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2020/11/24 18:00

『グッド・ニュース』ミーガン・ジー・スタリオン(Album Review)

 ミーガン・ジー・スタリオンにとって、2020年はまさに飛躍の年だった。3月に発表したEP『SUGA』が、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で7位に初登場し、自身初のTOP10入りを果たすと、本作収録の「Savage」が米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で首位を獲得。その翌月には、ゲストとして参加したカーディ・Bの「WAP feat. ミーガン・ザ・スタリオン」も同チャート1位に輝き、2曲連続の快挙を達成した。
 
 本作『Good News』は、そのNo.1ヒット「Savage」を経てリリースされるミーガン初のスタジオ・アルバム。これまで3枚のEP『Make It Hot』(2017年)、『Tina Snow』(2018年)、『Suga』と、2019年に発表したミックステープ『Fever』(全米10位)をリリースしているが、正式なスタジオ・アルバムとしては処女作となる。その「Savage」は、大ヒットの引き金となったビヨンセをフィーチャーしたリミックスを収録している。
 
 前作『SUGA』からのリード・シングル「B.I.T.C.H.」には、故2パックの「Ratha Be Ya Nigga」(1996年)がサンプリング・ソースとして使われていたが、本作のオープニング曲「Shots Fired」には、抗争の対局にあったザ・ノトーリアス・B.I.G.の「Who Shot Ya?」(1994年)が使用されている。タイトルとネタ曲からしても想像つくが、同曲は7月にミーガンの足を銃で撃ち負傷させた疑いで逮捕された、ラッパーのトリー・レーンズに向けたディス・トラック。トリーは先月リリースした新作『DAYSTAR』で同事件への関与を否定していたが、ミーガンは一語一句強調するようねじ伏せている。
 
 90年代クラシックでは、最高2位を記録したアディーナ・ハワードの「Freak Like Me」(1995年)を使用した「Freaky Girls」という曲もある。R&Bシンガーのシザをフィーチャリング・ゲストに、ラッパーのジューシー・Jをプロデューサーに招いたフロアライクなアップで、「Shots Fired」同様、当時のヒップホップ・フォロワーも受け入れ易いサウンド・プロダクションとなっている。
 
 ジューシー・Jは、ジュヴィナイルの「Rodeo」(2006年)をサンプリングした放送禁止用語炸裂の「Work That」と、ミシェル・レによるニュージャックの名盤『Michel'le』(1989年)から「Something in My Heart」を使用した「Outside」のプロデュースも担当した。2ndシングルとして先行リリースした「Girls in the Hood」には、その「Something in My Heart」を手掛けたN.W.A軍団のイージー・Eによるクラシック・ナンバー「Boyz-n-the-Hood」(1987年)がサンプリングされていたりと、アラフォー以降の世代には懐かしい要素満載。その「Girls in the Hood」は、スコット・ストーチがプロデュースを手掛けている。
 
 ネタものではないが、発売同時にシングル・カットされた「Body」も90年代のクラブ・シーンを彷彿させるパーティー・チューン。サビの「Bada-yada-yada-yada…」が凄まじいインパクトで、印象度のみでいえば「Savage」をも上回る。黒のボディ・スーツで大胆なパフォーマンスを披露するミュージック・ビデオには、女優のタラジ・P・ヘンソンやモデルのブラック・チャイナ等がカメオ出演し、それぞれの個性や女性の魅力・権利等を訴えている。
 
 ヤング・サグをフィーチャーした先行シングル「Don't Stop」のMVも、なかなかの出来栄え。ミーガンのキャラらしからぬ(?)ファンタジーな世界観は、自身がお気に入りだと公言する映画『シザーハンズ』(1990年)や『不思議の国のアリス』から引用したものだそう。金に纏わるアレコレやあけすけなリリック、重低音を効かせたトラップ・ビートとは若干画に温度差があるものの、ある意味イメージを払拭した意欲作となっている。
 
 ゲストが参加したナンバーでは、今年「Rockstar」の大ヒットで活躍を遂げたダベイビーとのコラボレーション「Cry Baby」も好曲。他曲にも劣らない強烈なビート、「WAP」を下敷きにしたようなどエロい歌詞はミーガンの真骨頂といったところで、シングル・カットすればヒットも期待できそう。ダベイビーとは、「Cash Shit」(2019年5月)、「NASTY」(2020年4月)に続く3回目のタッグ。相性もいいらしい。若手ラッパーとのコラボレーションでは、リル・ダークが参加した「Movie」も両者見事なラップスキルを披露した傑作。プロデュースはテイ・キースが担当した。
 
 米マイアミ出身のラップ・デュオ=シティ・ガールズとの「Do It on the Tip」という曲も、期待通りの出来栄え。自らを“ビッチ”と高らかに宣言し、性欲モンスターさながらのラップを3人が繰り広げる展開は、むしろ清々しいほど。LilJuMadeDaBeatが手掛けた2000年代っぽいチキチキビートもどこか卑猥でいい。ビッグ・ショーン&2チェインズとの同トリプル・コラボ「Go Crazy」では、男子たちに寄せた(?)スタイルにシフトチェンジする器用さもみせた。
 
 卑猥を売りにした曲のみならず、陰険なアンチに向けて異論を唱える「What's New」や、ネット社会における人間関係やコミュニケーションの深刻さを訴えた「Don't Rock Me to Sleep」などもある。前者はホイッスルを鳴らす今風のトラップ、後者ではラップを控えめに、ボーカルをメインとしたミディアム・テンポのシンセ・ポップに挑戦した。本作の中では最もヒップホップ色が薄く、個性にフィットしているかは別としてミーガンの新たな一面を垣間見た。
 
 その他、ジャズミン・サリヴァンの「Holding You Down (Goin' in Circles) 」(2010年)を早回しした、クール&ドレーによるプロデュース曲「Circles」や、エレクトロ色を強めた「Sugar Baby」、ポップ・カーンとDJマスタードが担当した「Intercourse」など、収録曲は何れを取っても手が込んでいる。
 
 「Savage」の大ヒットはビヨンセの功績だとか、運が良かったとの見解もあったりするが、ラップ&ダンスのスキル、強烈なリリック~曲のクオリティからして、ミーガンのブレイクは必須だったといえる。他のフィーメール・ラッパーと比較しても群を抜いてパンチ力があり、魅力的。好みはそれぞれだが、日本では到底放送できない卑猥な内容も、ドスの効いたこの声だからこそ、説得力があるというか。それに比例したボリューミーなビジュアルも、女王の貫録を漂わす。  
 
 本作は内容が凄く良かっただけに、タイトルとジャケ写はもうちょっと攻めても良かったような……気が。

Text: 本家 一成