の遊園地コーナー(笑)。流れでAメロBメロCメロを繰り返して展開していたら……、アレに呼ばれちゃったんですよね(笑)。アイディアが出てきて、そこに呼ばれると後戻りできないんですよ。よっぽど無駄だと思えたら無くしますけど、これで然りになるだろうと思ったら入れたくなって、やらなくてもいいかにはならない。そこで楽典的な理詰めはしていくかもしれないですね。--そのパートとしての面白さを違和感なく融合させることが重要で、曲として成立させる難しさを感じますし、丁寧にやらなければいけない部分だとも思います。
Diggy-MO':なるほどね。--その技術も年々高まっているからこそ、この作品は現時点での最高傑作だと胸を張って言えますし、2017年現在までのDiggy-MO'さんのスキルを駆使した芸術だな、と。
Diggy-MO':それは嬉しいですね。--ビジネスが前提にある作品づくりでは無く、作品づくりを前提としたビジネスの方が素敵だというところは、昔からDiggy-MO'さんは変わっていないと思いますが、そういう環境はやりやすくなっている?
Diggy-MO':基本的には、そういうクリエイティブな状態でいたいですし、それをやり難いと感じたことはあんまり無いなあ。ライブとかになってくると予算とか出てきますけど、その制限の中でもちょっとしたアイディアでガラリと変えられることもあるし、それを考えるのが楽しかったりしますね。 ……俺、子どものころに天体望遠鏡を作ったことがあるんですよ。天体望遠鏡を買ってもらえずして、如何に天体望遠鏡を作るか、みたいな。それもある意味、制限の中でやっていることですよね。--天体望遠鏡って作れるんですね……。
Diggy-MO':作れるんですよ。それを音楽に置き換えたような感じがするんですよね。- やっぱりキャッチーな要素があった方が単純に楽しい
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やっぱりキャッチーな要素があった方が単純に楽しい
▲YouTube「Diggy-MO' / PTOLEMY - Ptolemic Expressions - (Official Music Video)」
--また、総じて今作も生音がふんだんに盛り込まれた豪華なサウンドを堪能できます。
Diggy-MO':ただ、生音じゃない場合も全然あるし、必ずしも生音が良いわけではない曲もありますね。結局、工夫だと思うんですよね。色んなアンサンブルの立体的な定位とかもそうだし、それこそ機材的な話で言えばプラグインとかもちょっと手間で変わったりするし。--M-03「SHOTTTTEQKILLA」は、80’sのディスコをベースに、高速ラップからクラシカルなピアノまで。Diggy-MO'さんのパブリック・イメージをクラシック音楽のようなアプローチで突き詰めた楽曲だ感じました。
Diggy-MO':それこそ後先考えずに色々やり上げたら、こんな感じになったというか。ブレイクをどんどん積んでいったら、結果戻らずに終わるっていう(笑)。もちろん、戻ってくるパターンもポピュラリティのあるフィールドの中で良く出来ていると思うけど、これはファンクだからノリで良いのかなって。--でも、「SHOTTTTEQKILLA」にはポピュラリティもあるのが驚きです。
Diggy-MO':やっぱりキャッチーな要素があった方が単純に楽しいでしょ? ……って、自分もそうですし。そのキャッチーっていう意味合いが、ポップかどうかというより、何か残る。インパクトがあるキャッチーさというのが、ボーカルでも良いし、ロックならギターリフになることもあるだろうし、それは何でも良いと思う。--ちょっと話はそれますが、『フリースタイルダンジョン』でも活躍されているCreepy NutsのR-指定さんは、HIPHOPの入りがSOUL'd OUTだと仰ってまして。
Diggy-MO':それ、違う人からも教えてもらったんですけど、彼、すごくないですか? すごいと思います。--Diggy-MO'さんは『フリースタイルダンジョン』観ます?
