Special
京都岡崎音楽祭【OKAZAKI LOOPS】ライブ&フォト・レポート
今年初開催となった京都岡崎音楽祭【OKAZAKI LOOPS】。歴史と伝統だけではない、革新的な一面を持つ京都の魅力を発信すべく音楽、アート、ダンス、工芸などジャンルを越えたフェスティバルが9月3、4日の二日間にわたって京都・岡崎エリアにて開催された。本フェスのディレクターを務めたのは首藤康之(ダンス)、高木正勝(音楽)、名和晃平(美術)、広上淳一(クラシック音楽)、細尾真孝(伝統工芸)の5名。ディレクターらの共演や、制作秘話を聞くことができるディレクターズトークなど多彩なプログラムが岡崎の街を彩った。
2016年9月2日(金)
OKAZAKI LOOPS前夜祭
【SYMPHONIC EVOLUTION SPECIAL YEN TOWN BAND ORCHESTRA】
今年から始まる岡崎音楽祭【OKAZAKI LOOPS】の前夜祭に、YEN TOWN BAND ORCHESTRAが登場した。前半は、京都市交響楽団のストリングスと、YEN TOWN BANDのコラボレーション。Charaが登場すると場内には大きな拍手が湧き、「Mama’s Alright」で幕開けした。普段のYEN TOWN BANDにストリングスが加わることで音に厚みが加わり、Charaの個性豊かな歌声が織り交ぜられていく。そして2曲目の「She don’t care」が終わったところで、小林武史が挨拶し本フェスの紹介を行った。前半の最後は、新曲「my town」。照明の効果も相まって、まるで劇中のライブハウスに入り込んだかのような一体感で幕を閉じた。後半は大きくステージが転換され、フルオーケストラとグランドピアノがスタンバイ。ピアノを演奏しながら小林がSalyuを呼び込み「アイニユケル」、「to U」、「ライトハウス」を立て続けに披露し、Salyuの伸びやかな歌声を、京都市交響楽団とピアノの音色が優しく包み込んだ。続いて「日々是好日」の前奏とともに満面の笑みを浮かべた藤巻亮太が登場。「朝から、岡崎エリアの美術館を散策し、岡崎のエネルギーをいっぱいチャージしてきました!」と挨拶し、レミオロメン時代の代表曲「3月9日」を壮大に歌い上げ会場を盛り上げた。そして、最後は再びCharaとギターのなおしゆきおが登場。映画『スワロウテイル』で最も重要な曲として登場するシナトラの「マイウェイ」や主題歌「アイノウタ」などを歌い上げた。YEN TOWN BAND,Salyu、藤巻亮太、京都市交響楽団の様々な組み合わせによって多彩な音色を繰り広げた前夜祭。これからスタートするアートのコラボレーションへの期待を高めさせてくれるようなステージだった。
出演 YEN TOWN BAND (CHARA、小林武史、名越由貴夫、他)、Salyu、藤巻亮太、京都市交響楽団(管弦楽)、広上淳一(指揮)
2016年9月3日(土)
【LOOPSオープニングセレモニー+特別プログラム】
オープニングセレモニーでは、本フェスティバルのディレクターを務める首藤康之と細尾真孝のコラボレーションが行われた。まず、細尾が登場し本フェスについて「岡崎を中心に伝統工芸とアートがコラボレーションする新しい音楽祭が始まります」と挨拶。そして、これから始まるオープニングプログラムについて、美しさを追求するという意味で共通する西陣織とダンスのコラボレーションという新しい挑戦だと述べた。場内が暗転しステージの幕が上がると、今回の公演のために制作された長さ15mにもおよぶ西陣織が登場。そして、その西陣織を纏った首藤康之が、新作「BROCARE」を披露した。ダンスに合わせて西陣織は複雑に色を変え、首藤も巨大な西陣織に負けない存在感で客席を圧倒した。続いて、ピアニストの福間洸太郎も加わり、「Prelude for Didi&Gogo」、「Scriabin’s Etude」、「GLASS」の3作を披露。最後に、背景の巨大な西陣織がステージ上に落下する演出には、思わず客席からも息をのむ声が。まさに、ダンスと西陣織という、2つの芸術のコラボレーションが時空を越えた瞬間だった。
出演 首藤康之、中村恩恵、宝満直也、五月女遥、福間洸太朗
美術 細尾真孝
構成・演出 中村恩恵
【ALMA MUSIC BOX:死にゆく星の旋律コンサートwith 京都市交響楽団】
