Special
毛皮のマリーズ 『THE END』インタビュー
“そういうトコ、音楽って残酷ですよ”
毛皮のマリーズが約8か月という短いスパンで完成させたニューアルバムは、タイトルのみならず歌詞やジャケットなど、殆どの情報を発売日まで何処にも解禁しません。ですので取材時、インタビュアーは音源のみを聴き、質問を考えなければいけない。よって現在、音楽専門誌や情報サイトに載っている記事を読むと、どれも違った角度からの質問になってて、読み比べが面白い! できれば皆さんも、是非読み比べて欲しいと思い、以下に確認できる音楽情報サイトのインタビューをリストアップしてみました。……という訳で今回も、志磨遼平(vo)の単独インタビューです!
順風満帆ならば、そのタイトルで良かったかも
--まず今回、新作の情報の殆どを公開しないことで、各情報メディアがそれぞれに推測や憶測から取材やインタビューをしているという状況が面白いと思いました。そうした反応を狙ったところもありますか?
志磨遼平:いや、もうちょっと純粋に「隠したろ!」っていう感じでやっていて。まあ、こういう企みが好きなので、後付けで謎のカウントダウンを始めちゃったりとか(笑)。ただ、今回はタイトルとか歌詞、アートワーク、本来なら曲も含めて、いっぺんにまとめて見て頂けたら本望なんですよ。曲は既に聴かれましたよね?
--サンプル盤を聴かせて頂きました。
志磨:だから、それはちょっと勿体無い状態なんですよね、普通のお客さんより。全部を含めての作品集っていうイメージがあるので、隠しているというよりは、(届けるタイミングを)揃えたいって感じですね。
基本的にバンド好きって、そういうところもあるじゃないですか。伝説みたいなエピソードも含めてというか、例えば(セックス・)ピストルズだって、色んなエクスキューズをまとってのピストルズ、ロックンロール・スウィンドルじゃないですか。そういう美学はあるので、純粋っていっても僕は何かを企んでいますよ。純粋ではないです、フフフ(笑)。
--企みも含めて、純粋なロックンロールってことですよね。
志磨:そそそ。そういうことです。
--ですので今回は自分も企みに乗って、盤を聴いて感じた推測をぶつけていこうと思います。
志磨:ぜひぜひ。
--まず、現在発表されているタイトル『毛皮のマリーズのハロー!ロンドン(仮)』ですが、先のサンプル盤を初めて聴いた後に、(仮)も含めた“毛皮のマリーズのハロー!ロンドン(仮)”が正式タイトルだ思ったんですよ。でも、とあるラジオ番組で、志磨さんは仮タイトルだと言い切ってまして(笑)。
志磨:そうそう、本当に仮タイトルです。
--で、何故そう思ったというと、“本来であれば、こういうタイトルになる可能性もあった作品”ということを示すタイトルだと感じたからなんです。
志磨:おー! なるほどね。それはもしかすると、鋭いご質問かもしれませんね。……うん、じゃあ僕も何処までそれに乗ろうかな? 「ワーイ♪」って記事になるのと、「ゥウヴヴ……」って記事になるの、どっちがいいですか?
--「ゥヴヴヴ……」でお願いします(笑)。
志磨:では、そっちでいきましょう。……もし、僕たちが順風満帆ならば、そのタイトルで良かったかもしれませんね。
--ということは、順風満帆ではなかった?
志磨:今年の1月に出した『ティン・パン・アレイ』は、作詞作曲以外にも編曲から幾つかの楽器までを僕が担当して、後はメンバーではないサポートミュージシャンの方々に頼って作った独り善がりの作品でした。そして、例えばうちらのヒストリーとかディスコグラフィーとか、“2011年の日本のロックに置ける”みたいな軸とかに捕われず、独立した作品として語るなら、文句のつけようが無い本当に素晴らしい作品でした。
でも、『ティン・パン・アレイ』を“毛皮のマリーズフォルダ”に戻してみると、やっぱり危険な作品でもありましたよね、健康なバンドが取る策ではなかったでしょうし。もし、アレと同じ感動を呼べる作品を4人で作れていたのなら、というif。それも当然、考えられますよね。
--バンドとして健康な方策、ですね。
志磨:『ティン・パン・アレイ』の構想 ―――何がしかの枠や軸に捕われない音楽の全解放という構想は、デビュー盤(アルバム『毛皮のマリーズ』[10年春発表])を作っている時くらいからあったんです。でも、その時のレコーディングが全解放を予感させるモノだったかというと、それは違う。何故なら、その時のレコーディングも、サポートミュージシャンの方々が活躍したんです。その間、私の愛するメンバーは何をやっていたかというと、何か……ムスーっとしていましたね。悶々としているというか。
ただ、そこで僕は止まれない訳ですよ、もう次の作品が見えているから。サクッと次のレコーディングに入りたい。バンドミーティングから始めて、半年くらいかけて全員をスキルアップさせて、そこからレコーディング!っていう時間は、僕の青春には無い訳ですよ、僕の若さには。ただ、そうなった時に……、うん。バンドのバランスとしては不健康ですよね。それを今回の作品では解消しようとした訳ですけど、もし4人で「ウワーッ!」っていう大作を作り上げて、「じゃあその次、何しよう! ロンドン行っちゃおうぜ!」ってなっていたら、そのタイトルでも良かったかもしれません。
Interviewer:杉岡祐樹|Photo:佐藤恵
つまらない作品になる危険性があったから途中で変えた
--つまり、前回のインタビューで仰っていた“毛皮のマリーズのためのアルバム”というコンセプトを、変えざるを得なかったということでしょうか?
