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2021/03/22 18:00

『ジャスティス』ジャスティン・ビーバー(Album Review)

 昨年2月に発表した5枚目のスタジオ・アルバム『チェンジズ』が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で通算7作目の首位を獲得し、7枚のアルバムを1位に送り込んだソロ・アーティストとしての史上最年少記録(25歳)を更新したジャスティン。本作からは「ヤミー」(2位)とミーゴスのクエイヴォをゲストに迎えた「インテンションズ」(7位)のTOP10ヒットが輩出され、その他にもアリアナ・グランデとコラボレーションした「スタック・ウィズ・ユー」(2020年5月)が通算6曲目の首位を獲得するなど、2020年は目覚ましい活躍を遂げた。その活躍を受け、先日開催された【第63回グラミー賞】では参加楽曲含む4作でノミネートされている。

 本作『ジャスティス』は、その『チェンジズ』から1年1か月という短い期間で完成させた通算6枚目のスタジオ・アルバム。前作からのリリース期間としては、ホリデー・アルバム『アンダー・ザ・ミスルトウ』(2011年)を除くと過去最短で、先行シングル「ホーリーfeat.チャンス・ザ・ラッパー」(2020年9月)、「ロンリー with ベニー・ブランコ」(2020年10月)、「エニワン」(2021年1月)、「ホールド・オン」(2021年3月)の4曲、ショーン・メンデスの『ワンダー』からカットされた「モンスター」(2020年11月)を含めると、5曲をわずか半年でリリースするという精力的な働きをみせた。

 こうして意欲的な制作活動ができたのは、新型コロナウイルス感染症によるロックダウン~自粛生活があったから、だろう。この1年間にリリースされた楽曲や、本作『ジャスティス』に収録されたナンバーは、パンデミックを経ての心境や希望、社会情勢を歌ったものや、妻ヘイリーへのラブ・ソング(であろう曲)などが中心で、内容面においてもその影響が色濃く表れている。アルバム・タイトルも、こういった時世を受け「正義について話すきっかけに繋がってほしい」という思いが込められているのだとか。

 カントリー調の穏やかなサウンドに、愛を(聖)に例えた宗教的な歌詞を乗せた「ホーリー」には、「君を抱きしめると安らかな気持ちになる」というフレーズなど、コロナ禍を経て感じた“愛の大切さ”が満載。仕事をなくして途方に暮れていたところ、手を差し伸べてくれる人に出会うというストーリーのMVも、今の世界情勢を反映したような内容だ。

 正統派なパワー・バラード「エニワン」にも、シンプルでストレートな「君への愛」が溢れている。おそらく妻ヘイリーにあてたものだと思われるが、これほど直球なラブ・ソングも、この1年で深めた愛の賜物といえるかもしれない。「ホーリー」に続きコリン・ティリーが監督を務めたミュージック・ビデオでは、『ロッキー』などの映画にインスパイアされた“ボクサー役”に扮して愛のため闘う様を描いている。

 スターが故の悩みや孤独を歌ったベニー・ブランコとのコラボ曲「ロンリー」も、触れたら壊れてしまいそうなメランコリック・メロウ。昨年リリースしたシングルはいずれもスロウで、こういう曲調が続いているのも不安定さの表れ、心境の変化なのか?と憶測を立ててしまったが、テーマに沿うとメロウ続きも無理はない。発売直前に発表した「ホールド・オン」では一転、お得意のアップ・チューンに回帰しパワフルなボーカルを披露している。強盗をして恋人の病を治そうというドラマなMVも、前2作に匹敵する完成度の高さ。希望を見出すメッセージも、今だからこそ響く。

 5曲目のシングルとして同日にリリースされた「ピーチズ」も、同カナダ出身のシンガー・ソングライター=ダニエル・シーザーと、昨年ドレイクの「シカゴ・フリースタイル」にゲストとして参加し、注目を集めたR&Bシンガーのギヴィオンを招いた横ノリのジャスティンらしい曲。かつてのヒップホップ・ソウルを彷彿させるトラック、ラップを絡めたラフなボーカル、ネオンライトが瞬く夜の街を車で疾走するMVも、曲にフィットしたアーバンな仕上がりで、本作の中でも圧倒的なインパクトを放っている。なお、この曲にはジャスティンがインスタグラムに投稿したデモをキッカケに、ダニエルが仕上げたといういきさつがある。

 ゲストがクレジットされたナンバーでは、R&Bシンガーのカリードをフィーチャーした「アズ・アイ・アム」と、異才ドミニク・ファイクとのコラボレーション「ダイ・フォー・ユー」もいい曲。前者は、ジャスティン(高)とカリード(低)の対照的なボーカルが独特のハーモニーを生み出すジャンルレスのミディアムで、後者は煌びやかなシンセとエレクトリックベースが舞う、80年代ニューウェイブ調の意欲作。80年代風では、ライアン・テダーが制作した10曲目の「サムバディ」も、昨年の年間チャートを制したザ・ウィークエンドの「ブラインディング・ライツ」路線の疾走感あるシンセ・ポップで、流行もしっかりおさえるあたりはさすが、ポップ・スター。

 流行といえば、2曲目の「ディザーヴ・ユー」も、ヒップホップとオルタナ・ロックをブレンドした今っぽい仕上がり。アコースティックとエレクトロを融合させたサウンド・プロダクションの「ダイ・フォー・ユー」、「ソーリー」(2015年)の雰囲気を纏ったハウス・トラック「ラヴ・ユー・ディファレント」、ナイジェリアのシンガー/ラッパー=バーナ・ボーイの音楽ルーツに則ったレゲエ~ダンスホール調の「ラヴド・バイ・ユー」など音色はバラエティ豊かで、ゲストもやり過ぎない程度にいい選出をしている。

 華やかな曲もあれば、濁ったピアノの伴奏をバックに歌うアカペラ風のオープニング曲「トゥー・マッチ」や、ザ・キッド・ラロイが参加した同調の「アンステイブル」など重々しい曲もあり、感情の起伏を表現しているような展開が繰り広げられる。「トゥー・マッチ」と7曲目の「MLK・インタールード」には、キング牧師が1967年4月に教会で行った演説の一部を起用するという「正義」を意識した姿勢も。機材やPCを使わず、自宅で弾き語りしながら作ったであろう様子が目に浮かぶしっとり系のアコースティック・メロウ「オフ・マイ・フェイス」もあり、良い意味でお腹いっぱいだ。

 リリース直後、本作のアートワークが自分たちのロゴに似ているとフランスのダンスデュオ=ジャスティスから申し立てがあり、ちょっとした騒動に発展しているが、こういったモメごとが作品毎に起きるのも、ある意味ポップ・スターであることの証明……か?

Text: 本家 一成

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