2020/11/16
ビリー・アイリッシュを筆頭に、ビジュアルからして目を引く若手が続々と登場している。ニュージーランド出身の新星ベニー(BENEE)もまたその一人で、シーンに現れてからすぐさま高い注目を集め、昨年デビューEP『FIRE ON MARZZ』と2作目『STELLA & STEVE』を連続でリリース。後者は、100位内にランクインしたことのない作品で集計される米ビルボード・ヒートシーカーズ・チャートで1位を記録し、新時代を担う米NY出身の奇才ガス・ダパートンとコラボレーションした「Supalonely」が、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で39位まで上昇。UKシングル・チャートでは18位、本国ニュージーランドでは自己最高の2位のヒットを記録した。
本作『Hey u x』は、そのブレイク曲「Supalonely」含むベニー初のフル(デビュー)アルバム。同ニュージーランドのインディー・トリオ・バンド=Cool Rainbowsや、ヒップホップ・バンドのKidz in Space、ヒットメーカーのケニー・ビーツ等がプロデューサーとして参加し、ゲストにはそのケニー・ビーツやリリー・アレン、米アラバマ州出身のフィメールラッパー=フロー・ミリといった面々がクレジットされている。
そもそも「Supalonely」がブレイクしたキッカケは動画投稿アプリTikTokからで、若者の間で拡散し、最終的にはあのエルトン・ジョンまで唸らせてしまうんだから恐れ入る。「これは売れるぞ」というべく決定打はないが、エルトン世代もすんなり受け入れられるレトロなサウンド、ラップのように言葉を刻む独特なボーカル、今ドキの女の子らしいポップなミュージック・ビデオいずれも“気になる”要素は満載で、リピーターが続出したのも納得できる。(相当)粘りっこいガス・ダパートンのボーカルとソングライティング力も、ヒットに大きく貢献したのでは?
この「Supalonely」もそうだが、その他の曲もZ世代特有の不安やメンタルヘルスなどについて歌われたものが中心となっている。センセーショナルな内容ではあるが、軽いタッチのボーカルとポップなサウンドが重々しさを緩和させ、且つ簡易的に深い心情を読み取らせてくれる。ヒップホップ(ラッパー)の作品ではビートがキツいが故こうもいかないから、その点はポップ・シンガーの特権といえる。
とはいえ、本作にもヒップホップに準じた曲がある。それが、前述のケニー・ビーツがゲスト/プロデューサーとして参加した 「Night Garden」で、生音を基としたサウンド・プロダクションはかつてのオルタナ・ヒップホップをリメイクしたような充実ぶり。ベニーのフェイク・ラップとファルセットで浮遊するコーラス、米ロンドン出身の気鋭アーティスト=ベイカーによるスマートでスパイスの効いたボーカルもすばらしく、個人的には本作一の出来だと太鼓判を押したい。日本でもブームとなっているアニメーションによるMVも、相当コワイが最後まで見入ってしまう引力がある。
ゲスト参加のナンバーでは、ベニーがファンだと公言するカナダのシンガーソングライター=グライムスとコラボした「Sheesh」という曲も傑作。今年2月にリリースしたグライムスのアルバム『Miss Anthropocene』にも通ずる近未来的なアレンジのドラムンベースで、「Supalonely」や「Night Garden」とはまた違うエネルギーをもたらしている。「Supalonely」を挟んだ次曲「Snail」もエレクトロ色強めの80年代風テクノ・ポップで、ロックダウン中に完成させたとは思えないキャッチーさと彩りを放っている。奇妙に踊りながらカタツムリにキャベツを配る(すごい光景)ビデオも、曲の斬新さにマッチした出来高だった。
日本でも高い人気を誇るポップ・シンガーのリリー・アレンとフロー・ミリをフィーチャーした「Plain」では、トラップに近い曲にも挑戦している。疑問形を繰り返すハスキーなリリーのコーラス、解釈の難しいフロー・ミリのドスをきかせたラップどちらも強力で、アクの強い2人を起用したのは(良い意味で)高慢な感じが武器であるから、ではないだろうか?よって、攻撃的な歌詞が際立つ。現段階で公開しているのはリリック・ビデオのみだが、3人が画になった作品も期待したい。ギターを唸らすロック色強めのミディアム「Kool」は、ゲームのキャラクターとして操られるビデオが今っぽい仕上がりで、前曲とはまた違う魅力がある。
オーストラリア出身の個性派・モールラットを迎えたオルタナティブ・ロック「Winter」があれば、同レーベルに所属するMurokiをフィーチャーした穏やかなミディアム「All the Time」もある。トリップ・ホップのような雰囲気の「Happen to Me」やニューウェイブっぽい「Same Effect」もあれば、ビリー・アイリッシュ路線のメロウ「A Little While」もある。目まぐるしく曲調が入れ替わり、最終曲「C U」ではアコースティック・ギターによるインディー・フォークで人生を悟ってしまうんだから凄い。
個性を際立て様々なジャンルの曲で形成された本作『Hey u x』。ベニーは「~系のアーティスト」とは断定し辛く、本人も特定するようなスタイルは望んでいないという。好みが分かれるのはどのアーティストにもいえることだが、売れ線を狙った感じも何かに媚びた様子も一切なく、自信に満ちたサウンドを確立している。【ボーダフォン・ニュージーランド・ミュージック・アワード 2019】では<ベスト・ソロ・アーティスト>など4冠を制し、たった2年でここまでのし上がったのも当然というべく才能の固。
Text: 本家 一成
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