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制作秘話が明らかに!リリースから25年を迎えたマドンナの名曲「Vogue」に迫るインタビュー
米ビルボード・シングル・チャートをはじめ、イギリス、カナダ、オーストラリアなど10か国以上で1位を記録したマドンナの代表曲の一つ「Vogue」。鬼才デヴィッド・フィンチャーが監督したミュージック・ビデオで披露されたダンス“ヴォーキング”は大流行、その年の【MTV Video Music Award】では9部門にノミネートされた。2012年にマドンナがスーパーボウルのハーフタイム・ショーに出演した際にも披露され、アルバム『アイム・ブレスレス』からの1stシングルとして1990年5月20日にリリースされてから、25年の時が経った今も世界中で愛されるダンス・ナンバーだ。
この曲の共同プロデューサーで、共作者が現在55歳のプロデューサー、ソングライター、リミキサーのシェップ・ペティボーン。80年代からジャネット・ジャクソン、ニュー・オーダー、ペット・ショップ・ボーイズ、ホイットニー・ヒューストンらのリミックスを担当し、1989年に手掛けたマドンナの「Express Yourself」、「Like a Prayer」のリミックスのヒットを受け、彼女のために曲を書くことに。そこで生まれたのが、この世紀の名曲「Vogue」だったのだ。曲の25周年を記念して、シェップが20年ぶりに取材に応じ、知られざる曲の制作秘話を明かしてくれた。
「構わないわよね。私は、この曲を“Vogue”って呼ぶことにするわ。」
▲ 「Like A Prayer」 (12" Extended Remix)
??「Vogue」が米ビルボード・シングル・チャートで1位に輝いてから25年経つということに驚きました。リリースされてからこんなにも時間が経ったと聞いてピンときますか?
シェップ・ペティボーン:まったくだね。永遠に終わることのない曲のようだから。今になってもよく耳にするだろ。必ずどこかのラジオでかかってたり、それ以外の場所でも流れる、クラブとかね。こんなに時が経っても、あの曲が未だにダンスフロアを埋めることができるのは、アメイジングだね。
??自分が作ったものが、これほど長い間生き続けているというのはいい気分でしょう。
シェップ:その通りさ。とにかく、あれから25年経った感じはしないね。すごくワイルドな気分だ。
??ではこの曲がどのように完成したのか紐解くために当時へ遡りましょう。多くの人は曲がどのように作られたのか知らないと思うので。私が理解しているのは…もし間違っていたら教えてください…(1989年当時マドンナのレーベルだったワーナー・レコーズのダンス・ミュージック部門を統括していた)クレイグ・コスティッチからマドンナのために曲を書いてくれないかとオファーを受けた。その曲は当初「Keep It Together」(『ライク・ア・プレイヤー』からの5thシングルで、オフィシャル・リミックスはシェップ自身が担当)のBサイドになる予定だった。
シェップ:その時点で僕はマドンナお気に入りのリミキサーだったと思うんだ、だから彼女の曲のリミックスを手掛けていた。彼女の『YOU CAN DANCE』に携わり(シェップは「Into the Groove」と「Where's the Party」のリミックスを担当)、後は曲の追加プロダクションの大部分も担った。たとえば「Like A Prayer」は、僕が手を加えたシングル・ヴァージョンを彼女は選んでくれた。
??それに(7インチシングル・リミックス・バージョンを含め)「Express Yourself」の最も有名なリミックスはあなたが手掛けたものですよね。
