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リンキン・パークからCrossfaithまで、ザ・ケミスツと最新作『ウォーリアー・サウンド』を形成する音楽とは?来日インタビュー&プレイリスト
2009年に<Ninja Tune>から『Join The Q』でデビューし、ドラム&ベース、ロック、EDM、レゲエ、ヒップホップなどを融合したハイブリッド・ダンス・ロック・サウンドで、一躍ブレイク。翌年には、エンター・シカリも参加した2ndアルバム『Spirit In The System』を発表。その破壊力抜群のライブ・パフォーマンスにも定評があり、これまでにコーンやCrossfaithなどのオープニング・アクトも務めている。
そして2015年に、映画『ターミネーター:新起動/ジェニシス』のワールドワイド版トレーラーに起用された「Run You」で本格始動。約6年ぶりとなるニュー・アルバム『ウォーリアー・サウンド』では、よりロックに傾倒し、ライブを意識した圧倒的サウンドメイクとプロダクションで、進化系ダンス・ロックの新たな未来を提示した。アルバムを引っさげ、4月には自身初となるジャパン・ツアーのために来日。東京公演では、新作収録曲「Anger」にフィーチャリング・アーティストのKenta Koie(Crossfaith)も飛び入り参加し、会場を熱狂の渦に巻き込んだ。今回は、今作から新たにバンドに加入したオリー・シモンズに加え、ダン・アーノルド、そしてリアム・ブラックに最新作の話題を中心に話を訊いた。
また、Billboard JAPANがキュレーターを務めるApple Musicのページ上には、リンキン・パーク、Crossfaith、M83など、インタビュー中に登場した楽曲のプレイリストも公開されている。
Crossfaithのサポート・アクトをするにあたって、
ありったけのエネルギーでぶつかっていった
−−CrossfaithとのUKツアーを終えたばかりですが、ツアーはいかかでしたか?
オリー・シモンズ:最高だった!
ダン・アーノルド:Crossfaithのメンバーはいい連中だし、ライブも最高。
−−ライブのエネルギッシュさにおいても、両者引けを取らないですし。
リアム・ブラック:彼らのサポート・アクトをするにあたって、ありったけのエネルギーでぶつかっていった。エンター・シカリとツアーした時もそうなんだけど、毎晩お互いを打負かす勢いでパフォーマンスするんだ。
ダン:対抗意識とかそういうのじゃないんだけど…。
リアム:すべてを出し切ることで、結果的にはいいショーになるから。
ダン:そう、エネルギッシュなライブは彼らの強みでもあるから、そういったバンドと一緒にツアーできるのは光栄だ。実際(Crossfaithの)ヒロに「ケミスツのライブは、俺たちにさらなるエネルギーを与えてくれる。」って言われたのは、すごくクールで、嬉しかったね。
−−新曲の反響はどうでしょう?
一同:すごくいいよ!
ダン:ライブのハイライトになりつつあるね。新作をリリースすると、気に入ってもらえるか不安だけど、それを通り越して…
リアム:デビュー作の曲以上に盛り上がってる。
ダン:そうそう、往年のヒット曲じゃなくて、新曲でライブを締めくくることができるのはいい気分だ。
−−新曲の中で、演奏するのが気に入ってる、またはライブ映えするな、と感じる曲は?
リアム:俺は、「Run You」。
他の二人:同感~。
リアム:それと「Anger」だな。特に「Run You」は、めちゃめちゃ盛り上がるから、パフォーマンスしてて気持ちイイ!
−−試験運転じゃないですが、アルバム制作中に新曲をライブでプレイすることはありましたか?
ダン:ちょっとだけね。「Jungle」や「Run You」はアルバムが完成する前からプレイしてきた曲だけど、アルバムの完成とともに少し変えた部分もあるんだ。主に曲の構成とミックスを少しいじった感じだね。実際にプレイしてみて、「こんなんじゃダメじゃん!」って思うような大げさなものではなかったよ(笑)。だけど、修正したバージョンをプレイしてみたら、そっちの方がしっくりきた。実は、これって、これまで踏んだことがない制作過程なんだ。いつもは、アルバムを完成させてから、初めてライブで演奏するって感じだったから、今回先にライブで試験的にプレイすることができたのは有益だったよ。
リアム:実は、それが新作の制作に時間をかけた理由の一つでもあるんだ。曲を生でプレイしてみて、そのフィードバックをアルバム制作に反映させたかった。これまでは、そこに時間をかけることができなかったから。
ダン:逆に、ライブでプレイしてみて、アルバムに入れなかった新曲もあるんだ。他の曲と並べて、劣っていたから。
リアム:そう、2、3年前、制作を初めて間もない頃に、アルバムに入れようと思って作ったけど、アイディアとしてそれ以上発展できなかった。
オリー:で、しょうがないから、もっといい曲を書くか…、ってことになったんだ(笑)。
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Live Photo: Yosuke Torii
ここ数年間でミュージック・シーンは目まぐるしい変化を遂げていて、
まったく違うジャンル同士のクロスオーヴァーが受け入れられるようになった
−−オリーは、以前所属していたバンドでもソングライティングを行っていましたが、彼が加わったことで、どのような変化がありましたか?
