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2020/11/24

<ライブレポート>『大宮エリーの即興美術館』YO-KINGの音楽のバイブスが絵に

 コピーライター、映画監督、脚本家、CMディレクター…まさにマルチに活動を続けるクリエーター・大宮エリー。インスタレーションや絵画作品を手掛けるアーティストとしても活動を続ける彼女が、11月23日に、地元大阪のビルボードライブ大阪でライブペインティングショー『大宮エリーの即興美術館』を開催した。

 『大宮エリーの即興美術館』はミュージジャンをゲストに迎え、奏でられる音楽や観客の反応までもインスピレーションに大宮エリーが即興で絵を作り上げていくというパフォーマンス。これまでは原田郁子(クラムボン)や永積タカシ(ハナレグミ)、キヨサク(MONGOL800)らをゲストに迎えて行われて来たが、今回初の大阪公演では"歌とギター"でYO-KINGが参加。トークあり、セットリストなし、聞こえてくる音楽と見える景色、感じたものだけを絵にしていくという予想不可能なショーが幕を開けた。

 ステージ左手には縦2m×横4mほどにも及ぶ大きなキャンバスが設置され、足元には絵の具、絵筆にローラー、バケツなど数々の画材が、そして少し離れた右手にはアコースティックギターが準備され、開演時間を少し過ぎて大宮エリーとYO-KINGが登場。早速ユルめのトークでイベントはスタートした。「今日はキングのの音楽と歌声にバイブスをもらって、そこから見えた絵を描いていくんですけど、みんなのバイブスや配信のコメントも読みながらやっていこうと思います。今日は死後も残る絵を描くつもりで」と大宮エリー。通常は3曲目ぐらいまでじっくり音楽を聞いてそこから描き始めるということだったが、この日は2曲目の中盤からクレヨンを使っていきなりもくもくとした線を描きはじめた。YO-KINGが「イナズマに乗って」「鼓動」「その分だけ死に近づいた」と歌い進めていく中で、大宮エリーは一点を見つめて曲を聞いたり、キャンバスをじっと見つめたり、ハッとして絵の具をにゅーっと出したり。YO-KINGが歌う歌詞にじっくりと耳を傾けるような仕草を何度も見せ、夕焼けのイメージを受け取ったという彼女はクレヨンで描いた線の上にローラーを巧みに使って淡いピンクを塗りつけていく。夕焼けと聞いたYO-KINGが奏でたのは、夕焼けから夕闇に変わっていく情景が歌われた「TURN」。歌詞にあったむらさきの空という言葉を聞いて大宮エリーはむらさきの絵の具を塗り重ねていく。なんと即興的な! 1曲終わるごとにふたりの普段からの仲の良さが伝わるトークをはさみながら曲が始まるとキャンバスに色が増えて、また重なっていく。歌詞からインスピレーションを受けている様子を見ると、YO-KINGが紡ぐ歌詞をこちらもしっかりと受け取りたいと感じて、目は絵の制作を捉えつつ歌詞をしっかり捉えるように音楽を聞くようになってくる。

 この日YO-KINGの弾き語りはセットリストはなし。その場の雰囲気に合わせて、自由に演奏するスタイル。YO-KINGが「譜面、適当に持って来てて」と客席に向かって掲げた紙は30枚はあったのではないだろうか。まもなく映画も公開になる『えんとつ町のプペル』をカヴァー演奏していくYO-KINGを横目に、大宮エリーはハケを使い、指を使い、青色、黄色、緑と重ねていく。時折ギターが鳴り終わったあとの静寂に、絵筆がキャンバスに擦れるシャッシャッとという音が響くのも心地いい。この作品では特に8曲目の「君がそばにいるだけで」の歌詞をじっくりと噛み締めながらピンクを力強く塗りつける姿がとても印象的で、彼女自身も「一番いい曲だった!今沁みましたよね?」と笑っていた。その後カネコアヤノ「明け方」のカヴァーや歌詞と絵が完全にリンクした「雲の形が変化した」など12曲を歌い終えるとともに、柔らかさのある作品が完成した。ビビッドな色使いながら最終曲では、ふと生まれた"境界がなくなる"というイメージを全て手に絵の具をつけてぼかしながら色を重ねて具現化していた様子が目に焼き付いた。

 休憩を希望、一瞬ステージを離れた大宮エリーに代わって、YO-KINGが1曲「素晴らしきこの世界」を披露。この日初めて、音楽だけをじっくり楽しむ貴重な時間を挟み、2枚目の作品の制作へと進む。大宮エリーは早速鮮やかな青の絵の具をローラーにたっぷりと含ませ、弧を描くようにリズミカルにキャンバスに色を入れていく。「なんか今日は青ばっかり描いちゃうなぁ」と言いながら、次の曲ではビビッドなピンクを指先につけてたくさんの点を落とした。絵の具を出すチューっという音、ローラーがキャンバスと擦れる音、そして手についた絵の具を豪快にワンピースで拭う姿。どれもこれまでのビルボードライブ大阪では見たこともないものばかりだ。ニュアンスの違う青を、そしてむらさきを重ね、曲が「凍りついた空」、友部正人の「ある日ぼくらはおいしそうなおかしを見つけた」のカヴァーやと進んだところで「うん、見えたな」とポツリ。白い絵の具で雪山のような稜線をじっくりと描ききると、ラストスパートとばかりにYO-KINGから「サマーヌード」「どか?ん」「Hey! みんな元気かい?」を歌うよという宣言が飛び出した。人気曲で客席も一体化しはじめ、演奏に手拍子が乗っていく。手拍子がより強くなった「どか?ん」では、曲に合わせて手にたっぷりと白い絵の具をつけて飛ばして模様を重ね、「Hey! みんな元気かい?」ではこの日初めて使う茶色で木を描き入れ、曲の終わりとともに作品も完成となった。

 全身と五感をフルで使って巨大な作品2枚も描き上げた大宮エリー。もうヘロヘロだよ…と言いながらも2枚目の作品につけたタイトルは「春待つ木」。まさに今、誰しもの心にある気持ちがYO-KINGの音楽と大宮エリーの絵を通して視覚化された形となった。

 絵のインスピレーションの源だと思うと、音楽の聞き方がまるで変わったのは面白い発見だった。本を読むかの方に歌詞を味わおうとする感じというのが近いだろうか。見ているだけで目が、耳が、脳がフル回転する『大宮エリーの即興美術館』。思ってもいなかった状況に陥った2020年、なかなか動くことは少なかったのにこの2時間でたっぷりと震えた心を、しっかりと覚えておきたいと思う。

Photo by Kazuki Watanabe
Txet by 桃井 麻依子

◎配信情報
【大宮エリーの即興美術館
絵:大宮エリー 歌とギター:YO-KING】
2020年11月23日(月・祝)ビルボードライブ大阪
オンライン視聴券:¥2,500
チケット購入URL:https://eplus.jp/ellie-st/
販売期間:2020年11月29日(日)22:00まで
※アーカイブ視聴可能期間:2020年11月29日(日)23:59まで

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