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ジョン・カーペンター 特集~ホラー界の巨匠&音楽家の肖像
ジョン・カーペンターは、1948年にニューヨーク州カーセージで生まれている。父親は音楽の先生をしていたというから、幼い頃から音楽は身近な存在だったに違いない。4歳の時に、ハワード・ホークスが製作に関わったSFホラー映画の古典的名作『遊星よりの物体X』を観て、映画への道を歩むきっかけになったという。ハイスクール時代から8mmフィルムで自主映画を撮り始め、南カリフォルニア大学映画学科に入学。在学中に製作したショート・フィルム『Captain Voyeur』(1969年)では、監督や脚本だけでなく、すでに映画音楽も担当している。
▲『ダーク・スター / Dark Star』トレイラー
メジャーでのデビュー作は、1974年公開の『ダーク・スター / Dark Star』。後に『エイリアン』の脚本を手掛けるダン・オバノンが主演や共同脚本などに参加していることでも有名な、いわゆるカルトSF作だ。ここでは、シンセサイザーを効果的に使った奇妙なサウンドで不気味な映像を盛り上げている。続く『ジョン・カーペンターの要塞警察 / Assault on Precinct 13』(1976年)は、西部劇の傑作『リオ・ブラボー』を現代に置き換えたというアクション・スリラー作品。エレポップ風のメイン・テーマを筆頭に、こちらもシンセサイザーで不穏な空気感を演出しているのが特徴だ。
▲『ハロウィン / Halloween』トレイラー
彼の出世作といえば、なんといっても1978年の傑作ホラー『ハロウィン / Halloween』だろう。低予算の製作ながら全世界で大ヒットを記録し、後にシリーズ化されたスプラッター映画の元祖的作品だ。音楽はピアノの音色を巧妙に配したもので、心理的にじわじわと迫ってくる映像を上手く引き立てている。この成功を受けて製作された『ザ・フォッグ / The Fog』(1980年)は、霧とともに怨霊が街にやってくるという異色ホラー作品。こちらも、シンセのアンビエント・ドローンを基調に、ピアノやチェンバロのような古風な音色を組み合わせ、サウンドトラックだけでもリスニングに耐えうる美しくも不気味なサウンドを構築した。翌年の『ニューヨーク1997 / Escape from New York』 (1981年)は、マンハッタンが刑務所になるという設定の近未来SFアクションで、音楽もビートを効かせたものからメロディアスでリリカルなものまでバラエティに富む内容になっている。
▲ 『遊星からの物体X / The Thing』テーマソング
『遊星からの物体X / The Thing』(1982年)は、最も人気の高いカーペンター作品のひとつだ。前述の幼少期に観た名作のリメイクで、SFホラーの傑作としてカルトな人気を誇っている。意外にも本作では、映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネにサウンドトラックを依頼。重厚かつ寒々しい映像にはまったテーマ曲が印象深い。こういったプロデュース能力も、カーペンターの才能といってだろう。一転して、スティーヴン・キングの原作を元にした『クリスティーン / Christine』(1983年)では、自らエレクトロ・サウンドを大胆に使用し、未来的な空間を生み出していたのも対称的で面白い。
▲ John Carpenter's Coup de Villes MV
中華街を舞台にしたコミカルなホラー『ゴーストハンターズ / Big Trouble In Little China』(1986年)は、彼の映画音楽における転換期といえるかもしれない。俳優兼監督のニック・キャッスル、『ハロウィンIII』を監督したトミー・リー・ウォーレスというカーペンター組の盟友とともに、The Coupe De Villesという企画バンドを結成。アメリカン・ロック風のエンディング・テーマでは、自らシャウトするヴォーカルを聴かせてくれる。緑色の液体に襲われるというトンデモ系なホラー作『パラダイム / Prince Of Darkness』(1987年)では、シンセサイザーによる流麗なオーケストレーションでスケール感を生み出し、SF、ホラー、アクションといった様々な要素を取り入れた『ゼイリブ / They Live』(1988年)は、音楽もロックやブルースなどのクロスオーヴァーされたユニークなものに仕上がっていた。