ダン&リアム:最悪!
オリー:悪かったな~(笑)。
ダン:いいことなんかまったくない!
一同:(大笑)
オリー:元々、俺は新作のゲスト・ヴォーカリストとという名目でレコーディングに加わったんだけど、最初に携わった2曲の制作があまりにも楽しくて、彼らの制作プロセスをもっともっと見たいと思った。新しいことばかりで、困難もあったけど、ミュージシャンとして自分をチャレンジする理由にもなった。すごくいい経験をさせてもらってる。
リアム:俺ら3人は、欠けているパズルのピースを長年探し続けてきた。オリーとの制作を経て、彼こそがその欠けているピースだというのが、明らかになった。今までは、3ピース・バンドとゲスト・ヴォーカリストというふうに捉えられてきたと思うけど、彼とブルーノが加わって5人になったことで、ちゃんとしたバンドになれた気がする。スタジオでも同じヴォーカリストとずっと作業できるから、ヴォーカリスト毎に曲のスタイルを変えなくていい。曲作りのプロセスは、十人十色だが、オリーの才能はもちろん、彼のプロセスやスタイルがバンドの楽曲にフィットすることがわかったから、元々いたメンバー3人にとってすごく新鮮な変化だった。
オリー:嬉しいね~(笑)。
−−ブルーノとの相性もバッチリですしね。
オリー:このバンドに参加してまだ1年位しか経ってないなんて信じられない、ってよく言われるよ。チームの一員っていう実感もあるし。
リアム:100%な。
−−では『ウォーリアー・サウンド』の制作に取り掛かるにあたって、サウンドとプロダクションの面で、探求したかったことは?
ダン:まず、ロック色が強い作品にしたかった。長い間、ロックに影響された部分をわかるか、わからないか、ぐらいに抑えなきゃ、っていうのが頭の片隅にあったから。元々リミックスなどを手掛けるドラム&ベースのDJ/プロデューサーで、すべての曲にギターを入れる、って明言はしていたけど、実際はこっそり忍び込ませていた感じだった。それが吹っ切れったんだ。
リアム:DJとバンドの違いってとこだな。
オリー:それにエンター・シカリやCrossfaithだったり、ジャンルを融合したり、クロスオーヴァーさせたりしている先進的なバンドが、道を切り開いていることで、リスナーもそういう音楽に対して抵抗がなくなって、興味を持ってきている。ぶっちゃけ、2、3年前に『ウォーリアー・サウンド』をリリースしてたら反応は全然違ったと思う。ここ数年間でミュージック・シーンは目まぐるしい変化を遂げていて、まったく違うジャンル同士のクロスオーヴァーが受け入れられるようになったから。
リアム:その点、日本のリスナーは最先端をいってるよな。2009年に初めて日本に来た時に得たポジティヴなレスポンスは、他の国とまったく違っていた。一つのジャンルに属していないからって、聴くことに抵抗がない。それって、音楽もそうだけど、芸術作品に対する、とても健全な向き合い方だよね。
ダン:そう、「で、お前ら、ジャンルは何なの?」とかいう概念は必要ない。
2016.04.07 THE QEMISTS @ 恵比寿LIQUIDROOM
Photo: Yosuke Torii
−−確かに、今では評価が高まっていて、商業的にも成功しているバンドが多くいます。先ほど名前が挙がったエンター・シカリだったり、ブリング・ミー・ザ・ホライゾンなんかは最新作が全英&全米で2位でしたし。
リアム:そうだよな。でも僕らが彼らと根本的に違うのは、ドラム&ベース、ダンス・ミュージックの面からロックにアプローチしているというところで、そこがユニークな部分だと思うんだ。
−−わかりました。アルバム制作の中で、ターニング・ポイントとなった曲はありますか?
