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小野リサmeetsパウロ・ジョビン 公演特集 ~現代ボサノヴァ界最高峰のコラボレーションに注目
日本における本格派ボサノヴァ・アーティスト。そんな形容詞がもっとも似合う人物といえば、なんといっても小野リサだろう。いわゆるお茶の間にまでブラジル音楽を持ち込んだほどの親しみやすい音楽性と、その根底に流れる揺るぎないルーツは、何年経っても不動の地位を築き上げている。
夏の恒例となったビルボードライブでのコラボレーション企画も間近。ドリ・カイミ、オスカー・カストロ・ネヴィス、ダニエル・ジョビン、レニー・アンドラージといった豪華な面々が例年同じステージに立ってきたが、今年はボサノヴァの創始者アントニオ・カルロス・ジョビンの息子であり、名ギタリストのパウロ・ジョビンが登場。夏の風物詩となった日本とブラジルの交流に、新たな伝説が生まれそうだ。
小野リサは、ブラジルのサンパウロ生まれ。ブラジル音楽好きだった父親が渡伯し、「クラブ一番」というライヴ・レストランを経営していたのだが、この環境が彼女に大きな影響を与えていたことは間違いない。毎日のようにブラジルのミュージシャンが演奏する情景を見てきたという。10歳で日本に帰国するが、父は四谷に「サッシ・ペレレ」という同形態の店舗を開き、日本のブラジル音楽の発信源となっていった。ここでリサはギターの腕を磨き、ブラジル仕込みのヴォーカル・センスを身に付けることになる。
全編ポルトガル語で歌った『CATUPIRY』で満を持してデビュー
彼女の才能は、次第に各方面で話題を呼び、デビューの話も何度かあったが、どうしてもポルトガル語で歌うことにこだわったので断っていたという。しかし、1988年に大貫妙子の傑作アルバム『プリッシマ』に参加したことがきっかけで、その翌年にミディ・レコードから、希望通りポルトガル語で歌ったアルバム『CATUPIRY』を制作し、満を持してメジャーに飛び出すことになった。
初期の小野リサ作品は、うるさ型のブラジル音楽ファンでさえ納得させられる、本格的なボサノヴァ・アルバムばかりだ。1990年に発表したセカンド・アルバム『NaNa』と、BMGに移籍して作られた3作目『minina』は、2作連続で日本ゴールドディスク大賞のジャズ部門を受賞。まさに実力派としての大きな評価を得ることとなった。その後も、東芝EMI からエイベックス・トラックス、そして現在所属するドリー・ミュージックへと移籍しながらも、コンスタントに一切クオリティを下げることなく作品を作り続けている。これまでに、ジョアン・ドナートやオスカー・カストロ・ネヴィス、そしてジョビン・ファミリーといったレジェンドたちがゲストに参加していることも、真価が認められているからに他ならない。
ジャズ、ハワイアン、アジアン・ポップス…
世界を旅するボサノヴァ・シンガーに
ただ、彼女はあくまでもボサノヴァにこだわるシンガーではあるが、たんにブラジル音楽のみに固執しているわけではない。例えば、『DREAM』(1999年)ではジャズのスタンダードを彼女流に料理して大ヒットを記録した。この試みはさらに拡大し、ハワイアンとボサノヴァの親和性を浮き彫りにした『Bossa Hula Nova』(2001年)、カンツォーネや映画音楽などのイタリアン・メロディを綴った『Questa Bossa Mia...』(2002年)、往年のラテン・ミュージックを見事にブラジリアンへと転化した『Romance Latino』の3作(2005年)、ソウルやリズム&ブルースの名曲を歌いこなした『SOUL & BOSSA』(2007年)、中国語圏や東南アジアのポップスを集めた『ASIA』(2010年)などに発展し、まさしく世界を旅するボサノヴァ・シンガーとなった。
そして極め付けが、2011年から始まった『Japao』シリーズの3作品だろう。これまで、ユーミンや井上陽水のトリビュートなどのみで披露していた日本語詞による歌唱を全面解禁。日本語の美しさとボサノヴァのリズムを見事に一体化させた傑作群である。さらに最新作『BRASIL』(2014年)では、原点回帰としてボサノヴァ・スタンダードを歌い、まさにボサノヴァの女王といってもいい貫禄を見せつけてくれた。
ボサノヴァ界屈指の実力派ピアニスト、パウロ・ジョビン
さて、前述の通り、小野リサはビルボードライブでの企画ライヴの一環で、今回はパウロ・ジョビンと共演する。パウロはアントニオ・カルロス・ジョビンの息子として生まれ、ピアノがメインだった父と共演するためにギターを徹底的に叩き込まれた筋金入りの実力者である。実際に、父の晩年の作品やコンサート活動において、パウロは欠かせないメンバーとしてボサノヴァの世界を支えてきた。また、ジャズ・シンガーのサリナ・ジョーンズとのコラボレーションなども行っている。父亡き後のボサノヴァの世界を守る後継者であり、けっしてファッショナブルなカフェ・ミュージックにならない歯止め役にもなっている。
小野リサとは、『BOSSA CARIOCA』(1998年)と『Music Of Antonio Carlos Jobim: Ipanema』(2007年)、そして昨年発表の『BRASIL』といったアルバムで共演した仲でもあり、当然そのコラボレーションは、現代のボサノヴァにおいては最高峰といっても過言ではない。まさに、ブラジル音楽ファンのみならず、すべての音楽好きに体感してもらいたい組み合わせといえる。真夏の東京と大阪でどのようなステージが展開されるのか、大いに期待してもらいたい。
公演情報
小野リサ meets パウロ・ジョビン
Billboard Live Tour 2015
ビルボードライブ東京:2015年7月1日(水)~2日(木)
>>公演詳細はこちら
ビルボードライブ大阪:2015年7月3日(金)~4日(土)
>>公演詳細はこちら
BAND MEMBERS
小野 リサ / Lisa Ono (Vocals, Guitar)
パウロ・ジョビン / Paulo Jobi m(Vocals, Guitar)
パウロ・ブラガ / Paulo Braga(Drums)
フェビアン・レザ・パネ / Febian Leza Pane (Piano)
クリス・シルバースタイン / Chris Silverstein (Bass)
ボブ・ザング / Bob Zung (Flute, Saxophone)
INFO: www.billboard-live.com
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Text: 栗本斉
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