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「道ならぬ恋」のストーリー~エリック・クラプトン / ホイットニー・ヒューストン / スティーヴィー・ワンダー
2016年もまもなく半分が過ぎようとしている。上半期は芸能人や有名人の「道ならぬ恋」が多くのメディアを賑わすことになった。その是非はここでは一旦置いておくが、過去~現在まで、不倫や浮気などを題材にしたヒット曲は数知れず。そこで、ここでは全米ビルボード上位にチャートインした70~80年代の不倫・浮気をテーマにした名曲と、そこに描かれた「道ならぬ恋」のストーリーを改めて紹介しておきたい。
TOP Photo: Getty Images
エリック・クラプトン
(全米ビルボード10位 / 1972年)
まずは誰もが知るエリック・クラプトン(アルバム名義はデレク&ザ・ドミノス)が1971年に発表したロック史に残る名曲から。「いとしのレイラ」は、ジョージ・ハリスンの妻であるパディ・ボイドに「道ならぬ恋」をしたクラプトンが、彼女に愛を示すために作った曲であることはロック・ファンなら周知の事実。歌詞中に具体的な「不倫」の表現描写こそないものの、激情と苦悩に満ちたギター&ボーカルが、当時のクラプトンの当時の心境を物語っている。印象的なイントロのギターリフはもちろん、後半のジム・ゴードンによる美しいピアノコーダ部分も秀逸で、ロック史を代表する壮大なラブ・ソングのひとつだ。同曲はデレク&ザ・ドミノス名義のアルバムに収録されたオリジナル・バージョンのほか、クラプトンのソロ名義によるロング&ショート・バージョン、アコースティック・バージョンなどさまざまなテイクが存在している。
ちなみに、ジョージ・ハリスン作詞作曲によるビートルズの名曲「サムシング」(全米ビルボード1位 / 1969年)もパティのことを歌った曲で、彼女はロック史に残る偉大な2曲のインスピレーションとなった、ロック史を代表するミューズである。パティは1974年にジョージと離婚し、79年にクラプトンと再婚しているが、2人の関係は約10年で破綻。クラプトンとジョージは一時険悪な関係となるも、ジョージがこの世を去るまで男同士の深い友情は続いたそうだ。
ビリー・ポール
(全米ビルボード1位 / 1972年)
「いとしのレイラ」がヒットを記録した1972年末、それ以上に大旋風を巻き起こしたのがフィリー・ソウルを代表する男性R&Bシンガー、ビリー・ポールによるド直球の不倫ソング「ミー・アンド・ミセス・ジョーンズ」。 タイトル通り、ミセス・ジョーンズとの密会の様子を色気たっぷりムーディーに歌い上げたもので、HOT100とR&BチャートでNo.1を記録し、翌年グラミー賞も受賞するなど、ビリー・ポールの代表曲となった。同曲の大ヒット以降、もともと大半の楽曲が恋愛をテーマにしているソウル・ミュージック界において不倫を題材にした楽曲が多数生み出されることに。また、ドラマティックス、フレディー・ジャクソン、マイケル・ブーブレなど2000年代まで数々のシンガーたちにカバーされ続けている。そのため、海外では”不倫のアンセム”として定着しており、映画『ブリジットジョーンズの日記』でも、ブリジットの母が不倫に走るシーンで使用されている。
つい数年前まで世界各地を飛び回りパワフルなソウル・レビューを続けてきたビリー・ポールだが、彼もまた数々のレジェンドたちが立て続けにこの世を去っている今年、残念ながら帰らぬ人となっている。
ドン・コヴェイ
(全米ビルボード29位(R&Bチャート6位) / 1973年)
▲『SUPER DUDE I』
エネルギッシュ&パワフルな歌唱法でミック・ジャガーをはじめ、多くのボーカリストに影響を与えたレジェンドR&B/ソウル・シンガーのドン・コヴェイ。彼もまた「ミスター・アンド~」のヒットにより火がついた、不倫ソング・ブームに乗ってヒット曲を輩出したアーティストの一人だ。73年にリリースされたシングル「アイ・ワズ・チェッキング・アウト・シー・ワズ・チェッキング・イン」は、タイトルから察する通り、夫婦のW不倫を歌った曲。浮気相手とホテルを出ようとしたとき、自分の妻が別の男とホテルにやってくるところを目撃。家にいるはずだった妻と浮気相手の男が、自分がそれまで使っていた部屋にチェックインしていった…という、昼ドラもビックリの恐ろしいストーリー。
