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古内東子×ラブソングラボ スペシャル対談

古内東子×ラブソングラボ スペシャル対談

 音楽プロデューサーの山口哲一、伊藤涼を中心にJ-POPの名曲の歌詞を分析、研究する“ラブソングラボ”。書籍「とびきり愛される女性になる。 ~恋愛ソングから学ぶ魔法のフレーズ」の番外編として、“恋愛の神様”古内東子とともに、ラブソングの作り方についてスペシャル対談を行った。

伊藤:実際は、そういう自由さが曲の魅力に繋がるんですよね。

『スロウビート』MV
▲ 「スロウビート」MV / 古内東子 × KREVA

??古内さんの音楽の作り方について教えてください。

古内東子:私は、作る作品は女性っぽい歌詞が多いんですが、作り方は男っぽいかもしれない。

伊藤涼:どうやって作ってらっしゃるんだろうって、すごく気になりながら今日来ました。すごく詞が中心なイメージがあります。フレーズを聞いていると1番と2番が同じメロディじゃなかったり、譜割が違ったり、ストーリーがずっと流れていったり。詞を先に書かれているんですか?

古内:詞を先に作った曲は、1曲もないです。

山口哲一:曲が先ですか?それとも同時ですか?

古内:同時ですね。まず、同時に一節二節作って、そこからメロディを広げていって、あとから味をつけていきます。1番と2番の譜割が違うのは、詞と曲を両方作っている人間の利点だと思います。2コーラス目になってから、「ちょっと仕掛けたいな」って思ったり、「もう少しこういうこと言いたいな」って思ったりしたら、メロディを変えちゃう。

伊藤:仕掛けたいっていうのはメロディ的な仕掛けなんですか?それとも言葉的な仕掛けですか?

古内:両方あります。

伊藤:なるほど。そういう2番にくるフレーズが、ぐっとくるんですよね。僕は作詞を教えることもあるので、その言葉のハマリ方がすごく気になる。教え子たちにはどちらかというと、基本的には1番と2番を揃えろって教えてしまうけど、実際は、そういう自由さが曲の魅力に繋がるんですよね。

古内:そうですね。アレンジ的にブレイクが欲しくて、アレンジャーさんにお願いして変える時もあるし、最後の歌入れまで微調整は続きます。

山口:歌はどんな録り方をされるんですか?

古内:今まで色んな方法でやってきました。ディレクションする人がいたり、いなかったり。

山口:ヴォーカルディレクションは、必ずこの人っていう人がいるのかと思っていました。自分でクールにジャッジできるタイプですか?

古内:そうですね。やり出すと、コーラスとかも自分でやっちゃって止まらないので、最近はけっこう任せちゃう。笑。

伊藤:今日、KREVAさんとの「スロウビート」を聴きながら来たんですが、すごく繰り返しが少ないじゃないですか。KREVAさんのラップも含め、ずーっと展開していく感じ。その意図的に繰り返さないことやメロディのちょっとした変化で生まれる”流れ”が面白い。どうやって作ったんですか?

古内:あの曲は作り方がちょっと特殊で、お互い少しずつ作って合わせていきました。

山口:ラッパーとシンガーっていう組合せは、アメリカではよくありますけど、日本では、まだ少ないですよね。この曲を聴いて、J-POPのフォーマット上で、シンガーとラッパーが一緒にやるのは、とても魅力的だなと思いました。

伊藤:「~わ」とか「~よ」とか、一貫して女性言葉を使っているのに、男性ラッパーのKREVAさんとコラボしているっていうのが、とてもギャップがあって面白かったです。特に「冗談に聞こえるでしょ。そういう言い方しかできないのよ。」っていうフレーズは、自分では絶対に出てこない言葉なので、すごく気になりました。レコーディングも同じ日にやったんですか?

古内:そうですね。歌のところは、一緒に録りました。

??山口さんと伊藤さんは、ラブソングを分析する『とびきり愛される女性になる。恋愛ソングに学ぶ魔法のフレーズ』や、『コーライティングの教科書』という本を共著で出版されています。

伊藤:コーライティング(co-writing)というのは、1人で全部作り上げるのではなく、トラックメイカーやトップライナーなど、複数の人間で協力して作品を作り上げるという方法なんですが、「スロウビート」も、いわゆるコーライティングですよね。どこまでテーマがあって、あの作品ができたんですか?

