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2020/11/26 12:00

<滝千春&斎藤龍インタビュー>ベートーヴェン生誕250年にヴァイオリン・ソナタ全曲演奏を発信する

 2020年は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)の生誕250年のメモリアルイヤーにあたる。今年は各地でさまざまなベートーヴェンの作品を演奏するコンサートが企画されていたが、コロナ禍の影響で多くの演奏が中止となった。

 それに心を痛めたのはヴァイオリニストの滝千春とピアニストの斎藤龍。ふたりはこういう時期だからこそ、ベートーヴェンの音楽に触れてほしいとの願いから、ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏をライヴストリーミングで発信することに決めた。

 ベートーヴェンは1770年12月16日生まれという説が濃厚である。洗礼を受けたのは12月17日とされている。その誕生月である12月に、14日から18日まで「ベートーヴェンウィーク」として各日20:00からPIA LIVE STREAM(アーカイブ配信有)において、滝千春と斎藤龍のデュオによるベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏が配信される。

 ふたりは10年前、留学先のチューリッヒ芸術大学のコンクールでベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第1番を演奏して優勝の栄冠に輝き、以後ソナタ全曲演奏を目指して研鑽を積んできた。滝千春が語る。

 「ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは、ピアノがとても重要な役割を担います。斎藤さんはベートーヴェンを得意とし、深く研究していますので、もっとも理想とするパートナーです。全10曲はそれぞれ個性があり、ベートーヴェンのあらゆる面が表現されていますが、私は特に第6番の第2楽章に魅了されています。あまりにも美しいメロディに、泣きたくなってしまうくらいです」
 
 斎藤龍がこれに続ける。

 「ベートーヴェンは人間味あふれるやさしい人だったと思います。多くの作品の緩徐楽章(第2楽章)を見ると、非常にしなやかで感動的な美を備えています。ベートーヴェンはピアノの名手でしたから、ピアノにとても多くのものを要求しています。私は昔から第4番をこよなく愛しているのですが、いずれのソナタもヴァイオリンとともに何か新たなものを作り出していく演奏をしたいと思います」

 ふたりは、ベートーヴェンの作品は演奏するたびに新しい発見があり、学び続けることの重要性を演奏家に突き付けてくるという。滝千春は名前に因み、第5番「春」をもっとも多く演奏しているが、もちろん人気の高い第7番も第9番「クロイツェル」も演奏するごとに解釈・表現が深まっていく。

 「常に、楽譜を深く読み込むことが大切だと思います。演奏するたびにごくこまかな点に気づき、さらにピアノとのバランスを存分に考慮しています。ベートーヴェンは古典的な書き方をしていますが、そのなかに革新性が見えます」

 滝千春は「革新性」という面に非常に魅力を感じるという。一方、斎藤龍も、ベートーヴェンの常に一歩先を見ていた面に惹かれている。

 「ベートーヴェンは新しいものを求めるエネルギーがすごいと思います。各々のヴァイオリン・ソナタのなかで主題や変奏、和声、強弱の変化、リズムの変容などありとあらゆる冒険をしています。ピアニストとして生涯対峙していきたい作曲家です」
 
 ここで、斎藤龍にヴァイオリン・ソナタ全10曲の聴きどころを紹介してもらうと…。

 「第1番はピアノがメインに書かれている箇所が多いですね。ベートーヴェンはピアニストとしても活躍した人ですから、ピアニスティックな書法が際立っています。ただし、ヴァイオリンとのバランスがとても大切です。第2番は、より室内楽的な要素が目立ちます。ヴァイオリンと密接なコミュニケーションをとらないとなりません。第3番はベートーヴェン的なヴィルトゥオーソな面が特徴で、はなやかさが感じられます。とりわけ第2楽章は美しい旋律が登場します。

 第4番は先ほどもいいましたが、もっとも愛するソナタで、新しいものを求めるエネルギーがすごい。最初に演奏したときから直感的に好きになりました。第5番「春」は人気が高く、親しみやすいソナタです。ヴァイオリンの奏でる旋律がとても美しい。でも、単に美しいだけの演奏にはしたくない。いろんな表情をもっていますし、洗練されている。ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタのターニングポイントとなっているのではないでしょうか。第6番はモーツァルトっぽい雰囲気をたたえ、かわいらしい曲です。そのなかに劇的、素朴さなどの要素が詰まっています。

 第7番は“ザ・ベートーヴェン”とでもいうような大曲で、各楽章の表現の違い、コンチェルトのような趣など、とても演奏しがいのある作品です。第8番はベートーヴェンの後期の作風が濃厚です。表現の幅がとても広いですね。第9番「クロイツェル」はみなさんがもっとも聴きたい作品だと思います。これは奏者にいかに演奏するかという命題を突き付けてくるソナタ。エネルギーが放出し、ソナタの集大成的な面もあり、特別な意志を感じます。第10番はアイデアがとてもおもしろい。音楽が成熟し、ベートーヴェンの心から湧き出てくる感じ。じっくり聴いていただくと、いろんな発見があると思います」

 メモリアルイヤーの掉尾を飾るこのデュオは、ベートーヴェンを心から愛するふたりの熱く深い思いが結実したものになるに違いない。彼らの作品の内奥にひたすら迫っていく、その心意気を演奏から聴き取りたい。彼らは理想のパートナーを得て、じっくりリハーサルを行い、ベートーヴェンと真摯に向き合っている。まさにベートーヴェンの魂に肉薄するデュオの誕生である。

Text:伊熊よし子(滝千春&斎藤龍インタビュー)
Photo:島崎信一

◎配信ライブ情報
【滝千春×斎藤龍「ベートーヴェンウィーク」ベートーヴェン・ヴァイオリンソナタ全曲】
2020年12月14日(月)~18日(金)20:00
12月14日 ヴァイオリン・ソナタ第1・2・3番
12月15日 ヴァイオリン・ソナタ第4・5番
12月16日 ヴァイオリン・ソナタ第6・7・8番
12月17日 ヴァイオリン・ソナタ第9番
12月18日 ヴァイオリン・ソナタ第10番、モーツァルトの《フィガロの結婚》から「もし伯爵様が踊るのなら」の主題による12の変奏曲
価格:1日チケット 1,000円
   ベートーヴェン・ウィーク・チケット(通し券)3,000円
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2067529