シェップ:あれは完全にリプロダクションしたもので、音楽をほぼ全部僕が書きかえた。「Express Yourself」の場合は、ゼロからスタートしたんだ。彼女はそこにとても感心したみたいで、すごく…気に入ってくれたと思うんだ。レーベルも気に入ってくれたし…ビデオはアルバム・バージョンを元に撮影されたんだけど、後から僕のバージョンをシンクロさせてる。ビデオを観ればわかるけど、回転台にホーン奏者がいるものの実際にホーンの音はしない、その部分は僕が取り除いてしまったからね。
??(リリースされた当時に)オリジナル・ビデオが流れているのを観て、その数週間後に新しいバージョンが流れ始めたのを覚えてます。ある期間、VH1やMTVなどでは2種類(アルバム・バージョンに合わせたものとシェップのリミックスに合わせたもの)のビデオが流れてて、それを見て「一体どうしたんだ?このニュー・バージョン最高じゃないか。」って思いました。もちろん、あなたのバージョンです。なので、明らかにマドンナはあなたのことを気に入ってたということですよね。
シェップ:そうだね、それに僕がNYの(ラジオ局)WBLSとKISS-FMで働いていた頃から彼女とは友人で、長年の知り合いなんだ。そして彼女はマドンナになり、僕はアルバム制作に携わるようになった。で、クレイグから僕らの相性を見極めるために、彼女のために曲を書いて欲しいと言われたので、書いたんだ。彼女は曲を気に入ってくれた。スタジオにやってきた時に「構わないわよね。私は、この曲を“Vogue”って呼ぶことにするわ。」と言われたよ。その時点で“ヴォーギング”は過去の存在になりつつあった、少なくともアンダーグラウンド・ダンス・シーンでは。終わっていたわけでなないけど、とにかくやり尽くされていた、とでも言っておこう…。
??その話を打診された時、「Bサイドになる予定の曲を作る。」や「マドンナのために曲を書いて欲しい。」という最終的な目的のようなものはあったのですか?
シェップ:よく覚えてないな。Bサイドになるって話だったと思うけど、100%確かじゃない。
??というのも(「Like A Prayer」の一つ前にリリースされたシングル)「Oh Father」は、チャート上あまりいい結果を残さなかった(最高位20位で、TOP10圏内にランクインしなかったのは1984年以来初めて)。そして当時はシングルのセールスを促すために、クオリティの高い曲をシングルのBサイドに入れることはよくあったことでした。「Vogue」は既になんとなく形になっていた曲だったのですか?それともマドンナからオファーを受け、彼女のために作った曲だったのですか?
シェップ:さっき話したように、彼女に「Vogue」の下敷きとなるトラックを送って、曲にのせて、彼女が詞を書き、ヴォーカルを吹き込んだ後に、彼女の詞によりフィットするように音楽を少し変えたんだ。
??今でも記憶している変化で、読者でも気づきそうなものはありますか?
シェップ:う~ん。ピアノは彼女がヴォーカルを録音した後に追加されたもの。ヴァースのベースラインも個々のヴァースに合うように変えた。変える前は、曲を通してベースラインが2小節ずつループしていて、彼女はそれを気に入っていて、そこは変えて欲しくなかったんだ。でも、僕は「どう言われようと変えるよ。」って感じだった(笑)。彼女は曲のアンダーグラウンドさをキープしたかったみたいだけど、「僕を信用して。この方法でやらせて。」って言ったら納得してくれた。彼女は曲をレコーディングした後LAに戻り、僕はそのままNYで曲を完成させたんだ。
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彼女のヴォーカルを録った場所は、
ウェスト56番通りの誰かの地下室だったんだ(笑)
▲ 「Keep It Together」 (Live in Japan '90)
??最初に打診されてからレコーディングが終わるまで、どれぐらいかかりましたか?
