Special
センチメンタル・シティ・ロマンス 大阪公演特集
1975年生まれの名盤たち
細野晴臣『トロピカル・ダンディー』、大滝詠一『ナイアガラ・ムーン』、鈴木茂『バンド・ワゴン』、シュガー・ベイブ『ソングス』、荒井由実『コバルト・アワー』、小坂忠『ほうろう』。これらの作品に共通しているのは、全て1975年に誕生したアルバムだということ。40年経った今も愛され続ける作品ばかり。とはいえこれはごく一部。60年代末から70年代初頭の黎明期を経て、1975年は日本のロック・シーンが成熟期に達したといえるのではないだろうか。いずれ劣らぬ名盤たち。そして今回の主役、センチメンタル・シティ・ロマンスのデビュー・アルバムも1975年生まれである。
“センチ”結成からデビューまで
1973年3月、名古屋で結成されたセンチメンタル・シティ・ロマンス。「センチ」の愛称で親しまれ、活動はすでに40年を越える。これは一度も解散していない現役バンドとして日本最古である。日本最古といえば、現在も大阪で開催されている野外イベント『春一番コンサート』の第3回(同年5月開催)のステージに立っている。その後も地元名古屋を中心に全国各地で精力的にライヴ活動を行ない、いよいよ1975年を迎える。
▲『センチメンタル・
シティ・ロマンス』
青い空と地平線まで続くハイウェイとツアーバス。イーグルスを筆頭とするウエスト・コースト・ロックに対する憧憬とひたむきなまでの愛情と敬意が詰め込まれたデビュー・アルバム『センチメンタル・シティ・ロマンス』は、1975年8月21日にCBSソニーからリリースされた。このデビュー・アルバムはセンチのセルフ・プロデュースではあるが、細野晴臣がアドバイザー(チーフ・オーディエンス)として関わっている。ツインギターの絶妙なコンビネーションと基盤とするバンド・サウンドと美しいハーモニー・ワークは、アングラでもフォークでも歌謡曲でもない、痛快なロックだった。
活動の場をさらに広げる80年代以降
1976年にセカンド・アルバム『ホリディ』をリリースし、1979年には角川映画『金田一耕助の冒険』(主演:古谷一行)のサウンドトラックも担当した。竹内まりや、加藤登紀子などのツアーやレコーディングにも参加し始めたのもこの頃からで、サポート・ミュージシャンとしても頭角を現していく。1982年4月には結成10周年記念として地元名古屋でコンサートを開催、同年9月にはロサンゼルスのロック・バンド”スニーカー”の来日公演のオープニングアクトを務め話題を集めた。このスニーカーのデビュー・アルバムを手がけたのはドゥービー・ブラザーズのジェフ・バクスターで、これが縁でセンチのアルバム『ダンシング』にジェフ・バクスターが参加することになるのだった。こうして80〜90年代にかけてアルバムやシングル制作、ツアーや他ミュージシャンのサポートなど活動のペースは衰えるどころか、増していく一方だった。さらに1997年にはギター&ボーカルの中野督夫がファースト・ソロアルバム『くつろぎ』をリリースしている。
やっとかめ宣言〜初の海外公演
こうして90年代以降も精力的な活動を続けるセンチだったが、アルバムのリリースにはブランクがあった。「久しぶりだね」と突然の便りがあったのは2011年。当時25年ぶりのオリジナル・アルバム『やっとかめ』がこの年にリリースされたのだ。”やっとかめ”は漢字で”八十日目”と書き、名古屋弁で”お久しぶり”という意味を持つ。アルバムには小坂忠とのデュエット「旅の途中」や、竹内まりやがコーラス参加した「ナタリー」など全14曲が収録されている。"お久しぶり"とはいえ、いつものセンチ節が詰め込まれた傑作だ。ちなみに「ナタリー」は1981年に竹内まりやがリリースしたシングル曲で、センチとの共同作業で制作された楽曲である。そして結成40周年となった2013年にはホームである地元の愛知県森林公園でアニバーサリー・イベントを開催。この日の模様は同郷で長年のセンチ・ファンでもある堤幸彦監督によって撮影され、2015年にDVDとしてリリースされている。さらに翌年には初の海外公演が行なわれた。テキサス州オースティンで毎年3月に開催されるライヴ・サーキット『SXSW 2014(サウス・バイ・サウスウエスト)』に出演、そしてもうひとつは結成当初から憧れの地だったロサンゼルス。60年代から営業が続いている老舗クラブ「ウィスキー・ア・ゴー・ゴー」のステージに立ち、本場の音楽ファンたちを魅了するのだった。
公演情報
センチメンタル・シティ・ロマンス with 鈴木茂 & 鈴木雄大
ビルボードライブ大阪:2016年3月24日(木)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
MEMBERS
・センチメンタル・シティ・ロマンス
中野督夫(Vocals, Guitar)
細井豊(Vocals, Keyboards)
野口明彦(Drums, Vocals)
瀬川信二(Bass, Backing Vocals)
種田博之(Guitar, Backing Vocals)
・鈴木茂(Guitar, Vocals)
・鈴木雄大(Vocals, Keyboards, Guitar)
関連リンク
