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YUI for 雨音薫 『Good-bye days』 インタビュー
昨年デビューした新人の中で最も注目と人気を集めていた女性シンガーソングライター、YUI。力ある女性の表現者が数多く世に誕生するようになって久しいが、不器用ながらも懸命に想いを込めて歌うスタイルでこれだけ脚光を浴びたのは彼女が初めてではないだろうか。その自覚があってか、2回目となる今回のインタビューで彼女は、どんな質問に対しても素早い反応を示した。前回は懸命に言葉をひねり出しているイメージが強かったのだが、なんという成長の早さであろう。たかだか半年足らずでYUIは、しっかりと自立した大人の女性を匂わせるようになっていた。
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--前回のインタビューが『TOKYO』リリースタイミングだったので、今回は半年ぶり二度目のインタビューになるんですが、この期間、初めての全国ツアーや初主演映画「タイヨウのうた」の公開もあったりで、お忙しい日々を送っていたと思うのですが、体調を崩したりしてませんか?
YUI:元気ですね。北海道に2,3日前に行ってきて、東京とはかなりの温度差だったんですけど、全然平気みたいで。元気すぎて逆に心配ですね(笑)。
--今日はニューシングル『Good-bye days』の話はもちろんなんですが、まず先日の全国ツアーについてのお話を聞かせてください。デビュー後初の全国ツアーだったわけですが、回ってみていかがでした?
YUI:ツアーが終わった後、バンドメンバーと「次は50回(公演)だね!」とか、無謀なことを言っていたんですけど(笑)それぐらい良いツアーになったんじゃないかなと。始まる前から「ちゃんと一回一回を大切にしていきたい」と思ってましたし、実際に始まってからは、もっとライブというものを知れたような気がしますね。ストリートライブはデビュー前からやってましたけど、ライブハウスでのライブを今回はたくさんやることができたので、新たに知ったことが多かったですね。
--僕はSHIBUYA AXでの東京公演を観させてもらったんですけど、あんなに気合いと熱を感じさせるYUIさんのライブを初めて観ました。やっぱり初のツアーというところでかなり気合いは入っていたんですか?
YUI:そうですね。かなり緊張の糸というか、集中の線は太かったと思いますね。ツアーが始まる前は不安に押し潰されそうになったりもしたんですけどね。かなりプレッシャーというか、「完璧なモノにしたいな」と思っていたので、それに向けての覚悟ができるまではウジウジ考えたりもして(笑)。
--自分の手応えとしてはどうでした?今回のツアーは。
YUI:全然未熟で、「かなり頑張らないといけないな」と思うんですけど、もちろん。でも私の気持ち的には「楽しみたいな」と思っていたので、そこは自分なりにひとつひとつクリアーしていけたのかなって。あとバンドとしてライブができたのが嬉しかったです。バンド、好きなので。またバンドで回りたいなと思ってます。
--あとあのツアーには、「老若男女」や「東京特許許可局」といった早口言葉をやたらみんなと言い合いたがってましたが(笑)あれは急に思い立ったの?
YUI:大阪でのライブ中のMCで「老若男女」と言おうとして噛んでしまったのがキッカケですね(笑)。客席には、子供を肩車してあげてるお父さんがいたり、家族連れの方も結構目に入ったんですよ。それが嬉しくて「老若男女、ひとつになって楽しみましょう」と言おうとしたんですよ。でも噛んでしまったので、「じゃあ、老若男女をみんなで言いましょう」みたいな(笑)。その後、他に言いにくい言葉をお客さんに挙げてもらって、東京特許きょきゃ・・・きょっか(ここでも噛む)。
--東京特許許可局(笑)。
YUI:それを教えてくれたので、じゃあそれもみんなで言い合おうと思って。みんなと声を出し合えたら嬉しいなと思ったので、やるようになりましたね。
--非常に斬新なコール&レスポンスだと思いました(笑)。そしてあの日のライブで一番僕が印象に残ったのが、最後の『TOKYO』の弾き語り。マイクも使わずにギターとその声だけで披露してくれましたが、あの曲やっぱりあのスタイルで歌いたかったの?
YUI:私は福岡でストリートライブをやっていて、『TOKYO』という曲はその福岡から離れて上京するっていう歌なので、やっぱりストリートの感じ、最後は原点に戻って歌いたいなと思ったんですよ。音楽の道に足を踏み入れるキッカケになったのが、ストリートだったので、すごくあのスタイルで歌うことは自分の中で大事なんですよね。あと一人でストリートで歌っていたところ~あの場所まで、ちゃんと自分なりの歩き方で来たっていう部分で、感慨深いものはありました。なんかこんなこと言うと、おばあちゃんみたいだけど(笑)。
Interviewer:平賀哲雄|Photo:齋藤卓侑
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--今回のツアーはファーストアルバム『FROM ME TO YOU』を引っさげてのツアーでもあったわけですが、あのアルバムの収録曲の中で新たにツアーでやってみて、特に印象に残った曲とかってありました?
