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BOOM BOOM SATELLITES 『ON』インタビュー
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--今回「hotexpress」初登場ということで、ニューアルバムについてはもちろんなんですが、まず川島さんのミュージシャンとしての歴史みたいなものも聞かせていただきたいなと思っているんですが、川島さんが音楽に目覚めたキッカケって何だったんですか?こういう質問をされるのは久しぶりかもしれませんが(笑)。
川島:僕は1969年生まれなので、中学生ぐらいの時に日本のインディーズシーンで第一次パンクムーブメントが起きていたんですけど、その頃のイギリスでは“ポジティブパンク”という音楽があって、僕はそういうのを聴いていたんですよ。今の若い子たちの中では“ポジティブパンク”というと、お化粧系なノリばっかりが取りざたされてると思うんだけど、僕はもっとソリッドなギターにニューウェイブなビートとか、そういうものに傾倒していた時期があって。もちろんファッションとしてでもあるんですけど、そのムーブメントにどっぷりと浸かったのがバンドをやるキッカケで。みんながラフィンノーズとかウィラードとかエコーズ、あと当時全盛だったBOOWY、THE BLUE HEARTS、PRINCESS PRINCESS、バービーボーイズとかをやってる中で、僕だけキリング・ジョークとかエイリアン・セックス・フィエンドとか、そういうイギリスのパンクのコピーバンドを始めて。ポップ・グループとかも大好きで。で、高校生になると、そういうバンドは大概エレクトロニクスを導入していたりして、でもまだ機材が高いから僕らには手を伸ばせないようなものではあったんだけど、それの真似事を安い機材を使ってやったり。そんな流れですよ。電子音に対するロックの人が持つ嫌悪感みたいなものはなくて、シンセサイザーとかがステージの上にあることになんら偏見とかそういうのはなかったですから、積極的にリズムマシーンとかも入れてて。で、大学生になって、僕は僕でバンドを始めたんですよね。それがもうBOOM BOOM SATELLITESなんですけど。ベーシストと僕と、ドラムはリズムマシーンで、もう一人ギターがいて、そういう形でジーザス・ジョーンズとかE.M.F.みたいなことをやりだして。高校の頃、ジグ・ジグ・スパトニックとかも好きでしたから、そういうロックバンドが使うエレクトロニックミュージックっていうのが、わりと自然に自分の中に入っていって。シカゴアシッドトラックスも僕が高校を出た頃にはあって、303だけがビヨビヨ言ってるような、あれも結構衝撃的でしたからね。そういうのをウォークマンに入れてずっと聴いてたりとか、その辺はテクノの内ですけどね、またちょっと違って。その後に中野と会って、会った頃には、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとか、80年代後半のイギリスのギターロック、マンチェスタームーブメントとかの流れで、プライマル・スクリームとか、その辺をよく聴いてて。もうその頃のプライマル・スクリームは、アンディ・ウェザオールと一緒にやってて。で、僕らもそういう音楽をやりたいなと思って、ハッピー・マンデーズとかも聴いてたし。アナログとかも全盛になってきてて、12インチ買ったりとかして、ギターバンドのテクノミックスみたいなものもよく聴いたし。そうしている間にケン・イシイとかが出てきたり、田中フミヤさんも出てきたりして、で、僕らも彼らと同じところにデモテープを応募したりとかしている内にR&S(ベルギーのダンスレーベル)と契約することになって。っていうのが大雑把な流れになります。--ミュージシャンとしての目覚めとボーカリストとしての目覚めは一緒だったんですか?
川島:いや、僕は、キリング・ジョークとかをコピーしていたときはベーシストだったんですよ。でも高校に入ってからバンドにギターがいなかったので、僕がギターを持つようになって。で、大学に入ったらボーカルがいなかったので(笑)、ギターを弾きながら歌う形になって。最初、僕の声は歌声としてはあまり良い声じゃないと思っていて。絶対歌っちゃいけない声だと思っていたんですよ。でも自分の理想のバンド形態と音楽をやろうとしたときに「いないんだったら自分でやるしかない」と思って。で、歌声のことはとりあえず置いておいて(笑)、やってみたっていう感じですね。で、その後にデビューして、リリースを重ねる毎にいろいろ歌い方も変えてるし、今回の『ON』もいろんなボーカルスタイルを持っている中から選んで、一本筋が通っているものにしたというか、イメージがタイトだと思うんですけどね。でも最初は「歌はうたわない」って決めてました(笑)。--BOOM BOOM SATELLITESって、プロフィールとか見ると、いきなりヨーロッパでブレイクしたみたいな印象を与えますけど、そこに至るまでの過酷な下積み期間みたいなものはやっぱりあったんですか?
