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チェット・フェイカー 来日インタビュー

チェット・フェイカー 来日インタビュー

 豪メルボルン出身、26歳のシンガーソングライター/トラックメイカー/プロデューサー、ニコラス・マーフィーことチェット・フェイカー。2011年に公開したブラックストリートのヒット曲「No Diggity」のカヴァーがネットを中心に話題を浴び、翌年デビューEP『シンキング・イン・テクスチャーズ』をリリース。R&B、ポップ、ソウル、エレクトロニック・ミュージックを独自の感覚でブレンドしたサウンドとモジャモジャ強面(?)ルックスとは真逆な色気溢れるヴォーカルがうけ、本国オーストラリアではゴールド・ディスクを獲得。その後、フルームとのコラボ作などを経て、2014年4月にリリースされたデビュー・アルバム『ビルト・オン・グラス』で見事1位を記録。また、オーストラリアレコード産業協会が主催する本年度のARIA賞では9部門にノミネートされるなど、今オーストラリアで最もアツいチェット・フェイカーが【FUJI ROCK FESTIVAL '14】にて日本初ライブを披露。これまでに何度か日本を訪れたことがあるというニックに話を訊いた。  

「No Diggity」がヒットしたというのは、今でも信じられないね

――プロジェクト名の由来となっている、チェット・ベイカーとジャズに出会ったのは、いつ頃ですか?

チェット・フェイカー:このプロジェクトを始める直前の21歳の頃。当時本屋で働いていたんだけど、隣にレコード屋があったんだ。オーナーは、フランス人DJのマックスってやつ。元々はジャズなんて好きじゃなかった、自意識過剰な奴らが聴く音楽だと思ってたから(笑)。

――ジャズに出会う前は、主にエレクトロニック・ミュージックを聴いていたのですか?

チェット・フェイカー:そうだね。昔はフォーク・ミュージックが好きだったんだけど、その反動というか…次第にエレクトロニック・ミュージックにハマっていったんだ。で、ジャズに辿り着いた。きっかけは、マックスが薦めてくれたアブドゥル・イブラヒムという南アフリカ人のジャズ・ピアニスト。そこからアフロ・ジャズを聴きはじめ、チェット・ベイカーに出会った。

――彼のどのようなところに惹かれたのですか?

チェット・フェイカー:音楽というよりは、コンセプトに惹かれた。やりすぎない歌い方や…完璧じゃないところがいいんだ。欠点を含め、すべてを受け入れている。それまで僕は、シンガーがあるべき姿に対して、自分なりのナイーヴな見解を持っていた。それは、多くの人々についても言えることだと思う。たとえば、『アメリカン・アイドル』なんかを観ると、どれだけ高音で歌えるか、とかそういったことがいい曲の定義になっているよね。でもそうじゃない。チェット・ベイカーは、それを僕に教えてくれたんだ。

――テクニックと音楽性は、別物ですしね。

チェット・フェイカー:そうなんだよね。もちろん両立することも可能だとは思うけれど。僕も一応トレーニングを受けているから、高音で歌おうと思えば、そうすることも出来る。でもそれを全ての曲でやるのは、どうかと思うよ。これは僕にとって大きな教訓だったから、その部分では感謝しているね。

「No Diggity」
▲ 「No Diggity」 (Live Sessions)

――そういった経験を通じて、シンガーとしての“声”や自分らしさを見つけることができたのは、いつ頃だと感じますか?

チェット・フェイカー:ぶっちゃけ、まだまだ模索中だよ(笑)。

――わかりました(笑)。大学の頃から、エレクトロニック・ミュージックを作っていたそうですが、トラックメイカーとシンガーの面を、初めて融合したのは?

チェット・フェイカー:「No Diggity」を作った時だね。この曲をカヴァーしようと思って選んだというよりも、たまたま頭の片隅にあったからだった。しかも一晩で仕上げた。ビートやサウンドをすべて作り込んで、最後にヴォーカルをレコーディングしたんだけど、最初はオリジナルの曲を書いていると思っていたんだ。で、ヴォーカルを録った時に、頭の中に残ってた「No Diggity」の詞を歌ったんだ。だから、本当に偶然で、セレンディピティ的な感じだったんだよ。あの曲がヒットしたというのは、今でも信じられないね。

――無意識ながらも、人はカヴァー・ソングに対して強く反応する傾向がありますしね。

チェット・フェイカー:本当にそうなんだ。とりあえず、みんなカヴァー・ソングは好きだよね。自分が慣れ親しんできたものに加え、新しい刺激も多少欲しているから。ミュージシャンとしてのキャリアをスタートするにはいい方法だということも分かったよ(笑)。

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そうじゃなかった時と同じように音楽は作り続ける

「Talk Is Cheap」
▲ 「Talk Is Cheap」 MV

――近年は、プロデューサーとシンガーソングライターという二足の草鞋を履くアーティストが増えてきていますが、チェット・フェイカーの場合は、どちらの面が特出していると思いますか?