YUI:『Merry・Go・Round』。面白い楽曲じゃないですか、まぁエレキでやってるのもあって。ポップだけどロックな場面もあったりして、自分の発想で出来上がった曲だけど、面白いなって。あとは『Spiral&Escape』。もっとXTCみたいに踊れるぐらいにしたらカッコイイと思うんですけど、私の曲ではあれぐらい。でも格好良かった。
--これは僕の勝手な持論でもあるんですが、楽曲ってやっぱりライブを重ねていく中で成長していくものだと思うんですよ。そういう意味ではどの曲もあのツアーで大きく成長したんじゃないかなと感じているんですが、自分ではどう思いますか?
YUI:そうですね。バンドとも何も考えずに合わせられるようになってきたりすると、すごく楽しくなりますよね。やっぱりライブをやっていって出来上がった曲のレコーディングとかしてみたいと思いました。そういう自主制作的な方がかなり楽しいと思うし、それは結構自己満足に近いモノになっちゃうかもしれないけど。でも“YUI”としては、皆さんを笑顔にしたりとか、家族で応援してくれる人たちもいるので、みなさんに届ける音楽をやっていきたい。ただミュージシャンとしては、もっと遊びたい。そういう気持ちはもちろんある。
--その両面を踏まえた上での曲作りはまた新たにしてるんですか?
YUI:そうですね。もう7,8曲は。自分の中で作ってるデモとかもたくさんあるんで、それを合わせると結構な数になる。あと『FROM ME TO YOU』は数百曲作った中から選んだ曲を収録しているので、まだ世に出てない曲はたくさんありますね。でもこれからはテーマ性とかを決めて作っていきたい。海外のアーティストのアルバムとかって、テーマ性とか重要視されてるけど、もっとそういう、そのときにしかできないアルバムを作りたい。でも基本はマイペースに。
--初の全国ツアーを終えて、またひとつYUIさんにとって大きなイベントが始まりました。映画『タイヨウのうた』の公開。撮影自体は去年の段階で終えていたと思うんですが、自分ではあの作品にどんな印象や感想を持っていますか?
YUI:すごく純粋な映画だと思いますね。やっぱりこの映画は、家族とか恋人とか友達とか、大切な人と一緒に観てもらいたい。個人的には、撮影のときに模索と葛藤と試行錯誤をした末に生まれた映画でもあるし、純粋に映画の中で伝えたいことをすごく考えたというのもありますし、いろんな想いが複雑に混じってますね。私がこの映画を通して大事にしたいと思ったのは「雨音薫(YUIが演じた『タイヨウのうた』の主人公)が生きてる真実を伝えたい、嘘じゃないってことを伝えたい」ということだったんですけど、出来上がった映画を観たときに「あ、雨音薫だ」とちゃんと思えたんですよ。「私はどこに行っちゃったんだろう?」て思うぐらい(笑)。すごく良い映画だと思うので、観てもらえたらなと思います。
--前回のインタビューでは、まだ公開前ということで詳しく映画の話は聞けなかったんですが、実はあの後すぐに試写会で『タイヨウのうた』を観させていただいたんですよ。それで思ったのが初めて出る映画であのストーリーと共演者、変な言い方ですけどすごく恵まれているなと。
YUI:そうですね。それはすごく実感してます。
--最初に脚本を読んだときはどんな気持ちになりました?
YUI:最初に脚本を読んだときは、客観的に小説を読むみたいに読んだんですけど、自分がその中の主人公を演じるってなったときに“病気”というのがすごく大きな問題で(雨音薫は“色素性乾皮症(XP)”という病気に冒されている)。やっぱり戸惑いましたね。いろいろインターネットでその病気のことを調べて、その病気を抱えた子供を持つ親のホームページとか見たんですけど、もっと戸惑うばかりで。それで何も用意できないまま撮影に入ったんですけど、雨音薫にとって病気は生まれつきで、父親からは「個性だ」と言ってもらっているので、薫にとって病気は改まって問題視することはないんだなって分かって、それで少し楽にりましたね。ただ映画の仕事をしたこと自体が、これは悪い意味に捉えてほしくないんですけど、深い傷みたいに残ってるんですよね。私はただ喋ることさえも得意ではないというところで、やっぱりプレッシャーもあったし、初めてのことなど見えない部分が多くて、苦しかった。体で何かを表現するっていうのはかなり難しくて、監督の言ってることは分かるんだけど、それができないのが悔しかったりもしました。
Interviewer:平賀哲雄|Photo:齋藤卓侑
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--あと共演者の皆さんの印象も伺わせていただきたいんですけど、まず不器用ながらも娘を愛する父親役を演じた岸谷五朗さんはどんな方でした?
