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楽園おんがく Vol.19: 仲田まさえ インタビュー

楽園おんがく Vol.19

 旅と音楽をこよなく愛する、沖縄在住ライター 栗本 斉による連載企画。第19回は、喜劇の女王・仲田幸子の孫で、沖縄の大衆芸能を継承しながら、新しいスタイルの沖縄ポップスを生み出す仲田まさえのインタビューをお届け!

 沖縄在住なら知らぬ者がいないといわれる喜劇の女王・仲田幸子。今回紹介する仲田まさえは、その孫にあたる歌手だ。いや、歌うだけでなく祖母が主宰する劇団「でいご座」の芝居の舞台にも立ち、沖縄の大衆芸能を継承するひとりである。しかしその一方で、DJ SASAがプロデュースするレゲエやスカと沖縄民謡をミックスしたアレンジのシリーズ「んちゅ」では、スタジオ・ジブリの楽曲を取り上げた大ヒット・アルバム『ジブリんちゅ』をはじめ、メイン・ヴォーカルとして重要な存在となっている。

 そんな仲田まさえが、待望のソロ・アルバム『まさえ自慢のうちなーソングス』を発表した。タイトルからわかるとおり、「安里屋ユンタ」のような民謡からBEGINのヒット曲「三線の花」、そして書き下ろしの新曲「おばあちゃんの花」まで、様々な沖縄の歌が収められている。いずれもDJ SASAらしい斬新なアレンジを施されているが、祖母の仲田幸子や母の仲田明美のコーラスが加わることで、伝統音楽とポップスの絶妙なバランスを感じられる。もし、沖縄民謡を聴くのは少しハードルが高いと感じている方がいるとしたら、入門編として手に取るのもいいだろう。

 新しいスタイルの沖縄ポップスを生み出した仲田まさえに、連日連夜楽しいショーを繰り広げる彼女の活動の拠点「仲田幸子芸能館」にて、生い立ちからアルバム制作に至るまでを語ってもらった。

お芝居は特別なことだと思っていたので、
自分では出来ないだろうっていうのがずっと頭にあって

??物心ついた頃には音楽があったんですよね。

仲田まさえ:そうですね。民謡を聴いて、お芝居を観て育ちました。劇団の人に遊んでもらったりとか。おばあちゃん(仲田幸子)、お母さん(仲田明美)、そしておじいちゃん(仲田龍太郎)も劇団員だったんです。とくにおじいちゃんは脚本を書いたり、小道具を作ったりもしていたので、一緒に過ごすことが多かったですね。おばあちゃんは公演で回っていても、おじいちゃんは家で準備することもあったから。

??音楽だけでなく、お芝居の影響も強かったんですね。

仲田まさえ:沖縄のお芝居は、ミュージカルのように沖縄民謡でセリフや気持ちを伝える作品が多いんです。それで耳に残っていいますね。

??小さい頃は舞台立つこともあったんですか。

仲田まさえ:覚えてはいないんですが、子役では出たこともあったみたいです。ただ抱っこされて出て行って、「“お母さん”って言いなさい」っていわれても言えないくらいの頃ですね。

??芸能一家だと、小さい頃から英才教育なんてのがあるじゃないですか。

仲田まさえ:そういうのは全然なかったんです。それくらい、おばあちゃんもお母さんも家にいなかったんですよ、忙しくて。だから、同じように舞台に立つことは考えてもみませんでした。やってみたらっていわれたのも高校卒業する頃ですから。

??10代の多感な時期には、民謡を歌うことはなかったんですか。

仲田まさえ:一切なかったですね。ほんとに普通の高校生だったので、マクドナルドでバイトしてました(笑)。その頃、バンドをやらないかっていわれて、バービー・ボーイズのコピー・バンドをやりました。他のバンドのひとたちと仲良くなったりして。

??じゃあ、それが人前で歌った最初ですか。

仲田まさえ:ああ、そういわれると、そうかもしれませんね。おばあちゃんの舞台も見るのは好きだったんですけど、お芝居は特別なことだと思っていたので、自分では出来ないだろうっていうのがずっと頭にあって。

