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テリー・ボジオ 来日記念特集
世界最大級のドラムセットから超絶技巧のドラミングを叩き出す“孤高のドラマー”テリー・ボジオ。フランク・ザッパをはじめ、ジェフ・ベック、ブレッカー・ブラザーズ、KOЯNなど、ジャンルを問わず世界のトップアーティストたちと共演を重ねきた彼が、2016年1月にビルボードライブに初登場しソロ・パフォーマンスを行なう。今回は、これまでテリー・ボジオのインタビューや分析記事を多数執筆してきた菅沼道昭氏に彼のキャリアを振り返ってもらう。
“孤高のドラマー”テリ-・ボジオによるソロドラム・パフォーマンスとは・・
現在考えうる世界最大級の要塞のようなドラムセットによって生み出される彼のパフォーマンスは通常のロックやジャズのコンサートに見られるようなドラムソロとは異次元のもので、明確なメロディやハーモニーをともなう楽曲と即興演奏との融合であり、そのプレイの中核をなす両足のオスティネート(定型フレーズ)をキープしながらの両手での自由な演奏はまさに”神ワザ”の領域である。そのセットの巨大さはと言うと、ピッチの定められたタムが20台以上、バスドラム8台、ペダルは二十個以上、さらにシンバルや様々な打楽器類が360°取り囲む形で、セットするだけでも約3時間掛かると言った代物。そしてその内容は今もなお進化を続けている。テリ-自身もこれをアコースティック・ドラムによるオーケストラと捉えていて、メロディックなアンサンブルをいかに表現しているかが見どころ。その中には往年の彼のファンも納得の激しいロックプレイもきっと含まれるに違いない。
ドラマーとしての歩み~フランク・ザッパとの邂逅
1950年アメリカ・サンフランシスコ生まれ。6歳から空き缶などを集めて自作のパーカッションを作りティト・プエンテやサーフ・ドラムの第一人者サンディ・ネルソンのレコードに合わせてプレイしていたらしい。エド・サリヴァン・ショーでビートルズを見たのをきっかけに13歳でドラムのレッスンを受け始め、高校からは音楽を専攻しドラムだけでなくクラシックの打楽器(ティンパニー)も学びオーケストラでも演奏。卒業後は地元のジャズグループなどで活動し、その仲間には後に活動を共にする事となるマーク・アイシャムやパトリック・オハ-ンも含まれていた。テリーは、最大のドラム・ヒーローはトニ-・ウィリアムスだったと語っている。
1975年、米ロック界の鬼才フランク・ザッパのオーディションに受かりプロとしての華々しいキャリアをスタートさせる。ザッパ・バンドのかつてのドラマー、アインズレ-・ダンバーとテリーのルックスと叩きっぷりがよく似ていたのが合格の決め手だったとも言われている。クラシックや様々なジャンルに精通していたテリーの才能はこのバンドで一気に開花し、彼のために書かれたドラムソロの超難曲「Black Page」やテリーのボーカルがフィーチャ-された「Punky's Whips」などはこの時期のコンサートの重要なレパートリーとなった。
彼が在籍した3年足らずの間に発表されたアルバムは10作品以上で、そのハイライトとも言えるライブ・アルバム『Zappa in New York』で共演したブレッカー・ブラザースの『Heavy Metal Be-Bop』にも参加(77年)。これはフュージョン全盛期の名盤の1つである。ザッパ・バンド脱退後もザッパ関係者とのレコーディングや同バンド出身のチャド・ワッカーマンとのドラムデュオ、さらには息子ドゥイ-ジル・ザッパ主宰の「ザッパ・プレイズ・ザッパ」ヘの参加などフランクの死後もその関係は脈々と続いている。
Zappa Plays Zappa「The Black Page」
80年代、世界的トップドラマーへの飛躍
フランク・ザッパの元を離れてからはGroup87を経てザッパ・バンドの同僚だったエディ・ジョブソンのいたプログレ・バンド、UKに加入しザッパ・バンド以来2度目の来日を果たす。80年代初頭には、これもザッパ時代の同僚だったパトリック・オハ-ン、ウォーレン・ククルロ、さらに奥さんのデイル・ボジオとともに先鋭的なポップロック・バンド、ミッシング・パーソンズを結成し3枚のアルバムを残す。デイルとはその後に離婚に至るが、2009年には何と日本人女性と再婚している。UK~ミッシング・パーソンズでの多くのロートタムやスタック・シンバル(シンバルを2枚重ねで使う事)を使ったプレイは彼のトレードマークとなり、その個性的なドラミング・スタイルの礎はこの頃に確立していったとも言える。
レコーディングでも引っ張りダコとなり、デュラン・デュランのアンディ・テイラ-、ロビー・ロバートソン、ゲイリ-・ライトなどのアルバムやコンサートに多数参加。そして世界的なトップドラマーへの仲間入りを決定付けたのは89年のジェフ・ベックのアルバム『ギター・ショップ』の録音とツアーへの参加であろう。この頃には自身初となる教則ヴィデオ『ソロ・ドラム』も発表。これはそれまでのソロプレイの延長線上と言った感じだが、現在につながるソロ・コンセプトの萌芽が見られると言う点では興味深い映像である。
公演情報
テリー・ボジオ
Artwork Stage Set
ビルボードライブ東京:2016年1月4日(月)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2016年1月6日(水)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
