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2021/03/30

『Clouds』NF(Mixtape Review)

 2015年にリリースしたデビュー・アルバム『マンション』が米クリスチャン・アルバム・チャートで1位を獲得し、エミネムそっくりのラップ・スタイルでシーンに衝撃を与えた米ミシガン州グラッドウィン出身の白人ラッパー=NF。

 翌2016年に発表した2ndアルバム『セラピー・セッション』も同クリスチャン・チャートで首位に、3rdアルバム『パーセプション』(2017年)と4thアルバム『ザ・サーチ』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で2作連続1位を記録するなど、商業的な成功も収めている。ブレイクのキッカケとなった「レット・ユー・ダウン」(2017年)以降ヒット曲には恵まれていないが、コアなファンからの支持は厚い。

 本作『Clouds』は、その『ザ・サーチ』から約2年ぶりの新作で、ミックステープとしては意外にも初のリリース。あえてスタジオ・アルバムにしなかったのは、ランキングのプレッシャーや売り上げ諸々のしがらみを取っ払うためかと思われる。というのも、アルバムの核となるタイトル曲「CLOUDS」の冒頭でそんな思いを皮肉まじりにラップしているからだ。徐々にヒートアップする感情ムキ出しのボーカルが、時に恐ろしいほど圧倒する。

 昨今の流行とは一線を画す独特のアレンジ、感情的・感傷的なリリック、ソフト&ハードを使い分けた巧みなラップ・スタイルなど、前作からの大きな変化はないが、ヒットを狙った感ある曲は皆無で、さらにやりたいこと(言いたいこと)を詰め込んだ印象を受ける。

 その際たるが、先行シングルとして発表した「PAID MY DUES」での『ザ・サーチ』のヒットに噛みついたメディアやSNSに対しての怒り。昨年リリースしたエミネムの『ミュージック・トゥ・ビー・マーダード・バイ』や『カミカゼ』(2018年)にもそんなフレーズが多々見受けられたが、先人の後に続き、曲中で「怒りはアルバムにしてぶつける」と言い放った通りに思いの丈を解放した。歌詞の意味が読み取れずとも、何かに取り憑かれたよう炸裂させるラップから“そんな思い”が伝わってくる。

 2曲目の「THAT’S A JOKE」も同様に、自身の過小評価に対する怒りを吐き出している。アグレッシヴなトラックに隙間がないくらい言葉を詰め込むヘヴィーな曲で、4分弱がそれ以上に長く感じるほどの容量。言葉を詰め込むといえば、テック・ナインとのコラボレーション「TRUST」の畳みかけにも思わず息を呑んだ。この曲も、不信感を抱く誰かへの怒りがぶつけられていて、どちらもテーマに沿ったパフォーマンスがなされた。

 NFの曲は、そういった攻撃的なラップ・パフォーマンスと、弱い部分に触れた比較的穏やかな曲調の2パターンがある。前者に分類される4曲目の「STORY」は、自身が強盗に遭遇した体験を生々しく描いたナンバーで、銃声や911(緊急電話番号)でのやり取りも登場するスリリングな展開が聴きどころ。事件のリアリティを再現したMVも、深夜ドラマのようないい塩梅の出来高だった。 銃撃戦のようなエンディングの 「DRIFTING」 や、米LA出身のラッパー=ホプシンをフィーチャーした「LOST」も、怒りや信頼について歌った同路線の曲。

 後者には、ダーク・ポップのような雰囲気の「JUST LIKE YOU」や、女性コーラスをバックに従えたトラップ・メロウ「PRIDEFUL」などがあり、ラップと歌詞の攻撃性も抑え気味に感傷的な一面をみせる。「PRIDEFUL」は、葛藤と闘いながらも成長しようとする自身を称えた=PRIDEFULな歌詞が印象的。言葉の選び方やメンタルヘルスを共有するような姿勢からも、人間性が伺える。

 今にはじまったことではないが、シャウトやスタッカート、スピード感がよりエミネムそっくりで、意識をしていないのであればまさに「再来」というべくクオリティ。一部からは批判的な評価を受けているようだが、真似しようとしてここまで似せるのも難しく、もはや自分のスタイルとして確立している。そういった意味でも新境地を開拓したような印象はなかったが、現在におけるNFの内面をストーリーテラーとして表現した“らしい”作品ではある。しかし、この業界で生き抜くのは本当に息苦しそうだ……。

Text: 本家 一成

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