川島:過酷な状況はありましたよ。大学生の頃、打ち込みと、中野がベースで、僕が歌うたってギター弾いて、もうひとりギターがいて、後ろにDJがいたりとか、なんかワケの分からないメンバーが二人ぐらいいたりとか(笑)、そういったスタイルでライブハウスには週一ぐらいで出てて、横浜とか高円寺とか、あとはインクスティック鈴江ファクトリーというところが浜松町にあって、そこにはよく出てたし。そういう小さいライブハウスには普通のバンドと同じように出てましたね。その当時から異色なバンド扱いされていたので、ライブハウスのブッキングする人もどのバンドと一緒に組めばいいのかは迷っていて。でも当時は、WRENCHの元のバンド、Super Junky Monkeyとの3組でよくやってたんですよ。ただお客さんゼロで、お互いのバンドのメンバーがお客さんになりながらその夜を終えるっていう(笑)。まぁ異色だったと思いますね。ワケも分からずビジュアル系のバンドが集まるオールナイトのイベントにブックされることはよくあったし。そうすると、僕らは化粧とかしないですからね、髪も立てないし、当時のゴスロリの走りみたいな女の子たちにはまず興味のないバンドなわけで(笑)。よく目の前で寝てる人にヘッドポールをブツけたりとかしてました(笑)。--そんな状況からヨーロッパに向けて自分たちの音楽を発信しようという発想はどんな流れで生まれていったんですか?
川島:ちょうど街から音楽から発信される“ベッドルームミュージック”っていうモノが作られ出した頃で、ケン・イシイくんにしてもそうだし、マッシヴ・アタックもブリストルを代表してそういうモノをやっていたし、そういう流れで「僕らの音楽も世界で普通に聴かれるべき」「聴かせたい」っていう欲が出てきて、よく与太話でも出てきたりしていて。例えば、ビジュアル系のバンドだったらステップがあるじゃないですか。ライブハウスで活動して、次は渋公でやってとか。僕らはそういうのを全く無視していたというか、あんまり関係ないと思っていて、“どこででも聴かれる音楽”をやろうと思っていたし、そこには壁があることも分かっていたけど、まぁ若い故の疾走感みたいなものがありまして(笑)。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
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--で、デビューしてからは日本より先に海外で注目されて、アンダーワールドとのヨーロッパツアーを実現させちゃったり、めちゃくちゃ早い段階で大きな動き、出来事があったわけですが、それぐらい大きなうねりを生める自信みたいなものはデビュー前からありはしたんですか?
川島:いや、なかったですね。デモテープをニンジャチューン(UKのクラブシーンで人気のレーベル)~その当時に台頭し出していたインディーレーベルまで、いろんなところに送っていて。で、R&Sと契約っていうのは、ちょっと意外と言えば意外だったんだけど、実際に向こうに行ってみたら、トントン拍子っていうほどの事でもないような気はするけど、そこまで上手くいくとは思ってなかったですね。--その当時の心境とかって憶えてます?
川島:憶えてますね。必死でした。すごく怖いことだったし。『ボーン・スリッピー』とかが大ヒットしているときのアンダーワールドの後にライブをやんなきゃいけなかったりとか、オール・セインツと同じステージに立たなきゃいけなかったりとかして、毎回ステージに上がったらとにかくベストを尽くして帰ってくるっていう、一回一回をしのぐっていう言い方じゃアレかもしんないけど、一生懸命やってましたね。今思えば、良い経験なんだけど、当時はすごく怖かったです。残念なことも経験したり(笑)。でも日本人で、見た目でね、ちょっとお客さんが“?”になってしまうところをかっさらっていくのはすごく気持ち良かったですね。怖い経験もいっぱいしましたけど。--正に必死で。
川島:必死でしたね。ベストを尽くすというか、ベスト以上なモノでやらないと、とてもこなせない日々でした。モービーなんかとやったときは前座だし、アメリカのツアーだったんですけど、アメリカのツアーってすごいじゃないですか。一ヶ月に二十何本とかやって、それを年に二周、三周するっていうのが普通のショウビズな世界の中で、日本人の僕らが周るっていうのは必死。そのときのモービーも大ヒットを飛ばす直前と瞬間だったから、そのオープニングアクトっていうのは、やる方としてみればドキドキしていましたね。大規模なツアーも初めてで、全米を周るっていうのは。西海岸、東海岸だけだったら何度かやってたんだけど。だからどんなに苦しい状況でも、砂漠の真ん中に行ってもベストは尽くして帰ろうっていう、そういう毎日でしたね。--実際に蓋を開けてみたら全米ツアーのリアクションっていうのは?
