Special
ブンブンサテライツ『SHINE LIKE A BILLION SUNS』インタビュー
必死だった23か月間。
何があろうとも終わらない、止まらないブンブンサテライツ。
ビートレジスタンスが歌を最重要視するバンドになるまで。
なぜ2人は2人だったのか。
ポールダンサーとの共演理由
~「これが最後になるかもしれない」とも思った制作期間
~ビートより歌中心の音楽へ
--昨年末の【COUNTDOWN JAPAN 14/15】。ブンブンサテライツはステージに色気ムンムンのポールダンサーを次々と迎え入れ、前代未聞のアクトを形にしました。あれを実行しようと思った理由は?
中野雅之:たまにはサービスしようと思って(笑)。--サービスですか(笑)。
中野雅之:年末のパーティーだったし。あと、あの日は新しいアルバムから3曲ぐらいやってると思うんだけど、短い時間の中で発売されてないものを3曲プレイするって大変なことで。今ってフェスでロックバンドを観るって言ったら、それの予習がYouTubeかもしれないし、良くてレンタルCDとか、そんな感じじゃないですか。そこで未発表に近い曲を3曲聴かせるって結構ハードルが高い。そういう攻めてる感じとエンターテインメントのバランスを取るのに「ポールダンサーを入れたい」ってなって。 川島道行:前にageHaで何かのイベントのときに、僕らのステージじゃないけど、隣のフロアで踊っていたりして、イメージは出来ていたんです。華が出るとか、表現に幅が出るとか。--デジタルで肉体や感情を表現する試みはずっと続けていらっしゃいますが、ブンブンサテライツの音楽を超人のようなポールダンサーたちが体現する衝撃は凄まじかったです。
中野雅之:僕たちは演奏しているのでちゃんと観れていないんですけど、周りの反応を聞いていると大体イメージしていた通りになったのかなと思います。肉体性の話もそうだし、アート的でもあると思うんです。「DRESS LIKE AN ANGEL」という曲が持っているグルーヴとフィジカルの強さと、ポールダンサーの……端的に言うと女の人の体ということですよね。その組み合わせの妙だと思うんです。曲とバンドとポールダンサー。それ以上説明しきれないんですけど(笑)。--今後のブンブンサテライツはああいう目に解る形でのセンセーション、未だかつてないライブアプローチに力を入れていくんでしょうか?
中野雅之:いろいろ柔軟に考えていこうかなとは思ってます。あのときはLEDのセットが組まれていて、映像素材も創って持ち込んでいるし、やろうと思えば演出はどこまでも追い込められたので、ああいう機会があればいろいろやりたいなと。いつも出来る訳じゃないんですけど、でも考えていこうと思ってます。--そんな今のブンブンサテライツからの提示とも言えるニューアルバム『SHINE LIKE A BILLION SUNS』が完成。世間には“復帰後初のニューアルバム”とアナウンスされています。今作完成までの道程にはどんな感慨を持たれていますか?
中野雅之:道程ですか。険しかったです。ただ、アルバムが出来上がっていく過程とか成り立ちというのは、自然でした。つまりコンセプトありきとか、アルバムを出さなきゃとか、そういうところではない、もっとシンプルな、単純な、歌ってみるとか、作ってみるとか……前回の川島くんの手術後、退院直後から制作が始まっているので、音楽が出来るのかとか、そういうところから検証していくっていう。能力もそうだけれども、モチベーションとかいろんなものをゼロベースで考えて、歌ってみる、作ってみるっていうところから始まって、そこで見出せたことがあって「これだったらアルバムが出来るんじゃないか」っていう順番だったんです。意外なほど良い曲も出来ていくし。--なるほど。
中野雅之:まぁそうは言っても、去年の12月15日までアルバムの作業はしてたので、丸2年に近い……制作を始めてから23ヶ月ぐらいは時間が経っているんで、その間にはいろんなことがありますよね。まずライブがちゃんと出来るのかというチャレンジもあったし、ツアーが出来るのかとか、それもまたひとつひとつやって確認していくような作業なんで、全部あたりまえじゃないんですよ。ライブ1本やるのも、ツアーを組むのも。クアトロ3,4本程度のツアーだったとしてもフル尺のライブが連日出来るのかとか、そういうことを確認しながら、楽曲制作もしていく。僕らの場合はホームレコーディングなので、作曲、デモの録音、本チャンの録音、ミックスまで全部シームレスに繋がってる。なので……修行みたいな感じですよ(笑)。--それが「険しかった」と。
中野雅之:その中で4回目の再発とか放射線治療とか、その直後にはライブやってるとか、結構無茶なことをやってきていたので、気持ちの浮き沈みとかもあるし、音楽に対する集中力を高いところで維持するのは簡単なことではなかった。ただ、一回音楽を、制作を始めちゃえば集中力はすごく高かったというか、むしろ集中力は今までのアルバム制作に比べても高かったです。「これが最後になるかもしれない」と思ったときもあるし、いろんな行為に対して「大切にしなきゃいけないんだ」って思えた。曲を作るのも、レコーディングするのもそうだけど、そういうことを改めて考えさせられたんで、如何に自分が毎日それほど大切に扱っていないかっていうことが分かっちゃうんで、露骨に。時間がないかもしれない=取り返しがつかないかもしれない、なので。過去に戻ってやり直すことはできないし。それはすごく貴重な経験でした。川島くんのそういう境遇からたくさん教えてもらったことがあるんです、今回。--川島さんは、今作完成までの重厚すぎる期間にはどんな感慨を?