YUI:岸谷さんは自然な方でしたね。最初お芝居を目の当たりにしたときは、圧倒と感動がありました。演技じゃなくて、本当に自然なんですよね。なので会話はあんまり交わさずとも、いろんなことを感じさせてくれました。
--そして病気の娘を持ちながらも力強く在り続けた母親を演じた麻木久仁子さん。彼女はどんな方でした?
YUI:お会いするまでは、堅いイメージを持っていたんですけど、実際にお会いしたらすごく気さくな感じで、親しみを込めてお話ししてくれるから、そこで緊張がひとつ解けたりしましたね。
--そして彼女の病気を知っても一途で在り続けた青年を演じた塚本高史さん。役者の世界における若手のホープですが、彼とは一緒に仕事してみていかがでした?
YUI:塚本さんには、衣装合わせのときに挨拶させていただいたんですけど、そのときは「髪が長い」という印象ぐらいしかなかったんですけど(笑)、実際に撮影に入ってみたらすごく仕事に真剣な方で。あと私がオドオドしていたら話し掛けてくれたりとかして、安心させてもらったりもしましたね。
--で、そのYUIさんの演技の中で一際光ったのが『Good-bye days』を歌うシーンだったわけですが、この曲を実際にレコーディングするときは役になりきった感じなんですか?それともいつものようにYUIとして歌ったものがあの映画の中の女の子に重なった感じなんでしょうか?
YUI:メロディを書いたのはまだ撮影前だったので、台本を何度も読んでから書いたんですよ。小説のように台本を読んで、私の中に浮かんだ映像や世界観、空気感をメロディで表現して。詞に関しては、撮影始まってから同時進行で書いていったので、雨音薫の気持ちをもっと込めて書いていきましたね。それでレコーディングは、撮影の最後の方でやったので、かなり雨音薫の気持ちが強くなった状態で歌うことができて。なので仕上がりを聴いたとき「この曲は雨音薫が歌ってるな」と思いましたね。
--ちなみにYUIさんの中での“雨音薫(あまねかおる)”という女の子はどんなイメージなんでしょう?
YUI:やっぱり「無邪気で、明るくて、可愛い」っていうイメージがあります。乙女というか。で、私は撮影のちょっと前に映画『魔女の宅急便』を観ていて、それで「雨音薫ってキキ(『魔女の宅急便』の主人公。魔女の女の子。)にちょっと似てるんじゃないかな」って思ったんですよ。だから撮影中に行き詰まりそうになったりしたら、キキのことを思い出して(笑)。『魔女の宅急便』って映画自体、すごく優しくて、夢のある物語じゃないですか。だからそれを思い浮かべると、元気になるんですよね。
--不器用ながらもまっすぐに生きていくところがリンクしたりしたんでしょうね。
YUI:そうですね。キキも雨音薫もちゃんとぶつかる時期があって。その後、何かしらの答えを出していく。そこは同じですよね。
--『Good-bye days』に込められた想いとしては、どんな想いが込められているんでしょう?
YUI:これは映画の中の話なんですが、途中で雨音薫が歌っている『Good-bye days』と最後に雨音薫が歌っている『Good-bye days』は聞こえ方が違うと思うんです。途中のときは好きな人への想いを書いてるんですよね。でも最後のレコーディングシーンのときは「今までありがとう」というか、「愛されてたなぁ。幸せだったなぁ。」「みんな明るく前向きに生きてもらいたい」といった素直な気持ちが込められているんですよね。だから『Good-bye days』という言葉に対して、すごく大きな意味はあると思うんですけど、「さよなら」より「ありがとう」が強い。だからこそ『タイヨウのうた』は切ない映画だと思うんですけど、でも悲しいだけじゃない。
--僕はこの曲が映画のエンディングでああいう使われ方をしたことに対して、YUIラジオで竹内結子さんも言ってましたが「ズルイな」と思いました(笑)。あれ以上に感動的な使われ方はないですよね?