川島:良かったですよ。オープニングアクトだったから、何かを投げられたりとか、ブーイングが起きたりとか、そういうのをちょっとは心配してたけど、意外とオープンマインドな土壌があって、ライブが終わって僕らがCDを手売りとかしてると「次はいつ来るんだ?」って聞かれたり、ツアーの中にはフェスティバルも含まれてて、モービーのステージを客席かた観てたりすると、おじいさんから「さっき歌ってたのはお前だろ?良かったよ」って声を掛けられたりとかして、すごく嬉しかったですね。まぁそういうのしか憶えてないし、耳にも入って来ないんだろうけど(笑)。でも必ず良いショウはしてきたと思いますね。でもアメリカのバンドをあれを二周、三周してるわけで、やっぱり「次はいつ来るんだ?」って聞かれて「いや、次は決まってない」って言うと、もうそっぽ向かれちゃうような感じだから、ちょっとやそっとじゃ浸透させるのは厳しい世界ですよね。--その頃から今日までのBOOM BOOM SATELLITESに何か大きな変化があるとすれば、それは何だと思いますか?
川島:色々ありますからね、毎回。ファースト出したときは、デビューをしてヨーロッパでのリリースとかあって、それもすごく自分たちの生活の中では大きいことだったし。で、ロンドンのスタジオで二枚ぐらいアルバムを作るんだけど、その中でも色々ありましたからね。ビッグビートと同じ扱いを受けようとしたところでバンドサウンドのアルバムを出して、そういう戦いの日々を何年かして。で、日本に帰ってきてっていう、すごく節目はいろんなところにあったので、その分たくさんあります(笑)。--個人的には昨年リリースされたアルバム『FULL OF ELEVATING PLEASURES』(フル・オブ・エレベーティング・プレジャーズ)は、長年の活動の中でBOOM BOOM SATELLITESがある意味、エレクトロと魂、デジタルと肉体、まぁ例えはいろいろありますけど、その融合の完結を果たしたアルバムのように感じたんですね。川島さんはあのアルバムにはどんな印象を持たれていますか?
川島:やっぱり僕らの作品は遠目で見られがちっていうか、彫刻とかで言えば、触れない彫刻みたいな、ちょっと距離があって。っていうのは、ヘッドミュージックの要素が含まれていたし、ちょっとジャズの要素も入っていたりとかして、別に難解ではないんですけど、難解な印象を持たれていたところがあって。じゃあもっと触れる作品、手にとれるモノにしようっていうのが前作の大きな変換だったと思いますね。で、映画『APPLESEED』のサントラの前ぐらいから、ツアーではアゲアゲの曲をやってたし。そこでのお客さんの喜ばれようとか、『APPLESEED』から感じた僕らの作ったモノの受け取られ方とか、その曲の変貌ぶりとかを体験して、聴き手を巻き込もうというか、ウチらから手を差し伸べるような、ひとつのモノをみんなで触れるっていう姿勢を取って、大幅にガラッと分かりやすく転換させたのが前作で、僕的にも前作は今までで一番印象深い作品ですね。それがツアーとかフェスティバルとかコマーシャルとかで愛されているのを見るのは、ちょっと勇気付けられることだったりして。それが今作にも強く影響してると思うし。その前作で得た経験とか、それで周ったツアーのお客さんの雰囲気とか。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
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--僕はですね、あれだけのアルバムを作って、次のBOOM BOOM SATELLITESはどこへ向かっていくんだろう?とすごく注目していたんですよ。そしたら今作『ON』は、更にぶっといロックアルバムになっていて。その位置付けというか、コンセプトみたいな部分っていうのは、制作前から決め込んではいたんでしょうか?
