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プリンスのプレイリストも公開中!『プリンス 1958-2016』×ザ・ニューパワー・ジェネレーション来日記念特集 ~ "People around PRINCE" 証言から紐解くプリンス
2016年4月、世界的大スター=プリンスがこの世を去った。世界中でトリビュート公演が行われる中、ここ日本でも来春にプリンスと【ザ・ニュー・パワー・ジェネレーション tribute to プリンス】公演が東阪のビルボードライブで決定。また、映像作家モビーン・アザールによるトリビュート本の日本版『プリンス 1958-2016』が11月25日に発売される。今ここで改めて“プリンス”という存在について、本書の日本版監修を務めた長谷川町蔵氏がプリンスの周りの人物からの証言をもとに紐解く。
プリンスはピカソや手塚治虫に似た多作タイプの天才だった。
この世に永遠のものなど存在しない。2016年は、理屈では分かっているけど忘れがちなそんな事実をあらためて思い知らされた年だった。中でもプリンスの死は、世界中の音楽ファンに衝撃を与えたはずだ。彼はあまりにも特別すぎて、死とは無縁の人間だとすら思われていただろうから。
こうした錯覚を抱かせるくらいプリンスの生涯は常人離れしたものだった。1958年に彼が生まれた場所は、アメリカ中西部のミネソタ州ミネアポリス。当時、黒人が全人口の5%以下しかいなかった地方都市である。それだけでも黒人ミュージシャンとして身を立てるには致命的なハンディなのに、加えてあの身長、あの特異なルックスである。ミュージシャン云々以前に、生きていくことすら大変だったのではないかと思ってしまう。
だがプリンス少年は独学であらゆる楽器をマスターすると、地元のライブ・シーンであっという間に頭角を表し、弱冠19歳で超メジャーのワーナー・ブラザーズと契約してしまった。デビュー作の『フォー・ユー』は全楽器をひとりで演奏し、自らプロデュースも担当した前代未聞のファーストアルバムだった。
この時点ではR&B〜ファンクの範疇に収まっていた彼の音楽は、サード・アルバム『ダーティ・マインド』でパンクやニューウェイヴを吸収し、82年の『1999』に至って<プリンスの音楽>としか形容できないものに変貌を遂げる。そして84年の主演映画『パープル・レイン』の同名サントラ盤のメガヒットによって、彼はマイケル・ジャクソンと並ぶMTV時代のポップ・アイコンにのぼりつめたのだった。
▲Prince Purple Rain Live 2007
またプリンスは、スーパースターだったことと同じくらい後世のミュージック・シーンに影響を残した功績によっても讃えられるべきだろう。「売れ線のポップスはこうあらねば」という常識に縛られず、己のインスピレーションの赴くまま音楽を作り、ヒット曲を出し続けた彼が居なかったら、ティンバランドもファレルもアウトキャストもフランク・オーシャンも存在しなかったはずだから。
プリンスはピカソや手塚治虫に似た多作タイプの天才だった。生前に発表したアルバムは40枚以上。そのほかプロデュース作(中には作曲と演奏全てを担当した作品も相当数ある)、提供曲を含むと発表曲は膨大な数にのぼる。それだけではない。彼の自宅兼スタジオ<ペイズリー・パーク>の倉庫には膨大な数の未発表曲が保存されているという。
長年ファンの間で語られていたこの噂の真相に挑んだのが、英国生まれのジャーナリスト兼映像作家モビーン・アザールだった。熱狂的なプリンスのファンだった彼は、2015年にBBCで『ハンティング・フォー・プリンスズ・ヴォールト(プリンスの保管庫を探せ)』というドキュメンタリー作品を製作した際に、関係者に詳細なインタビューを行い、噂が事実であることを突き止めたのだ。しかも未発表曲はデモテープではなく完成形であり、今後年に1枚発表しても100年以上もつほどストックがあるらしい。
▲Prince: Hunting for the secret vault at Paisley Park - BBC News