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こんなにいい環境があるのにやらないともったいない

??なぜ急にやろうと思ったんですか。

仲田まさえ:高校を卒業してから、おばあちゃんがここのようなステージのあるお店をやっていて、そこでウェイトレスをしていたんですよ。そしたらお母さんが急に妊娠してしまって、その代役をやりなさいってことで、急遽舞台に立つことになったんです。「まずは、立っておきなさい」って言われて。でも実際に立ってみたら「私には無理!」って思いましたね。まず、方言が上手くしゃべれないんですよ。ふだん使っていないから。だから、このお芝居に私が出ていることによって、崩しているんじゃないかって、申し訳なくなってしまって。

??でも、頑張って続けたんですよね。

仲田まさえ:やり始めた頃に、たまたま『タイム3』っていうフジテレビの番組が取材に来たんです。そして「お孫さんも芸能をやっている」って取り上げられてしまったんですよ。「全然やってないのに」って思いながらも(笑)。それで、取材を受けたときに「沖縄の芸能が無くならないためにも、おばあちゃんに頑張ってほしいですね」って言われて、ああそうなんだと思ったんです。そういうことを感じたときが、本気でやろうと思ったきっかけかもしれないです。

??その後は自信が付きましたか。

仲田まさえ:やっていくうちに常に葛藤はありました。これでいいのかな、あれでいいのかなって。それで、歌や踊りのお稽古に行ったりしているうちに、どんどんいろんな人と知り合っうことになって「ああ、なんか楽しい!」って思い始めました。こんなにいい環境があるのにやらないともったいないなって思ったし、「こんな私でも喜んでくれる人がいるんだ!」って。そうやってどんどんのめりこんでいきました。お芝居をやっててちょっとへこんだときは、歌によって励まされたり。逆に歌で落ち込むことがあれば、お芝居でお客さんの笑顔を見て励まされたりとかして。それで今も頑張っている感じですね。

??じゃあ、歌の稽古をしたのも、舞台に立つようになってからなんですね。

仲田まさえ:そうですね、金城朝子先生に習いました。それで2,3年経って民謡のコンクールを受けて、賞をいただいたりして。それで、25歳になったときに家族でCDを作ろうということになって、私のソロ名義なんですけど『でいぐぅ』(1998年)というアルバムを作ったんです。そしたら、知名定男先生やネーネーズさんたちなど、歌の世界でもいろんな方と知り合うきっかけになりました。

??2003年にはエイベックスからシングル「千夜千夢/光の詩」でメジャー・デビューしていますが、それはどういうきっかけですか。

仲田まさえ:沖縄復帰30周年の番組収録があって、東京のNHKホールまで歌いに行ったんですよ。そこで歌っていた映像をたまたまエイベックスの方が観て、「こんな歌ありますけど歌いませんか」ってことになって。私は嬉しかったんですけど、なんでこの歌なんだろうって思いました。民謡からかけ離れた楽曲だったので。でも、別の世界が見られてよかったと思います。

??そのまま、東京で一旗揚げようっていうのはなかったんですか。

仲田まさえ:それはないですね。おばあちゃんからも沖縄での活動を大事にしなさいっていわれていましたし。

??他にもいろんな方の作品に参加していますが、おばあちゃんの反応はどうだったんですか。

仲田まさえ:「ふうん」って(笑)。何してるのって感じだったと思うんですけど。あと、家族で劇団をやっているので、どうしても他の活動と両立するのが難しかったし、劇団にはマネージャーがいないので、スケジュール調整や芝居の打ち合わせも私がやっているんです。だから、こっちをおろそかにすることは出来なかったですね。

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「待望の十八番 沖縄ソングブック!」
▲ 「待望の十八番 沖縄ソングブック!」