川島:具体的に中野と話し合いをしたりはしなかったんですけどね。でも前作が終わって、次やる事はお互いもうゴチャゴチャ話さなくてもいいだろうっていうのはあって。もう実際に形にしていくことで、それをお互い体感していくっていう。で、『KICK IT OUT』を作るんですけど、そこで方向性っていうか、ポップでなおかつキャッチーなモノっていうのは押し進めるべきだなと感じましたね。で、大体3,4曲揃ってくると、そこからどのようなアルバムにしていこうかっていう、全体のバランスを考えたりとかして。でも最初は『KICK IT OUT』とか『PILL』もそうだったし、『PLAY』みたいなキャッチーなものが先にどんどん上がっていって。それは意図したところで、「これで間違いないかな」「こういう作品群にしよう」みたいなものが具体的に話さずとも膨れ上がって。途中に話はしますけどね、「そうじゃなくて」とか。--BOOM BOOM SATELLITESはロックの要素を持ったエレクトロミュージックをやっている印象を持っている人も少なくはないと思うんですが、もはや逆だと思うんですよね、今のBOOM BOOM SATELLITESの音楽は。川島さんはどう感じられていらっしゃいますか?
川島:そうですね~、あんまり変わらないんですけどね。ある種“ギターやベースのようにサンプラーがあった”っていうことだから。「ロックの要素だけじゃ足りないからシンセでも鳴らしてみるか」っていうことじゃないので。そもそも人間とロボットの見分けが付かないぐらいのハイブリッド感は僕らの専売特許というか、それが“その時代の中でどう捉えられていくか”っていうのが周りによって変わってきてると思うし、僕らも周りの主流の音楽によって少しスタイルを変えてきてるところもあるから。昔、僕らが出てきたばかりで、プロディジーとかケミカル・ブラザーズとかと比べられていた頃は、彼らが“すごい機材に囲まれて”とか“機材の前で”っていうイメージが強かったから、僕らのサウンドのロックバンド的な要素が“異色”とされていたし、そういう見るポイントが多分時代によって変わってきてるだけで。まぁ実際今回のアルバムはそういう打ち込みの要素が少なく聴こえますけどね。でも作る手法として、コンピューターというものは欠かせないモノだし、シンセっていうものも大きな役割を感情表現として担ってるし。なのでそこはこの先も変わっていくところだと思いますね。意外と「テクノだね」って言われたり。ロックとテクノの要素が入ってるバンドなのか、バンドの要素を持ったテクノユニットなのか、こちらからするとどっちでもいい(笑)。--ちなみに今作『ON』というタイトルにはどんな意味を込めて?
川島:「記号的なタイトルがいい」っていう話になって。最初いろいろタイトル候補を出して、その中で「ON」という言葉がビシッとハマったんですよね。すごく動作を表現している単語だし、見た人が何の「ON」なのか考えられる、預けられる言葉っていうか、読んだ人にその印象を託せるタイトルだなと思って。「Keep Going On」とか「Move On」とか、スウィッチが押されることだとか、いろんな印象があるじゃないですか。そういう音楽とか姿勢すべてを表すような記号的なもの、その人にとっての。--今作は一曲目に『Kick it Out』が収録されていますが、正にその『ON』という言葉がピッタリな始まり方というか、「あ、スウィッチ入った」みたいな感覚を与えてくれますよね。しかも第一声が「Kick out the king of rock(ロックに王者なんかいらない)」。カッコ良すぎますよ(笑)。
川島:(笑)。『Kick it Out』は結構苦労したんですよ。そういう破壊衝動を全面に押し出した言葉で、なおかつ耳にキャッチーなフレーズっていうものをなかなか出せなくて。いっぱい書き直しましたね。でも新しい自分が書いたリリック、フレーズぽくて、気に入ってるんですよ。あんまり真理のないっていうか、結論もないし、正しくもない。だけどその衝動だけが最後にロックンロールだなと感じさせる。歌うのは気持ち良かったですね。つまんないこととか、納得がいかないとか、理不尽にただイライラしているっていうだけの状態を音楽に言葉として乗せてるのを歌うことは、なかなか出来ないですからね。ただあんまり暴力的なのは好きじゃないから、それはひとつ、一応ロックというフォーマットのサウンドとして、ロックを感じさせる範疇の中で破壊衝動が清々しい感じにするっていうのは気を付けてますけど。--あと驚いたのがこの曲、キスミントガムのCM楽曲でもあるんですよね。「日本も変わったな」って思いました(笑)。