星から届く信号をオルゴール盤に置き換え、そのメロディを使って国内外のアーティスト11人が楽曲を制作したアルバム『Music for a Dying Star - ALMA MUSIC BOX x 11 artists』。本作と、京都市交響楽団とのコラボレーション公演が9月3、4日の両日開催された。ほぼアルバムと同じ順で作曲者が舞台中央に登場し、指揮の広上淳一、京都市交響楽団とともに披露していくという贅沢なプログラム。オーケストラの背後には、作品名とともにアルマが捉えた星の写真などが映し出された。2人目に登場したmito(クラムボン)は本公演のために詞をつけ、ゲストヴォーカルにAimerを迎えて登場。Aimerのハスキーな歌声は、まるで宇宙を漂う星の声のように会場を満たした。「ちょうこくしつ座R星」という1つの星をテーマに、10人の作曲家によって生み出された曲はどれも多彩で、コンサートというより五感で感じる新たなプラネタリウム体験のよう。それぞれの曲を通じて、人間の想像力の幅広さと、そんな想像力を強く掻き立てる星の偉大さを感じたステージだった。
出演 広上淳一(指揮)、京都市交響楽団(管弦楽)、伊藤ゴロー、クリスチャン・フェネス、さとうじゅんこ(滞空時間)、澤井妙治+細井美裕、スティーヴ・ジャンセン、 Throwing a Spoon(トウヤマタケオ×徳澤青弦)、蓮沼執太、mito(クラムボン)、湯川潮音
ゲストヴォーカル Aimer
【LOOPS READING THEATER】
大吉洋平&藤林温子(MBSアナウンサー)、澤武博之&遠藤奈美(KBSアナウンサー)、佐藤弘樹&川原ちかよ(エフエム京都DJ)の3組が音楽にまつわる朗読劇を行うという無料イベント「READING THEATER」が、岡崎公園を中心に行われた。大きな特徴は出演者によって朗読劇の会場が異なること。一つの演目が終わる度に、京都府立図書館、岡崎公園、平安神宮と移動することによって、観客の中に不思議な一体感が生まれ、さらに偶然居合わせた人も加わることで、少しずつ観客が増えていくという体験型プログラムだ。ストーリーは、出会ったばかりの男女、付き合いたての男女、そして長い結婚生活を経た夫婦と、異なる年代の男女による恋愛物語。劇中には近隣の施設名が登場し、実際にその建物を見ながら朗読を聞くことによって、まるで実在のカップルの会話を思いがけず聞いてしまったかのようなスリリングさも感じられた。少しずつ暮れてゆく秋空と、3組の男女の時間の流れがリンクし、空の色、風の音、虫の音とともに、まさに一夜限りの舞台が繰り広げられた。
出演 大吉洋平×藤林温子(MBSアナウンサー)、澤武博之×遠藤奈美(KBSアナウンサー)、佐藤弘樹×川原ちかよ(エフエム京都DJ)フィリップ・エマール(パフォーマー)
演出 小栗了
【高木正勝「大山咲み」】
本フェスティバルのディレクターを務める高木正勝。9月3日、ロームシアター京都メインホールの最終ステージでは、高木のコンサートシリーズ“山咲み”のスペシャルバージョンが行われた。会場に足を踏み入れると、ステージには竹が飾られ、どこからともなく鳥の鳴き声や川の流れる音が聞こえてくる。幕が開けてからの照明も、不規則に瞬いたり一番星のように光輝いたりと野外ライブに来たようだ。2013年に兵庫県内の山間に移住した高木は「3年間で村から頂いたことを、ここで返せたら」と挨拶。高木のピアノと歌に、アイヌ歌唱や、和太鼓、ブズーキなど様々な楽器のほかダンスや紙芝居などが加わり唯一無二の世界が繰り広げられた。高木は終始、客席の家族に声を掛けたり、村から公演を観に来てくれた友人に手を振ったりとリラックスした雰囲気で、観客も高木の村のお祭りに招かれたかのよう。公演の最後には、ステージで高木が口にした「受け継ぐ」という言葉の通り、村の景色や住人の笑顔が映し出され、自然の恵みの豊かさや、人と人との温かさ、そして多幸感が場内を埋め尽くした。
出演 高木正勝(ピアノ、うた)、床 絵美(ウポポ、うた)、郷右近富貴子(ウポポ、うた)、熊澤洋子(ヴァイオリン)、菊池幹代(ヴィオラ) 、法橋泰子(ヴィオラ)、きしもとタロー(笛、ブズーキ)、前田剛史(太鼓、鳴り物)、佐藤直子(パーカッション)、 山田あずさ(マリンバ、ヴィブラフォン)、沢田穣治(コントラバス)、伊豆牧子(踊り)、富木えり花(踊り)、東野健一(紙芝居)、相良育弥(茅葺)
