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ジョナサン・ウィルソン 初来日インタビュー

ジョナサン・ウィルソン 初来日インタビュー

 60年代~70年代のアメリカ・ロック史に多大な影響を与えたローレル・キャニオンの伝統とマナーを引き継ぐ、米ノースカロライナ生まれ、現在はLAを拠点に活動するSSW/プロデューサー/マルチ・インストゥルメンタリスト、ジョナサン・ウィルソン。ボブ・ウィアー、デヴィッド・クロスビー、グラハム・ナッシュ、ロイ・ハーパーなどの大御所をはじめ、クリス・ロビンソン、ジェニー・ルイスなど、これまでにセッションを行ったアーティストは数知れず。前記のロイ・ハーパーやファーザー・ジョン・ミスティの作品では、プロデューサーとしても腕を振るい、自らプロデューサーを務めた2011年リリースのスタジオ・アルバム『Gentle Spirit』で正式にデビュー。ジャクソン・ブラウンなどが参加した最新作となる2013年リリースの『Fanfare』を引っさげ、【FUJI ROCK FESTIVAL '14】に出演する為に、初来日を果たしたジョナサンに話を訊いた。

ジャム・セッションの魅力は、
どんな人でも受け入れてくれる包容力があること

「Angel」
▲ 「Angel」 (Live)

――初めての日本のフェス出演はいかがでしたか?以前ウィルコの前座を務めた時に拝見したことがあるのですが、今日はまったく違うフェスにピッタリなセットでしたね。

ジョナサン・ウィルソン:素晴らしいよ!景観もとても美しい。そうそう、フェスで演奏する時は、ジャムできる曲を多めにやるようにしているからね。

――まずは、ジョナサンの音楽のルーツについて訊きたいのですが、どのような音楽を聴いて育ったのですか?

ジョナサン:とにかく色々な音楽を聴いて育ったよ。ジャズも沢山聴いたね。父もギタリストだったんだ。祖父と祖母は、サザン・バプティストで、ゴスペルと強い繋がりを持っていた。それに祖母の兄は、ビル・モンローのバンド・メンバーだったから、ブルーグラスもよく聴いたね。そういった基盤があって、今の僕の音楽性というものが形になっているんだ。

――では、LAへ拠点を移し、ローレル・キャニオンへ辿り着いた経緯を簡単に教えてもらえますか?

ジョナサン:僕は、こういった音楽フェスとは無縁のド田舎で生まれて、19歳の時に“アメリカン・ドリーム”を追い求めて、ビバリーヒルズへやってきたんだ。バンドを始めて、音楽で食っていく為に。でも長い間、その努力は報われなかった。まぁ、ありきたりな話だよね(笑)。ローレル・キャニオンへ辿り着いたのは、偶然だったんだ。地元の親友が暮らしていて、「お前もこっちへ越して来いよ。」って誘われて、そのまま誘いに応じた感じだね。あの家にはジョニ(・ミッチェル)が住んでいたとか、あそこの屋敷にはドアーズがいたとか…当時はフランク・ザッパ家の向いに住んでたんだ、そういった土地の歴史について学んだのは、引っ越した後だったね。

「Dear Friend」
▲ 「Dear Friend」MV

――そこでは様々なジャム・セッションを行われたようですが、ジャム・セッションの魅力というのは?近年ではとても稀で、忘れ去られてしまった美学なような気がします。

ジョナサン:同感だよ。一番の魅力は、どんな人でも受け入れてくれる包容力があることかな。自分のエゴを捨てて音楽と向き合える。音楽を始めた頃…原点に戻った感じがワクワクするよね。どんなに有名だろうが、どのバンドに所属していようが構わない、そういった精神で行われているんだ。

――その中から生まれた友情や繋がりが自身の作品はもちろん、プロデュース業の基盤となっていますよね。やはり気のおけない仲間と音楽を作ることにこだわりが?

ジョナサン:もちろん。仲間とやった方が断然楽しい上に、インスピレーショナルだから。自然に派生しているというのも大切だよね。それに、今のようにバンドとしてツアーしている時はいいけれど、ツアー・サイクルが終わっても、仲間がいれば音楽を演奏し続けることが出来るから。

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    時間をかけ、考えていくのが醍醐味
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「Fanfare」
▲ 「Fanfare」 (Album Teaser)

――因みに、ジョナサン同様、現在のウェスト・コースト・シーンを率先するヴェティヴァーのアンディ・キャビックとはどのようにして出会ったのですか?

ジョナサン:実は、彼にはファンとして会ったんだ。元々デヴェンドラ(・バンハート)や(ヴェティヴァーの)オットー(・ハウザー)なんかと友達で、2005~2007年にぐらいにフリー(ク)・フォーク・ムーヴメントが過熱した時に彼らを通じて出会った。そこから仲良くなり、アルバムにも参加してもらってる。アンディがレコードオタクだっていうのは知ってるよね。彼のコレクションを通じて、色々なバンドや音楽にも出会ったよ。2009年には一緒にツアーもやったんだ。アンディのことは、とにかく尊敬しているし、大好きなミュージシャンだね。

――昨年リリースされた最新作『Fanfare』では、主にピアノで曲作りを行ったそうですが、こうしたことはソングライティングにどのような影響を与えましたか?

