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レタス来日記念特集 ~世界の現行ファンク~ジャズ・ファンク・シーンを紐解く

Lettuce

 現行シーンのトップ・ミュージシャンが集結したスーパー・ファンク・バンド、レタスが2017年3月15日ににリリース予定のスペシャルな新作『モア・クラッシュモア』(2016年11月リリースの新作EP『Mt. Crushmore』にボーナス・ライブ・トラックを2曲追加) を引っ提げ、3月に東京と大阪のビルボードライブで来日公演を開催する。1992年の結成以来、メンバーを変えながらも常にハイレベルなファンク・バンドとして、そのサウンドを更新してきたレタス。ドクター・ドレの最新作『コンプトン』に参加したエリック・“BLB”・クームズをはじめ、レディ・ガガやジョン・スコフィールドら超一流ミュージシャンのバンドに参加するメンバー達は文字通り猛者ぞろい。そんなレタスの来日を記念して、ファンク/ソウル/レアグルーヴ/ヒップ・ホップを中心としたジャンルを得意とするDJのRyuhei The Man氏にレタスについて、そして新作『Mt. Crushmore』、更には現行/現代ファンク~ディープ・ファンク~レア・グル―ヴ・シーンまで紐解いてもらった。

古くて新しく、新しくて古い、最先端のヴィンテージ・サウンド

 これが21世紀の、2010年代の、ファンク~ジャズ・ファンクなのか?
 これこそが21世紀の、2010年代の、ファンク~ジャズ・ファンクなのだ。

 世界の現行ファンク~ジャズ・ファンク・シーンを頭ひとつリードするファンク・エリートが集結した超実力派グループ、レタスが満を持して新作を引っさげ極上のサウンドをサラウンドに鳴らしにビルボードライブにやってくる。

 ジャズをはじめとするブラック・ミュージックのメッカとしても知られるUSマサチューセッツ州ボストン。そんな伝統の“血”が流れる“地”において、1995年に結成されたファンク~ジャズ・ファンク・バンド、レタス(バンド名の由来は、野菜の“レタス”からではなく、“Let Us<俺たちにやらせろ!>”だそうだ)。



▲Let Us Play (Official Lettuce Documentary) - Teaser


 彼らの成り立ちの経緯は、1992年にボストンに本部を置く、特に“ジャズ”の分野において世界的に知られる、かの名門バークリー音楽大学のサマー・スクールにて、現バンドの核となるメンバー、エリック・クラズノ(ギター)、アダム・ダイチ(ドラム)、アダム・スミルノフ(ギター)、エリック・クームス(ベース)、ライアン・ゾディアス(サックス)、ジェフ・バスカー(キーボード ※現脱退)らが知り合い、ジャム・セッションを重ねていった。その後、バークリー音楽大学に全員が進学すると、エリック・クラズノより2歳年上のサム・キニンジャー(サックス)と知り合う。エリック・クラズノは1年後には、同マサチューセッツ州のハンプシャー・カレッジに転校してしまうが、旧知のメンバーと連絡を取り、1994年の秋にレタスを結成する。もっとも当初は特定の名前は決めていなく、活動内容は、ジェイムス・ブラウンやハービー・ハンコック(ザ・ヘッドハンターズ)やアース・ウィンド・アンド・ファイヤーやタワー・オブ・パワー等のファンク・トラックのコピー/カヴァーしていたという。バンドはボストンのサウス・エンド地区にある老舗ジャズ・クラブのウォーリーズ・カフェ(近くのバークリー音楽大学出身者を含め、ボストン近郊の多数のミュージシャンにとって、本拠地となってきた)を中心に活動を始め、アイアン・ホース・ミュージック・ホールなどでもライブを行う。