川島道行:基本的には……ここ最近起きた出来事ではないので、この17,8年間は死生観を考えながら音楽と共に生きてきたと思う。でもこの数年で改めて自分は「音楽をやってきたんだ」ってことを認識して、今やってることを全うしたいと思ったので、そこに関してはシンプルでしたね。自分が音楽を残していくということ。それ自体がメッセージであるんじゃないかと思った。なかなか厳しい時間も多かったですけど……その中でも良い楽曲が残せたと思っています。--先行公開された「A HUNDRED SUNS」のMVは、その病気との対峙を続けてきた川島さんは歌う姿にフォーカスしています。あのMVにはどんな想いや背景が反映されているんでしょう?
中野雅之:ノーカット編集なしの川島くんのリップのMVは、元々撮ってみたいと思っていたんです。「STAY」(アルバム『TO THE LOVELESS』(2010年5月発表)収録曲)のときも良いんじゃないかと思ったんだけど、結局「STAY」のMVは作らなかったから。そのアイデアがベースにあります。だからドローンを使ったとかよりそっちのほうが重要で。1人で歌っていて、言葉を伝える。それが重要だった。--そもそもソレをやりたいと思った経緯は?
中野雅之:歌がどんどんどんどん重要になってきたからです。歌と川島くんのパーソナリティとその言葉の重要度合いが上がってきているから。特に「A HUNDRED SUNS」はそうなんですよね。ビート感を全面に押し出していくようなMVだったら、リズムのアイコンであるドラマーにアクションさせて、リズムを視覚的に後押しさせる訳だけど、逆にそこにボーカリストがいれば、歌とか言葉とか声そのものとかボーカリストの佇まいにフォーカスされる。なので、必然です。そういうPVを撮るようになったことは。--どんな流れで「歌が重要」と感じるようになっていったんでしょう?
中野雅之:アルバム『TO THE LOVELESS』ぐらいからですけど、ビートのスタイルって音楽ジャンルを表すじゃないですか。そこが大事じゃなくなってきたんですよね、このバンドにとって。例えば、フランツ・フェルディナンドとかラプチャーとか出てきた頃のディスコミュージック、90年代以降のハウスとガレージっぽいロックがくっ付いたような音楽が2000年代に流行るじゃないですか。まだその頃は自分たちも自然にそのトレンドと距離感を保ちながらやれていたんだけど、だんだん「シーンが生まれてきても、それは2周目、3周目だったりする」って感じるようになり、EDMみたいなものに全く関心が持てなくなってきたりとか、「トレンド=刺激的な音楽ではない」っていう傾向になって、自分たちの中で「良い曲を作りたい」っていう想いが高まっていった。ビート中心にアジテーションの強い音楽を創るより、もっと深いメッセージを描いていくのに広い世界観とか深い世界観とか、ピアノひとつで成立する曲とかを目指すようになっていって。それが2000年代後半ぐらい。結局、2000年代って空洞だった気がするんですよ、振り返ってみれば。そういう外的なことと自分たちの内側がシンクロして、だんだん歌とか歌い手のパーソナリティとか佇まいとか、そこから出てくる言葉とか声そのものが重要になっていった感じがします。 川島道行:ロックバンドは佇まい自体が表現であると元々思っていたけど、それと相まって歌、自分の人間性というものに自らフォーカスを当てていきたくなる流れもありましたから、今回は特にブンブンサテライツのオリジナリティっていう部分しか出てこないような状況だったと思います。--その中で川島さんが歌いたかったものは?