自身も不倫をしておきながら、妻の“現場”を目撃してしまったことにショックを隠せない男の気持ちを歌った、コヴェイの“泣きのボーカル”はこれぞソウル・ミュージックの真骨頂たるもの。全米ビルボードR&Bチャート6位、総合チャートでも29位となるヒットを記録し、コヴェイの代表曲のひとつとしてソウル・ミュージック史に刻まれている。
ホイットニー・ヒューストン
(全米ビルボード1位 / 1985年)
続いては80年代。ホイットニー・ヒューストンのデビューアルバム『そよ風の贈り物』からのセカンド・シングル「すべてをあなたに」。デビュー作から3曲の全米No.1ヒットを輩出し、一気にスターダムを駆け上がったホイットニー初期を代表する名曲であると同時に、R&Bファンにとっては「ミー・アンド・ミセス・ジョーンズ」とならんで定番の不倫ソングである同曲。オリジナルは1978年のマリリン・マックー&ビリー・デイヴィス・Jrによるもので、当初、不倫をテーマにした楽曲をホイットニーが歌うことについて、母のシシー・ヒューストンは大反対をしていたそう。しかし、結果として、この「すべてをあなたに」を皮切りに、ホイットニーは7曲連続全米No.1ヒットの快進撃を繰り広げることになった。
同曲の歌詞は、家庭のある男性を好きになってしまった女性の一途な思いが描かれている。一番じゃなくても、友達に止められても、“すべてをあなたに”捧げることを誓う女性…しかし、男性がかつて彼女に言った台詞として曲中に登場する「一緒に逃げよう」「もう少し待っていて欲しい」というのは、残念ながら完全なる浮気男の常套句。報われぬ恋の歌でありながら“恨み節”になっていないのも、ホイットニーの豊かな表現力あってこそ。不倫に身を投じる女性の健気さ、裏を返せば痛々しさともいえる恋心を、力強く、まっすぐ歌い上げたことにより、ピュアなラブソングとして成立させている。また、同曲のミュージックビデオには、歌唱シーンのほか、既婚者と思われる音楽プロデューサーとホイットニーとの恋愛模様がドラマ仕立てで挿入されている。
スティーヴィー・ワンダー
(全米ビルボード1位 / 1985年)
最後に紹介するのは、スティーヴィー・ワンダーの記念すべき20枚目のアルバム『イン・スクエア・サークル』(1985年)のリード曲として、全米No.1を記録した「パートタイム・ラヴァー」。こちらもタイトルから直球勝負。「パートタイムの恋人」たちのリアルなやりとりを歌い上げた、軽快なダンスポップ・ナンバー。そのサウンドはもちろん「1コールの電話は、君が家に着いた合図」など、スマホ時代となった今では懐かしい80年代当時の匂いを存分に感じさせてくれる。同曲はスティーヴィーにとって9曲目の全米No.1ソングであり、HOT100のほかにもR&B、アダルト・コンテンポラリー、ダンス、ダンス・シングルと1つのチャートでNo.1を獲得する大ヒットとなった。また、日本でもカセットテープのCMに起用されたことでお茶の間に浸透し、スティーヴィーの代表曲の1つとして知られている。
スリリングな逢瀬の様子を歌った歌詞の最後には、この歌の主人公である男のパートナー(妻)もまた、浮気を楽しんでいたという、ドン・コーヴェイの「アイ・アム〜」と同じ、イターい“オチ”が……不審な男からの電話でパートナーの浮気を確信するというストーリーなのだが、これには元ネタとなるスティーヴィーの実体験があるそう。その際は「浮気されていた側」の立場だったとのことだが、「パートタイムの恋人」でのあまりにリアルなやり取り、ついついスティーヴィー自身のエピソードなのでは?と疑ってしまいたくなる。
Text: 多田 愛子
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