2021/03/29 18:35
デビューからすでに50年以上のキャリアを誇りながら、現役のシンガーとして精力的なライブ活動や新曲リリースを続けている加藤登紀子。近年もフジロックへの出演などにより、世代やジャンルを越えてあらゆる聴き手を魅了し続ける彼女が、初となるビルボードライブに登場。新旧の代表曲を織り交ぜつつ、シャンソン、フォーク、歌謡曲、ロシアの流行歌、マヌーシュ・スウィングなどの多彩な要素を情感豊かにしてパワフルな歌声で駆け抜けるステージは、親密さと圧巻さの双方がいつも以上にダイレクトに聴く者に伝わってくるようなスペシャルなものとなった。
軽やかなタッチのピアノのイントロから冒頭に取り上げたのは、ジブリ映画『紅の豚』でおなじみとなったシャンソンの名曲「さくらんぼの実る頃」。最初はフランス語で歌った後に日本語詞へと切り替えて、春らしくも深みのある歌声で魅了すると、ジプシー・スウィング調のギターとヴァイオリンを効かせつつ「デラシネ」を。フランス繋がりな2曲で、序盤から独自の歌世界へと引き込んだ。
トークを挟んで、昨年からのコロナウイルス感染拡大に伴う最初の緊急事態宣言の間に作ったという今回のツアータイトルともなっている「この手に抱きしめたい」など、ごく最近に書かれたナンバーを立て続けに聴かせると、キャリア初期のことを振り返ったトークに続いて自らアコースティック・ギターを手にして弾き語りで歌ったのは、69年にシングルとして発表した「ひとり寝の子守唄」。続けてその翌年(70年)にリリースして大ヒットした「知床旅情」と、日本的な情緒に溢れた初期の代表曲をシンプルな弾き語りで響かせた。その後は2011年3月に起こった東日本大震災の後に避難所を回った際に歌った「今どこにいますか」、福島県の飯館村を訪れる際に書かれた「命結-ぬちゆい」と続け、エキゾチックな胡弓による伴奏も伴いながら、歌に刻まれてきた様々な記憶を甦らせた。
そして、自身が生まれた旧満州(現在の中国北東部)のハルビンにはロシア人も多く住んでいたことなどに触れつつ「私の好きな唄を歌いましょう」と披露したのが、ロシアの古い流行歌を英国のメリー・ホプキンが取り上げて68年に世界的に大ヒットさせた「悲しき天使」のカバー。バラライカ風のマンドリンや哀愁味に満ちたヴァイオリンの伴奏、そして客席からの手拍子をどんどんとテンポアップさせつつ盛り上げると、会場のテンションを一気に高めたところで敬愛するエディット・ピアフの名唱で知られるシャンソンの名曲「愛の讃歌」をエモーショナルに熱唱した。ややクールダウンさせつつ「時には昔の話を」で本編を締めくくると、アンコールでは旧ソ連時代のロシアを代表する人気歌手であるアーラ・プガチョワの代表曲を80年代後半に日本語詞でカバーして大ヒットさせた「百万本のバラ」もしっかりと聴かせてくれた。
途中のトークでは、人生を25年区切りで考えればまだ第4幕が始まったばかりで、オペラでも第4幕が最も面白いと語り、まだまだ人生を謳歌し続けるパワーと創造性に溢れた加藤登紀子の貴重な今回のビルボードライブ・ツアーは、大阪に続いて3月30日(火)にビルボードライブ横浜で行われる。
Text by 吉本秀純
Photo by宇山ケンジュ
◎公演情報
【加藤登紀子
この手に抱きしめたい】
2021/3/24(水)-25(木) ビルボードライブ大阪(※終了)
2021/3/30(火) ビルボードライブ横浜
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