ダン:「Jungle」だな。ギター、シンセ、ドロップ、フィーリング、俺たちが目指していたものをすべてを兼ね備えているから。他の曲を書いているときも、頻繁に聞き返したし。
リアム:出発点となった曲だ。
−−続いて「Push the Line (featuring Charlie Rhymes)」などから伺えるEDMの影響についてお聞きかせください。
ダン:俺は昔からサウンド・デザインに興味を持ってきたけれど、そのジャンルが流行りだしたことで、PCで簡単に操作できるシンセサイザーのソフトだったり、道がさらに開けたと思う。それもあって、今回はEDMっぽいトラックを作ることに、確かに時間をかけた。まぁ、すべてが採用されたわけじゃないけど。現代のUKシーンでは、ちょっと“タブー”な言葉になりつつあるけど、EDMの現状からさらなる可能性を追及するのは今作の制作において重要なプロセスだった。シンセとギターを境界線が分からないぐらいに一体化しつつも、両者の良さを見せるような音作り…これが今回最大のチャレンジだったな。
リアム:あぁ。EDMを全面に押し出した作品にした方が安易だったろうけど、それじゃライブが貧相になってしまうし、サウンドとバンドの統一感がなくなってしまう。今作のライブにはバンドとしての成熟が表れていて、観客もバンドとサウンドがきちんと合致していることが見受けられると思う。ぶっちゃけ今までは、それがなくて紛らわしかった―ゲスト・ヴォーカルが大勢いて、統一感がなくて。けれど、今作を経て、それが解消されたと思う。
−−では、ほぼヴォーカルがないタイトル・トラックの「Warrior Sound」は?
ダン:確か最初に完成させた曲で、ライブでも一番長くプレイしている。この曲もアルバムの青写真と出発点となった曲。ヴォーカルがミニマルなのは、俺たちの過去の作品ともリンクするし、アルバムに持たせたかったヴァイヴを上手く表現している。アルバムのタイトルに決めたのは、かなり遅い段階だったけど、一番最初に書いた曲がタイトルになって、何だかしっくりきたんだ。
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アルバム収録曲とのその影響を語る
Requiem ll 「Stigma」 - Noisia
リアム:この曲はギターやノイズっぽいサウンドをより目立たせることを視野に入れながら作ったトラック。ベース・ミュージックのプロデューサーがよくコンプレッサーを使ったり、音にディストーションをかけたりするけど、それをギターでやりたかった。ダーティーで、グライミーで、へヴィーなリフなんだけど、同時にダンサブル。
ダン:そう。Noisiaの「Stigma」っていう曲を特に参照にしたんだ。あの曲と同じようなフィーリングを意識した。
リアム:すごく変わったダンス・トラックなんだけど、大音量でかけたらサウンドシステムが爆発しそうな破壊力がある。
We Are The Problem ll「Numb」 - Linkin Park
リアム:普段とは異なるアプローチをとった曲で、バンドによって書かれた曲の構成―ソングライティング、メロディやコード進行を気にしながら、様々な曲を聴いてて、たまたまリンキン・パークの過去のアルバムをかけた。彼らはどのようにメロディをシフトさせていっているんだろう、と思って。中でも「Numb」に惹かれた。その時ちょうどピアノで色々試していたんだけど、すごくソングライティングがクリアに聴こえる曲だな、と感じた。同じアルバム(『Meteora』)の収録曲のいくつかに影響されている曲だ。
Anger (feat. Kenta Koie of Crossfaith) ll 「Omen」 - Crossfaith / The Prodigy
ダン:これは(ザ・プロディジーの)「Omen」のCrossfaithによるカヴァーにインスパイアされた曲。あの曲が持つフィーリングを捉えたかった。『ウォーリアー・サウンド』収録の他の曲に比べ、少しテンポが遅くて、ビートもシンプル。ブレイクビートって感じかな。Kenが参加してくれるのはわかっていたから、「Omen」のようなフィールとエネルギーを持った曲にしたかったんだ。で、実はKenに送って、ヴォーカルをのせてもらった後に、大幅に変えた―トラックをほぼすべて入れ替えたんだ。アルバムのために書いた最初の曲の一つで、別に悪くはなかったんだけど…。
リアム:もっとへヴィーにしなきゃ、って感じてて、さらにダンサブルにもしたかった。そこで、ザ・プロディジーの曲を下地にCrossfaithが作り上げた「Omen」がいい参考になったんだ。
ダン:それにCrossfaithがUKツアーで「Omen」をパフォーマンスする時、毎晩オリーが飛び入りして歌ってたから、その印象もすごく強いし。
2016.04.07 THE QEMISTS @ 恵比寿LIQUIDROOM
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Run You ll 「Sorry You're Not A Winner」 - Enter Shikari
ダン:この曲は、ヴォーカル・プロダクションの面でリンキン・パークを参照した曲。具体的にどの曲っていうのはないんだけど、ラップのヴォーカルと通常のヴォーカル、って分けるのではなくて、その2つの要素を上手く融合させたかった。
オリー:少し早口に歌って…
ダン:ヴォーカルがビルドアップし、最終的にラップでクライマックスを迎えるって具合に。
リアム:それと、この曲には、エンター・シカリのすっごく古い曲「Sorry You're Not A Winner」へのオマージュもある。あの中盤のギターリフ(歌いだす&曲中のハンドクラップを真似しながら)は、ローリーの最大の見せ所。俺たちがライブをやるとき、SEで流している曲でもあるんだけど、すべての音が止まって、あのギターリフだけになるだけの瞬間は最高だ。それだけリフにパワーがあるってことだから。まぁ、あのリフには到底及ばないけど(苦笑)、曲中にギターにブレイクしたときに奏でられてるリフはすごくクリアで爽快だ。
Jungle (feat. Hacktivist) ll 「Original Nuttah」 - UK Apachi & Shy FX
ダン:この曲は、沢山の影響を受けている曲なんだけど、特にヴォーカルに注目して欲しい。古いドラム&ベースの曲で、シャイFX&UKアパッチによる「Original Nuttah」っていう曲があるんだけど、ヴォーカルがダンスホールっぽいって言ったらいいのかな。ラガ?