志磨:えーっとですね……。例えば、僕が投げるモノを受け入れてくれる容器として毛皮のマリーズがあるのならば、小さかったですね、僕には。今回、僕はささやかなモノを毛皮のマリーズのために捧げようとしたんですけど、その“ささやか”は携帯型とか簡易式っていうこととは、意味が違いますよね。軽量化したり容量を減らして、僕の音楽のバイト数が削られることを、僕の何かが許さなかった。
--それを許してしまうのであれば、毛皮のマリーズである必要がなくなってしまいますよね。
志磨:そう、むしろね! “『ティン・パン・アレイ』はソロで良かったんじゃないの?”って多々言われましたけど、僕は×4をしたいんですよ。もの凄く大きな存在……、宇宙でも何でもいいんですけど、もの凄く巨大なモノの、クォーターでありたいんです。でも、それは“僕の力を、クォーターのサイズに落として当てはめる”こととは違う。僕は100%の力を出しつつ、さらに各メンバーの何かを加えていきたかった。
でも……、アレが違うんですね。……何て言ったらいいんやろう。僕が最初“毛皮のマリーズのために捧げます”って言った時、ファンの方がイメージしたモノは、僕が思い描いていたモノと一緒なんですよ、きっと。もの凄く粗野で荒々しいロックンロールであったり、ラウドでノイジーでダーティで……、全てをなぎ倒すような無敵のロックンロールをイメージしてたんですけど、違うんですよ! それじゃないんですよ。それは僕のクワトロ、僕の一部でしかなかったんです。
--今の志磨さんには、それだけでは窮屈だった?
志磨:『ティン・パン・アレイ』を終えた僕の全てをぶつけても、許容してくれるモノであって欲しいんですよ、毛皮のマリーズは。そのために捧げると言ったんです、僕の全てを。……でも、そこに僕が戸惑った、意味を分かってなかったんです。僕もロックンロールすることだと思っていけど、全然興奮しない。そらそうですよね、ガマンしているから。……で、全解放することになったってことです、結果だけかいつまんで話すと。うん、つまらないアルバムになる危険性があったから、途中で変えた。っていう言い方ができますね。
--その変更は、毛皮のマリーズにとって残酷な決定ですよね。
志磨:うん、そうかもしれ……いや、どうだろう? 難しいですね、僕も毛皮のマリーズな訳で(笑)。
--3人にとって、と言い換えた方がいいですね。
志磨:そう、3人に対してはそうかもしれませんね。……やっぱり言い方が難しいけど、まあ僕が下手人でいいや(笑)。今、ノイズに身を任せてバァーンとやったら、たぶんホッとするんですよね。うちのメンバーと、昔からのファンの方は安心すると思います、「昔のマリーズが戻ってきた」って。
--当初はそういう楽曲を、4人で演奏してみたりもしたのでしょうか?
志磨:しました、しました。だからボツ曲が多いですね、今回は。
--その方策では、各プレイヤーが作詞作曲を行う者と同レベルの表現者であるという、ある種バンドの理想形のような所まで届かなかった、ということでしょうか?
