2012/12/29
ニコニコ動画で人気のボーカロイドプロデューサー ゆうゆが、12月19日に3rdアルバム『早退系持論』をリリースした。初音ミクなどボカロを使用したこれまでの作品とは異なり、5人の女性ボーカルを迎えて制作されたこの1枚について、本人と参加したボーカル 秋 赤音に話を訊いた。
ニコ動の隆盛以前からネットで自らの音源を発表し、初音ミクのブーム初期より活躍。2010年にはメジャーデビューを果たし、翌11年には「深海少女」が100万再生を突破と、ゆうゆは数いるボカロPの中でも目立った存在として注目を集める期待の新星だ。
一方の秋 赤音は、突き抜けたハイトーンから狂乱的なシャウトまで自在に操る強烈な歌声を持ち、他者が投稿したボカロ楽曲を自ら歌う“歌ってみた”動画をきっかけに人気を獲得した通称“絶叫シンデレラ”。その上、人気アーティストのCDジャケットを手掛けるなど絵師として評価も高く、“平成の歌う絵師”の異名を持ち合わせる。
<5人の歌い手と織りなすゆうゆ渾身の3rdアルバム『早退系持論』>
このたびリリースされたアルバム『早退系持論』は、先に紹介した「深海少女」をはじめ、ニコ動で10万再生を突破した楽曲に冠される“殿堂入り”の名曲の数々を多数収録。秋 赤音に加えて松下、のぶなが、びびあん、ありとニコ動で人気の歌い手が、それぞれの特徴を活かした歌声を披露する“歌ってみた”系の作品だ。
そして本作に収録された「ナイトメア・パラドクス feat. 秋 赤音」は、彼女のボーカルを想定して作られた新曲だ。「凄いパワーのある声ですよね。それに高めのトーンになった時、ズバッと刺さるような声になる」と評するその歌声を最大限に活かす、ハイテンションなロックナンバーに仕上がっている。
<ボカロを使う理由と、歌い手が抱くボカロへの想い>
そこでゆうゆに、今回ボーカルを起用した理由について訊ねてみた。「単純にボーカロイドを使い始めたこと自体も、歌モノをやりたかったっていうのが大前提でしたし、いつかは人間の歌でやりたいと思ってました」。実際、彼のボカロ楽曲には"誰かが歌ってくれたら"という前提で作った作品も多いそうだ。
では、ボカロ楽曲を歌う上での歌い手の意識はどうだろう。秋 赤音は“ボカロを否定している訳ではない”と前置きしながら続ける。「相当な高音じゃなければ、人間が出した方が魅力的な音は多いと思うんですよ。“人間が歌った方がいいな”と感じてもらえるような歌を……とは思ってますね」。
生音への憧れは強いというゆうゆも、ボーカロイドと人間の歌は別物とキッパリ分けた上で、「全体的に見れば“人間の声は魅力的だな”って思っている人は多いと思います」と答える。人間の声の代替品としてボーカロイドを使用している傾向は強いといえるのかもしれない。
<ニコ動からメジャーデビューを狙う人間はいなかった?>
また、2人には共通点として、古くからニコ動で活躍しているという点がある。まだボカロPや歌ってみたのムーブメントが明文化される以前から、ニコ動に作品を投稿してきた経緯を持つ両者だが、始めた当初は「CDリリースとか考えたことがなかった」というから驚きだ。
「初期にいた人って本当に新しいこと好き、楽しいこと好きな人たちばかりだと思います。名前の通りだったと思うんですよね、"歌ってみた"っていうか、とりあえずやってみたっていうか」。当時、ニコ動からメジャーデビューを狙う人間はいなかったのではないかと述懐する。
純粋に楽しむためのツールが、脚光を浴びることで変わっていく。ゆうゆと同じくニコ動の過渡期を体験した秋は、時々ふと思うことがあるという。「アングラ的だったものがメジャーに通じたというか、企業が関わり始めたというか。CDショップとかにコーナーがあるのを違和感なく見てますけど、よくよく考えてみると"……ニコ動コーナーって何?"って(笑)」。
<先は別に何も考えてない>
そんな2人に今後の野望や目標を訊ねてみた。しかし、以上のように野心ではなく、純粋な音楽的欲求に基づいた活動を続けてきた両者だ。「先は別に何も考えてないですね、見えてないし」(秋 赤音)、「今のスタンスでやりたいことをやって、その先で見つけられたらと思いますけど」(ゆうゆ)と、ある意味潔い。
ネットを利用して音楽の楽しさを共有する。初期から活躍している彼らには、それこそがニコ動に作品を投稿する理由なのだろう。ゆえに彼らの音楽や歌からは、一切の制約を感じさせない自由さを感じることが多い。実際、アルバム『早退系持論』にはロックにエレクトロ、電波系ポップスから深みのあるバラードまでと、多岐に渡ったサウンドがこれでもかと詰め込まれているのだ。
「好きな色を訊かれても“虹色が好き”って答えるくらい、一つのものを選べない」。自嘲気味に笑うゆうゆだが、そこには“音楽は自由なハズだ”という矜持が隠されているようにも見える。そしてそれこそが、現代の若者から支持を集めている一番の理由なのかもしれない。
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