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90年代、ドラミングの芸術性への覚醒
▲ THE Lonely Bears「Looking For Maquah」
テリーはジェフ・ベックのツアー中に日夜、両4足のオスティネートの鍛練を行なっていたらしく、その成果は教則ヴィデオ『Melodic Drumming & the Ostinato VOL1~3』及びソロアルバム『Solo Drum Music VOL1,2』として発表された。これらは実質的に現在のソロ・パフォーマンスに至る出発点で、ドラムと言う楽器をサポートではなく“主役”とする考え方はその後の彼の活動に大きく影響していく事となる。
ベックのバンドで音楽ディレクターもつとめたキーボードのトニ-・ハイマスとタッグを組んだThe Lonely Bears、ミック・カーンとのPolytown、ボジオ・レヴィン・スティーヴンスなど90年代に作られたグループは民族音楽までも巻き込んだ高い芸術性を感じさせるもので、テリーのドラミング・コンセプトの変化が大きく反映されている。彼もお気に入りだったと言う「マイ・シャローナ」でお馴染みのThe Knackに一時加入し、最少のセットで叩くセッションはこの時期としては異彩を放っていた。
90年代後半からはソロ・パフォーマンスやドラム・クリニックを精力的に開始し、98年にはソロ作第2弾となる『Chamber Works』、『Drawing the Circle』を発表。これは言わば自作のドラム室内楽で、オーケストラとの共演も視野に入れたような芸術性の高い作品である。
00年以降、“孤高のドラマー”としての円熟期
▲ Terry Bozzio Drum Solo Performance「pat's changes」
2000年以降はドラムセット1つで世界中を飛び回るソロ・パフォーマ-と言う印象がいよいよ強くなってゆき、モダン・ドラマー誌など音楽専門誌の各種ベストドラマー賞を獲得。さらにパット・マステロット、チャド・ワッカーマン、マルコ・ミネマンと言ったドラマーとのドラムデュオ企画もこなしていった。こうしたドラマー同志のコラボによってネット上のドラムチャンネルの中の「The Art Of Drumming」と言う番組のホストもつとめる事となる。
こうした多くの有名ドラマーとの交流はテリーの懐の深さを示すもので、同時に彼自身も得るものが多大だったであろう事は想像ができる。活動の幅も名実ともに世界に広がり、オーケストラなどコンサートの共演企画は枚挙に暇がなく、バンドにおいては才能溢れるギターのアレックス・マカチェク等と共にBPMを経てOut Trioを結成。その活動は断続的ではあるもののテリーのライブ演奏における1つのライフワークともなっている。大人気へヴィロック・バンドKOЯNヘの参加も驚きであったが、何よりもファンへのサプライズだったのは、ミッシング・パーソンズ、UK、ジェフ・ベック・バンド、ブレッカー・ブラザーズなどの相次ぐリユニオン・コンサートだろう。かくして、とても若く見えるが還暦を越えた”求道者”的ドラマーとしてまさに円熟期に入ったと言えるだろう。
テリ-・ボジオとは
筆者はインタビューその他でテリ-本人と話をする機会が得る事ができたが、その印象は激しくシリアスなドラムプレイとは裏腹に非常に温厚な人柄だと言う事。そうした穏やかな気質の中にも常に知的な一面が見え隠れしていて、物事の説明も淀みなく理路整然とできる人である。かつてドラムマガジン・フェスティバルで彼がソロ・パフォーマンスを行なった時に、アクシデントでバスドラムの1つが外れて転がってしまった事がある。これだけたくさん付いているから1つぐらいなくても・・・と思った瞬間、テリーは突然演奏を止め自らそのバスドラムを元に戻しまた演奏を続けた~と言う光景が思い出され、彼の音楽表現に対する真面目で真摯な姿勢を物語っていた。12月18日にはキャリア集大成の作品となる『テリー・ボジオ - コンポーザー・シリーズ』をリリースする彼が、今回のコンサートでもいかに”真面目”に進化したソロ・パフォーマンスをみせてくれるのかが今から楽しみである。
「Terry Bozzio Live Trailer」
執筆者プロフィール
菅沼道昭 (すがぬまみちあき)1963年長野県出身。高校からドラムを始めビリー・コブハム、フランク・ザッパに多大な影響を受ける。大学卒業後、様々なジャンルの音楽経験を経てプロの転向。Elegant Punk、Paradoxなどのバンド活動を経て、KONTA、David Garfield、元ザッパ・バンドのギタリスト、マイク・ケネリー等とも共演。現在はアヴァンロック・バンド「る*しろう」で活動中で、フランスのRIO(Rock In Opposition)フェスティバルなどヨーロッパ各地でもライブを行なっている。長年ドラム・インストラクター及びドラムマガジンでの執筆も行なっていて、同誌においてテリ-・ボジオへのインタビューや分析記事も多数執筆している。
公演情報
テリー・ボジオ
Artwork Stage Set
ビルボードライブ東京:2016年1月4日(月)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2016年1月6日(水)
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
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