Diggy-MO':何度か観たことありますよ。面白いと思います。ああいうのって自信と、カリスマティックな形でバチッと決まっちゃったら、「……だね!」っていう感じになるんですよ。周囲を集中させるものを持っている人がやった場合、説得力あると思います。ライムスキルというより自分を見せる、魅せるカリスマ性や説得力を問われる表現というか。--僕は日本のHIPHOP史を語るとき、SOUL'd OUTの名前は出てくると思います。当時に称賛もされましたけど、ディスの対象にもなった。そういう時代を越えたDiggy-MO'さんが、今鳴らしているのが「SHOTTTTEQKILLA」である、というのはファンとしても心強いと思います。
Diggy-MO':色々更新しつつ、変わらずにやってますから、そういう意味ではマイペースなのかもしれないですね。何かあると思ったら地獄しかない(笑)
--また、「SHOTTTTEQKILLA」に“にこにこジョバンニ”という歌詞がありますが、これは次の楽曲のタイトルでもあります。
Diggy-MO':これは「SHOTTTTEQKILLA」の方が先で、“にこにこジョバンニ”っていうワードが出てきた瞬間、そのストーリーがバーっと出てきて、“ああ、どうしたどうした? ……「SHOTTTTEQKILLA」やる? 「にこにこジョバンニ」を作る?”みたいな(笑)。それは言語に限らずよくあることで、 直感ですね。--「にこにこジョバンニ」の歌詞もすごいですよね。エロい系というか……
Diggy-MO':まあまあ、セクシャルな感じだと思いますけど、シュールですよね。これは殺人鬼なんですよ、歌っている主人公が。僕は女性役をやっていて、ターゲットがジョバンニなんです。だから最後に銃声が入る(4:10~)。ここまで誘惑しておいて、最後は殺す。ベタな設定っちゃそうなんですけど。--また、この楽曲も含めて今作ではTaiki Fudanotsujiさんが参加されています。
Diggy-MO':彼とは長くて、ずっとレコーディングエンジニアをやってもらったりしていたんですけど、気心が知れているし、やりやすい。過去作にもレコーディング・エンジニアで参加してもらってますし、ものすごくリスペクトしてます。本当に細かいところまで付き合ってくれる、信頼できる音楽家です。--M-05「PTOLEMY」は本作のリード曲のひとつとなっています。詞はDiggy-MO'さんの根幹ともいえる、神話や宇宙まで拡散していく世界観が印象的でした。
Diggy-MO':そうですね。わりかし、“てめえ教”的な感じですよね(笑)。--サウンドもストイックな質感ですし。
Diggy-MO':シンセのプレッシャー的な感じですよね。「壁が!音の壁が!」みたいのを2分も聴かせちゃう。一瞬抜けるけどすぐ復活して、何かあると思ったらあとは地獄しかないっていう(笑)。--でも、そこからM-06「YOYOY」のマーチング調の壮大なイントロに連なっていく流れは、音楽で生み出すカタルシスの瞬間ですよ。
Diggy-MO':オーケストレーションへ、っていうね。「YOYOY」は(SOUL'd OUTの)「SUPERFEEL」、「Twilight Twilight」と同時期から書き始めていて、長く置き去りしていた曲なんですよ。 A~Bメロを2コードで行く感じが気持ち良くて、サビは違うメロディが付いていた時期もあったし、色んなバランスを試したりで、置き去りになっていた曲だったんですけど、当時から気に入ってたんですよ。2014~15年くらいにも、ちょこちょこテコ入れしたり、歌詞を書き直したりと、タイミングごとに色々いじってきたから、実はかなりカオスなんです(笑)。たまにロマンティックな曲、ちゃんとステキな曲を書くときがくる
--続くM-07「GIRL MY」を初めて聴いたときは、「and 7」を思い出しました。
Diggy-MO':あー、なるほどね(笑)。--「and 7」は今なお不朽の名曲と思っていますし、今作の中でも「GIRL MY」が一番好きです。
Diggy-MO':そういってくれたのは2人目ですよ。……けっこう通だと思う(笑)。その1人目っていうのは後輩で、僕がやっている一連の作業をそばで見ている奴なんですよ。っていうのも、こういう感じを一番好きっていう人はあんまりいないじゃないですか、言ってもマイノリティというか。--構成がシンプルで、音のすべてが主役になっている。ピアノ、ホーン、ビート、ハンドクラップ、アクセントのシンセ。少ない音数なのにめちゃくちゃ気持ち良くて、クラシカルなピアノフレーズも素晴らしいですし、アバンチュールな世界観も含めて格別です。
Diggy-MO':おー、嬉しいです。歌詞もシンプルだし、リズムが全部裏で難しいんですよ。そういう黒いグルーヴで最初に思いついちゃったから、そうなってくるとなかなか変えられないんですよね。それに、やっぱりたまにロマンティックな曲、ちゃんとステキな曲を書こうっていうときがくるんですよ。『II』でいう「Bayside Serenade」とか。若干黒いシティポップみたいなところをやりたくなる。--また、もうひとつ大好きな曲がM-08「ASTRONAUT FEAT. 大神:OHGA」で、不条理なループの中、強烈なカットインも絡めながらアシッドなサウンドを深く鳴らしていく。打ち込みがベースの曲で、生音の迫力と同じ熱量まで高めていく楽曲の決定版だと思いました。
Diggy-MO':最初のきっかけは、それこそTaiki(Taiki Fudanotsujiさん)で、彼が送ってくれた4小節くらいのループから組んでいった曲ですね。彼は今のビートやシンセが得意なので、そういうところまで探りながら、僕もアカデミックに手伝いつつ。あとはもう、ボーカルのノリに合わせて思いっ切り抜いてみたりとかね。--“so Astro !!!!”という歌詞から始まる高速ループがすごいのに、そこにコーラスが加わる瞬間はシビレましたよ(笑)。
Diggy-MO':上のハモが加わっちゃうっていうね(笑)。--ここはクィーンっぽいというか、Diggy-MO'さんのルーツが見えるアプローチでもあります。
Diggy-MO':なるほどね。ああいう上ハモ付いちゃう感じって、確かにクィーンでありますよね。これ、だいじょうぶ?みたいな、そのときソレを遊んでいるとそうなる、みたいな。--次のM-09「CLEOPATRA」は、シティポップっぽい雰囲気があります。シティポップは今流行ですが、Diggy-MO'さんにとってはSOUL'd OUT時代からの得意なところのひとつですよね。
Diggy-MO':ダンクラみたいなソウルとかと紙一重なところで、昔から好きですね。--続くM-10「SHE」は全英語詞で、ジャズ寄りの曲です。このベースはウッドベースですか?