▲ 『マウス・オブ・マッドネス / In the Mouth Of Madness』テーマソング
彼のサウンドトラックが本格的にロック色を強めるのは、悪夢のような映像に魅了される『マウス・オブ・マッドネス / In the Mouth Of Madness』(1994年)からだ。本編の音楽はお得意のシンセサイザー・サウンドだが、オープニング・テーマではなんとUKロックの重鎮キンクスのデイヴ・デイヴィスによるヘヴィ・メタル風のハードなギターが唸っている。翌1995年の『光る眼 / Village Of The Damned』でもこのコラボは継続し、70年代を思わせるブルース・ロックを披露してくれるのがロック・ファンにも嬉しいところ。また、『ニューヨーク1997』の続編となった『エスケープ・フロム・L.A. / Escape From L.A.』(1996年)では、トゥール、シュガー・レイ、バットホール・サーファーズといったロック・ミュージシャンたちの楽曲を多数挿入歌に起用している。
▲ Scoring “Ghosts of Mars”
そして、ドラキュラ映画の現代版である『ヴァンパイア/最期の聖戦 / Vampires』 (1998年)では、スティーヴ・クロッパーやドナルド・ダック・ダンといったソウルやリズム&ブルースを支えてきたミュージシャンをフィーチャーするなど、音楽的にも果敢にトライ。SFホラーの快作『ゴースト・オブ・マーズ / Ghosts Of Mars』(2001年)にいたっては、ヘヴィ・メタルのベテラン・バンド、アンスラックスとの共作も実現した。こうして、彼の手がけたサウンドトラックを聴くだけでも、映像と同じくらい興味深いのだ。
映画監督及び映画音楽作家から、いちミュージシャンとしてのジョン・カーペンターが誕生したのは、昨年2015年のこと。ザ・メンやゾラ・ジーザス、そしてデヴィッド・リンチのアルバムもリリースしていたブルックリンのインディ・レーベル、セイクリッド・ボーンズ・レコーズと契約。67歳にしてファースト・アルバム『Lost Themes』で、アーティスト・デビューを飾った。本作は初期のサウンドトラックを髣髴とさせるシンセサイザーをメインにしたエレクトロ・サウンドのインスト作品で、架空のサウンドトラックといってもいいようなドラマティックな内容だった。そして、その続編である『Lost Themes II』も、息子のコーディー・カーペンターらとセッションした音源を編集し、ミュージシャンとしての力量をまざまざと見せつける力作となっている。しかも、今年は初のライヴ・ステージも予定しているというから、その本気度も伝わるだろう。
映画作品に関しては寡作となってしまっているが、音楽活動には本腰を入れたジョン・カーペンター。2枚のアルバムのクオリティは「ローリング・ストーン」や「ピッチフォーク」といったメディアからもお墨付きなだけに、今後は映画を凌ぐ活動に期待したいところだ。
▲ "Distant Dream" (Official Live In Studio Video)
ロスト・シームズ2
2016/05/11 RELEASE
HSE-5054 ¥ 2,310(税込)
Disc01
- 01.DISTANT DREAM (SIDE A)
- 02.WHITE PULSE (SIDE A)
- 03.PERSIA RISING (SIDE A)
- 04.ANGEL’S ASYLUM (SIDE A)
- 05.HOFNER DAWN (SIDE A)
- 06.WINDY DEATH (SIDE A)
- 07.DARK BLUES (SIDE B)
- 08.VIRTUAL SURVIVOR (SIDE B)
- 09.BELA LUGOSI (SIDE B)
- 10.LAST SUNRISE (SIDE B)
- 11.UTOPIAN FACADE (SIDE B)
- 12.REAL XENO (SIDE B) (CD-ONLY BONUS TRACK)
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