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『プリンスとパープル・レイン 音楽と映画を融合させた歴史的名盤の舞台裏 』刊行記念特集
プリンスの死からまもなく1年となるが、音楽ストリーミング・サービスの配信開始、『パープル・レイン』のリマスター盤の発売など、今なお彼の話題は尽きない。そんななか、映画『パープル・レイン』についての初めての研究本が2017年2月24日に発売となった。この作品は、ヴァイブ誌、スピン誌などの編集長を歴任したアラン・ライトが、映画制作に携わった関係者などにインタビューを行ったドキュメンタリー本。その本の概要と魅力について、発売元のDU BOOKS、田渕浩久氏に語ってもらった。
多くの音楽リスナーが魅了された『パープル・レイン』
2016年、プリンスがこの世を去った。
彼の残した作品の中でいちばん印象的なものは?と問われれば、『パープル・レイン』と答える人がもっとも多いのではないだろうか。
映画としての『パープル・レイン』の評価はさまざまだが、楽曲として、そしてサウンドトラック=アルバムとしては誰も文句がつけられないほどの作品であることは言うまでもない。R&B、ダンスミュージック、ポップス、ロックの垣根を越えたその音楽に魅了されたリスナーの数は計り知れないだろう。
▲Purple Rain (1984) Official Trailer
本書は、プリンスが主演をつとめた1984年公開の映画『パープル・レイン』と同名サウンドトラック発売から30周年を記念して刊行された『LET’S GO CRAZY~Prince and the Making of Purple Rain』の翻訳版となる。
その中身は、『パープル・レイン』にのみ焦点を絞った研究本と言える内容に仕上がっている。制作に携わった関係者へのインタビュー、および撮影の舞台裏を描いた詳細な解説は読みごたえ十分。もちろん著者のアラン・ライト自身、10代から熱心なプリンス・ファンであり、ラジオで新曲を初めて聴いた時のエピソードやライヴにまつわる記述も添えられている。まるでドキュメンタリー番組を観ているかのような文体で描かれるそれぞれのシーン。中でも表題曲「パープル・レイン」が生まれた時のエピソードは興味深い。以下に一部抜粋する。
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1982年12月、シンシナティのリバーフロント・コロシアム公演のサウンドチェック中、プリンスは新曲のバラードのコードをバンド・メンバーに聞かせた。
「プリンスが現れたのよ、あのアイデアを持ってね」とウェンディ。
「彼ははっきり言ったわ。『僕はこいつを形にしたい。これじゃなきゃだめだし、このテンポでなくちゃいけない』。そしてあるキーを弾いたから、皆でジャムを始めて、そこからオープニングのコード進行が生まれていった。すごく自然にね」。
これこそ「Purple Rain」の誕生した瞬間だ。ただし歌詞が出来て、曲名が決まり、それを映画のタイトルにするというアイデアが生まれるのは、何ヵ月も先のことになる。
ウェンディはプリンスがバンドに弾いてみせたコードを展開し、susコードを加えた。リスナーが理解できるような構造かどうかはともかく、サウンドは前衛的だった。
「当時、ああいうことをやってるポップ・バンドはほとんどなかったわ」とウェンディ。「あんなに斬新なハーモニーを使ってるのは、当時はポリスのアンディ・サマーズぐらいだったわね」
「バンドがもらったのはコード進行だけだから、結局皆が自分のパートをほとんど作ることになってね」と語るのはマット・フィンク。
「初めてあの曲のジャムをやった時、俺はピアノであるラインを弾いた。プリンスが最後にファルセットで歌う、クライマックスの部分――あれは俺のアイデアから生まれたんだよ。偶然思いついたんだけど、プリンスはそいつをすぐ採用して歌ったんだ」
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プリンスが後進を育て続けたミュージシャンであることは、上記からもうかがえるだろう。(クビにされたが)ジャム&ルイスをはじめ、ウェンディ・メルヴォワン、リサ・コールマン、そしてこのたび来日するザ・ニュー・パワー・ジェネレーション(NPG)の面々もまた然りである。
▲ Prince Purple Rain Live ~American Music Awards 1985~
また特筆したいのが、本書巻末に添えられた、作編曲家・鷺巣詩郎による解説文である。まさに氏による「プリンス論」と言える重厚な内容で、プリンスがいかに白人音楽を研究し、世界的アーティストにのしあがったのかが、音楽的分析、そしてコード進行分析から紐解かれている。さらに、プリンスの音楽はもっと考察・分析されるべきだとも論じており、こちらも必読の内容になっている。
今回のザ・ニュー・パワー・ジェネレーションの来日は、はからずもトリビュート公演となってしまったが、一周忌を前に、プリンスの息がかかったメンバーたちが繰り広げる「プリンスの世界」を味わっていただきたい。
▲ Prince (New Power Generation) performing 'Get Wild' on The White Room
リリース情報
『プリンスとパープル・レイン
音楽と映画を融合させた歴史的名盤の舞台裏 』
著者:Alan Light(アラン・ライト)翻訳: 川村まゆみ Mayumi Kawamura
9784907583460 / JPN 2,700円(tax in.)
四六版 / 328ページ / 並製
出版社:DU BOOKS
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公演情報
ザ・ニュー・パワー・ジェネレーション tribute to プリンス
ビルボードライブ大阪
2017年3月29日(水)
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ビルボードライブ東京
2017年3月31日(金)~4月2日(日)
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BAND MEMBERS
アンドリュー・ゴーチ / Andrew Gouche (Bass, Vocals, MD)
マーヴァ・キング / Marva King (Vocals)
T.J. ウィルキンス / T.J. Wilkins (Vocals)
ゴードン・キャンベル / Gorden Campbell(Drums)
カサンドラ・オニール / Cassandra O'Neal (Keyboards, Vocals)
リック・マーセル / Rick Marcel (Guitar, Vocals)
マーカス・アンダーソン / Marcus Anderson (Saxophone, Vocals)
リン・グリセット / Lynn Grissett (Trumpet)
エイドリアン・クラッチフィールド / Adrian Crutchfield (Saxophone, Vocals)
ジョーイ・レイフィールド / Joey Rayfield (Trombone)
バーナード・"BK"・ジャクソン / Bernard "BK" Jackson (Baritone Saxophone, Vocals)
※当初予定しておりましたカーク・ジョンソン(Dr.)が出演キャンセルとなり、ゴードン・キャンベル(Dr.)に変更となりました。
TEXT:Hirohisa Tabuchi(DU BOOKS)
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