シェップ:そうだね~、彼女にトラックを送ってから2週間以内に、ヴォーカルをレコーディングするためにNYへやってきた。その直後、彼女は他に予定があったんだ。曲は、その後1週間ぐらいでプロダクションとミキシングを完成されて、ワーナーへ送ったよ。
??とても早い展開ですね。
シェップ:その時点では、「Keep It Together」のBサイドになる予定のスケジュールで作業が進んでいて、リリース日も近づいていたから、急いでたんだ。でも、彼らが曲を一聴すると「これはBサイドじゃないな。」ってことになって、(ワーナー・ブラザーズとして)どのように曲を世に出したらいいか、模索し始めたんだ。彼女は映画『ディック・トレイシー』に出演したばかりで、映画のサウンドトラック(『アイム・ブレスレス』)に収録されることなった。それが相応しいアルバムだったんだ。
??同アルバムのために他にも曲を提供してくれないか、という話はマドンナやレーベルからありましたか?アルバムの中で、あなたが携わった唯一の曲なので。
シェップ:ノー。アルバムは、ほぼ完成していたから。あのアルバムは、彼女が(スティーヴン・)ソンドハイムか誰かと作ったものだから。
??パトリック・レナードや他にも何人か参加していますね…。
シェップ:そう、だから出来上がっていたんだ。言ってみれば、最後に「Vogue」が付け加えられたようなものだね。
??とても興味深いですよね、これほどアイコニックな曲が1度限りの仕事から生まれたというのは。大きなプロジェクトの一部ではなく、「何が起るかとりあえず試してみよう。」という具合に。それが世紀のダンス・ソングとなったのですから。
シェップ:クレイグは僕の所へやってきて、「予算は5千ドルだ。」と言ったんだけど、それってあまり多くないよね。だって、まずスタジオを借りなければならないし、エンジニア、ミュージシャンやその他にも経費がかかる。ほんとギリギリの予算で作られた曲なんだ。レコーディングが行われた場所、彼女のヴォーカルを録った場所は、ウェスト56番通りの誰かの地下室だったんだ(笑)。
??曲の予算として5千ドルを貰ったんですね?
シェップ:そうだ。
??そして彼女は地下室でヴォーカルのレコーディングをした?
シェップ:そう、誰かが作ったホーム・レコーディング・スタジオで、2つに折れる扉が付いたクローゼットを改装したものだったっていうのを記憶してる。そこにスライドするガラスのドアを付けたものがヴォーカル・ブースだったんだ。
??すっごくアンダーグラウンドじゃないですか。
シェップ:(笑)。その通り!まさしくね。“アンダーグラウンド(地下)”だった。
??5千ドルしかかからなかったなんて、笑っちゃいますね。
シェップ:その時使ったマルチトラック・レコーダーを思い出すよ…24トラックのマルチトラックだったけど、中古だったからきちんと動いてたカードは少なかったな。だから、トラックをレコーディングする時、カードと取り出して、次のトラックのところへ動かさないと録音できなかったんだ。それを永遠とやリ続ける。それぐらい低予算だったんだ。
▲ 「Express Yourself」 (Shep's 'Spressin' Himself Re-Remix)
??25年前に比べ、今の時代がどれほど即座にレコーディングを可能にするテクノロジーに溢れているのか、手の届く場所にあるのか、というのを今の人たちは理解できてないですよね。テクノロジーが限られていたにも関わらず、あなたが携わったリミックスやプロダクションが今でもコンテンポラリーに聴こえるのは、その当時自分なりに工夫しながら前進していったゆえのことだと思います。
シェップ:そうだね、時間、予算ともに限られていた。「Express Yourself」の名前があがったけど、アルバム・バージョンのリミックス、僕が一からプロダクションを行ったバージョンと2パターンある。この2パターンのミキシングは、多分15時間ぐらいのタイムスパンで行われた。短い時間でたくさんのものを詰め込まなきゃならなかった。
??スゴイですね。
シェップ:僕はその手法(リミックスのために曲に再びプロダクションを施すこと)のイノベータ―だね。その前は、単に曲をリミックスするだけだった。パーカションか何かをトラックに加えるだけで、それがリミックスと呼ばれていた。けれど僕は音楽をすべてレコーディングし直したりしていたから。
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すごく頭の回転が速いんだ
アイディアや方向性を伝えれば、一発さ
??話は「Vogue」に戻るのですが、詞に対してアドバイスをすることはありましたか?それともすべてマドンナか書いた詞ですか?