川島:(笑)。でもあのCMを見て「良いな」って思いましたよ。すごくキャッチーですよね。ああやって自分たちの音楽を聴いてもらう機会が多くなるっていうのは、単純に嬉しいです。で、そのCMとか映画のクオリティが良ければ、尚更。残念な場合もありますからね(笑)。でも今回のはどれも良いですね。『PILL』が使われてるメナードのCMは、ファーストの頃に一緒にやったことのある人の仕事だったからすごく信頼もあったし、そのCMが流れる時間も良かったから、あれで僕らのことを知ってくれた人も多いと思うし。そのガムのコマーシャルにしても、いろんなところでいろんな状況で聴かれるのはすごく嬉しいですよね。いつもアルバムを作り終わって、そういうお話がなくなると、「また作んなきゃいけねぇのかよ」ってなるから(笑)。「使われてない曲があるから、これも使ってくれたら良いんじゃないの?」って思ったり(笑)。まぁでも面白いですよね。『Dive For You』にしてもそうだし。--『Dive For You』は、―――今作の話じゃなくなっちゃいますけど―――、『APPLESEED』サイドからオファーがあってっていう感じだったんですか?
川島:そうですね。で、いろいろ『APPLESEED』用に曲を作ったんですよ。それで最初『Underdog』っていう曲があって、それを提出したんだけど、「もう一曲ぐらいないですか?」みたいな話になって。「じゃあ『Dive For You』録ってみようかな」って言って録ったのが使われて。で、映画のエンディングで『Underdog』と『Anthem』が使われて、テレビでは『Dive For You』が流れるっていう有り難い状況が生まれて、良かったですね。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
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--『ON』の話に戻りますが、2曲目の『9 Doors Empire』。この曲、大好きです。やっぱBOOM BOOM SATELLITESは川島さんがシャウト気味に歌える曲がカッコイイなと、まぁこれは完全に僕の個人的主観ですけど、川島さんはこの曲にはどんな印象を?
川島:僕もこの曲は1,2位を争うぐらいに好きな曲ですね。自分で自分の歌声の解説するのは、さっきも言ったようにあんまり自分の声が好きじゃなかったですからね(笑)アレだけど、こういう曲を歌うのは、リリックも含めて、面白いですよ、作るのはね。僕らの音楽はダンスミュージックだから、そこに言葉のノリとか、そのメッセージ的な哲学を含めて、物語をひとつ組み上げていくのは、よく「作家冥利に尽きる」とか言いますけど、そういうのに近いものがありますね。作ってる最中が苦しくても、良い出来になって良かったなと思います。まぁ聴いてる人にとっては、難しい曲だと思うんですよ。ビートが最初ちょっと複雑だったりするので。でも、サビになったときの分かり易さっていうか、シンプルで爽快な感じを多分ライブとかでも楽しんでもらえるんじゃないかなって思う。--続いて『Girl』。この曲はどんなイメージを膨らませながら書かれたものなんでしょう?
川島:今回サビでフックが効いてて、リズミックな感じの曲は多いんですけど、この曲は僕らの曲の中でもいつになくメロディックなんですよね。だから「新しいな」と思ってます。リリックもちょっと新しくて、幼稚な感じでもあるんだけど。僕はいつも歌詞をまず一人で書くんだけど、それをチェックするネイティブな外人の方がいるんですよ。その人は日本でエンジニアもやってるミュージシャンなんですけど、その人はこの『Girl』が「一番良いリリックだ」って言ってくれていて。「ドイツのアンダーグラウンドなテクノの街を思い起こさせる」って。で、曲はポストパンクぽいし、そのふたつが絡んでて、「すごく良いポップソングだな」って言ってくれてますね。僕もしう思うし。僕が「Girl」とか歌うのはなかったことだし、そういう少女と街を点描画みたいに描いていこうと思ったのもサウンドがあってのことだから、これを歌っても決して弱いものというか、子供っぽいことにならないっていう。やっぱり今までの僕らの歴史があってこそ辿り着いたひとつの形だなって思います。--この詞の内容にこのサウンド、かなり斬新ですよね?「パーティーしようぜ」と歌われても、なんか行ったらタダじゃ済まないんだろうな、みたいな(笑)。
川島:そうそうそう(笑)。これがね、ファットボーイ・スリムみたいな明るいコードで歌われた場合、それは本当にパーティーチューンになると思うんだけど、それは僕らの場合は絶対にないので。その辺はやっぱりバランスを取りながら作ってるし、そういうのが聴いて感じ取ってもらえてて良かったです(笑)。--そんな序盤戦から中盤戦へ。5曲目『Play』、この曲にはどんな想いをぶつけていたりするんでしょう?