川島道行:歌詞を書く上での種みたいなものは前とあんまり変わっていないんですけどね。スキルが少し上がったりはしているかもしれないですけど、歌いたいことはあんまり変わってない。複雑な社会の中で音楽が人の生きる姿勢を後押ししてくれたり、希望を掴める力強さやそのエネルギーになればいいなと。それを悲しい歌であれ、希望の歌であれ、様々な色合いを持った言葉とかフレーズで表現できたらなと、ずっと思っています。リリース情報
SHINE LIKE A BILLION SUNS
- 2015/02/04
- 初回生産限定盤[SRCL-8688/9]
- 定価:3,780円(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
- 初回限定仕様(通常盤)の詳細・購入はこちらから>>
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Interviewer:平賀哲雄
初の武道館「川島くんを引きずり出して、もう一回音楽をやらせる」「やっぱり音楽を続けたい」
~MAXに近い作品完成
--僕がそうした力をシンプルに最初に感じたのは『TO THE LOVELESS』であり、当時のフジロックの雨の中で披露した「STAY」でした。今日のお話を聞いていると、あの時点で意識的に変革を起こしていたのかなと。
中野雅之:当時はそこまで自覚的ではないんですけど、振り返ると自分のヒストリーって見えてくるから。まぁでも今振り返るとそうだったんでしょうね。で、今、日本のロックバンドって凄い数だし、良いバンドも多いし、ここに来てまた凄く変わってきたなって感じるんです。それを「良い感じだなぁ」って眺めつつ、フェスとかもアイドルが出たりとか、どんどんどんどんいろんなモノが様変わりしていて、その変わるスピードも速い。でもあんまり関係ないかなって思えている。卑屈とか焦りとかじゃなく、気持ち良い感じでそう思えているというか。川島くんのことがあるから余裕ではないんですよ。しんどいことはあるんだけど、あんまり周りのことは関係なく自分たちのことに集中できている感じが、良い感じだなって思えてますね。--そのスタンスがまんま作品にも反映されているってことですよね。
中野雅之:そうですね。今回のアルバム『SHINE LIKE A BILLION SUNS』は本当に周りを見てない。--徐々に周りを見なくなってきたとして、前作『EMBRACE』(2013年1月リリース)ぐらいまでは多少見ていたんですか?
BOOM BOOM SATELLITES 『ANOTHER PERFECT DAY-Full ver.-』
--川島さんはその時期どんな心境だったんでしょう?
川島道行:あんまり長期的なことは考えられない状況でした。でもその武道館だけは何としても良い形にするんだっていうことで、その数ヶ月は過ごしていました。あと、今回のアルバムの作曲自体は進んでいたので、「やっぱり音楽を続けたい」という自分を確認しながら、当時の状況をクリアーしていくことで精一杯だったと思います。--2013年5月3日 初の日本武道館ワンマンライブにはどんな印象を残していますか?
川島道行:あんまり細かいことは憶えてないんですけど、そこには待っていてくれる人がいて、スタッフもみんな協力してくれてああいう時間が創れたことに対して、自分がしていることに自覚的になれた日だったと思います。そして「やっぱりこのバンドの新しい曲を聴きたいな」「ここで音楽を続けたいな」と改めて思いました。って僕が思うんだから、あの日、あそこに集まった何千人の人たちはもっとそう思っただろうなって。--中野さんはあの日の武道館にどんな印象を?