シェップ:コーラスとヴァースは出来上がっていて、それを彼女は順番に歌っていった。付け加えたいのは…ファースト・テイク。特にヴァース。彼女はいつだって、ファースト・テイクで完璧に歌うアーティストなんだ。後から、言葉によってヴォーカルを強調させたりしなくていいし、トーンも完璧。そういう面で、彼女は素晴らしいんだ。曲の中盤はまだ出来上がってなかったから「ラップか何かを入れてみたらどうかな?」と僕が提案したら、彼女が「どういう意味?」と訊くから、「映画スターの名前とかを入れてみたらいいんじゃない。」と答えた。そして一緒に映画スターの名前をリストアップして、そこからラップが生まれたんだ。
??じゃあ、ブリッジ部分のラップは2人が出し合ったアイディアから生まれたんですね。
シェップ:そう、スタジオでね。
??クレイジーですね。
シェップ:でも、彼女は普段からそうやって作曲していくんだ。すごく頭の回転が速いんだ。アイディアや方向性を伝えれば、一発さ。曲のエンディング部分は彼女が繰り返し「C'mon vogue, let your body move to the music.」って歌ってただけだったから、「これを次のレベルへ持ってかなきゃ。」と言うと、「どういう意味?」と訊くから、その時に「Ooooh, you've got to, let your body move to the music.」という部分を僕が歌ったんだ。だからエンディング部分にも手を加えてる彼女がああいう風に曲を終えることは今までなかったし、曲にとってすごくいいフィナーレになったと思うね。
??ワオ、そうだったんですね。2人がクールな曲を作ったというのは一目瞭然ですが、当時「この曲は1位になるんじゃないか!」って思ったりしましたか?
シェップ:ノー、全く思ってないね。もちろんベストは尽くしたし、「これはいい曲だ。」とは思っていた。でも、その程度だね。WBLSのフランキー・クロッカーが自身のラジオ番組で曲を全世界初公開したんだけど、曲が終わった後に彼が「WBLSではこれまで聴いたことがないような曲だろ。」って言ってくれて、そんな風にラジオで取り上げられたのは決定的な瞬間だった。1週間も経たないうちに、全米じゅうのラジオから曲が流れていたから。(編注:1990年のビルボード誌によると曲を初めてかけてのはWQHT (Hot 97)で、リリース予定日3月27日の2日前だった)
??その時点で、あなたのキャリアに変化はありましたか?突然「アルバムをプロデュースしてほしい。」という連絡を大勢の人から受けたり?
シェップ:ノー。それまでもずっとすごく、すごく忙しかったし…。
??いや、それまで暇だったって言いたかったわけじゃないですよ(笑)。
シェップ:違う、違う、そんな風に受け止めてないよ…ただ一つ変ったことがあるとしたら…みんなが「“Vogue”のようなサウンドにしてほしい。」とその後言ってきたことかな(笑)。僕は一度やったことを繰り返すことはしたくなかった。ジャネット・ジャクソンのリミックスとか他にも似たようなグルーヴを持たせた曲はあるけど、完璧に再現することはしなかった。レコード会社の人間が、自分が一番最近作ったヒット曲と同じようなものを作って欲しいって言ってくるのは、君も知ってるよね。
??ですね。リンクがあるとすれば、『エロティカ』に収録されている「Deeper and Deeper」に、再び「Vogue」の“let your body move to the music”という詞が出てくることですかね。これは意図的ですよね。
シェップ:もちろんだよ。「いいじゃないか。とりあえず楽しもう。」っていう域に達していたから。あのアルバムを作るのは楽しかったね。
Q&A by Keith Caulfield / 2015年5月22日 Billboard.com掲載
"Vogue" (Music Video)
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レベル・ハート スーパー・デラックス
2015/03/18 RELEASE
UICS-9148/9 ¥ 3,780(税込)
Disc01
- 01.リヴィング・フォー・ラヴ
- 02.デヴィル・プレイ
- 03.ゴーストタウン
- 04.アンアポロジェティック・ビッチ
- 05.イルミナティ
- 06.ビッチ・アイム・マドンナ feat.ニッキー・ミナージュ
- 07.ホールド・タイト
- 08.ジャンヌ・ダルク
- 09.アイコニック feat.チャンス・ザ・ラッパー&マイク・タイソン
- 10.ハートブレイクシティ
- 11.ボディ・ショップ
- 12.ホーリー・ウォーター
- 13.インサイド・アウト
- 14.ウォッシュ・オール・オーヴァー・ミー
- 15.ベスト・ナイト
- 16.ウェーニー・ウィーディー・ウィーキー feat.NAS
- 17.S.E.X.
- 18.メシア
- 19.レベル・ハート
- 20.リヴィング・フォー・ラヴ (ダーティ・ポップ・リミックス) (日本盤ボーナス・トラック)
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