古内:最初にテーマを決めたわけじゃなかったと思います。私が最初にサビの部分を作って、KREVAさんが、それにあわせて冒頭のラップを書いて…という感じで作りました。

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  2. 古内:自分の実像から、ちょっと離れたところに
    主人公を置いているようなイメージです。
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『PURPLE』MV
▲ 「PURPLE」 MV

伊藤:他の作品も含めてですが、古内さんの歌に出てくる登場人物は、古内さん そのものなんですか?

古内:そのものではないです。私は今40代ですが、主人公が20代、30代、40代っていう風に同じように歳をとっていくのは、ちょっとリアルすぎるかなと思う。でも逆に、友達とか他人の話を歌にする人もいますが、それともちょっと違う。自分の実像から、ちょっと離れたところに主人公を置いているようなイメージです。

山口:男性目線の作品の場合は、どうやってイメージするんですか?

古内:男性目線の場合は主人公の男性の気持ちになったり、相手の女の子の気持ちになったり両方ですね。

山口:それも、自分の実体験をもとにしているんですか?

古内:そうですね。男性目線の場合は、俳優さんのことを思い浮かべることもあります。妻夫木君っぽい人。

山口:私が、妻夫木君と付き合ってたら…ってことですか?

古内:そういう意味ではなく(笑)、私が勝手に思い浮かべてる主人公が、ちょっと妻夫木君っぽい人なんです。例えば「逢いたいから」っていう曲は、“好きなんだけど好きな娘には別の好きな人がいて”っていうシチュエーションなんですが、その場合は、妻夫木君みたいな主人公がガツガツせず、笑って見守っているようなシーンをイメージしています。

山口:その景色の中には、自分はいないんですか?

古内:妻夫木君が出てきちゃうと、いないんですよ。

山口:面白いですね。笑。

古内:伊藤さんは作詞だけを教えてらっしゃるんですか?

伊藤:僕は詞も曲も教えますがディレクション的な立ち位置で教えています。同じ音楽家だと、人の作品を聴いて、「これ、つまんないよね」ってなかなか言えませんが、ディレクターだから言えることってあるじゃないですか。なので、自分1人で曲を作るっていうことは、ほとんどしないですね。

古内:俯瞰で見てらっしゃるんですね。

伊藤:そうですね。特にジャニーズ・エンタテイメントでプロデューサーをしていた時は、100%俯瞰で見れるようにならなきゃって思っていたので、自分ではクリエイターにならないように徹底していましたね。

山口:僕たち、2013年に「山口ゼミ」を立ち上げて、プロの作曲家を目指す人達に曲作りを教えているんですが、毎朝 起きると生徒と伊藤さんとのやり取りがfacebook上で繰り広げられています。僕はマネージャーみたいな立ち位置で、考え方とか音楽の聴き方を教えて、できあがったデモを伊藤さんに提出させています。今、facebookなくなると、困るよね。

伊藤:山口さんとのやりとりも、ほぼfacebookですからね(笑)。そう考えると、音楽の制作の仕方も、だいぶ変わりました。それこそ、音がなんでもデジタルで触れるようになったっていうのが一番大きい変化だったと思いますが。いまは、ほぼ何でもコンピューターで出来ちゃいますからね。

山口:テープの時代は、トラックにも限りがありましたしね。

伊藤:でも、できることは増えて便利になって、ピッチが悪いものはいくらでも直せるようになったけど、それが正解かといわれると難しいところですね。

山口:トライ&エラーができるようになったのが、ハードディスクレコーディングができるようになった一番良いところだと思いますね。

伊藤:古内さんは、1曲を録るのに、どのくらいの時間をかけますか?

古内:私は気分がのってくるまでに時間がかかるんです。「ここから本気」っていうところまでが長くて。

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  2. 古内:主人と出会うきっかけになったって、よく言われます。
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古内:主人と出会うきっかけになったって、よく言われます。

伊藤:「ここから本気」までは、何をやっているんですか?

古内:歌い続けます。

伊藤:たまに、スタジオに来て、お菓子とか食べながらずっと雑談してる人とかっていますけど。笑

古内:私は基本的にせっかちな性格なので、スタジオに入ったら何十回もずっと歌ってます。それで、気分がのってきたら5本くらい歌って録り終えるかな。トータル3時間くらいです。

伊藤:早い方ですね。

古内:せっかちですから。

山口:曲を作るのには、どれくらいの時間をかけるんですか?

