Special
DIMENSION『29』勝田一樹単独インタビュー
日本を代表するグループにして来年活動25周年を迎えるDIMENSIONが、またしても最上級のインストゥルメンタルミュージックを詰め込んだニューアルバム『29』を完成させた。
オリジナルアルバムとしてはタイトル通り29作目となる本作でも、緻密に構成された珠玉のサウンドレイヤーや耳に残る美しいメロディラインをたん能できる、圧巻の音像を展開している彼ら。Billboard JAPANでは夏にもソロ作のインタビューで登場した勝田一樹(sax)を招き、近年の活動から11月3日よりスタートするツアーについてまで、広く質門に答えてもらった。
韓国のジャズフェス出演「『冬ソナ』で使われた曲をやったらもの凄いリアクション」
--7月にコットンクラブで行なった勝田さんのソロ・ライブを観させていただいたのですが、サウンドも然ることながら会場やステージの雰囲気にとても感動しました。緊張感のある演奏とフランクなMCのバランスが気持ちよくて。
勝田一樹:ある時、ニューヨークのブルーノートの近くに泊まっていたからフラッと観に行ったら、現地のミュージシャンもMCで笑いを取っているのが印象的で。。もちろんそうじゃない人もいると思うけど、けっこうみんなそれなりにフランクにMCしているみたいです。それ以上面白おかしく風呂敷を広げるほどの力はないけど。--インスト・ミュージックのライブは敷居が高いと思われがちですが、お客さんも自由に楽しめる空間になっていたのが印象的でした。
勝田一樹:その話は良く聞きます。毎会場サイン会は必ずやるんですが、見にきた方から「最初から最後まで何もしゃべらずハイ終わりですっていうライブよりも面白かったです、また来ます!」と良く言われます。海外でたくさん活動したわけじゃないからそんなに比較できないけど、向こうはライブ・ショーが始まっても酒飲みながら話を続行してたりと、お客さんがけっこう勝手にやってますよね。僕だって好きなミュージシャンが来たら観るからには良い席取って、お酒も頼んでおつまみも並べて華やいだテーブルを作って、楽しくおしゃべりしながらお酒飲んじゃうからもしかしたらそんなにステージを観てないかもしれません(笑)。その雰囲気が楽しいわけで、もちろんしっかり観たい音楽ファンもいるから、それぞれだとは思いますけど。
▲韓国のジャズフェス【VOYAGE to Jarasum 2016】の模様
確かにキース・ジャレットなんかは客席がざわついてたりすると、イラッとしてステージを降りちゃったりするらしいです(笑)。DIMENSIONのライブでもお酒を飲みすぎちゃったのか、ぐじゃぐじゃになってる人とかたまにいます。ひっくり返っちゃって店の人間に抱えられて退場してたりすると、この人はそんなに楽しかったのか、ただ酒を飲みに来ただけなのか……(笑)。
--また、先日はDIMENSIONとして韓国のジャズフェスにも出演されたそうですね。
勝田一樹:イベントのトリがスタンリー・クラーク・バンドで、1万人くらい入る野外の会場でした。おかげさまでDIMENSIONも盛り上がり、会場でサイン会もやってお客さんもたくさん並んでくれました。こんなに反応が良くて人気があるんだったら、何で韓国でもっと売れないのか……(笑)。かつて『冬のソナタ』っていうドラマの中でDIMENSIONの「If」(アルバム『IF』収録)って曲が使われていたから、フェスでやってみたらもの凄いリアクションでした。去年はデイヴィッド・サンボーンも出てたみたいです。韓国で人気のアーティストもたくさん出ていて、イベントとしてはなかなか良かったと思います。来年25周年、行きたい世界に行けてる
--そして来年でDIMENSIONが結成25周年という大きな節目を迎える中、10月26日にニューアルバム『29』をリリースしました。1stアルバムからカウントしてきたDIMENSIONですが、活動周年を越える数字が付いていることはやっぱり驚きです。