▲Lettuce Plays James Brown - 9/18/13 - Stage 48 NYC


 この時期、当時ムーン・ブート・ラバーに在籍していたエヴァンス兄弟と知り合い、クラズノは彼等とバンドを組む為に脱退し、1999年にソウライヴ(エリック・クライズノ、アラン・エヴァンス、ニール・エヴァンスによるジャズ・ファンク・バンド。オリジナルはトリオであるが、編成をしばし変えている。2000年秋に老舗ジャズ・レーベルのブルー・ノート・レコードと契約)を結成した。この為、バンドはレタスとしての活動を休止し、ドラマーのチャールズ・ヘインズをリーダーとして迎え、ザ・スクアッドと改名した。レタスの活動が再開するのは、2001年にヴェロア・レコーディングス主宰のイベント【ディッグ・ディープ】でのこと。このイベントでギタリストのジョン・スコフィールドとJ.B.'sのトロンボーン奏者フレッド・ウェズリーと関わりを持ち、この時の縁でデビュー・アルバムとなる『Outta Here』にフレッド・ウェズリーがゲスト参加。ソウライヴのオルガン奏者ニール・エヴァンスも参加した。


CD
▲『レイジ!』

 2003年11月には、ブルー・ノート東京にて来日公演を果たし、この時の模様がアルバム『Live at Blue Note Tokyo』に収録されている。尚、ジェフ・バスカーはスケジュールの為に参加出来なく、代役にニール・エヴァンスが参加した。トランペッターのラショーン・ロスも参加している。2008年には2枚目のスタジオ・アルバムとなる『Rage』をリリース。ニール・エヴァンスがゲストではなく正規メンバーとして加入し、彼の兄弟のアラン・エヴァンスがミキシング・エンジニアとして参加。デトロイトの歌手ドゥエレを迎えたカーティス・メイフィールドによる永遠のソウル・アンセム「Move on Up」やチャールズ・ライト・アンド・103rdストリート・バンドによるファンク・アンセム「Express Yourself」をカヴァーしており、バンド・メンバーのソウル~ファンク~ジャズ・ファンク~レア・グルーヴに対する熱い思いがひしひしと伝わってくる。



▲Lettuce - Express Yourself - Remember the Children - 930 Club


CD
▲『クラッシュ』

 2011年には、兄弟バンド、ソウライヴとともに【Royal Family Ball Tour】を行い、次のアルバムを見据えた新曲なども頻繁にプレイするようになる。そんなモチベーションの高まった翌2012年、通産3枚目のスタジオ・アルバムとなる『Fly!』をリリース。2015年には通産4枚目のスタジオ・アルバムとなる『Crush』をリリースし、全米ジャズ・アルバム・チャートで1位という輝かしい実績を残す。そして、昨年2016年には本作品の母体となる7曲入りEP『Crushmore』をリリースし現在に至る。





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現行/現代のファンク・シーンを代表する新作『モア・クラッシュモア』

CD
▲『モア・クラッシュモア』

 さてここからは、待望の新作『モア・クラッシュモア』の内容について触れていきたい。

 1曲目、アルバムのオープニングにふさわしい、アルバム・タイトル曲にしてアルバム・リード曲。大胆なイントロから壮大に展開するへヴィ・ジャズ・ファンク「Mt. Crushmore」。ジャンルとしてのクラシック音楽とファンクが融合したかのような実にセンセーショナルなチューンだ。展開によってドラム・パターンを変えるバンピンなビートもかっこ良過ぎる。2曲目、細かく刻まれた各楽器の演奏が一体となりグルーヴを生み出している硬質なジャズ・ファンク「116th St.」。3曲目、奥行きのあるダビーなドープ・ジャズ「'Lude, Pt. 5」。インタールード的な曲だ。4曲目、タイトル通り、象がのしのし歩くような大らかなグルーヴがたまらない「Elephant Walk」。5曲目、プログレッシヴなイントロから一気に疾走するジャズ・ファンク・ダンサー「Ransome」。6曲目、女性ヴォーカルをフィーチャーした切れ味鋭いファンク・ナンバー「The Love You Left Behind」。7曲目、リバーブの効いたスネアとギターが立体感をかもし出すサイケデリックなアウトロ「'Lude, Pt. 6」。



▲Lettuce Live at the Fillmore Denver - 'Mt. Crushmore' Teaser


 私がレタスを初めて噂に聞いたのは、1973年にリリースされたカロライナ産のディープ・ファンク・クラシック、レア・ファンクとしても市場を賑わすソウル・ヴァイブレーションズ「The Dump」(ワン・オブ・ザ・ベスト・ドラム・ブレイクを収録。DJ Shadowもサンプリング)をカヴァーしているバンドがいるというところからだった。そんなコアなファンクの好き者達がかき鳴らす2010年代の最新にして最深のファンクがここにある。

