2020/12/08 17:30
2020年12月7日、ユニバーサル・ミュージック・パブリッシング・グループがボブ・ディランの全楽曲の出版権を本人から購入したことを明らかにした。契約条件は明かされていないが、獲得されたのは1962年から現在までの全ての楽曲で、出版権とディランの“ライターズ・シェア”が含まれていることから、ほかの楽曲カタログの価値に基づいて見積もると少なくとも1億ドル(約100億円)、おそらくはその数倍の価値があるとみられている。
現在、ディランの出版権は米国ではBob Dylan Music Company、その他の地域ではソニー/ATV音楽出版が管理している。ソニー/ATVの広報担当者によると、米国外における協定は、契約が終了する数年後までは続くとのことだ。
新型コロナウイルスの感染拡大によるストリーミング需要の急増や低金利が影響し、音楽出版マーケットが活気づいている。コンサート・ビジネスが一時的にストップしていることや、米国のジョー・バイデン次期大統領が資本利得税を増税する可能性があることも市場の活発化を後押ししているとみられる。
また、もう一つの要因として業界関係者が挙げるのは、1960年代から70年代にかけて一人前になったシンガー・ソングライターの世代が、自身の遺産について考え始め、相続計画に着手していることだ。12月4日にもPrimary Wave Music Publishingが、スティーヴィー・ニックスの楽曲の過半数の権利を取得したと発表した。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは彼女の楽曲の価値を1億ドルと概算している。ディランとニックスの取引は、同様に大型な音楽カタログの商取引を誘発するかもしれない。
ただ、ディランの例はかなりユニークだ。ロック世代のソングライターで彼に匹敵する影響力を持つビッグ・ネームはザ・ビートルズくらいだろう。【ノーベル文学賞】を受賞した唯一のソングライターである彼は、60年間で延べ600曲以上も発表している。現在79歳の彼は、60年代の始めから自分一人で作詞作曲を手がけているが、これは当時のポピュラー音楽界では珍しく、プロのソングライターたちが書いた曲をシンガーに売り込むことが普通だった。
ディランはアルバムを39作リリースしており、「風に吹かれて」、「時代は変わる」、「ライク・ア・ローリング・ストーン」、「天国への扉」、「ブルーにこんがらがって」などの代表曲がすぐに思い浮かぶが、ほかのアーティストによるカヴァーの印象が強いものも多い。ジミ・ヘンドリックスによる「見張塔からずっと」をはじめ、ガース・ブルックスやアデルによる「メイク・ユー・フィール・マイ・ラヴ」など、無数のカヴァーをインスパイアしていることも彼のカタログが持つ強みだ。
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