勝田一樹:年に3枚くらい出したこともあったし、ライブ盤なんかも挟んだこともありました。ベスト盤等もいれると32~3はいってる気がします(笑)。--各々がソロ活動や他のアーティストへのサポートなども積極的に行っているDIMENSIONが、25年間ほとんど大きな休みもなくコンスタントに活動を続けてこられたのは凄いことだと思います。
勝田一樹:振り返ればそうかもしれません。でも、僕たちよりもっと枚数出しているバンドもたくさんいますので、頑張りたいです。これだけ継続していることは意外と珍しいのかもしれないけど、3人のメンバー変わらず25年ずっとやれていることはありがたいことかもしれません。--第一線で活躍しているメンバーが不動で25年間活動し続けてきているバンドとなると、さらに珍しいと思います。
勝田一樹:もちろん25年の間、常に同じような精神状態だったり、人間関係だったりが続いているわけじゃないですし、それでも続いてきたのは、この3人でやることによってそれぞれ個人がやりたいサウンドで、行きたい世界に行けてるからだと思います。DIMENSIONを続けることによって、各個人が行きたい世界に行けている結果だと思います。- 何のフィルターも通さず、3人で集まって何も足さず引かずで表現する
- Next >
リリース情報
関連リンク
Interviewer:杉岡祐樹
何のフィルターも通さず、3人で集まって何も足さず引かずで表現する
--DIMENSIONはお三方はそれぞれに卓越した演奏家であるがゆえ、誰かが出ているパートの時は他の2人が支える側に回ることになります。その感覚というのは経験によってより当意即妙になっていく?
勝田一樹:要はそういうことだと思います。初期段階の頃は人間関係からしてそうだったし、アルバムを作るにしてもそのノウハウを、他のメンバーの方が持っていたので、だから最初の頃の作品はSAX以外のパートが多かったりしたのかもしれません。「次はもっと自分が参加して行こう」ってなって2枚目以降は自然とSAX主体の曲が増えて行きました。--ただ、そういう経験がないと今の形にはならないということですよね。
勝田一樹:学生の頃から一緒にアマチュア・バンドをやっていて、レコード会社と契約できて今も続いている、っていうのとは違うからね。でも、長くやっているからこそ「メロディは勝田にやってもらうのが一番良い」となり、僕としてもハードなロックテイストは増崎さんに任せないと話にならない、ジャズ的アプローチはやっぱり小野塚さんに敵わないとか、それぞれが信頼しているというか得意な分野がわかってきます。それぞれに切磋琢磨しているミュージシャンなので、ソロパートに関しても気兼ねなくフィーチャーできる。それがDIMENSIONのサウンドなので、得意分野に何のフィルターも通さず、3人で集まって何も足さず引かずで表現出来ればと思っています。--では、ご自身名義のソロ作を経たことで変化した部分などは?
勝田一樹:強いて言えば、やっぱり弾くべき所を明確に分けられるようになったというか、分けたくなりました。勝田一樹名義でソロ作を出すまでは、もっとでしゃばっていたかもしれません。「ここはギターで成立しているから、これ以上音を増やす必要ないかも」とか、前作辺りから出てきたかもしれないません。だからこそ、トータル・サウンドとしての緩急はより付いたかもしれないし、それが基でサウンドがシンプルになり、メロディを壊さずに曲に緊張感を持たせるようなやり方は、何となく構築されたんじゃないかなと思います。“必要最小限で最大限” 聴かせたいものを純粋に出した方が良い
--3曲目「Timeline」で、徐々に音を重ねて厚みを作っていきながら、ギターソロの瞬間にスッと引いて際立たせていく展開は見事だと感じました。
勝田一樹:ソリストの後ろで必要以上のことをやる必要はないのかと思います。聴かせたいものを純粋に出した方が良いっていう、シンプルな考えです。音色的にもね、それぞれやるべき役割がかなり明確になってきました。“エレクトリックなサウンド”ってイメージがDIMENSIONにはあるけど、キーボード・ソロは基本的にピアノだったりするでしょ? でも古臭く聴こえるわけじゃないし、小野塚晃の一番の得意技がそこなんだと思います。増崎さんが無理にジャズ・ギターみたいなことをやって、ビバップ・フレーズを弾く必要はなくて、ジャズっぽい曲であったとしても、普段通りのテイストでやってくださいと。--豪華なサウンドに対して、演奏陣は必要最低限の人数なんですよね。