そんなアザールによるトリビュート本が、11月25日にスペースシャワーネットワークから刊行された『プリンス 1958-2016』である。映像作家の彼らしく、バックステージ、フォトセッションのアウトテイク、プライベートなショットなど、美しく貴重な写真を時代順に並べながら、関係者のインタビューを添えることによって、プリンスの生涯を多角的に追った力作に仕上がっている。証言を寄せたのは、キーボーディストのドクター・フィンクやサックス奏者のエリック・リーズ、エンジニアのスーザン・ロジャーズといった音楽面でのコラボレーターから、ペイズリー・パークの社員やアート・ディレクターといったスタッフにまで及ぶ。
今回、日本語版の監修を担当する機会に恵まれたのだけど、ビックリしたのは普通これだけ多くの人々に聞けば、世間のイメージとは正反対の意外な素顔が見えてもおかしくないのに、プリンスは徹底してプリンスだったところ。それどころか「寝ない」「リハーサル無しでいきなりワンテイクで録音」といった伝説が事実であることに驚愕させられた。本の中でも複数の人物が語っている通り、プリンスは映画のような人生を生きたわけだけど、その映画とは自ら脚本を書いて監督した作品だったのだ。
リリース情報
『プリンス 1958-2016』
- モビーン・アザール / 著
- 長谷川 町蔵 / 監修
- 五十嵐 涼子 / 訳
- 2016/11/25 RELEASE
- [ISBN:978-4-907435-88-2 / 2,800円 (tax out.)]
- 出版社:スペースシャワーネットワーク
- ⇒詳細・購入はこちらから
公演情報
ザ・ニュー・パワー・ジェネレーション tribute to プリンス
ビルボードライブ大阪2017年3月29日(水)
⇒詳細はこちら
ビルボードライブ東京
2017年3月31日(金)~4月2日(日)
⇒詳細はこちら
BAND MEMBERS
アンドリュー・ゴーチ / Andrew Gouche (Musical Director, Bass & Vocals)
ゴードン・キャンベル / Gorden Campbell (Drums)
カサンドラ・オニール / Cassandra O'Neal(Keyboards & Vocals)
リック・マーセル / Rick Marcel (Lead Guitar & Vocals)
マルクス・アンダーソン / Marcus Anderson (Sax & Vocals)
リン・グリセット / Lynn Grissett (Trumpet)
エイドリアン・クラッチフィールド / Adrian Crutchfield (Sax & Vocals)
ジョーイ・レイフィールド / Joey Rayfield (Trombone)
バーナード・"BK"・ジャクソン / Bernard "BK" Jackson (Baritone Sax & Vocals)
※当初予定しておりましたカーク・ジョンソン(Dr.)が出演キャンセルとなり、ゴードン・キャンベル(Dr.)に変更となりました。
Text: 長谷川 町蔵
プリンスの人生におけるキーワード
“New Power Generation”
そんなプリンスが、人生という名の映画において語り続けてきたキーワードが<New Power Generation>だった。この名称は、88年作『LOVESEXY』中の語りで初めて登場し、90年の『グラフィティ・ブリッジ』で曲名になり、91年作『ダイアモンズ・アンド・パールズ』以降はプリンスのバックバンド名となった(90年代半ばに彼が設立した個人レーベルの名も<NPG>だ)。
80年代のプリンスがバックバンドに名付けた名前は<Revolution(革命)だった。ミュージック・シーンに<革命>を起こしたプリンスが、それを持続・成長させていくために夢見た共同体、それが<新しい力の世代>だったのかもしれない。New Power Generationとは即ちプリンスの理念だったのだ。バンドメンバーに、ジャズやブルースなどルーツ音楽に秀でたミュージシャンが多く招かれていたのは、成熟した音楽家となったプリンスが、ルーツの探求抜きにポップ・ミュージックの発展は無いことを悟っていたからだろう。
