2020/08/31
すでに2020年を代表する大ヒットとなった瑛人の「香水」。ここ昨今に多いTikTokやYouTubeなどをきっかけにブレイクするアーティストやヒットする楽曲のなかでも、もっとも一般的に広まったものといえるだろう。この傾向のヒットは他にも多数あり、もさを。、優里、りりあ。といったラジオや雑誌などの一般的な音楽メディアでは名前を見かけなかったアーテイストが続々と日の目を見るようになっている。
そういったタイプの楽曲の中でもとりわけ印象的な一曲が、今週のHot 100で30位にチャートインしているTani Yuukiの「Myra」だ(【表1】)。ミディアム・テンポに乗せたメロディはメロウだが、ヒップホップ世代ならではの韻を踏んだ歌詞やプログラミングとアコースティックがミックスされたアレンジとのバランスが絶妙で新鮮。一度耳にすれば覚えてしまうキャッチーさを持っている。Tani Yuukiはオンライン・アカペラ・サークル「WHITEBOX」の中心メンバーで、YouTubeやTikTokで自作曲やカヴァーを多数披露しているシンガー・ソングライター。「Myra」はオリジナルの一曲で、5月にYouTubeで公開され、すでに1400万回以上もの再生数を誇っている。
この曲のすごいところは、YouTubeやTikTokの盛り上がりをうまく配信リリース、とくにストリーミングにうまくつなげたことだ。7月1日にダウンロードやストリーミングで聴けるようになると、7/13付のHot 100で初登場41位、次週は一気に伸びて14位となった。その後はほぼ平行線上を上下しているが、ストリーミングは7週連続でトップ20をキープしている。こういったストリーミングで長く上位に残っているということは、ロングヒットの特徴のひとつ。そして、さらにこの人気がしばらく続くだろうと予想されるのが、カラオケの指数の上昇ぶりだ。先々週まではカラオケの歌唱数は圏外だったが、8/24付で64位、今週は45位と急上昇中だ。この調子だと、再びトップ20に舞い戻る可能性も十分あるだろう。
ヒットするきっかけも、どういう形のヒットになるかも予想できなくなってきた昨今だが、芽が出たタイミングでうまくストリーミングへと誘導できると、成功するパターンが多い。その典型的な一曲が「Myra」なのである。Text:栗本斉
◎栗本斉:旅&音楽ライター、選曲家。レコード会社勤務の傍ら、音楽ライターやDJとして活動を開始。退社後、2年間中南米を放浪し、現地の音楽を浴びる。その後フリーランスとして活動した後、2008年から2013年までビルボードライブのブッキングマネージャーに就任。フリーランスに戻り、雑誌やライナーノーツなどの執筆や音楽評論、ラジオやストリーミングサービスにおける構成選曲などを行っている。
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