勝田一樹:DIMENSIONは昔からそうなんですが、そんなに音数は多くないんです。よくあるフレーズかもしれないけど“必要最小限で最大限”っていう、一個一個の音の強さ、音が持っている力を最大限にしてバランスを取りたいっていう意識は、ソロを作ってからより思うようになったと思います。--しかも、音を強くするためにこれみよがしなテクニックをひけらかすわけでもない。
勝田一樹:どこに何の音を入れるべきかを常に意識しています。大きい音でドカドカやるだけじゃなくて、小さい音でも入れるべき所にあれば聴こえてくるし、力のある音になる……。そんな風になっていればいいけどね(笑)。--5曲目「3 Focus」などはその極みだと思ったのですが。
勝田一樹:あれはDIMENSION 25年の歴史の中で培った、らしいといえばらしい1曲ですね。ひとつの個性が成立しているグループであれば、大枠でこのサウンドっていうのが常に展開されている方が俺は好きかな。「昔は良かったけど、ここ最近はキャラが変わっちゃったよね」なんて話は良く出るけど、それはなんか寂しくないですか? DIMENSIONではそうしたくないし、他にやりたいことがあったらソロの方でやればいいし。--ソロがあることでDIMENSIONの純度がより高められる?
勝田一樹:そうですね。ソロは本当に僕の個人的な主観が一番出ているけど、DIMENSIONは個人的主観が出過ぎてしまっても面白くない。僕からすればサキソフォンを通しての主観がもの凄くあるけど、トータル・サウンドとしてそれだけで支配しない方がいいと思っています。両サイドにさらに有能なミュージシャンがいるわけだから、彼らと相まってひとつのサウンドを作った方が、DIMENSIONとしての価値が出ると思っています。--そういう所は制作過程でどなたかがタクトを握ってバランスを取っていくのでしょうか?
勝田一樹:特に誰がというのはありません。曲を作るのは僕と増崎さんが半分ずつで、小野塚さんがサウンド・プロデュースやアレンジメントを担当する。……だから小野塚さんが一番面倒なんだろうけど(笑)、曲の根幹を持ってきた人間が全体に指示を出して、小野塚さんがアレンジしたものに対して、さらに楽器のアプローチを探っていってと、作曲者それぞれがやる感じです。リリース情報
関連リンク
Interviewer:杉岡祐樹
作っている時は演奏が大変になることをイメージしてない
--制作過程で一番苦しい所はどこなのでしょうか。
勝田一樹:かっこいいと思えるような素材やニュアンスが出てくるまでに時間がかかります。コード進行を決めて何となくメロディもあって、リズムパターンも大体こんな感じで……って所から小野塚さんがプログラミングしていくんだけど、自分がどうしたかったのかを伝えきれない時とか……。考えていることと出ていく音が必ず一致しているわけじゃないですし、しかも、自分がサウンドの主導権を握っている楽曲に関しては自分の判断になるので、ボツにして違う曲に移るべきか、どこかを変えればよくなるのか色々考えます。今回のアルバムで言うと1曲目「The Road To Peace」のイントロなんかものすごく時間がかかりました。ずーっとかっこよくならなくて、「どうしたいわけ?」「どうしたいかを探してるんだけどさぁ~……」なんてことが続いていくんだけど、ある音をポンッて入れてみたら「それそれそれ!」ってね(笑)。それが見つからないまま作品になっていることは1曲も無いので、そういう10曲が揃っているのが『29』です。自分の想像と違っても、より良いと思えればそっちで良いしね。
--2曲目「Night Bird」で、キーボードとのユニゾンからハイトーンで突き抜けるサックスの気持ちよさはしびれるものがありました。