 また、本作が現行/現代のファンク・シーンを代表するレタスによる作品ということで、この機会に現行/現代ファンク~ディープ・ファンク~レア・グル―ヴ・シーンについての関連性も触れていきたい。

 例えばファンク・ミュージックを歴史的に判断する一つの目安として「新譜」や「現行」といった言葉の使い方がある。この「新譜」や「現行」といった言葉は、いたって曖昧だが実に使い勝手が良い。もちろんそれは時が経つにつれて「旧譜」になっていくわけだが、ファンク・ミュージックの 世界においては暗黙の了解で、今のところ何となくその線引きがされている。



▲Crush: A Funk Odyssey by Lettuce


 では、どこからがいわゆる「新譜」、「現行」の扱いになるのかというと、1990年代前半にドイツで誕生したホットパイ・アンド・キャンディー・レーベルが、最も古い「新譜」であり「現行」ということになるのではなかろうか。1990年代前半のその当時、広く存在しなかったはずの「ディープ・ファンク」という概念を、すでに見事に反映させたタイト&ディープなサウンドを確立させていた。ジェイムス・ブラウンやミーターズに多大な影響を受けて“やりたいことをやっただけ”的なストレートさが伝わり、そこには“ディープ・ファンクをつくる”といった「狙い」は感じられない。しかし、このホットパイ・アンド・キャンディー・レーベルには「ディー プ・ファンク」として見ても、 余りにも強烈な作品を多々残されている。「つくられたファンク」ではなく「できてしまったファンク」なのだ。もちろん、1990年代中盤から加速した「現行ファンク・ムーヴメント」は、イギリスで生まれ、ここ日本をはじめ、世界中を巻き込んだ、非常にポジティヴな意味での「70年代への回帰」を掲げた、アシッド・ジャズ・レーベル、トーキン・ラウド・レーベル等を中心とした、主にバンドを全面に押し出した一大ムーヴメント「アシッド・ジャズ」の影響も決して避けられないだろう。同時に何よりも、「70年代の黒いグル―ヴを掘り起こし再評価する」という、どちらかというとコレクター的でDJ的な「レアグルーヴ・ムーヴメント」がなければ、現在に至るまでの、世界中を巻き込んでいる「現行ファ ンク・ムーヴメント」は生まれていなかっただろう。

 そこでやはりなんと言っても、現行ファンク・ムーヴメントの火付け役となったのは、再び古い音楽に新しい価値観を生み出し、更に、今までになかった“圧倒的な衝撃”を与えてくれたのが、世界的DJケブ・ダージによる世界的ムーヴメント“Deep Funk”だろう。ケブ・ダージがプレイする今まで聴いた事の無いような強烈にファンキーなサウンドは一気にシーンの常識を覆した。ケブ・ダージが主宰するイヴェント“Deep Funk”には、毎回多くの人が訪れ、中にはジャミロクワイのジェイ・ケイ、ブラン・ニュー・ヘヴィーズのサイモンといった大御所もいたという。更に、スノウボーイ、ロウ・ディール、DJシャドウ、カット・ケミスト、ケニー・ドープといった錚々たる面子がケブ・ダージとともにDJを務めた。また、自らのイヴェントに若い現行のファンク・バンドを出演させ、1960年代や1970年代のヴィンテージなファンクやソウルと共に、1990年代の当時にリリースされた、できたてホヤホヤの“新譜”のファンクやソウルも織り交ぜてプレイたりして現行のファンク・シーンも強力にフック・アップしていた。



▲Phyllis by Lettuce (Official Music Video)


 あくまで個人的な考えだが、そうなると1990年代前半から今現在のファンク/ソウル・シーンに最も影響と勇気を与えたのはDJのケブ・ダージという事になるだろう。アシッド・ジャズ~レアグルーヴそしてディープ ・ファンクというムーヴメントで決定的になったのではないかと。“自分達が憧れ、大好きで止まない、ジェイムス・ブラウンやミーターズのようなサウンドを再び現代に蘇らせよう”といった心意気の世界中の若いバンドが遂に目を覚まし、動き始めたのである。