来春、New Power Generationの精鋭部隊とも言えるメンバーが来日して、プリンスのトリビュート・ライブを行なう。バンドのミュージカル・ディレクターを務めるのは、NPG最後のベーシストだったアンドリュー・ゴーチ。1959年生まれの彼は、2011年のプリンスのツアーで前座を務めたチャカ・カーンのミュージカル・ディレクターを務めていたことがきっかけでバンドに招かれた。オーソドックスなR&B〜ファンクだけでなく、スヌープ・ドッグなど西海岸ヒップホップのアルバムでも多くの演奏を残している音楽性の広さがプリンスのお眼鏡にかなったのだろう。
『プリンス 1958-2016』によると、ほかのメンバーよりかなり年上だった彼は、よくからかわれていたという。だがある日、リハーサル中にある若手メンバーが、年齢のことでゴーチをからかうと、プリンスが『ぼくなんかゴーチよりひとつ年上なんだぞ』と叱ったことがあったそうだ。自分の年齢を決してネタにはしなかっただろうプリンスが、タブーを犯して(?)までも守りたかった才人、それがゴーチなのだ。
▲Prince & The New Power Generation Perform 'Mutiny'
ゴーチと並んで、『プリンス 1958-2016』内で証言をしている来日メンバーが、サックス奏者のマーカス・アンダーソンだ。2012年にバンドに加入した彼は、ゴーチとは逆にプリンスから叱られた思い出を話している。プリンスはセッションの合間に、メンバーに『お気に入りのサックス・プレイヤーは誰?』というような質問をよくしていたそうだが、ある日メンバーのひとりから自分の名前を挙げられて、照れ笑いしてしまったことがあったそうだ。するとプリンスが『何がそんなにおかしいんだ、マーカス?』と割り込んできて、こう怒ったそうだ。
『ぼくの好きなギタリストはぼくだ。好きなキーボードプレイヤーはぼくだ。好きなドラマーもぼくなんだ。ぼくは音楽がどんなふうに聴こえるべきか、頭の中でわかっている。ぼくはぼくのような音を出したい。自分こそが自分のお気に入りのミュージシャンにならなきゃなんないんだよ』
▲Prince & the New Power Generation - Gett Off live at the 1991 MTV VMA
この体験がきっかけで、アンダーソンは自分の奏でる音を大切に出来るようになったと語っている。プリンスがアンダーソンの才能を高く評価していたことは、生前最後のアルバム『HITNRUN Phase Two』の収録曲『Look at Me, Look at U』と『2Y2D』のホーン・メロディー作りを委ねたことでも証明されている。今回の来日には、同作でアンダーソンとともにホーン・セクションを務めたリン・グリセット(トランペット)、エイドリアン・クラッチフィールド(サックス)ジョーイ・ライフィールド(トロンボーン)、バーナード・ジャクソン(バリトン・サックス)も同行するため、あのアルバムで聴けるジャジーでファンキーなプレイがたっぷり聴けるはずだ。
そのほかの来日メンバーも豪華だ。ドラマーは90年代全般に渡ってプリンス作品を支えたカーク・ジョンソン、キーボード兼ヴォーカルは、2007年から13年までバンドに在籍したほか、シーラ・E.やロンダ・ スミスといったプリンスゆかりの女性ミュージシャンとC.O.E.D(クロニクルズ・オブ・エヴリ・ディーヴァ)というユニットでも活躍、またソロ・アルバムも多数発表しているカサンドラ・オニール、そしてギター兼ヴォーカルとして、キャッシュマネーをはじめとする南部産ヒップホップでのプレイで知られるリッキー・マルセルが参加する。
プリンスを敬愛し、彼の音楽の良き理解者でもあったプレイヤーたちが奏でるサウンドによって紫色に染まった空間で過ごす体験は、プリンスの熱心なファンだけでなく全てのポップ・ミュージック・ファンにとっても至福の時となることだろう。
長谷川町蔵が選ぶプリンス15曲!
