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UKヒップホップ界の雄が語る“自分らしさ”とは?― ルーツ・マヌーヴァ 『Bleeds』インタビュー

ルーツ・マヌーヴァ インタビュー

  今やUKを代表するラッパー/MCと言っても過言ではない、ルーツ・マヌーヴァことロドニー・スミス。遊び心溢れる、ウィットに富んだリリックでUKストリート・カルチャーの“リアル”を描写し続け、ゴールド・ディスクを獲得した2ndアルバム『Run Come Save Me』が栄誉ある【マーキュリー・プライズ】にノミネートされるなど、ソングライター/リリシストとして世界中から賞賛を浴びる彼。レフトフィールド、ゴリラズ、ジェイミー・カラム、DJシャドウ、コールドカット、ザ・マッカビーズなど、これまでコラボしてきたアーティストは数知れず。ジャンルを超えてリスペクトされる唯一無二の存在だ。
 デビュー・アルバム『Brand New Second Hand』から約15年…約4年ぶりとなる最新作『Bleeds』のリリースを10月に控えるルーツ・マヌーヴァ。エイドリアン・シャーウッド、スウィッチ、フォー・テット、マシーンドラムらの気鋭プロデューサー/ビートメイカーらを迎え、制作された新境地とも呼べる今作についてロドニーが語ってくれた。

きっとテクノロジー無くして、エクスペリメンタル・ミュージックを
知ることも、作ることも無かった

One Thing
▲ 「One Thing」 (Audio)

−−デビュー当時から、とても精力的に作品をリリースしている印象ですが、新作『Bleeds』は4年ぶりのスタジオ・アルバムとなります。今作をリリースするまで少し時間がかかったのは、どんな理由があったのでしょうか?

ロドニー・スミス:今度のアルバムは正式なアルバムとしては6枚目、自身の作品集としては9枚目のアルバムになる。時間がかかったのには特別な理由はなくて、自然に身を任せて、作りたい曲を書いたりしながら過ごしていたら、いつの間にか時間が経ってしまった感じだな。

−−前作『4everevolution』は数曲を除き、自身でプロデュースを手掛けた曲が大半でした。今作では様々なプロデューサーを起用していますが、ソングライティングとヴォーカル&MCにフォーカスしたい、という想いがあったのですか?

ロドニー:いや、特に意識してそうしたわけではないんだ。私はいつも作品を作る仲間は全員同じチームで作業していると思っているから、今回はそのチームの人数が増えたって言うだけで特別いつもと違うことは無かった。通常は70~80曲くらいの楽曲の中から作業する感じで、皆プロフェッショナルだから、自分がやるべきことをわかっているし、とてもやりやすかった。

Facety 2:11
▲ 「Facety 2:11」 (prod. Four Tet)

−−先行シングルとして公開された「Facety 2:11」はフォー・テットとの共作ですが、ビートやエディットの手法によって言葉が持つパワーとインパクトがより強調されています。これはキエランと曲作りをする上で、意識していたことだったのですか?因みに、この2:11とは何を表しているのですか?

ロドニー:本当に真面目なやつだよ。音楽に真摯に向き合ってるっていうのが本当によくわかる。とてもよく働くしね。彼は私がやりたいと頭の中で描いていることのカケラを拾い集め、そこからイメージに合うものへと仕上げていくんだ。そういう意味でも一緒に仕事ができてとてもラッキーだと思ってる。

2:11に特に意味はないんだ…強いて言えば私のラッキー・ナンバー。何故かと聞かれてもわからないけれど。

−−あなたが書くリリックは、ウィットに富んだものやクレバーな言い回しが多いのが特徴的ですが、今作で特に気に入ってる表現、一節はありますか?

ロドニー:このアルバム自体が一つの大きな会話の流れになってるんだ。あえて選ぶなら「I Know Your Face」かな。

−−「I Know Your Face」はシネマティックなサウンドスケープとドラマチックなヴォーカルのコントラストが印象的ですが、マックス・リヒターの「On The Nature Of Daylight」をサンプリングしようと思ったのは?

ロドニー:プロデューサーであるフレッドの提案だったんだけど、私はこの曲自体知らなかったんだ。ただそんな感じのエッセンスを入れたいという思いだけは、ずっと持っていた。

フレッドと一緒に仕事をしなければこの曲も知らなかったし、それがサンプリングされたものだとも知らなかった。彼のおかげでまさにドラマチックでカッコイイ曲が完成したんだ。チームで作業する醍醐味はそこだね。

Like a Drum
▲ 「Like a Drum」 (prod. by Machinedrum)

−−では、エイドリアン・シャーウッドとの仕事はいかがでしたか?

ロドニー:実はエイドリアンは、このアルバムの作業が終盤に差し掛かって参加してくれたアーティストなんだけど、以前からエイドリアンの大ファンで、一緒に作業するなんてまるで夢のようだった。

エイドリアンとの作業はとても自然でリラックスした雰囲気で、彼の自宅スタジオで作業していたんだけど、スタッフ含めて全員の食事を作って振る舞ってくれたり、私が音楽に集中出来るような環境を整えてくれた。おかげで音楽に没頭出来たし、素晴らしい仕上がりになったんだ。彼といるとなんだか自分はメディテーションしているような、そんな感じに思えたね。

−−テクノロジーやインターネットのおかげで、現在のダブ/ベース・ミュージック界は目まぐるしく進化していっていますが、そういう点を踏まえて、今作のサウンドメイクはどのようにアプローチしましたか?