川島:これは最初の方に出来たんですよ。で、やっぱりこれもメロディで聴かせる曲になっていて、パンクの要素は薄いですよね。「これはポップソングとして良い曲だな」って歌ったときに思いましたね。それがそのまま単純なドラムンベースでもないけど、アッパーな感じに仕上がっているのが気に入ってるかな。歌えると思うんですよ、気持ち良く、伸びやかに。その速いビートにゆっくりと身を任せられるメロディが乗っている。・・・良い曲ばっかり入ってますね(笑)。--(笑)。この曲も含め、今作は直情的な感情をそのまま爆発させるリリックが多いですけど、これは自然とそうなっていった感じなんですか?
川島:基本的な歌詞を書く上での姿勢というか、訴える哲学的なものは全く変わってなくて。ただそれを提供する形を変えていったっていうことなんですよね。その中でも『Play』は、結構得意なスタイルというか、負け犬讃歌みたいなところがあって、ネガティブでグランジ風なマインドでもって書くのは結構得意で。あと歌詞に時間を掛けないっていうのも今回のアルバムの中では大事にしていたことで、もうスタジオでフックがひとつ出来上がったら、歌詞はその部分フィックスで、次の日にスタジオに来るまでには他の部分を書き上げてくるっていう。そこでちょっと時間を空けちゃうと、ちょっと姿勢が変わってきますからね。そういう部分で、そのスタジオで叫んだものがフィックスされていくっていうのは、こういう正に直情的な、行動的なフレーズになってきますよね。なので時間を掛けないっていうのが強く影響してるんだと思いますね。--その最たる形のリリックが『Beat It』だと僕は感じてるんですけど、ただこの曲、最後に葛藤を始めますよね。相反したことを叫び合ってる。
川島:一応「こうしよう」っていうことは決めるんですけど、どうしてもその姿勢を貫き通せなかったりもするんですよ、その詞の世界観にね。『KICK IT OUT』もちょっと揺らぐんだけど、『Beat It』はね、そんなに理詰めされていなくていいんだっていうのを前作を作ったときに思っていて。どうしてもつじつまを合わせようとするんですよ、3分か4分かの中でも。でもそれってちょっと感情的にはあまり面白いことではないのかなって。とっちらかってようが何しようが、その気持ちだけあればいいと思ってたし。あとは作詞をする上で一番大事にしていたのは“バンドの意志を伝えるための言葉、フレーズ選びではなくて、音楽を伝えるためのボーカルだ”っていうことを一番大事にしたくて。もうそのサウンド、耳鳴りだとか、耳触りを重要視して、その中で論理の破綻があっても、一向に構わないと思っていたから。でもこれはそれが面白いと思う。崩れていくのが(笑)。リリース情報
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--そしてその後の曲『Nothing』では、あれだけストレートな感情をありのまま出していたのに、抜け殻になってしまう。ここの流れ、ストーリーみたいなものはあらかじめ考えられていたものではあったんですか?それとも結果的に繋がったんですか?
