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特集:南佳孝 ~永遠のシティ・ポップ少年の音楽世界~
洗練された都会的なポップスという意味で、シティ・ポップという言葉がちょっとしたブームになっている。若いインディペンデントのミュージシャンたちが、ソウルやAOR、ソフトロックやボサノヴァを取り入れるのはちょっとしたトレンドだ。そんなシティ・ポップ・ムーヴメントの元祖をたどっていくと、南佳孝の存在に気付くだろう。40年を超える音楽遍歴はバラエティに富んでいるが、大人のシティ・ポップを歌い続けているという点では変わらない。ここでは、永遠のシティ・ポップ少年の音楽世界を紹介しておこう。※2015年11月17日初出
南佳孝は、1950年生まれ。東京都内で生まれ育ち、10代ですでに音楽家になることを決意していたという。学生時代はジャズに傾倒していたが、1972年にフジテレビの情報番組「リブ・ヤング!」が行ったシンガー・ソングライター・コンテストで3位になり、注目を集める。そして、翌1973年にはトリオ・レコード傘下のショーボート・レーベルからアルバム『摩天楼のヒロイン』でデビューするのだ。このデビュー作は、はっぴいえんど解散直後の松本隆がプロデュースを担当。オールドタイミーなジャズやリズム&ブルースの香りがほんのりとするアーシーなサウンドに乗せて、愁いを帯びたヴォーカルを披露する傑作だ。「おいらぎゃんぐだぞ」や「勝手にしやがれ」といった、松本が描く映像的な歌詞が印象深い。その後は、ティン・パン・アレー『キャラメル・ママ』(1975年)や鈴木慶一とムーンライダース『火の玉ボーイ』(1976年)などに参加し、作家としても精力的に活動していた。
しかし、本格的に南がシティ・ポップらしさを構築するのは、CBSソニーに移籍してからだ。セカンド・アルバム『忘れられた夏』(1976年)は、自身の詞曲で統一。メロウなスロー・ボッサ・ナンバーの「忘れられた夏」や、トロピカルなサンバ・ポップ「月夜の晩には」といった名曲が収められており、すでに今に通じるアーバンな世界観を確立している。続く『SOUTH OF THE BORDER』(1978年)では、さらに本格的なサンバやボサノヴァのリズムを導入し、「日付変更線」や「プールサイド」といったスタンダードを生み出している。
風向きが変わったのは、80年代を迎えようとする頃だ。1979年に発表した4作目『SPEAK LOW』の先行シングルとして、「モンロー・ウォークをリリース。来生えつこがアダルトな歌詞を書いたラテン歌謡風のこの曲は少しづつ浸透していき、1980年の初頭に郷ひろみによって「セクシー・ユー」と改題されて大ヒット。原曲を歌った南にもスポットが当たるようになった。この年には、石川セリに書き下ろした「Midnight Love Call」のセルフ・カヴァーを収めたアルバム『MONTAGE』を、YMOのメンバーを中心にしたミュージシャンとともにレコーディングしている。
そして彼の名前を決定的にしたのは、角川映画『スローなブギにしてくれ』の主題歌である「スローなブギにしてくれ (I want you)」の大ヒットだろう。テレビの歌番組でも彼の顔や声が流れるようになり、シティ・ポップの代名詞として確固たる地位を築いた。その後も、ポーラ化粧品のタイアップ曲「羅針盤」(1982年)、薬師丸ひろ子が「メイン・テーマ」のタイトルで歌った別ヴァージョンの「スタンダード・ナンバー」(1984年)、ドラマ主題歌に抜擢された「二人のスロー・ダンス」(1985年)、松本隆が監督した映画『微熱少年』の主題歌「GIRL」(1987年)など次々と話題曲を発表。アルバムでは、ニック・デカロをアレンジャーに迎えたニューヨーク録音作『SEVENTH AVENUE SOUTH』(1982年)、ノスタルジックな世界観を持ったコンセプト・アルバム『冒険王』(1984年)、全曲に映画のタイトルをそのまま名付けた『LAST PICTURE SHOW』(1986年)、自身の故郷でもある東京を意識して作った『東京物語』(1989年)といった傑作を生み出した。
1995年には、ソニーを離れてキティへ移籍。リメイクを含むアルバム『ANOTHER TOMORROW』(1996年)や、宮沢和史との共作曲を含む『FESTA DE VERAO』(1996年)などを発表する。1998年にはキューン・ソニーに移籍し、かせきさあいだあと組んだ楽曲を含む『PURPLE IN PINK』(1999年)で話題を呼んだ。そして21世紀を迎えると、オリジナルにこだわらず、ヴォーカリストとしての活動の幅を広げることになる。スタンダードを歌った『NUDE VOICE』(2001年)、ラテンやボサノヴァのカヴァー集『BLUE NUDE』(2002年)、南佳孝TAKIBI隊名義のピースフルな作品『camp』(2008年)などによって、彼の音楽性の深さを見せつけられるのだ。
精力的にリリースを重ねているのはもちろん素晴らしいが、南佳孝の最大の魅力はライヴ・パフォーマンスにあるといっていい。弾き語りからバンド編成までそのスタイルは様々で、オリジナルであろうがボサノヴァのカヴァーだろうが、アーバンなイメージは一切崩れない。個性的なスモーキー・ヴォイスさえあれば、一声で南佳孝にしか生み出せない空間を作り上げるのだ。名曲を音盤で楽しむだけでなく、ぜひ生のライヴにも触れてもらいたいと思う。そして、現在進行形のシティ・ポップにどのような影響を与えたのかをまざまざと感じていただきたい。
公演情報
南 佳孝 LIVE ~ラジオな曲たちⅡ~ビルボードライブ大阪:2019年11月1日(金)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ東京:2019年11月8日(金)
1st Stage Open 17:30 Start 18:30
2nd Stage Open 20:30 Start 21:30
>>公演詳細はこちら
INFO: www.billboard-live.com
BAND MEMBERS
南 佳孝 / ミナミ ヨシタカ (Vocals, Guitar)
バカボン 鈴木 / バカボン スズキ (Bass)
鶴谷 智生 / ツルヤ トモオ (Drums)
住友 紀人 / スミトモ ノリヒト (Saxophone)
松本 圭司 / マツモト ケイジ (Piano)
関連リンク
Text: 栗本斉
オールタイムベスト~CUARENTA~
2013/09/25 RELEASE
MHCL-30176/9 ¥ 4,715(税込)
Disc01
- 01.摩天楼のヒロイン
- 02.おいらぎゃんぐだぞ
- 03.ピストル
- 04.これで準備OK
- 05.ブルーズでも歌って
- 06.月夜の晩には
- 07.ソバカスのある少女
- 08.風にさらわれて
- 09.朝もやの中を
- 10.日付変更線
- 11.プールサイド
- 12.夜間飛行
- 13.モンロー・ウォーク
- 14.Marie,Come Back
- 15.Lion Under The Moonlight
- 16.Simple Song
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