古内:曲も早い方だと思います。

山口:ピアノで作られるんですか?

古内:そうですね。キーボードで作ります。

伊藤:僕が詞を書く時は、調べものにすごく時間がかかります。間違うといけないので、テーマがあったら、ひたすら、そのテーマに関する本を読む。

山口:作詞家には、そこのスペシャリティみたいなものが求められるからね。

伊藤:なので、テーマが決まったら調べあげて書き出すまでに1週間くらいかかることもあります。書き始めたら早いんですけどね。

古内:私はキーボードの前に座って、気分がのらないとやめちゃう。出てこないっていう状態が嫌だから。

伊藤:お風呂で考えるとか、走っている時に考えるとか色んな人がいますが、常にキーボードの前に座って作りますか?

古内:5~6割は頭の中に浮かんでから、キーボードの前に座ります。

伊藤:じゃあ普段生活している中で練り上げていったものを、キーボードの前で出すような感じですか?

古内:そうですね。なので、事前の構築がうまくできていると、キーボードの前に座ってから早いです。

山口:古内さんの音楽を通じて、お客様から「影響を受けました」とか「救われました」とか、色んなリアクションがあると思うんですが、特に印象に残っている言葉ってありますか?

古内:「主人と出会ったきっかけになりました」っていうのは、よく言われます。お互い、古内東子が好きだったことが分かって、ぐっと距離が縮まったって。なので、デートの時に聞いて、そのあと結婚しましたっていう話は、よく言われます。

山口:気を付けてもらわないと、別れの曲とか聴かれても責任とれませんよね。笑

古内:そうですね。笑。でも、何の曲かは関係なくて「古内東子が好き」という共通項で距離が縮まるみたいです。女性は、私の曲を“女性向けの曲”って思っているので、彼も好きだと話が盛り上がるみたい。

山口:女性ファンの方が多いのかなと思われがちですが、僕の身近な人も含め男性ファンも多いですもんね。

古内:最初の頃はライブやっても女性ばっかりだったんです。男性が、どんどん来づらくなるくらい。でも、ここ7~8年くらいは男性が増えてきて今は半々くらいですね。

山口:男性の方が長くファンでいてくれますよ。一般的には男性ファンは浮気しないって言いますからね。

古内:女性は結婚して子供産んだりしたのかなって思いますが、いなくなったファンの方たちもいますね。

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  2. 山口:恋愛自体は普遍的なものですからね。
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山口:恋愛自体は普遍的なものですからね。

古内東子20周年アルバム「and then...」
▲ 古内東子20周年アルバム「and then...」

山口:たしかに、女性は結婚や出産があるとライブに行きづらくなりますもんね。でも、そんな方たちも、そろそろ子育て終わって戻ってくるんじゃないですか? 古内さんは出産を経たことで、なにか気持ちは変わりましたか?

古内:まだ産んで3ヶ月なので、実感はないです。変わりたくないとは思っていますが、説得力はなくなるのかなあって。例えば失恋とか…。

山口:でも歌える幅というか世界は広がるんじゃないですか?

古内:ちょっと、まだ分からないです。これから、どうなっていくのか。

??5月には出産後初ライブとして、ビルボードライブにご出演いただきます。

山口:最近はアコースティックな編成のライブが多いんですか?

古内:そうですね。最近は、私+1人っていう編成が多くて、今回は私がピアノで、キーボードの草間信一さんと一緒に演奏します。出産で休んだって言っても、たかだか8ヶ月なので、お客様は「え?もうやるの?」って思ってらっしゃるかもしれないですが、私の中では色んなことがあって、伝えたい想いも色んな形で溢れでると思うので楽しみです。

??お子様は男の子か女の子か、どちらですか?

古内:男の子です。すごく手が大きいので、ピアノとかギターと、いいかなあって思ったり。

伊藤:ちょっと親ばかが始まってますね。笑。我が家は1年4ヶ月の男の子がいるんですけど、かなりワイフは変わりましたよ。

山口:どう変わったの?

伊藤:やっぱり愛情がシェアされるような感じですよね。お互いに対する愛情と、子供に対する愛情。イーブンとは言わないけどバランスを取る形でシェアされてくる。お互いに”いま愛されてる?”みたいな不満はちょっとは生まれると思うんですよ。

古内:分かります。笑。でも、そういうちょっとした不満って歌になりやすいんですよね。その気持ちをそのまま歌にするというわけではなく、満たされない気持ちがあると曲が書ける。

山口:満たされないことがある方が、曲が書けるってことですか?

