2020/12/23
Nulbarichのオフィシャル・ライブレポートが到着した。
暗闇の中で楽器だけが映し出され、メンバー同士のジャムから静かに始まったNulbarich初のストリーミング・ライブ。JQはドラムセットに座り、気の置けない仲間とのセッションを楽しむようにドラムを叩いている。遮光カーテンに包まれ、メンバー同士が円になるステージはまるで秘密基地。彼らが遊ぶ深夜のプライベート・スタジオに招かれたような雰囲気だ。きっとNulbarichの楽曲はこんな風に生まれてくるのだろうと想像する。そのセットのままマイクを握り、「On and On」から本格的に【Nulbarich Live Streaming 2020 (null)】が始まった。
メンバーの顔は時折照明が当たるのみ、言葉もなく、音だけで語るような彼ららしいスタートである。ギターがふたりにベースがひとり、キーボード、ドラム、そしてJQという6人布陣。コロナ禍の影響で実に1年ぶりとなるNulbarichのライブだが、まるで空白の時間を埋めるようにあの日から地続きの姿を見せているように思う。前半は「Get Ready」、「Zero Gravity」とソリッドなナンバーが続いた。このタイトなアンサブルを聴くと、画面越しでも彼らのライブが帰ってきたなと実感させられる。
「ごきげんよう、これはどこを見ればいいんだ?」と観客のいないステージを見ながら本音をこぼすも、「いつも通り楽しんでいきたい」という言葉で締めくくったのがこの日最初のMC。「ワンマンだとこういうコーナーを設けることもないので、スペシャルなセクションを用意して、ありそうでなかったNulbarichをお届けしたいと思います」という宣言通り、「It's Who We Are」を終えたところで早速新しい試みへと移る。
ドラムはセットのみならず、演奏するプレイヤーも代わり、ギター、キーボード、JQというミニマムな4人編成でのアコースティック・アレンジである。こうしたライブの中での柔軟性も彼らの魅力だろう。このセクションでの1曲目、「Spread Butter On My Bread」で奏でるルーズなグルーブと、<今日も一日お疲れ様です>というリリックを聴いて、この日が良い夜に変わった人も多いはずだ。
さて、ここでこの日最初のサプライズである。誰もが驚かされただろう。「Nulbarichのデビューから支えてもらっている兄さんを、ここで1曲スペシャル・コラボレーションとして呼んでもいいですか」という紹介で招かれたのはBASI。彼らのライブでゲストが招かれること自体が初めてであるが、なんとそのアーティストはBASI。もはや曲を聴く前から虜にされた者は多いだろう。「心強いっす」という言葉通り、JQからのリスペクトも伝わる素晴らしいコラボである。BASIの柔らかい表情、色気を感じるメロウな音色、そこに溶け込むふたりの歌声、そのどれもが素晴らしい。ムードたっぷりのギターソロと、切なさを掻き立てる<この時がこのまま続けば>というフレーズが甘い余韻を生み出していた。贅沢な要求かもしれないが、いつかこの曲を夜空の下で聴けたら極上だろうと思う。
さて、ここからはBASIとJQのふたりで、視聴者からのコメントを眺めるゆるーいMCが始まっていく。「髪型が似ている」、「双子」というコメントには笑ったが、BASIの好きなお酒がハイボールであることや、JQの好きな入浴剤の話など、普段のライブでは決して聞けなかったトークが面白い。これも配信ライブならではだろう。お客さんを招く事が出来ない分、違う形でファンに対して“距離の近さ”を感じてもらおうという計らいかもしれない。
デビュー以降毎年その舞台を大きくし、一気にさいたまスーパーアリーナまで駆け抜けたNulbarichである。毎回ステージの演出にもこだわり、プロフェッショナルな姿勢を貫いてきた分、こうしたアットホームな雰囲気は新鮮だ。このセットでの最後の1曲「NEW ERA」は、まるでベッドルーム・バージョンとでも言うようなアレンジで、丸みを帯びたシンセの音が心地良い。聴く者を癒すような優しいステージである。
それを終えると再び6人編成へ戻り「VOICE」を披露。いつの間にかカーテンは開かれ、浮遊感のあるシンセがスペイシーな雰囲気を醸し出す。星空の中にいるような舞台で後半へ。「これを待ってたんだろ」という挑発と共に始まったのが「ASH」のリフである。実際多くのリスナーが期待していただろう、この日ふたり目の客演としてVaundyが登場。ファンキーなギターが気持ち良く、<今灰にして>とフレーズがエンジンになって、どんどんと熱気を上げていくアンサンブルもカッコいい。BASIとの共演とは打って変わって、非常にエモーショナルな1曲だ。こうしたライブを見ていると、外部の血を取り込むことで彼らの音楽もまた新しい表情を獲得したことがよくわかる。