Text: 柳本篤
盟友二人を迎えてスペシャルな夜に
▲『BAND WAGON 2008
SPECIAL EDITION』
今回のセンチメンタル・シティ・ロマンスのビルボードライブ大阪での公演は、”二人の鈴木”を迎えてスペシャルなパフォーマンスが予定されている。まず一人目の”鈴木”は、鈴木茂だ。
はっぴいえんどのギタリストとして1970年にデビューし、その後もシンガーとしてはもちろん、ティン・パン・アレイではセッション・ミュージシャン、さらにアレンジャー、プロデューサーとして活躍してきた。様々な活動を経て自身のソロ・アルバム制作に取りかかったのは1974年。単身渡米し、リトル・フィートやタワー・オブ・パワーのメンバーなどロサンゼルスの一流ミュージシャンたちに囲まれて『バンド・ワゴン』が完成する。現地の強者・曲者たちを一同に集めてのレコーディング。スリリングでエキサイティングだったことはアルバムを聴けば、いや冒頭の「砂の女」のイントロのギター・カッティングを聴くだけで伝わってくる。また「スノー・エキスプレス」「ウッドペッカー」のインスト曲以外は、全て松本隆が作詞を担当している。ロサンゼルスの乾いたグルーヴと松本隆の詩の世界が融合。それもまたこのアルバムの魅力のひとつと言っていいだろう。『BAND WAGON』がリリースされたのは1975年3月25日のことだった。
近年の活動となると自身のバンドはもちろん、2010年からは小坂忠、センチの中野督夫と”完熟トリオ”を結成。全国各地でライヴをするとともに「フジロックフェスティバル」にも出演し、その”完熟ぶり”で観客を沸かせることに。そして鈴木茂がメインでビルボードライブに出演したのは2012年のこと。ビルボードライブ5周年記念公演として猪野秀史とのスペシャル・ユニットでライヴが行なわれた。このときのことをインタビューでこう語っている。「オシャレなお店で演奏するのは初体験だったので全てが珍しかった。ほどよい緊張感を持って楽しめて、上手くいったかなと思います」。さらにこのユニットは去年4月にドラム:林立夫(ティン・パン・アレイ)ベース:ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)という世代を越えた2人が加わり、大きな話題となった。
▲『19,600,000の悲しい
夜と眩しい夢』
そして二人目の”鈴木”は鈴木雄大である。1959年生まれの鈴木雄大のデビューは1980年、シングル「ゴーン・ザ・サマー」だったが、この段階ではまだ本格的なデビューに至らなかった。転機が訪れたのは1982年。日本のR&Bディーヴァの先駆け、宮本典子のアルバム『NORIKO』収録の「レイジー・アフタヌーン」をデュエットしたことがきっかけで、ピンク・レディーや山口百恵などに数々のヒット曲を提供してきた作曲家・都倉俊一に出会い、ロサンゼルス録音によるシングル「19,600,000の悲しい夜と眩しい夢」とファースト・アルバム『フライデイ・ナイト』をリリース。当時のウエスト・コースト産AORサウンドを見事に咀嚼、ポップでメロディアスな楽曲で構成されたジャパニーズ・シティ・ポップスを堪能できる。以降もソロだけでなく、バンドやユニットでの活動、さらに稲垣潤一、吉田拓郎、ブレッド&バター、MISIA、庄野真代、小柳ゆきなどのステージ・サポート及び楽曲提供をしている。
センチの旅は続くよ、どこまでも
センチメンタル・シティ・ロマンスがビルボードライブ大阪のステージに立つのは2014年7月、EPOとの公演以来、約2年ぶりとなる。しかし前回はあくまでもサポート的な立ち位置だった。いわゆる”縁の下の力持ち”としてEPOのポップでカラフルな世界を鮮やかに彩った。今回はセンチがメインだ。気心しれた盟友を迎えいつも以上にゴキゲンなロックを聞かせてくれるだろう。名古屋発のツアーバスは、鈴木茂と鈴木雄大を乗せてロサンゼルスを目指す。
<執筆者プロフィール>
柳本篤(やなぎもとあつし)
大阪のルーツロック・バンド「ラリーパパ&カーネギーママ」のマネージャー及び所属レーベル「citymusic」代表。5月生まれ巳年左利きAB型。http://www.citymusicrecord.com/
公演情報
センチメンタル・シティ・ロマンス with 鈴木茂 & 鈴木雄大
ビルボードライブ大阪:2016年3月24日(木)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
MEMBERS
・センチメンタル・シティ・ロマンス
中野督夫(Vocals, Guitar)
細井豊(Vocals, Keyboards)
野口明彦(Drums, Vocals)
瀬川信二(Bass, Backing Vocals)
種田博之(Guitar, Backing Vocals)
・鈴木茂(Guitar, Vocals)
・鈴木雄大(Vocals, Keyboards, Guitar)
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Text: 柳本篤
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