2016年9月4日(日)
【ミルフォード・グレイヴス&土取利行パーカッションデュオ『宇宙律動』】
現代最強のドラマー・ミルフォード・グレイヴスと、フリージャズや民族音楽などジャンルを越えて活躍するパーカッショニスト土取利行のセッションが開催された。2組のドラムセットとパーカッションが鎮座する中、まずグレイヴスが登場。ゆったりとした動きでスティックを準備しているところへ、土取が現れ、登場するやいなやセッションがスタートした。魂がぶつかり合うような二人のセッションに、ロームシアターの後方に座っていても音の振動で内蔵が揺さぶられる。フリージャズに対する持論を述べながらセッションを続けるグレイヴス。最後には、杖を取り出し土取とともに、客席を歌い歩き、スタンディングオベーションで幕を閉じた。
出演 ミルフォード・グレイヴス(ドラムス&パーカッション) 、土取利行(ドラムス&パーカッション)
【VESSEL】
本フェスティバルのディレクター名和晃平と、ベルギーを代表する振付家ダミアン・ジャレのコラボレーション「VESSEL」が9月3、4日の両日行われた。両者は2015年5月より、フランス政府が運営するアーティストレジデンス施設で、共に創作活動をスタート。重力、液体、トランスフォーム、メタモルフォーゼなどをテーマに様々な実験を続け、その結果生まれた「VESSEL」は2015年大阪クリエイティブセンターにて初演された。開演時間になると場内は真っ暗に。少しずつ浮かび上がる白い塊、筋肉の塊、そして水を弾く音と原摩利彦による音楽が会場を満たす。まるでダンスを見ているというより、会場全体が1つのインスタレーションになったかのようだ。出演者は、それぞれに匿名性を与えるため、舞台上では常にヘッドレスという頭部を見せない特徴的なポーズを取り性別すら分からない。徹底的に顔を見せず動き続ける7人のダンサーたち。鍛え上げられたその肉体は、人間というよりも名和が作り上げた彫刻なのかもしれないと思うほど美しかった。そして予測不能のステージは、意外な締めくくり方によって、約1時間の幕を閉じた。本公演は10月に瀬戸内芸術祭、2017年1月には横浜ダンスコレクションにて上演が予定されている。
出演 森山未來、エミリオス・アラポグル、浅井信好、森井淳、皆川まゆむ、三東瑠璃、戸沢直子
振付 ダミアン・ジャレ
舞台美術 名和晃平
音楽 原摩利彦
【大橋トリオ】
9月3、4日と様々なアーティストが熱演を繰り広げたロームシアター京都のメインホール。最終公演は、大橋トリオが登場した。まず、オープニングアクトとして信近エリが登場。ストリングスを従えながら、「Mr.Lonely」、「君の声を」など4曲を伸びやかに歌い上げた。そして、休憩が終わると本フェスティバルのディレクター細尾真孝が手がけた「tango tango」の衣装を身に付け、大橋トリオが登場。一曲目「トリドリ」からスタートした。「京都でこんなに大きいところでライブをしたのは初めて。このフェスに呼んでもらえたおかげ」と言いつつも、曲の間には客席に背を向けてズボンの紐を調整したり、客席にピースをしたりと、いつもと変わらない大橋節で、客席との距離を縮めていく。そして「月の裏の鏡」や「赤いフィグ」など新旧織り交ぜたセットリストで、客席を沸かせた。アンコールは、「8年前に、友達とのパーディーが楽しすぎて興奮冷めやらないまま作った」という「Happy trail」。祭りの終わりの寂しさを感じさせない幸せなコードで会場を包み、幕を閉じた。
その他、真鍋大度と徳井直生が、人工知能を使って選曲するアルゴリズムDJイベント【2045】や、蓮沼執太がクリスチャン・フェネス、澤井妙治、徳澤青弦とともに新たな音響空間を作り上げる【OKAZAKI AMBIENT】など、11の有料公演とディレクターズトーク、ワークショップなど様々なイベントが行われた2日間。ロームシアターのロビーでは【「音」をとらえる】と題した無料の展示会も行われ、evalaの「hearing things #Metronome」は連日、予約がいっぱいになるほどの盛況ぶりを見せた。第二回は、どんなコラボレーションが見られるのか。今から楽しみに待ちたい。
関連商品