そして「ASH」の後半で初めてステージの全景が露わになったことも、カタルシスが生まれた要因だろう。カメラアングルがグッと広がり、頭上に大きなミラーボールが現れる。それまでの閉じた空間から視界が開け、Nulbarichにとっても思い入れ深いスタジオコーストの舞台が見えた瞬間だ。
光の粒子に包まれるような照明が美しい「Twilight」からは、この日のハイライトが続いていく。相変わらずキレキレな演奏で魅せてくれたのが「SUPER SONIC」で、各プレイヤーのソロパートはどれもスリリング。とりわけベースから鍵盤へと繋ぐ瞬間はシビれるばかり。もしオーディエンスがいたら、間違いなくここで大きな歓声が上がったはずだ。80's風のフレーズが新味となった「LUCK」は疾走感のあるギターと、カチっと刻まれる縦のリズムが爽快で、これまた満員のお客さんと共に聴きたい1曲だ。
本当にあっという間である。「この曲が最後になります。今年はいろいろあったけど、要は酸いも甘いもあるということでこの曲を最後にしました。Life is 悲しい時も楽しい時もあるでしょう」という短いMCから届けてくれたのが「Sweet and Sour」。『Blank Envelope』に収録され、以降彼らのライブでは頻繁に演奏されてきた楽曲だが、Nulbarichのディスコグラフィの中でも随一の美しさを誇る1曲だろう。この曲の持つメッセージとメロディには、確かな普遍性が宿っているように思う。
カメラが定点に変わり、明るくなったステージではスタッフによる解体が始まっていく。誰もがここでこの日のライブは終了したと思うだろう。しかし、静かにストリングスの調べが聴こえてきて、次第にメンバーの演奏が再開される。まるで映画のエンドロールのように、舞台の解体作業と共に、彼らは「最後の1曲」を奏で始めるのである。それまでのライブ空間がバラされていく中、それでも鳴りやまない演奏。最後は日常の中で彼らの音楽が続いていくような演出である。
何より、そこで披露されたが曲が素晴らしい。バンド史上初となるストリングスを招いての新曲「TOKYO」である。バイオリンふたり、ビオラ、チェロの4人を加えた10人編成は、間違いなく彼らの音楽における次なる可能性を示していた。JQのソングライティングの冴えはもちろん、どこか祈りを感じさせる慈しみ深い音色も魅力的である。少し大袈裟な表現かもしれないが、「Sweet and Sour」と「TOKYO」の2曲で、どこかリスナーを肯定する力を感じたのだ。コロナ禍の状況がどれほどJQの創作に影響を与えたかは定かではないが、時代に対して誠実な曲を届けてくれているように思う。
最後に「TOKYO」が年明けの1月27日にリリースされることが発表された。思わずBASIとの楽曲はいつリリースされるんだ?と欲張りな疑問も浮かんだが、どうやら来年もリスナーを楽しませてくれることは間違いなさそうだ。少し先の未来さえ想像できない時間が続いているが、そうした苦難の時だからこそ、一層音楽の力に癒され、励まされるのだろう。変わらず「また会いましょう」と言ってくれたNulbarichの活動に期待したい。
Photo by Victor Nomoto
Text by 黒田 隆太朗
◎セットリスト
2020年12月22日(火)東京・新木場STUDIO COAST
01. Long Session
02. On and On
03. Get Ready
04. Zero Gravity
05. It's Who We Are
06. Spread Butter On My Bread
07. Together feat. BASI
08. NEW ERA
09. VOICE
10. ASH feat. Vaundy
11. Twilight
12. Super Sonic
13. LUCK
14. Sweet and Sour
15. TOKYO
アーカイブ視聴期間:2020年12月28日(月)23:59まで
https://bit.ly/2KtejOU
◎リリース情報
配信シングル「TOKYO」
2021/01/27 RELEASE
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