志磨:ん~……、うー……ん、何て言ったらいいんやろう。そこが難しいとこ……、いや、そこは甘えたくないな。僕はメロディを紡ぐという仕事を、精進してやっております。5年前の僕と今の僕とでソングライティングのクオリティを比べるのなら ―――『戦争をしよう』と今回のアルバムを比べるのなら、パワーコードしか弾けやんかった奴が、突如スティーヴ・ヴァイを弾けるようになったくらいの成長をしているんですよ、僕としては。ホンマにギタリストが5年でそれほど成長できるのかは分からないですけど、それぐらいの時間と何かを費やしましたよ、ソングライターとして。……それが欲しかったっすね、うん。
「僕を一番近くで支えてくれた」みたいな意味は、もう知りません。そんなん恋人で良いじゃないですか。プレイヤビリティを求めているんです。もちろん、とても大事な要素ではありますよ、信頼関係は。付き合いの長さとかを言い始めたら、一番深い友人ですからね。ただ、ロックンロールの前では、そんなことはさておいて「お前は真剣か? この何年で、汗をかいたか?」ってことですよね。そういうトコ、音楽って残酷ですよ。
Interviewer:杉岡祐樹|Photo:佐藤恵
怒り、歓び、深い悲しみ……、それらを全部並べたら
--他の記事で、志磨さんは今作を“悲しみのアルバム”だと語っていましたが、僕は何処かで地震のことが関係しているのかもしれない、と感じていました。そして今、志磨さんの話を聞いていて、今度はバンドのことを繋げて考えてしまう自分がいます。
志磨:今回、歌いたかった悲しみというのは、僕が直接受けた悲しみではないんですよね。自分の幼少期のトラウマを告白するような音楽ではなくて、僕らが生まれながらに背負っているモノ。『ティン・パン・アレイ』で僕が歌っていたことの真後ろには ―――“僕らはずっときっと大丈夫”と言った裏には、みんなが知っている答えが用意されているじゃないですか、“いつか死ぬのに?”って。
僕らは“愛し合うために出会ったんだよ”と言っても、“いつかは別れる”って知っている。そんな風に僕らが、根源的に持っている悲しみってありますよね。そういう意味では、例えば毛皮のマリーズの軋轢みたいなモノだったり、地震についてだったり、そういったモノではありません。常に僕らが抱えている悲しみを歌っています。
ただ、最初に悲しみについて歌うというテーマを設けていて、その後に地震が起こった。悲しみというモノを知らなければと思った時に起こった、どうしようもなく悲しい出来事。そこでハッキリしたのが、絶望だったり喪失だったり別れのシーンだったり、そういう悲しみは……“だがそれは美しい”と歌いたいんや、ということです。身の悲しみを誇るのではなくて、そこにある我々の強さみたいなモノを歌いたいんやと。
--本作はアルバムの8曲目の『毛皮のマリーズのハロー!ロンドン』を境にして、1~7曲目までが日本で録音された楽曲、9~11曲がロンドンのアビーロード・スタジオで録音された楽曲になっているんですよね?
志磨:うん、そうですね。
--それを知らなかったので、前半が震災後に作った曲で、後半が震災前に作った曲だと思ってました。当初のコンセプトから変わってしまった7曲が、先に収録されている。だからタイトルは『毛皮のマリーズのハロー!ロンドン(仮)』になるという、ある意味とても残酷な作品なんだと。
志磨:へー、なるほどね(笑)。それ、いいですね。
--実際は全然違いましたけども(笑)。
志磨:フフフフフ。曲順は色々試したんですけど、日本でレコーディングした曲から始まって、『毛皮のマリーズのハロー!ロンドン』をインタールードにして、アビーロード・スタジオでのレコーディングと、時系列で並べてみると、僕が悲しみの皿まで食っていった過程というのが、歌詞に出ているんですよね。
--結果、前半と後半の曲数を考えても、非常にアンバランスな作風になりました。自分はそこに、今の日本に住んでいる人々が抱えているアンバランスさとリンクする部分を感じました。
志磨:まあ、その辺は僕に訊かない方がロマンありますよね(笑)。ただ、生きていく上でのアンバランスさって、今、凄く面白いと思っていますね。僕らはいつも、ライブではコンセプトを立てて、アルバムのストーリーを中心にやっていますよね。でも次のツアーファイナルの武道館は、一回全部を混ぜてみようと思ってまして。
例えばアルバム『Gloomy』の時はクソのような人生でしたから、歌詞にも「死ねー!」とか出てきます。で、その次の曲では「レッツ・シング・ア・ソング~♪」(『愛のテーマ』[アルバム『ティン・パン・アレイ』収録])って、訳分からないんですよ(笑)。
でも、人間って訳分からんのですよ! そこで僕は「あ、なるほど!」と思いました。今回のアルバムを作って、感情の幅みたいなモノの大体を、これまでの作品で取り込むことに成功したんですよ。怒り、歓び、深い悲しみ……、それらを全部並べたらどうなるんやろうと。だから武道館は、いわゆるオールタイム・ベストみたいなモノになるんですけど、一回全部出してみようか。そんな構想を考えています。
--分かりました。質問は以上になります。ありがとうございました! ……にしても、東京がテーマのアルバム作った後、震災で状況が一変しましたけど、今回『毛皮のマリーズのハロー!ロンドン(仮)』って銘打ったら暴動が起きてしまうという、恐ろしいリンクをしてますよね。
志磨:ホ、ホンマや! ヤバい……、何やろ……。“次のテーマは、アナタの街かもしれない!”って、めっちゃ嫌なバンドやないですか!
--恐怖新聞みたいですね(笑)。
志磨:最悪なバンドじゃないですか、フェス出るとすぐに雨降るし~……。
Interviewer:杉岡祐樹|Photo:佐藤恵
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