2021/04/14
2年前の夏に開催された【SUMMER SONIC 2019】での初単独公演以降、日本でも多くのコアファンに支持されているクリエイター集団のブロックハンプトン。何にも媚びていない、ただ音を楽しんでいるようなスタイルは、たしかに聴き手を一点集中させる中毒性と魅力に溢れている。
来日直後にリリースした前作『ジンジャー』は、ヒップホップをベースにミクスチャー、オルタナティブ・ロック、ファンク、ネオソウルなどを取り込んだジャンルレスのグループらしさが現れたすばらしいアルバムだった。シングル・カットした「Sugar」は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”に初ランクインするなど各国でヒットし、現時点での最高売上(ストリーミング)を記録している。
本作は、その『ジンジャー』から約2年、通算6枚目のスタジオ・アルバム。これまでは1st『サチュレーション』(2017年6月)、2nd『サチュレーションⅡ』(2017年8月)、3rd『サチュレーションⅢ』(2017年12月)、4th『イリデセンス』(2018年9月)、5th『ジンジャー』(2019年8月)と1年を切る間隔でリリースしてきたが、最も長いブランク(18か月)を経て完成したということになる。
その間には、新型コロナウイルスによる影響で世界が打撃を受け、アーティストもライブ活動やメディアの露出を制限されたわけだが、その分制作に意欲を燃やしたという声も度々目にする。ブロックハンプトンも、公式YouTubeで定期的に曲を披露したり、Twitchやインスタグラムでライブ・ストリーミングを配信したりとファンに向けての活動は欠かさなかった。本作のリリースまで長い時間を要したのは、パンデミックの影響とは別にあるタイミングの問題……かもしれない。
というのも、リーダーのケヴィン・アブストラクトは今年もう1枚のアルバムをリリースすると公言している。つまり、ロックダウン中に制作した(であろう)曲のストックは十分にあるということだ。また、次のアルバムが最後のリリースになるとの発言もあり、諸々波紋を広げている。曲のクオリティにおいては依然高い水準を保っている……どころか、感情を詰め込んだこれまでにない達成感をリスナーにも与える大傑作といえる。
奇才ダニー・ブラウンをフィーチャーした1stシングル「BUZZCUT」は、前編をロック、後編にはジャジーなムードを醸した2部構成の意欲作。ゴールデン・エイジを再現したようなレトロ感覚のMVも曲とリンクした出来高で、サウンド&アートいずれも2周くらい回って今尚新しい衝撃がある。スクラッチで繋ぐ2ndシングル「COUNT ON ME」もレゲエ/カリブ色が漂ういい曲で、ショーン・メンデスがバック・ボーカルを務めたことも話題を呼んだ。制作には、前作『ジンジャー』でも3曲に参加した米LAを拠点に活動するシンガー・ソングライター=ライアン・ビーティーと、ラッパーのエイサップ・ロッキーがクレジットされている。
そのエイサップ・ロッキーは、エイサップ・ファーグと「BANKROLL」にラップ・ゲストとして参加。彼等のトラックを下敷きにしたトラップに、両者とメンバーのマット・チャンピオン、マーリン・ウッド、ジャバリ・マンワが、それぞれの主張をそれぞれのパートで畳みかけている。
ネタ曲も充実。米NYのラッパー=JPEGMAFIAをフィーチャーした「CHAIN ON」は、ウータン・クランの「C.R.E.A.M」(1993年)とKRS・ワンの「Sound of da Police」 (1993年)を使用した90年代ヒップホップをリバイバルした仕上がりに。この曲では、昨年コロナ禍に起きたブラック・ライブズ・マター運動についての言及がされている。90年代中期の西海岸ギャングスタ・ラップを彷彿させる「WINDOWS」には、ファンク/ディスコ・フォロワーには高い人気を誇るクラウン・ハイツ・アフェアのクラシック・ナンバー「It's Me Who Loves You」(1974年)が、ケヴィンの鬱々しい幼少期を綴った「THE LIGHT PT. II」には、コロール・ウマーノのサイケ・クラシック「Hace casi 2000 años」(1972年)がサンプリングされている。
その他ゲストは、UKソウルっぽいサウンド・プロダクションの「I’LL TAKE YOU ON」に大御所チャーリー・ウィルソン、過去の失敗を歌った哀愁系R&Bメロウ「OLD NEWS」にベアードがそれぞれフィーチャーされた。前者はチャーリーのドスがきいたボーカル、後者はジャバリ・マンワによるボーカルを交えたラップがアクセントになっている。クレジットはされていないが、それぞれのパートに育った家族模様が伺えるフリー・ソウル風の「WHEN I BALL」に、レックス・オレンジ・カウンティがコーラスとして参加している模様。
セクシャリティをはじめとした人種差別問題について、Gファンクに乗せた強烈なラップで畳みかける「DON’T SHOOT UP THE PARTY」、ジョバが父親の死について取り上げたハードロック・テイストの「THE LIGHT」~ベアフェイスによるア・カペラの「DEAR LORD」などメッセージが性の強い曲、ロック、ヒップホップ、ミクスチャー、トラップへの変化を1曲で完結したような「WHAT’S THE OCCASION?」まで、一切の妥協がない。
社会、政治、宗教、人間模様をネガティブにもポジティブにもとらえ、サウンドは『サチュレーション』の硬派な面と『ジンジャー』のポップな二面性をもつ『ロードランナー:ニュー・ライト、ニュー・マシーン』。本作~次作が仮に最後のアルバムだとしても、悔いのないグループの全貌をパックしたような一枚だ。CDエディションにのみ収録されたボーナス・トラック4曲も秀逸で、まだまだこれからの“伸びしろ”も感じられるが、第一章を完結させ、次のステップに繋ぐ架け橋となるならそれもまた良し。
Text: 本家 一成
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