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「私は自分の亡霊を再訪している」― ロビン・ヒッチコック 『ザ・マン・アップステアーズ』インタビュー
1970年後半に頭角を現した英ケンブリッジにて結成されたサイケデリック・ポップ・バンド、ソフト・ボーイズのメンバーとしてデビューしたシンガーソングライター、ロビン・ヒッチコック。ソフト・ボーイズが解散した81年から現在まで、エジプシャンズやR.E.M.のピーター・バックらと結成したロビン・ヒッチコック&ザ・ヴィーナス・3などとして活動した彼が、今年8月に20枚目となるソロ・アルバム『ザ・マン・アップステアーズ』をリリース。伝説のプロデューサー、ジョー・ボイドを迎え、彼の提案により、ドアーズ、ロキシー・ミュージック、ザ・サイケデリック・ファーズなどのカヴァー曲とオリジナル楽曲によって構成された今作。オリジナル楽曲には、30年以上も前に書いた詞を元にした曲もあるという。電話に出ると、「今ちょうどイギリス北部にあるワイト島から海を眺めているんだ。ここは1970年にジム・モリソンとジミ・ヘンドリックスが最後のパフォーマンスを行った場所だ。」と語り始めたロビンに話を訊いた。
私は事実上はフォーク・アーティストなんだ
ただトラディショナルなフォーク・アーティストではない
▲ 「Trouble In Your Blood」(Sawyer Sessions)
??今作『ザ・マン・アップステアーズ』のタイトル、アートワーク、そして詞には、生と死というテーマが散りばめられていますが、それらは作品にどのような影響を与えましたか?
ロビン・ヒッチコック:生と死というのは、ソーシャル・メディアが発達した今の世の中でも、避けられないことだ。今、私はここに存在していて、しばらくそうしている…現在拠点としているこの島にも昔居たことがあり、再び戻ってきている。“時のスパイラル”の中にいる気分だ。時は円形に進むものではなく、スパイラルだと思っている―自分が居た場所に、後に辿り着く。時の地図があるとすれば、らせん状に動くバネのようなものかもしれない。私は自分の亡霊を再訪している。あるいは、私自身が亡霊として自分を再訪しているのかもしれない、どちらかは不透明だ。
??その“時のスパイラル”はアルバムに表れていると思いますか?
ロビン:もちろん表れていると思うよ。音楽のテーマの一つだからね。
▲ 「Harry's Song」(The Crypt Sessions)
??取り上げたカヴァーやオリジナル曲の多くは古い曲だったり、ロビン自身が書いてから時間が経っているものですが、そう言ったこともこのスパイラルと繋がっていると思いますか?
ロビン:そうだね。私の曲で(半分フランス語詞の)「Comme Toujours」という曲は、1980年に書き始めた曲だ。詞は書いたが、ずっと曲をつけていなかった。そして20年後にそのノートを見つけたんだ。そこで詞を完成させ、音楽をつけた。長く時間がかかった出来事だった。(ドアーズの)「The Crystal Ship」は、1967年にリリースされた曲で、何十年も歌ってきた曲だ。1970年初頭にピアノを弾きながら、当時のガールフレンドと曲を歌ったのを憶えている。ザ・サイケデリック・ファーズの「The Ghost In You」は、1985年か1986年にレコーディングしている。とても時間がかかって生まれた実りだ。
??カヴァー曲として取り上げてはいけない曲はあると思いますか?それとも誰でもカヴァーすることが可能だと感じますか?
ロビン:解釈するのは自由だと思う。人生の大半歌い続けていれば、自ずと自分の曲になっていく、たとえ出版権がないとしても。自分の中で成長し、体の一部になる。私がこういった類のシンガーソングライターであるのは、これらの曲を長らく聴き続けてきたからだ。ドアーズやロキシー・ミュージックの曲(「To Turn You On」)は、慣れ親しんできた曲なので、私の音楽DNAが入り込んでいる。それに、どんなものでも、どれだけ本当に発明することができるんだ?多くのものは、拝借され、順応されている。とある特定のメロディの作り手が誰かなんて、誰にもわからない。ボブ・ディランの曲の多くは、フォーク・ソングやトラディショナル・ソングと呼ばれるものだ。彼らはそれらを誰も聞いたことがないものへと順応させていった。我々が口にする言葉も、元々は他の誰かの言葉だ。たとえばイギリスで、今建っている家は亡くなって長らく経っているような人々によって作られたもの、我々が今あるものを作ったわけではない。自分達に合うように順応させているだけなんだ。
▲ 「More Than This」(Roxy Music cover)
??アルバムではロキシー・ミュージックをカヴァーしていて、昔はブライアン・フェリーに自分の姿を重ねていたと以前話していましたが、今でもそうすることはあるのですか?
ロビン:もちろん若い頃は、そうしていた。レザー・パンツを持っていた。別に彼になりたかったわけではないが、ジム・モリソンのファンだったからね。レザーの服を買うぐらいのファンだったけれど、髭を生やしていたことで台無しにしていた。
ブライアン・フェリーの曲での私は、自分がハンフリー・ボガードと思い描いているブライアン・フェリーを思い描いている。みんな真似ばかりしている、そう思わないかい?全員、自分ではない他の誰かになりたいから、存在しているんだ。マイケル・スタイプは、パティ・スミスになりたくて、そんな彼女は、アルチュール・ランボーやキース・リチャーズになりたいんだ。私になりたい人、またはなりたかった人も数人いるはずだ。我々は他人を自分の中に取り込み、他人から自分を作っていく。
人間は歳を重ねると、もう長らく生きることは出来ないと悟り、自分の過去に興味を持つようになる。歴史的な背景に自分を置きたいんだ、まるで額を求めている絵画のように。
??今作ではジョー・ボイドとコラボしましたが、彼とは同じ考えを持っていると感じましたか?
ロビン:イエス。でも彼は昔からティン・パン・アレー的ではない。私は、ルーツ・ミュージックと呼ばれるものと常に関わりを持ってきた。当時は、“フォーク”や“リズム・アンド・ブルース”と称されていた。それはブリティッシュ・フォーク・ロックの誕生に一役買った―インクレディブル・ストリング・バンド、フェアポート・コンヴェンション、リチャード・トンプソンなどはみんなそこから生まれた。ニック・ドレイクは、フォーキーではないけれど、彼もアコースティックの畑の人間ではある。
プレス・リリースで、私がアルバムのことを“フォーク・レコード”と呼んだら、ジョーは恐怖に慄いていた。「そんな風に言わないでくれよ!」って具合に。
私は、ロッカーではなかったし、ビッグでドライヴのあるサウンドを追求したことはない…それにエレキ・ギターよりアコースティック・ギターの方が得意だ。たまにロック・バンドと演奏することもある、ザ・ヴィーナス・3やR.E.M.のメンバーなんかのアメリカ人と。私は事実上はフォーク・アーティストなんだ。ただトラディショナルなフォーク・アーティストではないということだね。
Q&A by Chris Payne / 2014年8月26日 Billboard.com掲載
"The Ghost In You" Music Video
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