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2021/01/29

『ノット・ユア・ミューズ』セレステ(Album Review)

 ここ数年はインパクトの強い新星が続々と登場していて、煽るメディアの「〇〇年に一度の逸材」が多すぎる(ような?)印象を受ける。“逸材”に恥じない実力を伴っているアーティストもいれば、首をかしげることもあったりするが、セレステほどのポテンシャルの高さを前にすれば、そう言わざるを得ないだろう。
 
 その“新星”の代表格であるビリー・アイリッシュや、彼女のプロデューサーで兄のフィニアス、昨年「サムワン・ユー・ラヴド」で大ブレイクしたルイス・キャパ ルディ、ポップ・シンガーのカミラ・カベロ、 サム・フェンダーやジョルジャ・スミスといった若手実力派から、「カープール・カラオケ」でお馴染みのジェームズ・コーデンまで、多くのスターも絶賛した実力は折り紙つき。
 
 評論家や音楽関係者からの評価も高く、英BBCがその年最も活躍が期待される注目の新人に贈る「BBC Sound of 2020」の第1位を獲得。その他、「MTV Push Ones To Watch」や「Amazon Music Ones To Watch」などの新人向けランキングや、【ブリット・アワード】の<批評家賞>を受賞するなど、実力に伴った評価を得ている。
 
 本作『ノット・ユア・ミューズ』は、それらの功績を経てリリースされた待望のデビュー・アルバム。2017年には『The Milk & the Honey』、2019年には2作目『Lately』のEP2作がリリースされているが、正式なフル・アルバムとしては初の作品となる。全曲をセレステ自身が手掛け、共同制作者には前述のルイス・キャパ ルディやカイゴ、カルヴィン・ハリスなど、イギリスで高い人気を誇るアーティストのヒットに携わってきたジェイミー・ハートマンが加わった。

 冒頭の「アイディール・ウーマン」は、優しいギターの音色とカスれ具合が絶妙なボーカルが心地良いジャズ・ソウル。それに続く「ストレンジ(エディット)」も、ノラ・ジョーンズ路線のブルージーなバラードで、歌い回しも曲にフィットしたジャジーな雰囲気を醸している。「ストレンジ」は、2019年9月にリリースされた本作からの1stシングルで、メディアで披露し多くのアーティストが絶賛するなど反響を呼んだ、セレステの知名度を高めた曲でもある。制作陣には米NYのシンガーソングライター=レイベルがクレジットされた。
 
 3曲目の「トゥナイト・トゥナイト」は、70年代ファンク~ディスコを彷彿させる短調のアップ・チューン。歌謡曲っぽくならないのは、ディーヴァ系お得意の“歌い上げ”を用いないからだろう。一方、次曲「ストップ・ディス・フレイム」では高らかに歌い上げ、持ち前の歌唱力をアプローチした。
 
 「ストップ・ディス・フレイム」は「BBC Sound of 2020」に選ばれた直後の2020年1月にリリースされ、UKシングル・チャートで47位、ベルギーやオランダ、スコットランドでもTOP40入りした、現時点での最大のヒット・チューン。サウンドからボーカルまで、本人かと錯覚するほどアデルをそのまま再現したようなブリティッシュ・ソウルで、ヨーロッパ方面でヒットしたのも納得できる。ジャズの聖地である米ニューオーリンズで撮影されたミュージック・ビデオも、色味、ファッション、構成いずれもすばらしく、【UK Music Video Awards 2020】の<Best R&B/Soul Video>にもノミネートされた。また、J-WAVE「TOKIO HOT 100」の2020年間チャートでは、12位にランクインする快挙を達成している。同曲のプロデュースは、ラテン・シンガーのシャキーラやポップ・シンガーのカーリー・レイ・ジェプセン、ラッパーのジェイ・Zなど、ジャンルをクロスオーバーして手掛けるジョン・ヒルが担当。  
 
 次曲「テル・ミー・サムシング・アイ・ドント・ノウ」も、アデル・マナーに則ったミディアム。低音から高音まで、これほどバランスよく綺麗に出せる歌手も珍しい。3曲アップが続いた後、6曲目の「ノット・ユア・ミューズ」~「ビラヴド」でスロウ・ダウン。前者は諭すように歌うセンチメンタルなバラードで、後者はリラックス効果抜群のフランス風オールディーズ・バラードに仕上がっている。
 
 昨年末にリリースされた「ラヴ・イズ・バック」は、ホーンとブラスの音を強調した60年代風レトロ・ソウル。ソウルフルなサウンドに溶け込むボーカル・ワークは、アデルっぽくもあり、故エイミー・ワインハウスを彷彿させる攻撃的な一面もある。同曲には、エド・シーランのデビュー作『+ / プラス』(2011年)で活躍を遂げた、チャーリー・ハグオールがソングライター/プロデューサーとして参加した。
 
 上質なギターリフのアコースティック・メロウ「ア・キス」、古くはミニー・リパートンや90年代のエイドリアナ・エヴァンスにも近い、都会的なネオソウル 「ザ・プロミス」、イギリスの大手百貨店「ジョン・ルイス&パートナーズ」のCMに提供した、心拍数に近いテンポのハートフルなメロウ「ア・リトル・ラヴ」、深みのある低音がマイナーな旋律にハマつ、 ラテン・バラード風味の最終曲「サム・グッドバイズ・カム・ ウィズ・ハローズ」と、後半は上質なミディアム~バラードが並ぶ。
 
 デラックス盤には、2018年のシングル「レイトリー」と「ボース・サイド・オブ・ザ・ムーン」、翌19年の「ファーザーズ・サン」と「ストレンジ」、ローレン・オーダーとのコラボレーション「アンシーン」、Netflixオリジナル映画『シカゴ 7 裁判』のエンド・ソング「ヒア・マイ・ヴ ォイス」、ディズニーピクサー『ソウルフル・ワールド』のイギリス版エンド・ソングとして作られたジョン・バティステとのデュエット「イッツ・オール・ライト」など9曲が、2021年2月26日にリリース予定の日本盤には、エディット・ピアフの名カバー「ラ・ヴィ・アン・ローズ」が収録される。なお、MVでの全身グッチのコーディネートが話題となった 「リトル・ ランナ ウェイ」は、収録を見送られている。
 
 本作について、セレステは「無力に感じていた時に見出した力」とし、自分への激励、自分自身の誇り、今在る状況への感謝を述べた。また、商業的な成功は目的とせず、自分らしい作品を完成させたともインタビューに答えている。
 
 1994年5月5日生まれ、米カリフォルニア州カルバーシティ出身。本名をセレステ・エピファニー・ウェイトといい、ジャマイカ人の父とイギリス人の母との間に生まれ、3歳の時にロンドンへ移住した。ジャズ・シンガーのエラ・フィッツジェラルドや、ソウルの女王アレサ・フランクリン等に影響を受け、10代の頃から音楽活動をはじめる。16歳の時に初のオリジナル曲「Sirens」をYouTubeにアップし、それをマネージャーが見つけたことでデビューのキッカケを掴んだ、という経緯がある。

Text: 本家 一成

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