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ザ・マンハッタン・トランスファー 来日記念特集
ジャズのコーラス・グループといえば、マントラ。もう何十年もの間、この事実は常識だ。マントラこと、ザ・マンハッタン・トランスファーは、40年以上ものキャリアを誇るベテラン。最初に“ジャズの”と書いたが、実際には狭義のジャズというジャンルに収まるグループではない。ポップチャートにもランクインされ、ソウルやディスコ、ゴスペルやブラジル音楽まで幅広いジャンルを網羅し、躍動感に満ちたハーモニーを聴かせてくれるのだ。年月を重ねて色あせるどころか、ますます輝きを増すコーラスの調べ。ぜひ間近で堪能してもらいたいと思うグループのひとつである。
1969年にNYで結成、1973年に4人組として再出発
ザ・マンハッタン・トランスファーは、1969年にティム・ハウザーを中心にニューヨークで結成された。当初は5人組で活動し、1971年にファースト・アルバム『Jukin'』を発表。しかし、もうひとりの中心メンバーだったジーン・ピスティリの好みであるカントリーやジャイヴなどの色が強く、よりジャジーにしたいというティムの意向によってメンバーを全員総取っ替え。ティム・ハウザー、アラン・ポール、ジャニス・シーゲル、ローレル・マッセーの4人で1973年に再出発することになる。
この初期黄金メンバーで最初に世に出したのが、1975年に発表した実質的なデビュー・アルバム『The Manhattan Transfer』だ。グレン・ミラー楽団が第二次大戦前に大ヒットさせた「Tuxedo Junction」を冒頭に収め、古き良き時代のジャズ・コーラスを奇をてらわずにモダンな印象でアップデートさせた。また、ゴスペルやリズム&ブルースなども取り上げ、たんなるオールド・スタイルのコーラス・グループではないということをアピール。結果的にジャズ・アルバムとしては異例のヒットを記録した。
ポップ、AOR、ソウルも取り込みさらに飛躍、新生マントラへ
続く『Coming Out』(1976年)は、リンゴ・スターやドクター・ジョンなどが参加した「Zindy Lou」に加え、トッド・ラングレンやマイケル・フランクスの楽曲も取り上げるなど、ポップなスタイルを打ち出す。そして、1978年の『Pastiche』では少しジャズ回帰のイメージが強かったが、ルパート・ホームズやシュープリームスをカヴァーも収め、AORやソウルからの影響もほのかに香らせた。力作が続いたが、本国の米国ではそれほど話題にならず、一方英国ではベスト10に入るほどの人気を得て、徐々に彼らの名前が世界に広がっていった。
さらに飛躍するきっかけとなったのが、1979年に発表した『Extensions』だ。交通事故で怪我をしたローレル・マッセーに代わり、シェリル・ベンティーンが加入。ジェイ・グレイドンをプロデューサーに迎え、新生マントラとしての第一弾となった本作からは、テレビ・ドラマの主題歌をディスコ調にアレンジした「Twilight Zone / Twilight Tone」がヒット。また、ウェザー・リポートの名曲に歌詞を付けた「Birdland」が、グラミー賞の最優秀ジャズ・フュージョン・ヴォーカル賞とヴォーカル編曲賞を受賞する。当然のように、米国でもビッグ・セールスを記録し、ジャジー・テイストのコーラス・グループとして頂点を極めることになる。そして1981年のアルバム『Mecca For Moderns』からはポップな「The Boy from New York City」が、ベスト10にランクインするほどの大ヒット。ジャンルを超越した人気グループへと成長した。
サントリーのCMに登場し、日本でも一躍スターに
この頃からは日本でも人気が急上昇するが、決定的だったのがサントリーのCMに登場したことだ。『Bodies And Souls』(1983年)に収められた「American Pop」などが大々的にタイアップとして使われ、本人たちのヴォーカル・パフォーマンスもお茶の間に浸透した。来日公演も頻繁に行われるようになり、ジャズ・ファンだけでなく一般的な洋楽リスナーにも認知されるという希有なジャズ・コーラス・グループとなった。