??今回の新作のプロデューサーであるDJ SASAさんと知り合ったきっかけは。

仲田まさえ:共通の知り合いの紹介です。いきなり「となりのトトロ」を歌ってくださいって感じで(笑)。それが『ジブリんちゅ』(2011年)です。最初は「ええーっ?」と思ったんですけど、その仕上がりの良さにびっくりしました。

??この「んちゅ」シリーズではいろんな曲を歌っていますよね。

仲田まさえ:全部手探り状態でレコーディング・スタジオに入って、これでいいのかなって感じで何回か歌うんです。それをもとにSASAさんがアレンジしてくるので、出来上がるまではどうなっているのかわからないんです。

??今回のソロ・アルバム『まさえ自慢のうちなーソングス』を制作しようと思ったきっかけは。

仲田まさえ:「んちゅ」シリーズのプロデューサーのキングレコード本田さんから話があって、「ソロを出しましょう」といわれて。歌うのが楽しくなっていたときだったので、とても嬉しかったし感謝しています。

??最初にした作業は選曲ですか。

仲田まさえ:選曲は基本的にSASAさんです。毎日お店で歌っている曲を入れましょうということで選びました。おばあちゃんにも歌ってもらいたかったし、その元気さも表現したいアルバムにしたいということが基準です。

??こんなアルバムを作りたいっていうビジョンはあったんですか。

仲田まさえ:お店に来るお客さんは、みんな元気になって帰るんですよ。「元気をもらった、パワーをもらった」って楽しんでもらって。だから、このCDを聴いた人も元気になればといいなあと思いました。

??アレンジも「んちゅ」シリーズと同じような感じだったんですか。

仲田まさえ:そうですね。歌う段階ではリズムだけなんです。簡単な仮のコード楽器くらいはあるんですけれど。民謡って三線と歌を一緒に録音することが多いんですが、これは歌を録った後に三線を入れているんです。そこはちょっと戸惑いました。でも、いつも歌っている曲なので、とくに難しいとは思わなかったです。自分風にアレンジしすぎて、「歌い方が違うんじゃない」って直されたのもありましたけど(笑)。

??一曲目は沖縄民謡の代名詞みたいな「安里屋ユンタ」ですね。

仲田まさえ:みんなが知っている曲だし、いちばんステージでも歌っている曲ですね。これはとくに難しく考えず、素直に歌いました。次の「ハイサイおじさん」もそうですね。盛り上がる曲なのでストレートに歌っています。

??頭2曲は、おばあちゃんの声もたくさん入っているから、思わず楽しくなります。続く「ちょうんちょうん節」はSASAさんらしいスカのリズムに仕上がっていますね。

仲田まさえ:これも出来上がってから聴いたので、録音したときは自分の歌しかわからないんですよ。ああ、こんな風になるんだあって感じで。ベースやギターもそうですけど、おばあちゃんのコーラスも全部後から入れているんです。

??でも一発録りみたいな気持ちよさ、一体感がありますね。

仲田まさえ:それは、SASAさんが作るからです(笑)。

??BEGINの曲が多く入っていますね。

仲田まさえ:「三線の花」は、お店でもいちばんリクエストが多い曲なんです。私がよく歌ってるからというのもありますけど。常連さんからは「これ歌ってよ」っていわれることが多いです。たまに東京でライヴやったりしても、「三線の花」はリクエストがありますね。あと、「パーマ屋ゆんた」はいつもここで歌っているんですよ。私が歌うと、おばあちゃんが囃子をするんです。このCDには入ってないんですけど(笑)。「オジー自慢のオリオンビール」は、普段お店では私はお囃子だけなんです。いつもは男性の歌手が歌っているので、ちょっと大丈夫かなとは思ったんですけど、楽しく歌えました。ちゃんと歌ったのは初めてなんです。だから歌詞を間違えてしまって、録り直しました(笑)。

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と思われるようになりたい

??「世果報でーびる」は、初めてのカヴァーだそうですね。

仲田まさえ:前川守賢さんの曲で、おばあちゃんの歌も作ってくれている方なんです。そして、守賢さんの甥っ子(前川哲男)が三線を弾いているんですよ。彼は自分のいとこと結婚しているので親戚なんです。楽しい歌ですね。「沖縄ジントーヨー」もあまり録音されてない曲です。これは山内たけしさんという方の曲で、お母さんや劇団員の方と仲が良かったみたいです。