川島:結果としてですね。『Nothing』なんて歌っていいのか?っていう感じもあったんですけど(笑)。でも正直な気持ちを歌っていくと、こうなるんですよね、絶対的に。すごくポジティブにネガティブを捉えている視線で生きてくると、こうやって本当に何もない世界に生きている感じになる。なのでこれも簡単に書ける歌詞ですね。本当に思っていることだから。物語仕立てじゃなくてね、その精神だけを書き綴るのは。--正直、こんな曲聴いたことありません。ここまで虚無的なリリックをアグレッシブに奏でて、BOOM BOOM SATELLITESらしい芸当と言えば芸当ですけど、他では絶対聴けない表現ですよね。結果、リリックだけ見たら虚無なのに“怒り”を感じさせるようになってたりして。
川島:極端に言い捨てると、こんな感じで虚無的なんですけど、でも“諦めることはしない”っていうのがあって、それはサウンドが表現してくれている部分で。結構ここまでバッサリ言い捨ててもその反面を曲全体が描いてくれている。だからただの“もうこれでおしまい”みたいな歌になってなくて、希望を感じられるアグレッシブな部分も感じ取れる。歌声、ビートの強さ、ベースのリフ、その全部でひとつの世界観になる。僕が本当にここまで思っていてもそれをサウンドが許さないっていう(笑)。--こういった楽曲を歌うときって声の出し方、感情のコントロールみたいなところってかなり頭を使ったりするんじゃないんですか?その歌い方のセレクトとかも含め。
川島:そうですね。ただ感情に任せてっていうことは、どの曲もないですね。歌ってみて、そのディレクションを中野が出したりとかして。まず最初に歌ったその感じを大事にしておけば、あとはスキルでどこまで表現していくかっていう部分になるんで。「なんでこんなことを歌っているのか」っていうのは忘れないから、あとは歌えてるかどうかってことになる。声はね、スキルです。どうザラザラさせて歌うとか、ここまではツルッとしててとか。--そして今作のラストを飾る『Loaded』なんですが、この曲に込めた想い、メッセージをよかったら川島さんの口から聞かせてもらえませんか?
川島:『Loaded』も『Nothing』とは近い心情ですけどね。すごくコードが印象的な曲だし、ちょっと悲しげなメロディックな曲だと思うんだけど、でもやっぱりロックのフレイバーが強いダンスビートで、ポップソングでもある。なのでリリックの内容が『Nothing』と同じようなところでも、これはダンスミュージック全般の良いところでもあるかもしれないんだけど、未来があるっていうか、そこで終わることがない。それがサウンドにしてもリリックにしても強烈に生き残っているから。でもこの曲だけ結論がないんですよね、今作で。独り言に近い。で、そういう曖昧な感じでアルバム全体が締め括られているっていうのは、次を予感させるものでもあったりするかなと思ってますね。これも良い曲です(笑)。--全12曲入りの5th ALBUM『ON』、今各収録曲を振り返ってみて、改めてどんなアルバムになったなぁと感じていますか?
川島:すごくカラフルなんだけど、イメージは狭いっていうか、ひとつ筋が通っていて、すごく押しが強いっていうのかな?凝縮されている。メタルコーティングされた弾丸のような(笑)、そんな感じがしますね。前のアルバムが10曲なら10発の弾が別々に放たれるマシンガンみたいな感じだけど、今作は12曲で一発、すごく貫通力のあるアルバムなんじゃないかなと思って。それは出来たときから変わらない印象ですね。で、1曲目から12曲目までのサウンドスケープが意外と、いろいろなところに連れていってくれる。1曲聴きだしたら最後まで聴きたくなるような、珍しいアルバムだと思います。最近は曲数ばっかり多くて、最初の3曲ぐらいあれば、後ろの曲はいらないんじゃないかって思わせるアルバムも多いから、そういった意味では、最高な時間を過ごせるアルバムになってるんじゃないかな。--ちなみにこの『ON』の次、BOOM BOOM SATELLITESはどこへ向かっていくと川島さんは考えていますか?
川島:いやぁ~、それがね(笑)。前回ほど感覚的に掴んでるものはないんですけど、でもひとつ手に入れたこういう形はそう簡単に変更することはないだろうし、これでまたどんな反響があるのか分からないけど、こういうことは続けていくと思いますね。このバンド、ビートがすごいですから。すごいですからって(笑)。まぁビートミュージックなので、踊る機能を兼ね揃えている、むしろそっちがメインなロックバンドだから、その部分は変わんないでしょうね。そこからそれをどういう形にして届けるかは、またこれからって感じで、探していきます。リリース情報
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Interviewer:平賀哲雄
ON -limited edition-
2006/11/22 RELEASE
SRCP-404/5 ¥ 3,457(税込)
Disc01
- 01.Kick It Out
- 02.9 Doors Empire
- 03.Girl
- 04.id
- 05.Play
- 06.She’s So High
- 07.Pill
- 08.Generator
- 09.Beat It
- 10.Porcupine
- 11.Nothing
- 12.Loaded
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