その後も、名曲「Route 66」を収めた『Bop Doo-Wopp』(1984年)、ディジー・ガレスピーやロン・カーターなど錚々たるジャズメンを起用した『Vocalese』(1985年)、モダンなブラジリアン・サウンドに挑んだ『Brasil』(1987年)、トニー・ベネットがゲスト参加したホリデイ・アルバム『The Christmas Album』(1992年)、ローラ・ニーロやフランキー・ヴァリなどと豪華なコラボレーションを行った『Tonin'』(1995年)など力作が続く。またグラミー賞でも常連となり、リリースもコンサートも安定した人気を誇っていった。
21世紀に入っても精力的に作品を発表、創設者の死を乗り越えて…
21世紀に入ってからは、ヒットチャートに上ることもなくなったが、依然としてその人気は継続。アルバム制作もコンスタントに行い、話題作も数多い。ルイ・アームストロングへのトリビュート的な作品『The Spirit of St. Louis』(2000年)、ルーファス・ウェインライトの楽曲を取り上げて驚かせた『Vibrate』(2004年)、チック・コリアを筆頭にアイルト・モレイラやクリスチャン・マクブライドなどが集結した『The Chick Corea Songbook』(2009年)といったところが、近年の代表作だろう。いずれも、追随するコーラス・グループには成し得ない企画と内容で、圧倒的な存在感を醸し出している。
1979年以来不動のメンバーだったマントラにも、悲しい出来事が起こる。2014年10月16日に、グループの創設者でありリーダーだったティム・ハウザーが72歳で逝去。活動に終止符を打つことになるかと思いきや、残されたジャニス・シーゲル、アラン・ポール、シェリル・ベンティーンという3人の絆は固く、アカペラ・グループのm-pactで活躍していた実力派トリスト・カーレスが新たに合流。ティムの遺志を引き継ぎながら、その素晴らしさは変わることなく世界中を飛び回っている。最近はテイク6とも共演ツアーを行うなど、勢いもまったく衰える気配を見せないのもさすが。彼らの素晴らしいハーモニーは、この先もずっと人々を楽しませてくれるに違いない。
公演情報
The Manhattan Transfer
Billboard Live Tour 2015
ビルボードライブ東京:2015年9月17日(木)~19日(土)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2015年9月21日(月)~22日(火)
>>公演詳細はこちら
BAND MEMBERS
ジャニス・シーゲル / Janis Siegel(Vocals)
アラン・ポール / Alan Paul(Vocals)
シェリル・ベンティーン / Cheryl Bentyne(Vocals)
トリスト・カーレス / Trist Curless(Vocals)
ヤロン・ガショブスキー / Yaron Gershovsky(Piano)
デイヴィッド・フィンク / David Finck(Bass)
クリフ・アーモンド / Cliff Almond(Drums)
INFO: www.billboard-live.com
関連リンク
Text: 栗本斉
ヴェリー・ベスト・オブ・マンハッタン・トランスファー
2010/04/07 RELEASE
WPCR-14021 ¥ 1,572(税込)
Disc01
- 01.ボーイ・フロム・N.Y.CITY
- 02.トリックル・トリックル
- 03.グロリア
- 04.オペレイター
- 05.タキシード・ジャンクション
- 06.フォー・ブラザーズ
- 07.レイズ・ロックハウス
- 08.ソウル・フード・トゥ・ゴー
- 09.スパイス・オブ・ライフ
- 10.ベイビー・カム・バック・トゥ・ミー
- 11.キャンディ
- 12.バークレー・スクエアのナイチンゲール
- 13.バードランド
- 14.ジャヴァ・ジャイヴ
- 15.ルート 66
- 16.トワイライト・ゾーン|トワイライト・トーン
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