勝田一樹:あそこは、ここ最近のDIMENSIONっぽいかなって思います。ただ、制作過程では「これができるからこのパートを作ろう」というのではありません。最初はコード進行やキメの部分は全然違ったんだけど、小野塚さんと試行錯誤しながら色んなフレーズを弾いたりして何となく出来ていきました。で、その日の作業が終わって、その後にギターが入り、ピアノが入り、サックスも本チャンを録っていく中で初めて演奏をしてみると、息継ぎする場所が無ければ音域も高くて運指が届かないという。。(笑)そこからなんですよ。作っている時は演奏が大変になることをイメージしてないから、実際に演奏できるように練習していかなければいけない。リスナー気分で作ってるんですね、「これくらいのことをやらないと、いまさら面白くないでしょ?」みたいな。
--最初にサラッと聴いた時は「おー、かっこいい!」くらいに思ってたんですけど、よくよく聴いてみると凄味に気づいて鳥肌が立つというか、ライブで目の当たりにしたら感動して泣くと思いました。
勝田一樹:いや、たぶん笑うと思いますよ、僕が間違えまくるので(笑)。ツアーでは、約1か月の中で段々上手になっていく3人が観られる
--7曲目「The Second Place」も、3人の音が一斉になるド派手なオープニングから増崎さんのクールなソロパートに連なる展開は絶妙です。この差し引きも今のDIMENSIONだからできる音ですよね。
勝田一樹:そうですね。これは増崎さんが作った曲なんだけど、それぞれに個性がわかっていて、「勝田がソロではこんな感じにするだろうから、速弾きにしないでこういうスタイルにしよう」と思ったかもしれないしね。そういうのを踏まえて、僕がいつも通りちょっと派手にやればちょうどいいかな、とか。--だから前作と較べて大きく何かが変化したわけではないのですが、2016年のDIMENSIONが凝縮されたという意味で凄い作品だと思います。8曲目「Hope」は今作で唯一のバラードですが、ある意味この曲のみ緊張感なく聴けるという言い方もできるくらいに。
勝田一樹:メロディックないわゆるバラードだよね。こういうのもDIMENSIONの個性のひとつかもしれませんね。歌に徹するというかギターとキーボード、ピアノはバッキングに徹してもらって、ギターソロは入ってるけれども基本的にはサックスに任せている。それが25年やってきた積み重ねかもしれません。たとえば10年前にこれを作っていたら、もっとガチャガチャしてたと思います(笑)。--パッと聴きの上品な耳触りと、聴き込んだ時に気づくお三方の青い炎のようなプレイヤビリティが詰め込まれた作品だったことが感動でした。
勝田一樹:今回は、メロディアスとは言わないまでも割とポップな作品だとは思っています。前々作くらいの方が、もうちょっとメカニカルだったかもしれません。--でも、『29』も凄かったですよ。ライブでどう表現されるのかがとても楽しみです。
勝田一樹:……巧く演奏できればね(笑)。これからが大変なんです(笑)。これから練習してしっかりやらないとね。レコーディングで作ったものをライブでよりよく表現できるようにアレンジしていく部分もあるので、そこをライブならではの楽しみとして来てもらえればなと思います。11月3日からスタートして12月4日まで、約1か月の中で段々上手になっていく3人が観られると思います(笑)。■ツアーインフォメーション■
◎ツアー【Live Dimensional-2016~29~】
11月3日(木・祝)広島Live Juke
11月4日(金)兵庫 神戸チキンジョージ
11月5日(土)福岡ゲイツ7
11月6日(日)岡山ブルーブルース
11月11日(金)愛知 名古屋ボトムライン
11月12日(土)、13日(日)京都ラグ
11月19日(土)新潟ジョイアミーア
11月23日(水・祝)宮城 仙台enn2
11月25日(金)、27日(日)神奈川 モーションブルー横浜
12月4日(日)北海道 札幌キューブガーデン
[メンバー]
11月3~6日:増崎孝司(g)、勝田一樹(sax)、小野塚晃(key)、川崎哲平(b)、山本真央樹(dr)
11月11日~12月4日:増崎孝司(g)、勝田一樹(sax)、小野塚晃(key)、川崎哲平(b)、則竹裕之(dr)
リリース情報
関連リンク
Interviewer:杉岡祐樹
関連商品