??「豊年音頭」も楽しい雰囲気の曲ですね。

仲田まさえ:すごくにぎやかな感じですね。この曲は終わり方がとても好きですね。SASAさんらしいアレンジの仕方が気に入っています。

??最後の「おばあちゃんの花」は、完全に書き下ろしのオリジナルですね。

仲田まさえ:沖縄で大人気のアイモコさん(アイロウ&モコ)に書いてもらいました。アイモコさんのテレビ番組におばあちゃんと二人でよく出させてもらうんですけど、そのときのおばあちゃんと私の会話をうまく取り入れて書いてくれています。何回か練習して、自分でも口ずさむようになって、「いい歌作ってくれて本当にありがとう」ってしみじみ思いました。

??アルバムの出来上がりはいかがですか。

仲田まさえ:音もそうですけど、ジャケットからなにから、とにかくきれいに作ってもらって感謝しています。あとはいろんなところで歌えたらいいなあって思っています。このCDは、とにかくおばあちゃんがいちばん喜んでいるんです。今まではちょっと首をかしげていた部分があったんですけど(笑)、このアルバムに関してはすごく喜んでて。だから今になって、「どんどん出なさい、どんどん歌ってきなさい」って言ってくれています。

??これを作ったことで変わったことってありますか。

仲田まさえ:とても変わりました。まず、民謡をもっとしっかりと歌おうと思いました。それと、今まで自分の中で歌に対する迷いがあったんですけど、楽しく自分らしく歌えばいいかって思うようになりました。これまではライヴの話があると、ちょっとこわいなあっていうのがあったんですけれど、今はもっと歌う機会がないかなあって思っています。

??次に作るとしたら、どういうアルバムになりそうですか。

仲田まさえ:まずはこのCDに入っている歌をどんどん歌って、新しいアイデアを出したいですね。カヴァーが中心だったから、もっとオリジナルもやってみたい。あと、おじいちゃんが書いたお芝居の中にもいろんな歌があるので、そういう曲も歌っていきたいですね。

??ところで、ふだん聴いている音楽ってなんですか。

仲田まさえ:公演の前には古い沖縄民謡を聴いています。それ以外の時は、R&Bとか洋楽が多いですね。歌い始めた頃は民謡ばかり聴いていたんですけど、最近はいろんなものを聴いています。一青窈さんや元ちとせさんも好きですし。HYさんなんかもリクエストがあるので、聴いたり歌ったりします。安室奈美恵さんもそうですけど、J-POPとはいっても沖縄の歌じゃないですか。だからなんでも歌えるようになりたいですね。自分風になっちゃいますけど、「沖縄に来たら、民謡っぽいHYが聴けた」っていうのもいいと思うんです。私は普通に歌っているつもりなんですけど、やっぱり民謡っぽいっていわれますね。

??最後に、「楽園おんがく」というと、何をイメージしますか。

仲田まさえ:ここに毎日いるので、ここで流れている音楽が「楽園おんがく」ですね。私が歌ったり、おばあちゃんが歌ったりしている歌です。ここが私にとっての楽園ですから。だから、このお店ではずっと楽園の音楽が流れていると思われるようになりたいですね。

仲田まさえ「まさえ自慢のうちなーソングス」

まさえ自慢のうちなーソングス

2014/09/10 RELEASE
KICS-3097 ¥ 2,640(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.安里屋ユンタ
  2. 02.ハイサイおじさん
  3. 03.ちょうんちょうん節
  4. 04.三線の花
  5. 05.パーマ屋ゆんた
  6. 06.世果報でーびる
  7. 07.沖縄ジントーヨー
  8. 08.オジー自慢のオリオンビール
  9. 09.豊年音頭
  10. 10.おばあちゃんの花

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