現地時間2017年2月12日に開催された【第59回グラミー賞授賞式】に合わせApple MusicやSpotifyなどの主要ストリーミング・サービスで解禁となったプリンス楽曲。これを記念して、長谷川町蔵氏にこの特集記事に合わせたプリンス楽曲を15曲選んでもらった。ストリーミング解禁から約1週間経った時点での再生回数の結果は、1位「パープル・レイン」(764,000回)、2位「レッツ・ゴー・クレイジー」(732,000回)、3位「ビートに抱かれて/When Doves Cry」(695,000回)と発表されたが、長谷川氏はどの曲を選曲したのだろうか?
来月、ビルボードライブでの公演を控えるザ・ニューパワー・ジェネレーションや、【第59回グラミー賞授賞式】でブルーノ・マーズと圧巻のパフォーマンスを魅せたザ・タイム、更にはザ・レヴォリューションなど、プリンス・トリビュート公演に向けたプレイリストとなっているので、ぜひ下記よりチェックを。
<プレイリストについてのコメント>
「このプレイリストは、ロックを取り入れたり、リズム面で実験していた革命児が、コクのあるソウル・ミュージックに回帰していった歴史を追ってみたという感じです。もっともパープル・レインの頃からゴスペル的な要素も実は非常に強く、歳を重ねてそれが露わになっていただけのような気もしますので、パープル・レインの曲で最初と最後をサンドイッチしてみました。」ーー長谷川町蔵
リリース情報
『プリンス 1958-2016』
- モビーン・アザール / 著
- 長谷川 町蔵 / 監修
- 五十嵐 涼子 / 訳
- 2016/11/25 RELEASE
- [ISBN:978-4-907435-88-2 / 2,800円 (tax out.)]
- 出版社:スペースシャワーネットワーク
- ⇒詳細・購入はこちらから
公演情報
ザ・ニュー・パワー・ジェネレーション tribute to プリンス
ビルボードライブ大阪2017年3月29日(水)
⇒詳細はこちら
ビルボードライブ東京
2017年3月31日(金)~4月2日(日)
⇒詳細はこちら
BAND MEMBERS
アンドリュー・ゴーチ / Andrew Gouche (Musical Director, Bass & Vocals)
ゴードン・キャンベル / Gorden Campbell (Drums)
カサンドラ・オニール / Cassandra O'Neal(Keyboards & Vocals)
リック・マーセル / Rick Marcel (Lead Guitar & Vocals)
マルクス・アンダーソン / Marcus Anderson (Sax & Vocals)
リン・グリセット / Lynn Grissett (Trumpet)
エイドリアン・クラッチフィールド / Adrian Crutchfield (Sax & Vocals)
ジョーイ・レイフィールド / Joey Rayfield (Trombone)
バーナード・"BK"・ジャクソン / Bernard "BK" Jackson (Baritone Sax & Vocals)
※当初予定しておりましたカーク・ジョンソン(Dr.)が出演キャンセルとなり、ゴードン・キャンベル(Dr.)に変更となりました。
Text: 長谷川 町蔵
4EVER
2016/11/25 RELEASE
WPCR-17586/7 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.1999
- 02.リトル・レッド・コルヴェット (初CD化ヴァージョン)
- 03.ビートに抱かれて
- 04.レッツ・ゴー・クレイジー (初CD化ヴァージョン)
- 05.ラズベリー・ベレー
- 06.ウォナ・ビー・ユア・ラヴァー
- 07.ソフト・アンド・ウェット
- 08.つれない仕打ち
- 09.アップタウン
- 10.君を忘れない
- 11.ヘッド
- 12.ガッタ・ストップ
- 13.戦慄の貴公子
- 14.レッツ・ワーク (初CD化ヴァージョン)
- 15.デリリアス
- 16.ダイ・フォー・ユー
- 17.テイク・ミー・ウィズ・ユー (初CD化ヴァージョン)
- 18.ペイズリー・パーク
- 19.ポップ・ライフ
- 20.パープル・レイン
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