中野雅之:その日までは……必死すぎたんで。ちゃんとライブが出来るのかどうか。出来るところまで持っていくのに半端ない労力を使ったんで、終わったときには腰が抜けそうになるぐらい脱力しました。そこまではずっと凄い緊張感で過ごしていたから。でも何とかあそこまで形にできてホッとしましたね。とにかく目標が一点だったことは良かったのかなって思います。もしあと会場が数ヶ所増えてたら、多分やり切れなかったんじゃないかな。武道館一本に向けて数ヶ月過ごすことで、何とか音楽を続けるという選択肢が持てるところまで引っ張り上げられたんで。あと、武道館がさらに半年後とか、時間的に余裕があったらすごく良くない時間を過ごしていたと思うし、もしかしたらやってないかもしれないし。そう考えると変な境遇のバンドなんですよね。--その武道館の光景から地続きになっているアルバムだと『SHINE LIKE A BILLION SUNS』には感じたんですが、自身ではどんな作品になったなと感じていますか?
中野雅之:音響含め、音楽で出来る表現のMAXに近い作品だと思います。音を聴くっていうのは、結果的に何かを呼び起こすものじゃないですか。聴覚だけを使って、何かを想ったり、何かが頭に浮かんだり、自分の記憶が蘇ってきたり、架空の場所にいるような気持ちになったり、電気を消せば全然違う世界が見えてきたり。そういう音楽を聴くその時間を過ごすことで起きえる、いろんなものを僕たちは引き出したい訳ですよ。目に見えない何かや、記憶の深いところにあるものを。それを現時点でMAXのところまで引き出せるものが出来たかなって思います。--なるほど。
中野雅之:僕は音楽をやるとき、それが一番醍醐味なんですね。つまり言葉で全部説明しきってしまう一元的なイメージの与え方だと、想像力の幅っていうのは狭まってしまう。僕は100人いたら100人全員違うストーリーを組み立てることが出来るような音楽が好きなんです。それが今作は出来ているかな。僕が音楽を通して期待することってそういうことだから、その感性……チャンネルが合うか。「あなたは分かりますか?」みたいなことになってくるから、どれぐらいの人がそれを感じ取る感性を持っているのかなっていう期待と不安はあります。すごく瞬発力のある売れ方をするアルバムじゃないと思うんだけど、どんな浸透の仕方をしていくのかがとても楽しみ。--川島さんは今作をどんな作品になったなと感じていますか?
川島道行:メインストリームとか、そういうミュージックシーンに寄せてないところで表現されてるアルバム。表層的だったり軽い部分ではない、内側からエネルギーをすごく発している楽曲が揃っていて、50分のサウンドジャーニーとしてまるで1曲かのように出来てるんですよね。それがタイトルの『SHINE LIKE A BILLION SUNS』に集約されていると思う。それが人の心に届いてほしいなって思うし、届く可能性がすごく高いアルバムだと思います。--タイトルの『SHINE LIKE A BILLION SUNS』。これは川島さんが求めていたものでもありますか?
川島道行:そうかもしれません。自分にも、このバンドにも、社会的にも、希望とか……希望って力強さだと思うんですよね。そういうものを欲しているところはあると思います。--個人的には、ビートレジスタンスみたいな印象で世に出てきたバンドが、今『SHINE LIKE A BILLION SUNS』という音楽や言葉に辿り着いたストーリー自体美しく、人間臭く、感慨深いなと思っています。自分たちではどう思われますか?
BOOM BOOM SATELLITES 『PUSH EJECT-Full ver.-』
--分かります。
中野雅之:いろんなアーティストがいるんですよ。完全にフィクションを創る、エンターテイナーを演じる為に自分の感性と違うことが出来てしまう人もいる。でも僕たちは圧倒的にドキュメントとして音楽を創ってると思う。歌詞はストーリーがあるけれども、それも川島くんの内側から出てくるもので、川島くんの感性そのものだし。やっぱり自分が感動できないと。だからいつでも心の底から音楽を創ってきた自負があるし、音楽から何かを見出したいと思う。聴覚だけを使う訳だけれども、何がそれ以外の部分で湧いてくるかっていう。その為には集中して、自分の心の動きをちゃんと観察するような感覚で創ってきています。--ブンブンサテライツとその音楽の成り立ち方はよく分かりました。では、ブンブンサテライツが音楽を止めない理由って何だと思いますか?
中野雅之:もう今となっては分からないです。自分のことだけ考えると、やっぱり何かしら創りたくなるので。で、それは大体音楽。なんとなくふとイメージみたいなものが浮かんだときに、「あー、形にしてしまいたいな」って思うんです。今は12月中旬にアルバムの制作を終えて、実際手を動かして新しい音楽を創る作業はやってないんだけど、ムラムラはしますね。「あ、なんか出来そうな感じがする」って。それと川島くんのタイミングは全然合わなかったりするんですけど。というか、むしろ全然ズレてるんですけど(笑)。リリース情報
SHINE LIKE A BILLION SUNS
- 2015/02/04
- 初回生産限定盤[SRCL-8688/9]
- 定価:3,780円(tax in.)