Diggy-MO':このベースは……、一回生にしてみたんですけど、打ち込みに変えました。難しいんですよ、意外と。音源になると、生音では小気味よさが損なわれちゃうときがある。ライブのバンド・アンサンブルの中では良いんだけど、音源では打ち込みじゃないとイントロのパンッて弾ける感じが失くなっちゃうんですよ。隙間も強いですし、色んな妙がうまくハマったね。本当に最後まですごい迷ってて、ミックスエンジニアの人にも相談したら「両方やってみる」って言ってくださって。生でやるとリッチさも出るからけっこう迷ってたんですけど、打ち込みのグルーヴの方が不思議とスウィングする。ホーンとかは生なんですけどね。
チャーミングなアプローチを提示できるといいな
--そして最後のM-11「首都高2」ですが、僕は「Singin' My Lu」を思い出しました。
Diggy-MO':おー、懐かしいな。ピアノスタートだしね。この曲は元々ピアノで作り始めたんですよ。--スペイシーな世界観も含めて共通点を感じたのですが、この曲で締めているのが意外でした。いわゆるエンディングらしい楽曲だったので。
Diggy-MO':歳を経て、昔は恥ずかしかったことも楽観的に表現できるようになりましたね。今回は特に如実に出ていると思います。チャーミングなアプローチを提示できるといいなって、サラッと思えるようになったのは歳を経て、自然にですね。昔はもっと……、言い方は変だけど“もっとかっこいいもの”、シャープな方向のアレンジや音作りでしたし、エッジーなニュアンスを選んでいたことが多かったと思います。都会的なカラーも丁寧に選んであげれば、鮮やかに色づく。っていうのは、今回けっこうこだわってましたね。
--ルーツから現在にいたるキャリアまでをすべて解体し、抽出し、組み上げることで、ある種のエポックメイクを成し遂げた作品だと思います。
Diggy-MO':そういう感じで楽しんでもらえたら良いですよね。--そんな作品を『BEWITCHED』と名付けた理由を最後に……
Diggy-MO':なんかインタビューのセオリーっぽい質問ですね(笑)。--でも、Diggy-MO'さんはセオリーもしっかりやるミュージシャンじゃないですか。
Diggy-MO':まったく奇をてらってるわけじゃないし、ど真ん中をやってるんですよ、俺の中では。この言葉自体を前々からものすごくチャーミングだと思っていたし、ジャズナンバーの「Bewitched(, Bothered, and Bewildered)」が昔から好きなんですよ。曲は普通にきれいなんですけど、歌詞がけっこうグロいというか、わりかし生々しい表現だったりして。--ソロ作品の中では初めて、作品のイメージを言葉にしたアルバムタイトルですよね。
Diggy-MO':より具体的ですよね。俺はわりかしナチュラルですけどね、すべてが。工夫はしてますけど、僕の中ではどれも自然。自分の流れの中にある言葉。丁寧に作ってはいるんですけど、ノリも大事なんですよ。ストイックなパブリック・イメージがあるのかもしれないけど、ノリで生きてたりする部分も多分にあってね。あんまり考えすぎずにやってますね、その時に赴いたものを作ってる。--本当に2年待ったかいのある名作を楽しませてもらいました。
Diggy-MO':ありがとうございます。よかったです、楽しんでもらえて。関連商品