チェット・フェイカー:う~ん、どうだろう。プロセスについて話すと、2つを並行で行っているんだよ。大体の場合、曲を書きながら、プロデュース/レコーディングしていくという手法を取っている。書くだけだとちょっと苦手なんだよね。レコーディングして、すぐにプレイバックが聴きたいから。だから、部屋に籠って曲を全部書き終えてから、レコーディングするのは出来ないと思う。曲を作る時は、PCがないと無理なんだ。

――デビューEPとなった『シンキング・イン・テクスチャーズ』では、空間の音を録音した“ロケーション・サンプリング”が多く使われていましたね。

チェット・フェイカー:そうなんだ。「シンキング・イン・テクスチャーズ」は、明確なヴィジョンがあったというより、サウンドやプロダクションを探究し、それにこだわった作品だったから、“ロケーション・サンプリング”が重要な役割を果たしてる。空間の音を聴くと、その空間を視覚化できるから、曲の中のストーリーを思い描く時に効果的なんだ。音を聴くことによって、細部まで連想することができる。でも、最近はヴォーカル・メロディの面に興味があるから、使用する機会は減ってきているね。

――確かに、デビュー・アルバムの『ビルト・オン・グラス』では、ヴォーカルワークがより際立っていて、シンガーとしての表現力も増していました。

チェット・フェイカー:エモーショナルでパーソナルな作品になっているから、サウンドはもちろん、ヴォーカルでもそれを巧みに捉え、表現しようと試みたんだ。ヴォーカルに関しては、ライブで演奏し始めたことも、糧となっているね。

――今作はパーソナルな作品だと言いましたが、ニックにとって音楽を作ると言うことは、ある種のはけ口でもある?

チェット・フェイカー:うん、とてもとてもパーソナルな作品だよ。僕にとって音楽というのはアウトプットで、仕事となった今でも、そうじゃなかった時と同じように音楽は作り続ける。人が日記をつけるのとか、手紙を出すのとかと同じ感覚なんだ。

「Gold」
▲ 「Gold」 MV

――なるほど。音楽を作ることが仕事となった今、普段の生活での音楽との接し方は変わりましたか?

チェット・フェイカー:大きく変わったよ。今は音楽をあまり聴かなくなったね。そうする時間が少なくなったというのもあるけれど、特にプロダクションに関わりだすと、頭で音楽を聴いてしまって、音楽が持つ本来のエネルギーが失われてしまうように感じる。それに今の時代は、普通に暮らしていても音楽を強制的に聴かされていることが多い。やっぱり音楽はじっくりと時間をかけて聴くものだと思うんだ。
 去年の夏…、あ、オーストラリアの夏だから、去年の12月~今年1月に2か月のオフをもらったんだけど、その時に始めて1年ぶりにちゃんと音楽を聴いたね。レコードを1枚かけて、それを最後まで聴いた。僕は、ヘッドホンで音楽を聴くのがあまり好きじゃない。さっきの“ロケーション・サンプリング”の話にも関連するんだけど、スピーカーを通して部屋一面に広がった音が好きなんだ。だから、ツアーをしているとそれが出来ないというのも大きいね。

――ツアー中に曲作りを行ったりはするのですか?

チェット・フェイカー:試みるけれど、やはり難しいよね。曲のアイディアが、ほとんどヴォーカル・メロディになったのも、ツアーが大きな要因になってる。とは言え、頑張って書いてるよ。もし次のアルバムが最悪だったら、上手くいかなかったってことだけど(笑)。

――テクノロジーの進化は、音楽にとっていい影響を及ぼしていると感じますか?

チェット・フェイカー:新たなテクノロジーが登場する度に、それを懸念する人は多くいる。人は新しいものや馴染みのないものを恐れる傾向があるから。たとえばPCが普及してきた頃には、手書きの文化を殺してるなんて言われてたけど、君は手書きの質問を持って僕の前に座ってる。ソーシャルメディアだってそうだよ。人を非社交的にするなんて言わてるけれど、別に今でも友達と出かけるでしょ?
 人間は、常に表現しながら生きていると思うんだ。テクノロジーは、単にそれを手助けするツールでしかない。それは、音楽に関しても同じ。それにデジタル・ミュージックが音楽全体をダメにしているなんて、くだらない考えだ。もうそうだったら、人はデジタルで音楽なんて聞かないと思う。人間はそんなに単純じゃないし、きちんとバランスをわきまえている。一番重要なのは、自分に合った付き合い方というのを見い出すことだと思うよ。

チェット・フェイカー「ビルト・オン・グラス」

ビルト・オン・グラス

2014/04/30 RELEASE
HSE-30334 ¥ 2,305(税込)

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Disc01
  1. 01.Release Your Problems
  2. 02.Talk Is Cheap
  3. 03.No Advice (Airport Version)
  4. 04.Melt feat.Kilo Kish
  5. 05.Gold
  6. 06.To Me
  7. 07./
  8. 08.Blush
  9. 09.1998
  10. 10.Cigarettes & Loneliness
  11. 11.Lesson In Patience
  12. 12.Dead Body

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