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2020/09/07

フィジカルやライブに頼らなくてもいい?! オレンジスパイニクラブの大躍進

 コロナ禍に突入してから半年以上になるが、密な空間でライブを行っていたバンドにとって、今は受難の時代と言えるだろう。ライブ活動の多くは制限され、再開できたとしても以前ほどの集客にはならない。もちろん、ライブ会場で手売りしていたCDやグッズでの収益も挙げられないし、直接触れられる場がなければ新たにファンを増やすこともままならない。

 そんな厳しいバンドが多い中、オレンジスパイニクラブが躍進中だ。彼らが1月にリリースしたアルバム『イラつくときはいつだって』に収録されていた「キンモクセイ」という楽曲がじわじわと人気を集め、今週のHot 100では26位にまで上昇してきている(【表1】)。彼らはもともと別の名義で2012年に活動を始め、昨年1月に今のバンド名に改名した。それなりにキャリアはあるしライブの集客でも実績はあるのだが、楽曲がチャート上位に入ってくるのはおそらく初めてだろう。

 「キンモクセイ」がチャートに上昇したきっかけは、昨今のよくあるパターンのひとつ、TikTokだ。パンクをベースにしたラフなバンドサウンドと、日常の恋愛を歌った自然体のポップなロックというイメージだが、サビの「やっぱビビッときてるよ 君のイメージ金木犀よ」という歌詞はかなり耳に残る。他のセンテンスも含めて、TikTokで使うには恰好の素材だったのだろう。TikTokで話題になるとストリーミングに伝播しやすくなるのは最近のトレンドで、7/27付のストリーミングチャートでは84位で初登場。そのまま右肩上がりで上昇していき、今週と先週8/31付は13位にまで到達している。ストリーミングは急降下することは少ないので、このまましばらくキープするだろうし、先週からはカラオケの歌唱回数もじわじわと効いてきているので、さらに上昇する可能性も高い。バンドにとって今がチャンスと言えるだろう。

 本来であればこの勢いに加えてフィジカルのCDを売り伸ばしたり、ライブツアーを行うのがいいのだろうが、今の社会状況ではなかなか難しい。それよりもメディアの露出を増やしながら再生回数を稼ぎつつ、本来のバンド活動が再開できるタイミングを待つというのがいいのではないだろうか。その意味でも、彼らの今後の動向は、ひとつのお手本であり希望の星になるとも言える。ぜひ逆境にめげず頑張ってもらいたい。Text:栗本斉

◎栗本斉:旅&音楽ライター、選曲家。レコード会社勤務の傍ら、音楽ライターやDJとして活動を開始。退社後、2年間中南米を放浪し、現地の音楽を浴びる。その後フリーランスとして活動した後、2008年から2013年までビルボードライブのブッキングマネージャーに就任。フリーランスに戻り、雑誌やライナーノーツなどの執筆や音楽評論、ラジオやストリーミングサービスにおける構成選曲などを行っている。

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