 さあ、そんな「今」を体現する現行ファンク~ジャズ・ファンクの雄レタスによる、腰とハートに響くファンキー&ソリッドなサウンドをビルボードライブの腰掛けに座りながら是非とも体感していただきたい。ただしその圧倒的な迫力のグルーヴにきっと腰を立ち上げてしまいたくなるのは間違いないだろう。

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ライアン・ゾイディス(Saxophone)とアダム・スミルノフ(Guitar)が選ぶ「おすすめファンク・ソング」

 レタスのサックス奏者 ライアン・ゾイディスとギタリストのアダム・スミルノフに「おすすめのファンク・ソング」をそれぞれ5曲ずつ選んでもらいプレイリストを作成。1~5曲目までがライアン、6~10曲目がアダムのチョイスとなっている。


01. Getting To The Other Side - Hamilton Bohannon

もの凄くファンキーでそれぞれの楽器を聞き分けるのが難しいね。パーカッションのスプーンの音をよく聴いてみて。


02. Maybe It'll Rub Off - Tower of Power

これはタワー・オブ・パワーの中でもお気に入りの一曲なんだ。凄くタイトなレコードで、素晴らしいサウンドだよ。


03. Looking At The Front Door - Main Source

90年代ヒップホップの中でも重要な一曲。この曲では、Large Professorのプロダクションとリズムが輝いているよ。


04. Turn Off The Lights - Teddy Pendergrass

アメリカのR&B界で記憶に残る一曲だね。制作、アレンジ、作曲の全てがトップレベルだよ。最後の伴奏もめっちゃファンキー。


05. Better Half - Maceo & All the King's Men

最高にファンキーなグルーヴ曲のひとつだよ。最高にファンキーなテナー・サックスがプレイしているし。これがまさにピュア・ファンク。


06. Really Love - D'angelo and The Vanguard

昔からディアンジェロの大ファンなんだ。この地球上で素晴らしい才能を持つミュージシャンの一人だよ。曲の最後にディアンジェロとアイザイア・シャーキーが歌とギターで交互に即興プレイしているんだけど、アイザイアが味のあるプレイを聴かせてくれているんだ。


07. Don't Change Horses (In The Middle Of A Stream) - Tower of Power

タワー・オブ・パワーの元メンバー、ブルース・コンテからはギタリストとして大きな影響を受けたよ、特にリズムの取り方について。でもこの曲の好きなところは、彼のソロパート、音色、それから彼が曲調の変化に合わせバッチリ決めているところだね。


08. Come Dancing - Jeff Beck

ジェフ・ベックのこのアルバムがお気に入りなんだ。ファンキーだよね。レタスのアルバム『クラッシュ』に収録されている「Chief」の自分のソロパートのサウンドはこの曲のソロパートから大きな影響を受けたんだよ。


09. A Night Away - Metheny/Mehldau Quartet

正直言って、パット・メセニーがなぜこんなにギターに力を入れているのかよくわからないんだ。でも彼はハーモニックでメロディックでソウルフル。この曲は色んなところに連れて行ってくれるよ。


10. Raga Misra Khammaj: Slow and Fast Gats - Ravi Shankar

一曲ずつ選ばないといけないとは分かってるんだけど、どうしてもこのアルバム全部が素晴らしくてね。ギタリストだったらラヴィ・シャンカルの音楽をチェックするべきだよ。シタールで奏でられるリズムと音色の発想はギターにも通用すると思うんだ。

Billboard JAPANのApple Musicプレイリストはこちらから>>>

レタス「モア・クラッシュモア」

モア・クラッシュモア

2017/03/15 RELEASE
PCD-24593 ¥ 2,640(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.MT. CRUSHMORE
  2. 02.116TH STREET
  3. 03.LUDE 5
  4. 04.ELEPHANT WALK
  5. 05.RANSOME
  6. 06.THE LOVE YOU LEFT BEHIND
  7. 07.LUDE 6
  8. 08.THE FORCE (LIVE 12/31/16 BOSTON, MA)
  9. 09.PHYLLIS (LIVE 1/14.17 LIVE OAK, FL)

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