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ハービー・ハンコック&ウェイン・ショーター 来日記念特集
ジャズ界のレジェンドの共演。おそらく、現在考えられる最高かつ最強の組み合わせといえば、この2人といってもいいのではないだろうか。ハービー・ハンコックとウェイン・ショーター。この9月に揃って来日することが決定し、ビルボードライブでのプレミアム・ショーも控えている。それぞれの膨大な仕事を追うのはかなり困難ではあるが、ここでは彼らが残した偉業をほんの少しだけ紹介しておこう。
世界最高のサックス奏者=ウェイン・ショーター
まずは先輩にあたるウェイン・ショーターから。1933年生まれ、ニューアーク出身。ラジオから流れてきたジャズに衝撃を受け、15歳からクラリネットやサックスを始める。大学卒業後に徴兵されるが、除隊後は本格的にジャズへの道を歩み、ナイトクラブなどで腕を磨いた。ホレス・シルヴァーやメイナード・ファーガソンらと共演しているうちに、アート・ブレイキーから誘いを受け、1959年から彼のジャズ・メッセンジャーズに参加。在籍した5年間の間に、『チュニジアの夜 / A Night In Tunisia』(1960年)や『モザイク / Mosaic』(1961年)といった名盤を残している。
さらに彼の名を轟かせたのは、1964年にマイルス・デイヴィスのクインテットに参加したことだろう。マイルスにとっても黄金期といわれた最強の五重奏団から、エレクトリックの時代へと突入していった70年の大傑作『ビッチェズ・ブリュー / Bitches Brew』まで、彼のグループに在籍。そして、そこで意気投合したジョー・ザヴィヌルに誘われるがまま、1970年にウェザー・リポートの結成に関わる。彼らの活躍ぶりはいうまでもないだろう。ジャコ・パストリアスやピーター・アースキン、アレックス・アクーニャといったスター・プレイヤーを多数輩出するだけでなく、クロスオーヴァーやフュージョンの分野でも第一人者となった。また、1974年にはミルトン・ナシメントを迎えてブラジル音楽に肉迫した傑作ソロ・アルバム『ネイティヴ・ダンサー / Native Dancer』も発表している。
1986年にウェザー・リポートを解散後、ウェインはソロやセッションなどで活躍。ソプラノ・サックスをメインに、卓越したプレイは多くミュージシャンやリスナーを魅了している。2000年代に入ってからも、ダニーロ・ペレス、ジョン・パティトゥッチ、ブライアン・ブレイドというメンバーを集めてアコースティック・カルテットを結成して喝采を浴びたし、このメンバーで2013年に発表したアルバム『ウィズアウト・ア・ネット / Without A Net』は、古巣のブルーノートからリリースされてファンを驚かせた。また、ジャズやフュージョンだけでなく、ジョニ・ミッチェル、スティーリー・ダン、ローリング・ストーンズといったポップ・フィールドのアーティストからもラブコールが絶えない。80歳を超えた現在も、世界最高のサックス奏者としてジャズ・シーンに君臨している。
公演情報
BBL 8th Anniversary Premium Stage
Herbie Hancock & Wayne Shorter
ビルボードライブ東京:2015年9月5日(土)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2015年9月8日(火)
>>公演詳細はこちら
※本公演は1日1ステージ(90分)のみとなります。
INFO: www.billboard-live.com
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Text: 栗本斉
ジャンルを超越したピアニスト=ハービー・ハンコック
一方のハービー・ハンコックは、1940年生まれ、シカゴ出身。幼少時からピアノを学び、11歳でシカゴ交響楽団と共演するなど早熟ぶりを見せる。ジャズに開眼してからは数々のセッションに加わり、1960年にはドナルド・バードに気に入られて彼のクインテットに参加。1962年には「Watermelon Man」を収めたアルバム『テイキン・オフ / Takin' Off』で、ブルーノート・レーベルから華々しくソロ・デビューを果たした。その後も、『処女航海 / Maiden Voyage』(1965年)や『スピーク・ライク・ア・チャイルド / Speak Like A Child』(1968年)といった傑作リーダー作を連発。また、1963年からはマイルス・デイヴィスのクインテットに参加。他にも、リー・モーガン、ケニー・バレル、ロン・カーターといった様々なジャズメンたちとの共演を重ねていった。
1969年にブルーノートを離れて、ワーナーに移籍。ファンクやソウルに影響を受けてエレクトリック・ピアノを使うなど、徐々にそのサウンドに変化が起きていく。そして、さらにコロムビアに移籍後の1973年にはアルバム『ヘッド・ハンターズ / Head Hunters』が一大センセーションを巻き起こし、マイルス・デイヴィスと並んで新しいジャズを牽引する存在となった。この時期は、『マン・チャイルド / Man-Child』(1975年)や『サンライト / Sunlight』(1978年)などクロスオーヴァーの傑作を多数生み出している。