ロドニー:テクノロジーの進化は本当に凄いと思う。そのおかげでこうやって色々な音楽が出来る。だからそこは本当に素晴らしいと思うよ。私はテクノロジーの変化によってエクスペリメンタルなジャンルを知ることが出来たんだ。きっとテクノロジー無くして、エクスペリメンタル・ミュージックを知ることも、作ることも無かったと思うけど。

−−エイドリアン、スウィッチ、マシーンドラムやフレッドらと仕事をしたことは、これまでの自身のダブ/ベース・ミュージックの解釈に影響を与えましたか?

ロドニー:もちろん。でも影響を受けると言うよりは“挑戦”という言葉が合ってるかな。色々な人と一緒に仕事をさせてもらうのは、とてもチャレンジングだな、って思うんだ。

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自分もその一部になって、世に作品を送り出したい

Bleeds
▲ 「Bleeds」 (Audio)

−−アルバムのラストを締めくくる「Fighting For?」にかけて、自分が“戦う”価値があるものがあるとしたら、それは何でしょう?

ロドニー:実はこの曲は“戦う”人に向けて「そんなことをして何になるんだ?」と問いかける歌なんだけど、人間は誰しも戦闘本能が根底にあると思うんだ。でも人間としてもっと上のレベルに到達するためにはその感情をコントロールして“戦う”ことを捨て去ることが大事だと思うんだ。この曲はそのことに対して投げかけ、最終的には戦わず、もっと人間として磨きをかけようぜ、っていうことを歌っているんだ。

−−では、アルバム・タイトル『Bleeds』についてですが、プレス・リリースには「I’m ready to bleed for the artform.」という言葉が綴られていましたが、これはどんな意図で綴った言葉ですか?

ロドニー:はははははは!(笑)これは英語特有の表現かもね。“Bleed”っていうのが自分の身を投げるという感じの意味なんだけど、アートってくくりが難しいだろ?でも私は、どんな形であれ、色々なアートを受け入れて、自分もその一部になって、世に作品を送り出したいんだ。

−−このタイトルは、自身の多様な音楽性を示唆したものでもあると思います。そんな中で“ルーツ・マヌーヴァ”らしさを決定づける要素とは?

ロドニー:新しいことに挑戦すること、コンテンポラリーであったり、ローファイなところなんかが、自分らしさじゃないかと思うね。

−−これまでに自身の曲をリミックス、ダブなど様々なヴァージョンとして発表していますが、これらは曲を作っている際に生まれているのですか?もしそうであれば、アルバムにはどのヴァージョン相応しいか、どのように見極めているのですか?

ロドニー:いや、別に決めてるわけじゃないよ。作業していくうちにもっとこういうのがやりたいとか、イメージが色々あれば違うヴァージョンも作るだろうけど、ものによっては作らない事も多々あるし。

写真

Love For $ale ft. Roots Manuva
▲ 「Love For $ale ft. Roots Manuva」MV

−−2013年にリリースされたジェイミー・カラムのアルバム『モーメンタム』収録の「Love For $ale ft. Roots Manuva」は、どのような経緯で出来上がったのですか?コール・ポーターのような、ある意味クラシカルでトラディショナルなソングライターの楽曲を再構築する上で、学んだことや発見したことがあれば教えてください。

ロドニー:これはジェイミーのおかげで出来たんだ。元々ジェイミーと「Witness」でジャムをしていたんだけど、彼が「Love For Sale」に「Witness」を当て込んだことでこういう仕上がりになったんだ。再構築したのはジェイミーだし、自分は特に何もしてないよ(笑)。元の曲すら知らなかったから。こうやって色々な人と仕事をすると多くの発見がある。

−−昨年、デビュー・アルバムの『Brand New Second Hand』がリリースから15年を迎えましたが、今振り返ってみて、あなたにとってどんな作品でしたか?

ロドニー:光栄に思ってるよ。当時はとにかく自分がやりたいと思ったことをなんでも盛り込んでいた。最近はシングルばかりをリリースしているけど、やっぱりアルバムを作りたいと思うんだ。やっぱり作品としてアルバムを作るってことはシングルをリリースすることと違う意味を持っていると思うし。

−−このアルバムが作られた当時に比べると、音楽の制作環境やツールも大きく変化したと思います。テクノロジーが自分の音楽にもたらしたポジティヴな変化とは?

ロドニー:そうだね、メカニカルに色々変わっているよね。それによってできるアイディアがとても増えていると思う。そこにいたるまではとても長い道のりだったような気もするし。でも一度プラットフォームが出来てしまえば、あとはそこにプラスしていく流れになる。

−−最後に、音楽をやり続ける原動力、モチヴェーションとなっているものは、デビュー当時と同じでしょうか?それとも年々変化していますか?

ロドニー:とにかく私は音楽に執着しているんだ。毎回アルバムを作るたびに、これが最後かもしれないと思いながらアルバム作りに励んでいるけど、アルバムを作り終えると、また次のアイディアが浮かんできて結局それが膨らんでいく、って感じなんだ。

音楽は自分の一部であり、尊敬するアーティストや日常からインスピレーションを得ることが創作の原動力になっているね。

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