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2020/10/19 18:00

『アポロニオ』オマー・アポロ(EP Review)

 米インディアナ出身、メキシコ人の両親をもつ23歳のシンガー・ソングライター=オマー・アポロ(Omar Apollo)。裕福な家庭ではなかったようで、曲作りやギターの演奏技術はYouTubeの動画等から独学で習得してきたという。
 
 自主制作によりSpotifyにアップした「Ugotme」が、気鋭のアーティストを紹介するプレイリスト“Fresh Finds”に登録され、1年で1,500万再生を超えるヒットを記録。2018年に同曲が収録された初EP『ステレオ』でデビューし、翌2019年には早2作目のEP『フレンズ』を発表した。それに続く3作目が、自身のミドルネームを冠した本作『アポロニオ』。コロナ禍にほぼ全曲自身で完成させたそうだが、9曲いずれも“とは思えない”クオリティの高さに感服。
 
 音楽好きの両親が愛聴していたメキシコのスーパースター=ペドロ・インファンテや、ロス・パンチョスなどのラテン系アーティストから、故プリンスやリック・ジェームス、ブーツィー・コリンズといったファンクのレジェンド、若手ではジ・インターネットにも影響を受けたそうで、たしかにそれらのエッセンスが所々にあらわれている。
 
 オープニング曲「I’m Amazing」は、オーガニックなサウンドに柔らかい声質がハマった、90年代初期(風)のオルタナティブ・ヒップホップ。ドリーミーな同曲から、次曲「Kamikaze」ではステップを踏むディスコ・ファンクに転調する。ファンキーなトラックに乗せて歌うのは“失恋の心地よさ”というべきか、旋律や歌い回しが哀愁を帯びているのも、そういった内容に直結しているからだろう。
 
 ブルー・アイド・ソウルの若手シンガー・ソングライター=ルエルとセッションした「Want U Around」で、再び70年代ソウルを受け継いだメロウにスロー・ダウン。単調だが両者の硬軟自在なファルセットが宙を舞う中毒性抜群の一曲で、ずっしりしたベース音も体に染み渡る。「Kamikaze」や同曲の歌詞から察するに、ロマンチストで未練・執着系男子という気がしないでも……?
 
 「Stayback」は、うねりを効かせたベースライン~粘り気のあるフレージングが、まさにブーツィー直結のミディアム・ファンク。というのもこの曲、ブーツィー・コリンズをフィーチャーしたリミックスもリリースされているほど“まんま”を貫いている。毒々しい色彩のナイトプールで微睡むMVも曲のイメージそのもので、諸々インパクト強め。ブーツィーの参加もあるが、往年のファンク・フォロワーも納得の出来栄えといえる。
 
  コロンビア生まれのエキゾチックな女性シンガー=カリ・ウチスと共演した「Hey Boy」でも、サイケデリックを基として70年代を再現した。両者くすぶりながらエロく絡み合うボーカルが(ある意味)心地よく、2分足らずでは物足りない魅力に溢れている。
 
 「Stayback」や「Hey Boy」もなかなかだが、本作一のインパクトを放つのは何といっても6曲目の「Dos Uno Nueve」だろう。アコースティック・ギターの演奏にスペイン語の歌詞、マイナー・コードで構成された古典的なラテン・ソングで、語りを絡めたボーカルもかつての名曲を彷彿させる。本人曰く、メキシコの代表的なスタイル“コリード”を意識したとかで、自身のルーツや音楽に対する勤勉さも伺わせた。なお、タイトルの「219」は故郷インディアナ州の市外局番で、移民や人種差別などの社会問題について曲を通じて訴えている。
 
 ノスタルジックな雰囲気のオルタナ・ロックに寄せた「Useless」は、終盤のギター演奏によるアウトロがすばらしい。ラテンにロックもあれば、全編をラップで構成した「Bi Fren」のようなヒップホップ直結の曲もある。サウンドそのものもそうだが、時折歌を絡めるボーカル・ワーク含め、昨今の流行もしっかりおさえている。
 
 トリを飾る「The Two of Us」は、ニュー・ソウル時代のスモーキーでスイートな香りが満載。少し篭らせたサビのハーモニー、優しい旋律と泣きのギター・プレイいずれも文句のつけどころがない傑作で、この曲も2分程度では未消化の病み付き感がある。アルバムはわずか26分で聴き終えてしまうワケだが、全9曲というコンパクトさからも70年代前後のLPをリメイクしたような印象を受けた。
 
 メキシコ系アメリカ人としての誇りと、ミュージシャンの信念を貫いた本作『アポロニオ』で、我々一般リスナーはもちろん、テンション不足なアーティストに突き抜けた実力をみせつけ、類稀なスキルを満喫させたオマー・アポロ。ここに行き着くまでは貧困含め諸々苦労があったようで、こういうアーティストこそ大成功させてあげたい……と思う反面、このままのスタイルを維持して欲しいという気持ちもある。

Text: 本家 一成