ジョナサン:ピアノを使おうと思ったのは、前作から変化をつけるためのアイディアとしてだった。そこでスタジオにスタインウェイを用意して、作曲を始めたんだ。そうしたら曲のスタイルも前作とまったく違うものになり、自然と作品のセンターピースとなっていった。ピアノは独学で学んだから、ピアノを弾きながらギターでは表現出来ないようなコードを発見できたのも興味深かったね。トーンやハーモニーの豊富さもギターとは異なっている。ギターで作曲する時によく陥るのは、しばらくすると同じコードに戻ってしまうということだったりもするから。

写真
2014.07.26 Jonathan Wilson @ Fuji Rock Festival '14

「Fanfare」
▲ 「Fanfare」 (Live on KEXP)

――なるほど。前作は、多数の楽器を自身で演奏していましたが、今作ではストリングスを起用するなど、さらに楽器が増えスケール感も増していますよね。

ジョナサン:そう、すごく気にいってる。スケール感を増すというのは作品のゴールでもあったんだ。スタジオに入って、デモを作ったりしてる時、ここにオーケストラによるストリングスを入れたら、どんなに素晴らしいだろう、と思っていたことが実現したからね。

――今後映画スコアを手掛けてみたいとは思いますか?

ジョナサン:ちょっとだけやったことはあるけど、いいプロジェクトに出会えたら、是非やってみたいと思うね。

――ジョナサンにはプロデューサーとしての一面もありますが、スタジオで過ごす時間とライブで演奏する時間、どちらが好きですか?

ジョナサン:もちろん両方好きだよ。バランスが取れてるんじゃないかなと思うね。スタジオ空間に関して話すと…本当にすべてが好きなんだ。かなりこだわっていて、入念にセットアップも行っている。ハーマン・ミラーの椅子に座ってコンソールをいじりながら、サウンドを探究し、それをどのように捉えるか…時間をかけ、それを考えていくのが醍醐味だね。他のアーティストの作品だと、色々試すことができるのもいいよね。様々な音のコンビネーションを見つけたり、マイクの位置だったり、常に実験なんだ。そこから偶然に素晴らしいサウンドが生まれると、すごく興奮する。で、頭の片隅に置いておいて、自分の作品に応用するんだ。

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「Love to Love」
▲ 「Love to Love」MV

――最近手掛けたコナー・オバーストの最新作では、2人の絶妙な相性も手伝い、彼にとって転機となるような印象的な作品に仕上がったと感じました。

ジョナサン:そう言ってくれて嬉しいよ。コナーとは兄弟みたいなもんだからね。一緒にアルバムを作ろうっていうのは、随分前…2008年ぐらいから話してたことで、やっと実現したから。いい曲が沢山生まれたと思う。彼のバック・バンドとして一緒にツアーもする予定なんだ。

――お~、そうなんですね!私は、ジョナサンが以前プロデュースしているDawesがバック・バンドを務めたライブを今年5月に観ましたよ。

ジョナサン:グレイト!そうそう、今度は僕らがDawesの代わりにやる。すごく楽しみにしてるんだ。

――そして気になるファーザー・ジョン・ミスティの新作のプロデュースも手掛けているんですよね?

ジョナサン:そう。もう完成してるよ。来年2月にリリースされる予定で、あまり多くは語れないけど、素晴らしい出来だっていうのは言える(笑)。

写真
2014.07.26 Jonathan Wilson @ Fuji Rock Festival '14

――若い頃と現在では、音楽との接し方が変わりましたか?

ジョナサン:新しい音楽を聴くことが、激減したと思うね。今は自分の音楽をどのようにアップデートしていくか…それを主に探究しているから、あまり他の音楽を掘り下げていくことをしなくなった。ここにある携帯もアイディアで詰まっているんだ。それとプロデュース業で、あまりそういった時間を取れないのと、昔に比べ意欲自体も薄れてきているんだと思う。

――近年では、ロック・バンドのカルチャーが衰退しているとよく言われますが、そういった現状についてはどのように感じますか?

ジョナサン:トラディショナルなロックンロールは、年々と死滅していっているよね。バンドと一緒に世界中をツアーして…様々な国で、それを直に感じているよ。17歳ぐらいの時から知っている僕の親友がテーム・インパラのメンバーなんだけど、あぁいうバンドの人気が爆発したりすると、すごくリフレッシングだね。消えゆくカルチャーだとは言われているけれど、ロック・バンドやロック・ショーが持つパワーは不滅だと思っているよ。

――では最後に、音楽史において、今はどんな時期だと思いますか?

ジョナサン:君と僕にとって不運だけど、今はクソみたいな時期にあると思う。上向いているとも思えない。最近ニール・ヤングのソロライブに行ったんだけど、MCで音楽界の現状について話していて、悲しんでいたよ。かつて音楽には意味があった時代があったけど、その時代は過ぎ去ってしまったってね。とは言え、そんな中でも僕らの音楽を聴きたいと思ってくれる人々がいるというのは喜ばしいことだと思ってるよ。

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