リアム:あぁ、まさにドラム&ベースの名盤だ。
ダン:「Jungle」は、ロックで、へヴィーで、ダブっぽくありつつ、イントロのヴォーカルはレゲエ調にしたかった。そのフィールに「Original Nuttah」はピッタリ合ってた。俺たち流の「Original Nuttah」ってとこだな。
リアム::これまでも、幾度か…『ジョイン・ザ・Q』まで遡っても、ヴォーカルにダンスホールやレゲエの要素を取り入れてきた。でも今作は、よりロックに仕上がってるから、そういうサンプルを加えた曲が合うか不安だったけど、うまく融合できたと思う。
ダン:そこはもちろん挑戦だった。加えて、オリーとブルーノのヴォーカルに、サンプルのヴォーカルを組み合わせること。
オリー:たとえば、スキンドレッドはそういった要素を融合するのも可能だって証明したバンドだよね。
リアム:そうだな。彼らの音楽から自信を得た部分もある。ダンス・ミュージックにレゲエが合うことはわかっているけど、果たしてそこにロックを加えたらどうなのか、という懸念。でも、スキンドレッドはそういう音楽を作り続けてるから、問題ないじゃんか、って(笑)。
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お気に入りの楽曲をセレクト
「Devil's Party」 - Crossfaith
ダン:彼らのニュー・アルバムで一番好きな曲。さっき話したけど、10日間一緒にツアーして、毎日彼らのサウンドチェックとライブが見れたのは最高だった。彼らはいつも「Devil's Party」でサウンドチェックしてるから、会場に到着して、この曲が流れていると、自然と笑顔になる。リフもアメイジングだし、彼らを代表する一曲だと思うね。ライブも毎晩“悪魔のパーティー”のようだったから、ピッタリだ(笑)。
「Doomed」 - Bring Me The Horizon
リアム:このアルバムはとにかくヘビロテしてる。アルバムのオープニング・トラックで、あまり話題に上がってないような気がするけど、彼らのベスト・トラックの1つだと思う。ダンスとロック・ミュージックが見事に融合され、優れたサウンド・デザインと最強のコーラス…すごくビューティフルで奥深い曲。シンセの使い方…特にシンセが曲のリズムに与えている影響が素晴らしくて、まさに完璧な曲だ。
「Faint」 - Linkin Park
オリー:リンキン・パークの影響について、さっき少し話したけど、ヴォーカル2人のケミストリーは俺にとって多大な影響力を持っている。彼らの楽曲にしてはテンポが速いんだけど、本当に掛け合いが見事で、息がピッタリ。ミュージック・ビデオもイカしてる。
「Midnight City」 - M83
リアム:俺たちは、ロックとドラム&ベースばっかり聴いているってイメージだろうから、ちょっと意外かもしれないけど(笑)。人工的で、ダンサブルで、すべてシンセでプロデュースされているけれど、甘美なところが気に入ってる。メロディ、プロダクションも完璧で、大ヒットした理由が手に取るようにわかる。非の打ちどころがない曲だ。
「The Hunter」 - Slaves
ダン:エネルギーに満ち溢れてる。
リアム:そう、生々しい、パンクなエネルギー。
ダン:すごくイギリスっぽい感じなのもいいよね。俺の彼女はスレイヴスのことめちゃめちゃ嫌ってて、俺的にはそこが彼らをさらに好きにさせる(笑)。
リアム:俺たちのバンドと同じスピリットを持ったバンドだけど、表現の仕方が全然違うから面白いよね。彼らはとても露骨で、何も包み隠さないし、“クール”にキメたりしない。その偽りのないスタンスが、最高にクールなんだ。
インタビューの中で登場した楽曲をまとめたプレイリストをApple Musicで公開中
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