YUI:そうですね。「完璧に雨音薫が歌っているな」と思いました。やっぱりひとつひとつの仕草に薫が出てると思います。最後、歌い終わったあと、微笑むような感じになるんですけど、あれって本当にそういう状況に陥った人しかできない表情なんじゃないかな。そう思うんですよ。だからやっぱり「薫だな」って思う。
Interviewer:平賀哲雄|Photo:齋藤卓侑
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--今後もそういうスタンスで曲を作るのって、機会があればやっていきたい感じですか?
YUI:私、いつも委ねてる方なので、映画のお話も想像していなかったのでビックリしたことなんですよ。でもこうやってたくさんの人がひとつの事に向かっていくってことに「関われることができて本当に良かったな」って今思うので、またこういった想像していなかったことが起きたときも自分なりに考えて、精一杯やっていきたいなとは思います。
--そのニューシングル『Good-bye days』のカップリング曲についても触れていきたいんですが、まず『Skyline』。この曲はどんなイメージを膨らませながら作っていった曲なの?
YUI:これは映画の撮影中に「横浜でのストリートライブのシーンで歌う曲」ということを聞いていて、あと「アップテンポの曲」と聞いていて、作った曲なんですよ。で、実はこの曲は最初、ピアノから始まる曲だったんです。ピアノをなんとなく弾いていたら開放的なコードを弾いていて、それからどんどん作っていったんですけど、かなり明るい曲に仕上がりましたね。あと詞的なことを言うと「頭の中で考えてちゃダメだ。行動しなきゃ」っていう雨音薫の気持ちが込められてます。
--続いて『It's happy line』。天神の路上で手売りしていた時代の音源が今回改めて収録されていますが、この曲を今作に入れようと思ったのは?
YUI:映画で使われていたからですね。この曲は、インディーズ時代にストリートで手売りしていたシングルに入っていた曲なので、かなり福岡の思い出が強いですけど、でも撮影しているときは雨音薫のモノとして歌っているので、「また違った風に聞こえたよ」って言ってくれる方もいたりして。でもこのシングルには、インディーズ時代の音源がそのまま入っているので、また感慨深いものがありますよね。
--そういう意味では『It's happy line』はYUIさんにとって始まりの歌でもあるわけですが、あの頃思い描いていた未来に今は立てている感覚はあったりしますか?
YUI:そうですね。もちろん実感もありますし、「一番大事なのは、続けていくことだ」って思っているから、とりあえずどんなことがあっても「やっぱり音楽を続けていけたらいいな」って。「音楽が好きだな」っていう気持ちは『It's happy line』を作った頃から強いし、幼い頃からあるものなので「そういう気持ちをなくしたくないな」って思いますね。
--今年は特にファーストアルバムのリリースもあって、初の全国ツアーもあって、初主演映画もあって、とにかく新しいことへのチャレンジが続いていますが、この先も今までしたことがないことを精力的にやっていきたい感じですか?
YUI:いや、私、いつも前向きに音楽のことしか考えてなかったりするので、もちろん映画の事なんて考えてなかったですし、でも関わると決まったらちゃんと覚悟してやる。でも映画まわりの仕事が終わったら音楽だけに集中してやっていきたい気持ちは強いです。あと近い将来では、大きなフェスへの出演があるので、今年の夏はそれを楽しみにしてます。そのあとは曲作りに入ると思うんですけど、アイデアがたくさんあるのでそっちもかなり楽しみです。
--次のアルバムはどんな作品になりそうな予感がしていますか?
YUI:やっぱりどっちの面もあると思いますね。音楽的に自分で行きたいところへ行きたいし、その私の芯になる部分を聴いてもらいたいと思って作っている曲と、家族のみんなで聴いてもらええうような曲。私のおじいちゃんが私のCDをよく聴いてるらしんですけど(笑)そうやっていろんな人が聴ける曲も書いていきたい。根本的には、聴いてくれている人が笑顔になるような曲だったり、私なりに原点みたいなものを持っている曲を書いていきたいなと思いますね。でもまだ10代なので、いろいろ失敗はしたいですね。失敗して遊び心を持ちたい。この歳で「遊び心」っていうと、本当にただ遊んでる軽い感じで見られやすいんですけど(笑)今になってそれが重要なことだって気付いたので。
Interviewer:平賀哲雄|Photo:齋藤卓侑
Good-bye days
2006/06/14 RELEASE
SRCL-6278 ¥ 1,282(税込)
Disc01
- 01.Good-bye days
- 02.Skyline
- 03.It’s happy line
- 04.Good-bye days -Instrumental-
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