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Interviewer:平賀哲雄
音楽を止めない理由~川島から見た中野/中野から見た川島というミュージシャン
~終わらないブンブンサテライツ
--川島さんが音楽を止めない理由は何ですか? それこそ体のことを第一優先で考えていたら、活動休止もあり得る訳じゃないですか。でも川島さんは今ここにいます。何ゆえに走り続けるんでしょう?
川島道行:それしか選べないなと感じるんですよね。少々の無理は……まぁ人によって無理の度合いは違うと思いますけど、自分は頑張ろうと思ってしまう。よっぽどどこかが動かないとか、そういうことがない限り、きっともう一回立とうとするんだと思うんですよ。それはやり終えた感がないからだし、「もっとこうあればいいのに」って思ってしまってるからだと思うんですよ。--僕は2009年/2010年頃のブンブンサテライツの音楽やインタビューから、世界的なCD不況でシーン全体が悲観的になっても、それでも音楽を諦めない、絶やさない、憂えてる暇はないことを教えてもらいました。その感覚は今でも変わらず、というか、より強くなっているのが今だったりしますか?
BOOM BOOM SATELLITES 『UNDERTAKER-Full ver.-』
--今やなかなかない時間の使い方だと思います。
中野雅之:iPodのシャッフルっていうものが作った文化から派生して、Spotifyみたいなものも出てきたんだと思うし、その中でうんと古典的なエンターテインメントなんだと思うんですよ。アルバムを通して聴くって。だけど、それしか出来ない。で、そんなに変わらないんですよね。例えば「3時間のアルバム創ってみたいなぁ」とかあんまり思わない。『TO THE LOVELESS』は70分超えの長尺で、それは挑戦だったんですよ。CD1枚の中にどれぐらいの情報量とエンターテインメントを突っ込めるかの。それでも70分強で。それで今回の『SHINE LIKE A BILLION SUNS』は曲順の妙もあるんだけど、すごく気持ちの良い時間なんですよ。導入からどんどんテンション上げていく曲順が組まれていながら、中盤からぐぅーっと落ちていくっていう。あの時間の過ぎ方はとても上手くいったなって思ってるんですけど、それは50分なんですよね。あんまり変わらないんだなぁと思って。例えば、映画の尺も極端には変えようのないものなのかなって、生理的な時間の捉え方からすると。90分超えて、110分ぐらいまで行くと「すげぇ長いなぁ」って途端にお尻が痛くなったりするじゃない。--我に返ってしまう。
中野雅之:そうそう、だからそういうのがあるのかなぁって。まぁでも時間をコントロールするのが音楽だから、いろんな可能性が5分の中にも、1時間の中にも、もしかしたら3時間の中にもまだあるかもしれなくて、まだ眠っている感覚みたいなものがあるのかもしれないから、そこは柔軟でいようと思ってますけどね。ただ、今回のアルバムは、そういう意味ではクラシックなアルバムだと思う。--『SHINE LIKE A BILLION SUNS』以降のブンブンサテライツが音楽でやっていきたいことって何だったりするんでしょう?
中野雅之:自分の感覚の拡張みたいなことかな。自分がやっぱり拡張しないと、これをさらに押し広げていく音楽って創れないと思うので、俺の感性をどうにかしたい。それ次第なんだろうなって。自分は『SHINE LIKE A BILLION SUNS』の制作を終えてから1ヶ月ぐらい経ってる訳ですけど、この時間を追うごとに自分の感性をどこか拡張していかないと、やっぱりまた同じ音楽を創っても自分が楽しめないんで。それは特定のジャンルとかビートスタイルとかを取り入れれば済む話じゃないんで。トレンドをちょっと取り込んでいくだけで新しいアルバムを創ることはないんですね、僕たちの場合。それは何となく感覚的に先人から学んだことで。そうやってアルバムの枚数を重ねていくことは果たしていいのだろうかと。そうなると、一番大事なのはコンポーズだし、自分が人間的に磨かれていくこと。長く生きた分、人自体が成長してより豊かになり、もっと言えば新しい感覚だったり、見たことないものが見えるようになってきたりとか。そうすればアルバムを新たに創るってことは必然になってくるんで。--そろそろ時間が押し迫ってきましたので、〆に入ります。答えるのは少し照れくさい質問かもしれませんが、川島さんから見た中野さんはどんなミュージシャンだと思いますか?