伊藤:いいですね。すごく前向きな感じ。感情が震える瞬間に何かが生まれるっていうことですよね。あんまりにも満たされすぎてて、なにもない平凡な毎日だとね。

山口:表現する理由がないもんね。

古内:幸せだと泣ける曲は書けないとか、その逆とか、それはまたちょっと違う気がして。さっきおっしゃったように、心が震える瞬間があれば、トピックはなんであれ曲を書く衝動になると思います。きっかけさえあれば過去の泣いた想いとかが蘇ってくる。

山口:もともとシンガーソングライターになろうとしたきっかけは何ですか?

古内:私の場合は、姉が買ったYAMAHAのDX7をいじっていたら、とても楽しくて。

山口:で、音楽家になろうと思った?

古内:そこからミュージシャンになりたいという気持ちにたどり着くまでには、けっこう時間がかかったんですが、初めて触ったのは16歳くらいの時です。触っていると、色々曲が浮かんでくるので記録していったらすごく楽しくて。放課後いつも弾いてました。

山口:曲作りから始まったんですね。

古内:そうですね。なので自分で歌おうって思うまでは、少し距離がありました。

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  2. 古内:今の時代とは、男女のあり方も全然違う。
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伊藤:バンドブームに乗っかってとかいう感じではなかったんですね。

古内:バンドは、一度もやったことがないです。女子高だったので、まわりにも少なかったし。私は、どこかオタク気質なところがあるので、籠ってやるのが好きだったんだと思います。今になると、音楽に限らず、みんなで1つのものを作るっていうのは憧れますね。でも、その頃は1人が楽っていうことの方が勝ってましたね。

伊藤:失礼な言い方になるかもしれませんが、曲を聞いた時の印象とともに古内さんの高校生時代を思い浮かべると、休み時間に教室の端っこで、カーテンの揺れている側で座っているような女の子が浮かびます。

古内:それは全然違いますね。笑。だから、わりと周りの子に、曲を聴かれてびっくりされるんですが、どちらかというと、番長というか…。

伊藤:ええっ?!

古内:番長っていうのは語弊がありますが、私、高校に入学する時に留学して1年だぶったんです。中高一貫の学校だったので、1つ下の学年の子たちと高校1年生になったんです。高校の同学年の中には、中学時代の部活の後輩達もいたので、みんなにお姉さん扱いされて。ご意見番みたいな感じです。だから、家で曲を作っていたこと自体、周りの子たちにすごくびっくりされました。

伊藤:その作品を高校生の時に発表するという機会はなかったんですか?

古内:高校3年生の後半くらいに聴かせたりしていました。ちょうどソニーに応募したくらいの時かな。その時はテープを聴いてもらっただけだったので、ライブとかではなかったんですが、「すごいね」って言われて。まあ、すごいねって言うしかないですけど。笑

伊藤:相手は、番長ですしね。笑

??家では、ご主人に作品を聴いてもらうことはありますか?

古内:そうですね。作ると聴きたがるので。

山口:聴かれるのは嫌じゃないですか?

古内:まあ、いずれは聴かれますから。

山口:変な感想とか言われたら、むかつきません?

古内:そこは、ちゃんと分かっているみたいで意見はしないですね。「すごいね。」って言ってます。

伊藤:高校時代と同じですね。笑

山口:古内さんって、たたずまいが変わらないですもんね。歌詞だけじゃなくて、サウンドや歌も含めて。

古内:自分の中では激変を繰り返しているなって思います。この間、昔の作品を聴く機会があって色々振り返っていたんですが、恥ずかしくて聞けないものもいっぱいありました。今の時代とは、男女のあり方も全然違う。デビューした頃は、自分の両親を通じた男女の理想像というか、女性は3歩下がって、後からついていけるような男性を探すっていう命題がありました。でも、今そういう曲を書くと少し感覚が違いますよね。

山口:今の時代の恋愛観と折り合いをつけたいって思いますか?

古内:折り合いをつけたいというか、そもそも自分自身の考え方が変わってきているんだと思います。

山口:でも恋愛自体は普遍的なものですからね。

古内:そうですね。答えのないものっていう意味でいうと、一生書き続けられるんだろうなって思います。

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