80年代に入ってからも、彼の先鋭ぶりは衰えなかった。1983年にはヒップホップとの邂逅をいち早く実践した「ロックイット / Rockit」を大ヒットさせ、『フューチャー・ショック / Future Shock』はMTVの時代を象徴するアルバムとしてポップ・フィールドでも高く評価された。その勢いは90年代以降も変わっていないが、一方でアコースティックでオーソドックスなジャズにも回帰するなど、バランスの良さを常に保っているのがさすがだ。また、2007年に発表した『リヴァー~ジョニ・ミッチェルへのオマージュ / River: The Joni Letters』は、グラミー賞の最優秀アルバム賞を受賞する快挙となり、健在ぶりをアピール。ジャンルを超越したピアニストとして、唯一無二の存在感で常にトップを走り続けている。
2人のレジェンドによる、“1+1”なパフォーマンス
さて、ウェインとハービーの2人の接点も、ジャズ・シーンにおいては重要な歴史のポイントとなっている。最初の大きな共演といえば、なんといってもマイルス・デイヴィスのクインテットだろう。彼らの他に、ロン・カーターとトニー・ウィリアムスという鉄壁のリズム・セクションを抱えたこのグループは、『E.S.P.』(1965年)、『ソーサラ― / Sorcerer』(1967年)、『ネフェルティティ / Nefertiti』(1968年)、『キリマンジャロの娘 / Filles De Kilimanjaro』(1968年)といった数々の傑作を生み出した。また、この時期に発表したウェインのリーダー作『スピーク・ノー・イーヴル / Speak No Evil』(1966年)、『ジ・オール・シーイング・アイ / The All Seeing Eye』(1966年)、『スキッツォフリーニア / Schizophrenia』(1967年)などでも、ハービーはサイドメンとして重要な役割を担っている。
70年代後半に入ると、ハービーが当時のマイルスのクインテットのメンバーを中心に結成したV.S.O.P.クインテットにウェインも参加。フレディ・ハバード、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスらと火花の散るような演奏を披露し。『V.S.O.P.』(1977年)、『ライヴ・イン・USA / The Quintet』(1977年)、『熱狂のコロシアム / Tempest In The Colosseum』(1977年)、『ライヴ・アンダー・ザ・スカイ伝説 / Live Under The Sky』(1979年)といった傑作を残している。
彼らの共演は他にも多数あるが、最も重要なもののひとつが、アルバム『1+1』(1997年)だ。これは、ソプラノ・サックスとピアノという完全に二人だけの演奏を収めた作品で、ミニマルな編成ながらも張り詰めたような緊張感や静謐さが濃厚さを感じさせる傑作だった。また、ウェインが手がけた「アウン・サン・スー・チー / Aung San Suu Kyi」はグラミー賞の最優秀インストゥルメンタル作曲賞を獲得するなど、名実ともにこれ以上ないデュオの傑作といわれている。
こういった共演を重ねてきたレジェンドによる、まさに“1+1”のパフォーマンスがまもなく日本でも観ることが出来る。研ぎ澄まされた感性を持つベテラン二人による阿吽の呼吸を、ぜひともビルボードライブのステージで体感してもらいたい。
公演情報
BBL 8th Anniversary Premium Stage
Herbie Hancock & Wayne Shorter
ビルボードライブ東京:2015年9月5日(土)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2015年9月8日(火)
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※本公演は1日1ステージ(90分)のみとなります。
INFO: www.billboard-live.com
関連リンク
Text: 栗本斉
1+1(ワン・プラス・ワン)
2008/09/17 RELEASE
UCCV-9367 ¥ 2,934(税込)
Disc01
- 01.メリディアンヌ|ア・ウッド・シルフ
- 02.アウン・サン・スー・チー
- 03.ソンリサ
- 04.メモリー・オブ・エンチャントメント
- 05.ヴィジター・フロム・ノーホエア
- 06.ジョアンナのテーマ
- 07.ジアナ
- 08.ヴィジター・フロム・サムホエア
- 09.マンハッタン・ローレライ
- 10.ヘイル・バップ、ヒップ・ホップ
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