川島道行:心を使って音楽を奏でる人。多くのミュージシャンはそうなのかもしれないですけど、そことスキル的な部分のバランス感覚がすごく長けている人だなと思っています。聴いてくれる人の心をちゃんと思いやった上で、自分の音を発しているんだなとそばで見ていて強く感じますね。--逆に、中野さんから見た川島さんはどんなミュージシャンだと思いますか?
中野雅之:そうですね……まだよく分からないですね。 一同:(笑)--もう結構長い付き合いですよね(笑)。「97年 ヨーロッパでデビューした」って書いてありますよ?
川島道行:ハハハハ! 中野雅之:それがですね、知り合ったのは90年代初頭で、僕がまだ10代の頃なんですけど、それから20数年過ごしてきたんですけど、どんどんどんどん変わっていくんですよ。考え方も喋ることもどんどんどんどん変化していって、これは不思議としか言いようがなくて。例えば、脳腫瘍の手術を4回してるんですけど、手術の度に生まれ変わってるんじゃないかなって。何か業みたいなものを神様に抜かれていってるんじゃないかな?って思うぐらい、だんだんだんだん歌も変わってきてるし。僕にとってその川島くんの変化っていうのは、音楽を創る上でのモチベーションになってるんですよ。「あ、こんな声が出るんだったら……」って。それが変化していくので、「じゃあ、次はどんな声が出るのか」って思うし。そういうところが興味深いし、結局掴みきれない。歌う理由とか声を出したい理由について明快な答えをくれない。「なんで歌うのか?」「何を歌いたいのか」っていうのはレコーディングのときの問答としてあるんですけど、それに答えるだけで悪戦苦闘しているような人なんです。本来、バンドでボーカルをやるっていうのは、エゴの塊みたいな人が多い。--ですよね。
中野雅之:「自分はこれがやりたい」とか、極端な話「格好良い俺を見てほしい」みたいな人だっているから。でも彼はそういうことからうーんと遠いところにいる人で、だから分からないし、僕はそれをすごく興味深いなと思って、川島くんのことをずーっと観察し続けている。で、それをキャプチャーして作品にするのも僕の役割だと思っています。--では、川島さんを「こういうミュージシャンだ」と分かってしまったら、ブンブンサテライツの音楽は止まるかもしれない?
中野雅之:有り得ますよね、それは。「あ、分かっててそれやってるんでしょ?」みたいな、手癖で音楽が作れるみたいなところが見えちゃった時点で、僕は興味を失っちゃうと思うんです。そんなに器用な人間じゃないから、自分でもそれを掴みかねているような、自問自答しているような様をそのまま作品に落とし込んでいるので。だから可能性としてはありますよ。「あー、もう分かっちゃったんだ?」って(笑)。--ということは、分からない限り続いていくということですよね。
中野雅之:じゃあ、ずーっと分からないフリしなきゃ。 川島道行:ハハハハハ!--川島さんも意識して「分からない」とか言い出して(笑)。
中野雅之:でもそんなのすぐバレますよ。 川島道行:そう。そんなに賢くない(笑)。 Interviewer:平賀哲雄Music Video
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SHINE LIKE A BILLION SUNS
- 2015/02/04
- 初回生産限定盤[SRCL-8688/9]
- 定価:3,780円(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
- 初回限定仕様(通常盤)の詳細・購入はこちらから>>
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Interviewer:平賀哲雄
SHINE LIKE A BILLION SUNS
2015/02/04 RELEASE
SRCL-8688/9 ¥ 3,850(税込)
Disc01
- 01.SHINE
- 02.ONLY BLOOD
- 03.COMPLICATED
- 04.A HUNDRED SUNS
- 05.VANISHING
- 06.BACK IN BLACK
- 07.THE MOTH (attracted to the flame)
- 08.BLIND BIRD
- 09.OVERCOME
- 10.STAIN
- 11.EMERGENCE
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